ビジネスシーンでは、おかげさまの気持ちが大切だと言われます。自分が関係するあらゆるものに感謝の気持ちを持つことは重要ですが、これを表明するのは難しいものです。目上の方にも正しく感謝を伝えられるように、敬語の使い方をマスターしておきましょう。
「ありがたい」の意味とは?
ビジネスシーンでは、さまざまな人との出会いがあり、その心遣いに触れます。そんなときに思わず湧き上がる「ありがたい」の思いは、本来どんな意味なのでしょうか?
意味1:尊い
一つ目の意味は、またとない、尊い、もったいない、などの気持ちを表すものです。名刹を訪れて「ありがたい」仏様を拝むのはこんな気持ちからなのでしょう。
意味2:感謝の気持ち
二つ目は、感謝したい気持ち、嬉しい気持ちを表す意味です。またとないほど尊いものに触れる経験から沸き起こる感情を表現したものと考えられますね。
「ありがたい」の漢字表記
「ありがたい」はひらがなで表記するのが一般的です。しかし、漢字で表記することもありますから、読み書きできるに越したことはありませんね。「ありがたい」を漢字で書くと、「有り難い」または「有難い」となります。この字を見ると「有る」ことが「難しい」、つまり滅多にあることではない、の意味がわかりやすくなりますね。
「ありがたい」の語源・由来
この言葉は古語の「ありがたし」から由来したもので、現在と同じく形容詞でした。語末こそ古語の「し」から現代語の「い」に変わっていますが、形としてはほぼそのままですね。古語としては、まれにしか存在しないこと、生存するのが難しい、の意味がありましたが、現代ではそうした意味で用いられることはほとんどありません。
「ありがたい」の敬語表現は?
気心の知れた同僚からの心遣いには「ありがたい」と素直に表現するのが一番かもしれません。しかし仕事の上では、目上や社外の方など気を遣う相手にその思いを伝えなければなりません。そんなときに使える敬語表現を押さえておきましょう。
「~のおかげです」
今回の成功は、ひとえに〇〇さんのおかげです。
~のおかげ、は神仏や人に支えられたことを表す言い方です。この表現の優れたところは、~に入れる対象に直接的に、かつさりげなく感謝の思いを伝えられることですね。
「ありがとうございます」
いろいろとご支援をいただきありがとうございました。
「ありがとうございます」は、謙譲表現として立派な敬語です。素直に感謝の思いを伝えることは、円滑なコミュニケーションを図るうえで有効です。
「ありがたく存じます」
お声がけいただきありがたく存じます。
存じます、は、思う、の意味を表す謙譲表現です。「ありがたく思います」でも丁寧表現としての敬語ではありますが、目上の方などに使用するにはより丁寧な表現が求められますね。
「ありがたい限りです」
ご臨席を賜り、ありがたい限りです。
限りです、はもっぱらそう感じることを表し、丁寧な謝意の伝え方となります。より丁寧な敬語表現としては、「です」の意味の謙譲表現である「でございます」を用いるとよいでしょう。
「感謝の気持ちでいっぱいです」
ご挨拶を頂戴できたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。
「ありがたい限りです」に近い表現ですが、より口語的で親しみのもてる表現です。逆に言うと少しくだけ過ぎた印象もありますので、使用する相手は選んだ方がよいかもしれませんね。
「幸甚に存じます」
数々のご配慮、幸甚に存じます。
「幸甚」は、「幸」いが「甚」だしい、と表現するかしこまった謝意の表し方です。書き言葉によく用いられ、「幸甚です」と表現することもありますが、「幸甚」の持つ言葉としての重みとのバランスから「幸甚に存じます」の方が適切ですね。もう少し軽く表現したいのであれば「幸いです」や「幸いに存じます」の言い方があります。
「恐れ多いです」
過分なお心配りをいただき、恐れ多いです。
「恐れ多い」は、とても気後れする様子を表しており、ひるがえってありがたい気持ちの表現として用いられます。丁寧な表現で奥ゆかしくへりくだったニュアンスを出しやすいので、日常的にも使いやすい表現です。
「お礼申し上げます」
駅までお見送りいただき、お礼申し上げます。
素直に感謝の意を述べる表現です。「申し上げる」と丁寧な謙譲表現を伴いますので、あらたまった場面などでも用いられます。
「ありがたい」の使い方と例文集
「ありがたい」は「ありがとう」とよく似ていますが、「ありがとう」のように挨拶的に単独で使われることはあまりありませんね。「ありがたい」を使う状況や使い方には少し注意が必要です。詳しく見ていきましょう。
「ありがたい」の使い方
「ありがたい」は形容詞ですので、一般的には名詞を伴います。「ありがたいお話」や「ありがたいご配慮」としたり、「お心遣いありがたく」と用いたりするわけです。突然の雨に差し出された傘に、「ありがたい」と言ってしまうとき、言外には「かさがありがたい」わけです。
また「ありがたい」を、感謝を伝えるのか、嬉しい気持ちを表すのか、使う状況によって用法が違ってきます。感謝を伝える場合は、必ず相手がいて、かつ感謝を伝える意味での敬意を表さなければなりません。「ありがたい」自体に敬意は含まれませんので「ありがたく存じます」のように敬語表現を伴う必要があります。嬉しい気持ちを表す場合は、偶然の幸運に恵まれた場合に用いることになります。したがって、何がありがたいのかを明示して「ありがたい出会い」や「ありがたい好天」のように表現する必要があります。
感謝の気持ちを伝える
ご挨拶の機会を設けていただき、ありがたく存じます。
「ありがとうございます」とほぼ同義に使えるケースです。ありがとうございます、よりも身にしみるありがたみを伝えるニュアンスがあるのがポイントです。
頼みごとをする
納品期日を少し早めていただけるとありがたいのですが。
何かを要求するときに、もしもそうなら嬉しく感じることを伝える婉曲的な表現となります。ストレートに頼みごとをするよりも、自分が嬉しく思う気持ちを伝える言い方で、柔らかな表現にできます。
頼みごとを断る
ありがたいご提案ですが、スケジュール的に難しいと存じます。
申し出そのものはとても嬉しいが、とやむを得ず断るニュアンスが表現できます。むげに断るわけではない、非常に残念だ、の気持ちを伝えられますね。
「ありがたい」の間違った敬語表現
「ありがたい」は感謝の意や嬉しい気持ちを伝えるのに便利な言葉です。使いやすいがゆえに、思わずやってしまう誤用があります。2つ紹介します。
ありがたいです
「ありがたいです」は丁寧語ですので、日常の使用には問題はありません。しかし、敬意には乏しい表現ですので、目上や社外の方に用いるのは避けなければなりません。また、形容詞に「です」を付す丁寧表現は、やや幼い印象を与えたり、違和感を与えたりすることがありますのでビジネスシーンでの使用は避けた方が無難です。
助かります
「助かる」は本来的には目上から目下に対して使う言葉です。「ます」を付けて丁寧語にはなっていますが、こうした上から目線なニュアンスがどうしても漂います。同僚や目下に使うのは問題ないですが、目上への使用は避けるべきですね。
「ありがたい」を英語でいうと?
得難い幸運に感謝したくなる気持ちは外国人でも同じです。英語でも「ありがたい」にあたる表現があります。
appreciate
We appreciate your company’s cooperation.(御社の協力をありがたく存じます。)
appreciateは、感謝の意を表す単語です。thank youでも同じ気持ちを伝えられますが、thankが人に対して「ありがたい」と表現するのに対して、appreciateは物や行為に対して感謝を述べる言い方になります。
it would be appreciated if you could
it would be appreciated if you could give me your seat.(あなたの席を譲っていただけるとありがたいです。)
あなたがもしも~してくれたなら感謝されるだろう、とかなり婉曲的な依頼の表現です。とても言いにくいお願いをしているニュアンスがあります。
fortunately
Fortunately,the rain went up.(ありがたいことに雨は上がりました。)
fortunatelyは、幸運なことに、の意味を表します。同じようにthankfully(感謝すべきことに)を使うこともできます。
まとめ
ビジネスにおいて、他者への気遣いは必須のスキルですし、自分がそれを受けたときにきちんと謝意を示せるのも同様に重要です。ともするととってつけたようになりがちなのがこの感謝の言葉です。「ありがたい」に込められた、身に余る幸運に感謝する考え方は、感謝のスキルの基本です。「ありがたい」ことをきちんと感じ、きちんと感謝できる感性を持ち続けたいものです。