「韻を踏む」と聞くとラップやヒップホップの歌詞を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?「韻を踏む」ことでリズミカルで印象的に聞こえますよね。本記事では言葉の意味や由来、類語から英語まで幅広く、さらに効果や例文まで掘り下げて紹介します。
「韻を踏む」の意味とは
「韻を踏む」とは、同じ音(韻)やフレーズを特定の場所に繰り返して使用することです。ラップや歌詞、詩の中で使われることが多く、同じ音(韻)やフレーズを繰り返すことで心地よい響きをもたらし、耳に残る深い印象を与える手法です。
「韻を踏む」の読み方
この場合の「韻」は訓読みの「いん」と読み、「韻を踏む」は「いんをふむ」と読みます。「韻」には、「美しい響き、音、おもむき」といった意味があります。
「韻を踏む」の由来・語源
私たちが使っている言葉には全て歴史や由来があります。「韻を踏む」の歴史をひもといていくと、中国の漢詩である「絶句」のルールにたどり着くといわれています。「絶句」とは、起承転結の形式をもつ漢詩で、5文字からなる五言と7文字からなる七言のこと。
五言では「承」と「結」に、七言では「起」「承」「結」に音(韻)を合わせるルールがあり、この文化が日本にも伝わったとされています。
また、「踏む(履む)」には「足で上から押さえる」という意味の他に「決まったやり方に従って行う」という意味があります。
このような由来から、古代中国の音(韻)のルールを手本として言葉を組み立てることを「韻を踏む」というようになったのです。
「韻を踏む」種類とは
「韻を踏む」方法としては4つの種類「脚韻(きゃくいん)」「頭韻(とういん)」「母韻(ぼいん)」「子韻(しいん)」があります。
・脚韻……語尾や文末に同じ音(韻)の言葉を繰り返すこと
・頭韻……語頭や文頭に同じ音(韻)の言葉を繰り返すこと
・母韻……言葉の中の母音「a.i.u.e.o」の並びを合わせて繰り返すこと
・子韻……言葉の中の子音(母音「a.i.u.e.o」以外)の並びを合わせて繰り返すこと
なお上記のうち子韻は、日本語ではあまり多く見られません。
「韻を踏む」ことで得られる効果
「韻を踏む」には「リズミカルに聞こえる」「興味や関心を引き寄せる」という2つの効果があります。
リズミカルに聞こえる
「韻を踏む」ことで音が繰り返され、言葉にリズムがうまれることにより、リズミカル聞こえるようになります。また耳なじみがよくなり心地よい言葉に聞こえ、深い印象を与える効果があります。
そのためビジネスシーンでもこの効果を利用したキャッチフレーズや標語、コマーシャルなどが作られ、消費者の印象づけに一役買っています。
興味や関心を引き寄せる
さらにビジネスシーンでは「ザイオンス効果」という心理学理論を取り入れている企業も多くあります。「ザイオンス効果」とは、対象となる人やモノに対して、繰り返し接することで好印象をもつ心理効果をいいます。
対象商品を繰り返し目にすることによって消費者の印象をよくし、購買意識を高める効果があるとされています。この効果は、ポーランド出身の心理学者でロバート・ボレスワ・ザイアンス氏が明らかにした心理学理論です。
「韻を踏む」ことには「ザイオンス効果」と同じように人に興味や関心を引き寄せる効果があります。
「韻を踏む」の使い方と例文
これまでも「韻を踏む」手法は、ラップや歌詞、詩、キャッチフレーズなどに使用されることが多いと述べてきましたが、ここからは「韻を踏む」という言葉の使い方や例文を紹介します。
「韻を踏む」の使い方・韻の踏み方
前述のとおり「韻を踏む」とは、同じ音(韻)を繰り返すことです。韻を踏む場合、言葉と言葉の響きは近ければ近いほどよいといわれています。一方で、言葉の意味や内容は、かけ離れているほど面白くなります。つまり「意外性の協調」を表現することで印象的な言葉を作り出せるのです。
例として「開運」という言葉で見てみましょう。「開運(kaiun)」「採寸(saisun)」「配分(haibun)」「大群(taigun)」「ハイフン(haifun)」これらの言葉の響きはとても似ていますが、意味や内容が全く違う組み合わせの言葉です。このような言葉を紡ぐことで面白い韻になります。
「韻を踏む」を使った例文
ここでは「韻を踏む」という言葉の活用例を見てみましょう。
・この詩は、ここで「韻が踏まれて」いるね。
・「韻を踏む」ことでインパクトのあるキャッチフレーズを考えるべきだ。
・この歌詞の「韻の踏み方」がかっこいい。
・このグループには、最高の「韻が踏める」ラッパーがいるらしい。
このように言葉を変格させて文章に組み込んで活用していきます。難しい言葉ではないので、日常でも簡単に取り入れて使用できる言葉です。
「韻を踏む」の類義語・言い換え
「韻を踏む」の類義語には「韻を押す(いんをおす)」や「押韻(おういん)」があります。どちらも意味は「韻を踏む」と同じです。同じ音(韻)や、似ている音(韻)の言葉を一定の部分に繰り返して使うことで、言葉にリズムを作り、耳に残る心地よい響きの言葉を作り出す手法を意味します。
「韻を踏む」と「ダジャレ」の違い
「韻を踏む」は音(韻)を使って言葉を紡いで遊ぶ言葉あそびの一種です。さらに言葉あそびには、日本の文化に溶け込んでいる「ダジャレ」があります。同じ言葉あそびですが、双方に違いはあるのでしょうか。詳しく紹介します。
「ダジャレ」の意味とは
「ダジャレ」とは、同じ音で違う意味の言葉を組み合わせる言葉あそびです。つまり、同音異義の言葉を組み合わせてユーモラスに表現するあそびです。
「ダジャレ」は江戸時代にはすでに存在し、「人を笑わせる気の利いた言葉」という意味の「洒落」に「意味がない、くだらない」という意味の「駄」を合わせ、駄洒落(ダジャレ)という言葉になったといわれています。
「韻を踏む」と「ダジャレ」の違い
「韻を踏む」も「ダジャレ」も言葉あそびのひとつですが、それぞれの目的には大きな違いがあります。
「韻を踏む」は、同じ音(韻)の言葉を特定の場所に配置して言葉を重ねることで、心地よい言葉のリズムを作り出すことが目的です。それに対して「ダジャレ」は、同音意義の言葉を重ねて二重の意味を持たせることにより、ユニークで面白い言葉を作り出すことが目的なのです。
このように大きな違いがあるのですが、「ダジャレ」が「韻を踏む」こともあります。「アルミ缶の上にあるミカン」という「ダジャレ」は「アルミ缶(arumikan)」と「あるミカン(arumikan)」が同音異語の言葉であると同時に、同じ音(韻)を繰り返しています。
「韻を踏む」を英語でいうと?
「韻を踏む」を英語ではどのように表現するのでしょうか。4つの種類の「韻」、「脚韻」「頭韻」「母韻」「子韻」の英語表記についても詳しく紹介します。
「韻」を英語でいうと「rhyme」
ラップで使われる音楽用語「rhyme(ライム)」は韻を踏む手法の一つです。rhymeは複数の意味をもつ単語です。名詞で「韻」、他動詞で「(話を)押韻させる」、動詞で「韻を踏む」という意味があります。動詞としても名詞としても使えます。
名詞としてrhymeを使う場合の「韻を踏む」は「create a rhyme」や「step on the rhyme」と表現します。また「脚韻」「頭韻」「母韻」「子韻」を英語では下記のように表現します。
・脚韻……end rhyme
・頭韻……alliteration
・母韻……assonance
・子韻……consonance
英語で「韻を踏む」コツ
韻を踏んでいる英語の歌詞を例にして、英語で「韻を踏む」コツを紹介します。
If you give me just one night.
You’re gonna see me in a new light.
To meet you underneath the moonlight.
John Mayerの楽曲「New Light」の一節です。「night」「light」「moonlight」とわかりやすい韻を踏んでいて、響きのよいリズムになっています。日本語では「母韻」の響きをそろえた言葉で韻を踏みますが、英語では「母韻」と「子韻」の響きをそろえ、「韻」だとわかるくらい短い言葉を紡ぐことがコツです。
まとめ
韻を踏んだ言葉は、大好きな曲の歌詞に潜んでいたり、日々見ているコマーシャルの中に潜んでいたり、ふと目にするスローガンだったり……意外にも日常生活の中に溶け込み、印象的なリズムを放ちながら私たちに語りかけています。耳に残るフレーズは印象的で、無意識に頭の中で繰り返されることもしばしばです。
身近な言葉の中で「韻」を見つけ、言葉あそびを楽しんでみるのはいかがでしょうか?ぜひ、お気に入りの韻を踏んだ言葉を見つけてみてください。