日常的に使いがちな「ら抜き言葉」ですが、そもそも「ら抜き言葉」とは何なのでしょう。また、どうして私たちは間違った使い方をしてしまうのでしょうか。見分け方、正しい使い方とともに、「ら抜き言葉」同様の誤った言葉遣いもあわせて紹介します。
そもそも「ら抜き言葉」とは何か?
まずは「ら抜き言葉」とはどのようなものかを説明しましょう。
可能の「られる」から「ら」を省略して使う表現
本来「ら」を入れなくてはならない箇所に、「ら」が入っていない状態の言葉を「ら抜き言葉」といいます。可能を表すためには「~られる」にしなくてはいけないのに、「ら」が抜け落ちて「~れる」だけになってしまう場合を指します。
「ら抜き言葉」のよくある例
「ら抜き言葉」の例を見ていきましょう。
- こんなにたくさんは食べれない。(正しくは「こんなにたくさんは食べられない。」)
- 朝5時に来れますか。(正しくは「朝5時に来られますか。」)
- 彼が来るなんて考えれない。(正しくは「彼が来るなんて考えられない。」)
- 今年は初日の出が見れた。(正しくは「今年は初日の出が見られた。」)
- 早く出れる?(正しくは「早く出られる?」)
「ら抜き言葉」の歴史
「ら抜き言葉」はいつごろから使われ始めたのでしょうか。その歴史をみてみます。
「ら抜き言葉」は意外と古い
先に5つの「ら抜き言葉」の例文を示しましたが、これらは2015(平成27)年に文化庁が実施した「国語に関する世論調査」において使用されたものです。「国語に関する世論調査」は、1995年から毎年実施されています。「ら抜き言葉」の調査は、最初の95年から実施されているので、その前から間違った言葉遣いとして認識されていたことがわかります。実際は、1950年代の国語審議会の報告にも記載があるそうですから、昭和にはすでに現れていたとみて間違いありません。
ちなみに、2015年調査で「こんなにたくさんは食べれない。」を使うと答えた人の割合は32.0%でした。「今年は初日の出が見れた。」に至っては、約半数の48.4%が使用しています。
「ら抜き言葉」は若者言葉?
「ら抜き言葉」は若者言葉という印象が強いかもしれませんが、実際はそうではありません。2015年の「国語に関する世論調査」でも、たとえば「食べれない」の使用割合は70代27.9%、60代28.2%、50代28.8%。16~19歳の使用割合が48.8%と飛びぬけて高いものの、決して若者だけが使っているとはいえません。
最初に調査した1995年と比べて20年後の2015年の使用割合は明らかに上昇しているので、今後ますます中高年でも「ら抜き言葉」を使う人が増えることが予想されます。
「ら抜き言葉」になる理由
では、どうして「ら抜き言葉」が広がってしまったのでしょう。「ら抜き言葉」になってしまう要因、また「ら抜きはだめ」と「ら抜きでもいい」言葉の見分け方などについて紹介します。
「れる」と「られる」の違い
文法的には「上一段活用」と「下一段活用」の動詞および「来る」の可能表現では「ら」を入れなくてはいけません。一方、「五段活用」の動詞ではその必要はなし。たとえば「読む」や「飛ぶ」の可能表現は「読める」「飛べる」でよく、「ら」は入らず「れる」のままでOKです。
カッコ内が正しい可能表現です。
- 五段活用の動詞 読む(読める)
- 上一段活用の動詞 食べる(食べられる)
- 下一段活用の動詞 起きる(起きられる)
- 来る(来られる)
動詞の大部分は「ら」を入れなくてよい五段活用が占めています。そのことが混乱の要因であると考えられます。他にも「見られる」などでは、「ら」がある状態では可能表現か尊敬表現かの区別がつきにくいため、可能表現の際だけ「ら抜き」してしまうようなケースもあるようです。
「ら抜き言葉」の見分け方
使おうとしている動詞が五段活用なのか、あるいは上一段活用や下一段活用なのかは、活用をさせてみればわかります。動詞に「ない」をつけて未然形にし、「ない」の直前を確認、「イの段」「エの段」なら「られる」にするのが、正しい確認の方法です。しかし、活用の確認は意外と面倒な作業です。
そこで動詞に「よう」をつけ、勧誘の表現にしてみる方法がよく使われます。具体的には、「ら」を入れなくてはいけない動詞の勧誘の表現は「食べよう」「起きよう」「来よう」という具合に「~よう」の形になります。一方、「ら」を入れる必要のない五段活用動詞の勧誘表現は「~よう」の形になりません。例えば、「読もう」「飛ぼう」などです。
他にも、「ら」を足してみても動詞が可能表現のままなら、その言葉は「ら抜き言葉」というふうに見分ける方法もあります。例えば「見れる」を「見られる」にして可能表現だから、「見れる」は「ら抜き言葉」です。
とっさのときは「~ことができる」で対応
いま見たようにかんたんに「ら」を抜いていい動詞か、抜いてはいけない動詞かを見分ける方法はあるものの、会話の途中でいちいち確認するもの面倒と感じる人も多いでしょう。そういう人におススメなのが「~することができる」という表現です。
「読むことができる」「食べることができる」「起きることができる」「来ることができる」、このうち最初の「読むことができる」だけが「ら」が必要ない五段活用の動詞ですが、それを含めすべて同じ形です。とっさのときや「どっちかな?」と迷ったときは、このワザを使ってみてください。
「ら抜き言葉」を使うのは間違い?
「国語に関する世論調査」を見ても、半数近くの人が「ら抜き言葉」になるケースもあります。「ら抜き言葉」を使うのは間違いなのでしょうか。
ビジネスシーンと書き言葉ではNG
言葉は時代とともに変化する、といわれます。「ら抜き言葉」を使うのも時代の趨勢で問題はない、という意見もあるにはあるようです。しかしながら、間違った言葉遣いに眉をひそめる方も少なくありません。
ですから「改まった場」で使うのは好ましくありません。とくに目上の人を相手としたビジネスシーンでは「ら抜き言葉」は使わないほうがいいでしょう。メールなど書き言葉でもNGです。会話の際ならいざしらず、文章は読み返しができます。先に紹介した見分け方を使って、「ら抜き言葉」がないようにしましょう。
親しい間柄の会話なら許される
もっとも、友人など親しい間柄であれば「ら抜き言葉」は許される考える向きもあります。これだけ「ら抜き言葉」は広がっていますし、ますます使用割合も増えると予想されます。気の置けない者同士の会話なら問題ないでしょう。
他にもある「誤った言葉遣い」
「ら抜き言葉」のほかにも「誤った言葉遣い」はあります。ここでは、代表的な3つを紹介します。
誤った言葉遣い1「い抜き言葉」
「着ている」が「着てる」に、「やっている」が「やってる」という具合に、「い」を抜いて使われる言葉を「い抜き言葉」といいます。「ら抜き言葉」と同様、文法的に間違った表現です。ただ、ビジネスシーンや書き言葉ではNGですが、会話ではかなり一般的に使われていますし、方言では「正しい」とされるケースもあります。
誤った言葉遣い2「さ入れ言葉」
本来「~せていただく」とするところを「~させていただく」と言ってしまうのが「さ入れ言葉」です。「週末は休まさせていただきます」「明日持って行かさせます」、これらの「さ」はすべて必要ありません。
誤った言葉遣い3「れ足す言葉」
「さ入れ言葉」ほど広まってはいないものの、「れ足す言葉」もあります。「行けれる」「読めれる」といった具合で、必要のない「れ」を入れてしまう表現。もちろん、「行ける」「読める」が正解です。頭に残りやすい若者言葉なので、無意識で使ってしまうことがないよう注意したいものです。
まとめ
本来「ら」を入れなくてはならない箇所に、「ら」が入っていない状態の表現を「ら抜き言葉」といいます。文化庁の調査でも、年々、使用する人の割合は増えており、使っているのは若者だけではないこともわかっています。かなり一般化したとはいえ、まだまだビジネスシーンと書き言葉にはなじみません。「い抜き言葉」や「さ入れ言葉」「れ足す言葉」にも注意しましょう。