「丑三つ時」という言葉をご存じでしょうか。江戸時代の怪談話などが印象的です。今回は「丑三つ時」と深い関係がある言葉の「鬼門」について詳しく、加えて、由来や類語、英語表現についても詳しく解説します。当時の日本の文化に触れていきましょう。
「丑三つ時」の意味とは?
伝統的な日本の怪談話には「丑三つ時」という表現が多く使われます。「丑三つ時」はいつ時間を表すのでしょうか。また「鬼門」との関係性についても紹介します。
「午前2時から午前2時30分」のこと
「丑三つ時」は「午前2時から午前2時30分」のことを指します。「延喜法」を用いた時間を表した場合、真夜中のこの時間帯が丑三つ時に当てはまります。 「草木も眠る丑三つ時」という言葉を聞いたことはありますか。 これは夜中のひっそりと静まり返った状況を表現しており、幽霊や物の怪などの禍々しいものが姿を現す時間帯であるとされています。 単純に、「真夜中」や「午前2時頃」と表現するよりも「丑三つ時」と表現した方が、怪談話などをする際は雰囲気が出ます。
「鬼門」と「丑三つ時」の関係
「丑三つ時」は方角に当てはめると東北にあたります。 東北の方角は「鬼門」と呼ばれ、 邪悪な鬼が出入りする方角として、忌み嫌われていました。方角と時間を対応させるのは、現代では馴染みのない考え方です。また、「鬼門」という言葉は転じて、「行くと悪いことに出会う場所」や「苦手な人物や事柄」のことを表すようにもなりました。このように、「丑三つ時」と「鬼門」は深い関係がある言葉だったのです。
「丑三つ時」の読み方
「丑三つ時」は「うしみつどき」と読みます。この「丑」は干支における丑であるため、常用漢字の「丑」ではないことに注意が必要です。
「丑三つ時」の由来・語源
「丑三つ時」の由来や語源について紹介します。 時間帯は他にもあるのに、なぜ「丑三つ時」だけお化けが出やすい時間として、クローズアップされることになったのか。それは先ほど紹介した「鬼門」と深く関係しています。方角と時間を干支で表現するという文化は、現代の常識から考えると非常に興味深いものです。
昔は時間を干支で表していた
江戸時代までは1日の時刻を干支で表現していました。 午後11時から午前1時までを子の刻とし、そこから24時間を2時間ずつ順に全ての干支に割り振りました。またそれぞれの干支を4等分することで30分ごとに時間が表現しています。例えば午後5時半の場合、「 酉一つ」となります。また、「子」を北に「午」を南にすることで方角も表現できます。このように、江戸時代の人は時間と方角を十二支を用いて表現していました。
なぜ「丑三つ時」が「午前2時から午前2時30分」なのか
このルールに従って「丑三つ時」の時間帯を割り出すと「午前2時から午前2時30分」に当てはまります。またこの方角は先ほど紹介した「鬼門」の方角になります。つまり「丑三つ時」の方角が「東北」を指すのです。「鬼門」は鬼の通り道であるとされていました。そのため鬼の門と名付けられています。つまり縁起の悪い鬼門に当てはまる時間が「丑三つ時」だったのです。さらに丑三つ時は午前2時頃という深夜帯であったことも相まって、幽霊や物の怪などの禍々しいものが出るのにはうってつけの時間であるともいえます。そういった要因が重なって、「丑三つ時」はお化けが出やすい時間帯と認識されるようになりました。
「丑三つ時」の類義語・言い換え
「丑三つ時」という言葉よりも、怪談話に適した時間の表現はありません。「午前2時ぐらいにお化けが出た。」というのと、「丑三つ時にお化けが出た。」というのではムードが全然違います。ここでは「丑三つ時」に相当する言い換え表現を紹介します。怪談話以外の話をするときは、普通の時間表現を用いた方が無難でしょう。
「深夜」
「丑三つ時」の言い換え表現として「深夜」があります。「丑三つ時」の方は午前2時から午前2時半という比較的明確な時間指定があったのに対し、「深夜」というと受け取る側によってはそれぞれ思い浮かべる時間帯が異なります。ただ、夜の時間帯にそこまで明確な時間表現が必要になることは少ないので、日常生活においては「深夜」という表現で十分でしょう。
「真夜中」
「真夜中」も「丑三つ時」の言い換え表現として挙げられます。「深夜」とほぼ同じ意味ではありますが、「深夜」よりも「真夜中」の方がより柔らかい表現になります。
「丑の刻参り」とは
「丑の刻参り」という儀式を聞いたことありますか。ここではその目的と手法を紹介します。こういった儀式からも日本古来の文化が透けて見えるので面白いです。
目的は、相手に呪いをかけるため
「丑の刻参り」の目的は、相手に呪いをかけるためです。呪いという時点で怪しさを感じますが、日本古来から伝わるれっきとした黒魔術のようなものです。丑の刻に毎日行うことを一週間続けることで呪いが成就するといわれています。一週間誰でも見られることなく続け、もし誰かに見られてしまったらその呪いが自分に返ってくるというルールのもとに行われます。呪いを信じるか信じないかは個々人によりますが、 毎日夜遅くに他人に見られるリスクを犯して実行に移さなければいけないため、それ相応の執念を感じますね。
丑の刻参りの方法
丑の刻参りの方法は、 ドラマなどで見たことがある方もいるかもしれません。白装束を身にまとい、藁人形と相手の髪の毛や爪などを準備し、これらを五寸釘で柱に打ち込みます。頭には鉄輪をかぶってろうそくを3本挿し、首からは鏡を下げます。この姿を夜中に目の当たりにしたら、それこそ幽霊に遭遇したと勘違いしてしまいそうです。この呪いのポイントとしては、釘を打ち込んだ場所に相手がダメージを受けるとされています。 このような行動で、何か現実世界に変化があると思えませんが、こういった手法を創造する発想力には感服せざるを得ません。
丑三つ時に幽霊が出やすいとされる理由
丑三つ時に何が出やすいとされる理由は、先ほど紹介した「鬼門」が関係しています。北東が「鬼門」であるという考え方は「陰陽道」に由来し、鬼門が開いた時に死者や化け物が現れると考えられています。こういった背景に加え丑三つ時は深夜であることから、幽霊が出やすいといった常識が定着するようになりました。
「丑三つ時」を英語でいうと?
「丑三つ時」の代表的な英語表現を紹介します。このようなニッチな日本語にも対応する英語表現あるのは興味深いですね。
「the witching hour」
「丑三つ時」の英語表現として、「the witching hour」が挙げられます。直訳すると「魔女が横行する夜半」となり、「witching」が「魔女」を表します。日本でいう鬼や幽霊化け物といった類は英語圏では「魔女」として表現されています。そういった意味では魔女は、鬼や幽霊と同じレベルに恐れられていた存在であることがうかがい知れます。「It is the witching hour of night.」で「夜が深々と更けていく。」という意味になります。
「in the dead of night」
「in the dead of night」という表現も「丑三つ時」と同じ意味です。「dead」には「死んだ」という意味が代表的ですが、ここでは「静まり返っている」という意味で用いられています。つまり、「草木も眠る丑三つ時」といった表現がしっくりくるのかもしれません。
「丑三つ時」の使い方と例文集
ここでは「丑三つ時」の使い方とその例文を紹介します。頻繁に使う言葉ではありませんが、一般常識として押さえておきましょう。
「丑三つ時」の使い方
「丑三つ時」を使うタイミングとしては、怪談話が怖い話をするときに使うことが多いです。また、普通の日常会話やビジネスシーンでは滅多に用いられない言葉であるため注意が必要です。こういった普段を用いられない言葉を、適切なタイミングで使いこなせる人は日本語のリテラシーが高いと評価されるでしょう。
「丑三つ時」の例文
「丑三つ時」を使った例文をいくつか紹介します。
- 草木も眠る丑三つ時、彼は墓地で人魂を見た。
- 君は昨日の丑三つ時、一体どこで何をしていたんだ。
怪談チックなムードを含んだ言葉であるため、上手に活用しましょう。
まとめ
「丑三つ時」という言葉は平たく表現すると「午前2時から午前2時30分の間」のことを指します。また方角に落とし込むと「鬼門」を意味する言葉でもあります。1つの言葉で、時間と方角という2つの概念を示せるのはとても興味深い事です。不吉な方角の「鬼門」の意味を持つことで、その不吉さは時間についても拡大解釈されるようになりました。こういった言葉の成り立ちを理解していくことで、教養を身につけていきましょう。