「今生の別れ」とはこの世での別れを意味する言葉です。死別の他に大切な人とのやむを得ない別れのシーンでも多く使用されます。ここでは「今生の別れ」の由来や類義語、正しい使い方について例文を用いて解説します。
「今生の別れ」の意味とは?
文学作品や歌の中に登場する「今生の別れ」という言葉。日常生活ではあまり使用されない言葉かもしれませんが、皆さんはその意味をご存知でしょうか。まずは今生の別れが持つ意味について解説していきましょう。
「今生の別れ」はこの世での別れ
今生の別れは「こんじょうのわかれ」と読み、この世での別れ、もう二度と会えないことを意味する言葉です。今生の別れは主に死別を指し、特に家族、恋人、友人など大切な方との別れの際に使用されるケースが多いとされています。
死別以外の意味でも使われる
今生の別れは死別だけでなく、死別以外の別れでも使用されています。例えば、家族と離れてしまい二度と会えないという状況や、恋人がお互い思いあっているにもかかわらず別れざるを得ない状況なども今生の別れと表現できます。
来世での再会を期待する意味も
今生の別れはこの世ではもう会えないという悲哀を含む言葉です。しかし、例えば恋人との別れのシーンで使用される場合には、「この世では別れるが、来世ではまた一緒になりたい」という再会を願うニュアンスも含まれます。
「今生の別れ」の由来・語源
今生の別れの由来は、水杯(みずさかずき)の儀式にあるといわれています。水杯とは杯に水を入れて二度と会えない相手、別れを決めた相手と飲み交わすことです。
水杯の儀式は、死者を弔う際に、あの世で喉の乾きに苦しまないよう、口に水を含ませる習慣が語源となっています。そのため日常生活の中で水で乾杯をするのは今生の別れや死別を連想させるため縁起が悪いとされています。
「今生の別れ」の言い換え・類義語
今生の別れの言い換え語や類義語を紹介します。今生の別れは日常生活であまり使用されない言葉なので、そのまま使うと相手に伝わりにくいケースがあるかもしれません。そんな時はここで紹介する言い換え語、類義語を使って相手に思いを伝えましょう。
もう二度と会えないという意味の類義語
別れてもう二度と会えないという意味の類義語には以下のようなものがあります。
- 愛別離苦(あいべつりく)
- 永遠の別れ
- 永別
- 長の別れ
一方の死により会えなくなるという意味の類義語
別れの中でも特に相手の死によりもう会えないという意味が強い類義語には以下のようなものがあります。
- 終(つい)の別れ
- 今際(いまわ)の別れ
- 死に別れ
- 永の別れ
「今生の別れ」を英語でいうと?
今生の別れの英語表現を紹介します。今生の別れを最もわかりやすく表現した言葉はさようならを意味する「good bye」です。私たちにも身近な言葉である「good bye」には今日はこれでさようならという意味だけでなく、もう会えないかもしれないというニュアンスも含んでいます。そのため、近いうちに会う予定のある人に「good bye」を使用すると不快に感じる場合があるので注意しましょう。
また、その他にも下記のような英語表現でも今生の別れを表せます。
- final good bye(最後の別れ)
- last meeting in this world(この世での最後の対面)
- last meeting with 〇〇 in one’s lifetime.(〇〇との最後の対面)
- see 〇〇 for the last time(〇〇と最後に会う)
「今生の別れ」の使い方と例文
今生の別れはどのような場面で、どのように使用すればよいのでしょうか。今生の別れの使い方や具体的な例文について紹介します。
死別の際に使用される「今生の別れ」の例文
今生の別れは、愛する人や大切な人と死別してしまった場合や、戦争などでこの先生きて再会する可能性が低い場合に使われる言葉です。
具体的には以下のように使用します。
- これが私と祖父との今生の別れとなってしまった。
- まさかあの日が今生の別れになるとは露程も思わなかった。
- これから向かう先は危険が多い。今生の別れも覚悟してのぞもう。
- 夫は戦地で死亡し、今生の別れとなった。
男女間で使用される「今生の別れ」の例文
今生の別れを男女間で使用する場合は、前提として2人の気持ちが通じ合っていることが条件となります。例えば、なんらかの理由で結婚や交際を親に反対され、泣く泣く別れを決めた、お互いの人生や将来のために別々の道へ進む決心をしたなどのシチュエーションが当てはなります。そのため、喧嘩別れをした場合や、お互い納得のうえ、綺麗さっぱり関係を断つような別れ方の場合には今生の別れは使用しません。あくまでも本当は別れたくない、一緒にいたいけれど、やむをえず別れを選び、もう二度と会わないと決断した時に今生の別れという言葉が使われます。
以下に男女間で使用される今生の別れの具体的な例文を挙げます。
- 彼女には親の決めた婚約者がいる。会うのはこれで最後にしよう。今日で2人は今生の別れとなる。
- 2人の交際は周囲から反対されている。なんだか今日のデートが彼女との今生の別れになりそうな予感がした。
- 私の存在はあなたの夢の障害になる。今生の別れは辛く悲しいけれど、あなたの成功を祈っているわ。
今生の別れではないと否定的に使用することも
今生の別れは「今生の別れではない」、「今生の別れでもあるまいし」など否定語とともに使用されるケースもあります。これは、また会えるのに相手が一時の別れをとても悲しんでいるといったシーンで使用されます。
今生の別れでもあるまいしをはじめ、「〇〇でもあるまいし」という表現は相手を慰めたり、諭したりする際に使用されるため、目上の方や上司などには使用しないよう気をつけましょう。
以下に否定表現を伴う今生の別れの例文を紹介します。
- そんなに泣くなよ。今生の別れでもあるまいし。
- 今生の別れでもあるまいしと彼女は強がり、笑顔で去って行った。
- 今生の別れではないのだから、またきっと会えるよ。
- 夢のため彼が日本を旅立つことになった。今生の別れではないもののやはり寂しいものだ。
和歌でも詠まれる「今生の別れ」
和歌や俳句の中にも今生の別れを詠んだものは多数あります。ここでは、百人一首の中にある、第84代天皇・順徳天皇が、父である後鳥羽天皇へ向けて詠んだ和歌を紹介します。
同じ世の 別れはなほぞ しのばるる 空行く月の よそのかたみに
(隠岐と佐渡で離れて暮らしていた父と今生の別れとなり、いっそう悲しみは募ります。空を行く月を父の形見の姿として仰ぐばかりです)
後鳥羽天皇と順徳天皇は1221年に鎌倉幕府討伐を目的とした承久の乱を企てました。しかし、結果は敗北。戦いの首謀者として後鳥羽天皇は隠岐、順徳天皇は佐渡と親子別々の場所へ配流されました。
この和歌は、1239年に配所の隠岐で父が崩御した際に詠まれたもので、死別の悲しみを嘆きを表現しています。
「今生の別れ」を表す花言葉
花言葉にも今生の別を表すものがあります。ここでは代表的な花と花言葉を4つ紹介します。
チューリップ
チューリップの全般的な花言葉は「博愛」や「思いやり」ですが、実は花の色によって花言葉が異なります。赤、黄色、ピンクなどさまざまな色がありますが、中でも白いチューリップは、「別れ」や「失われた愛」という花言葉を持ちます。
スイートピー
蝶のような見た目と甘い香りが特徴のスイートピー。スイートピーの花言葉は「別離」。友や恋人と別れ、別々の道を歩んでいく様を表しています。
ハナニラ
春に星型の白い花を咲かせるハナニラ。その物悲しい印象を与える花色から、「悲しい別れ」という花言葉がつけられたと言われています。
キンセンカ
カレンデュラやポットマリーゴールドなどとも呼ばれ、オレンジや黄色の花を咲かせるキンセンカ。鮮やかな花が特徴的ですが、「別れの悲しみ」や「悲嘆」など悲しい花言葉を持ちます。
まとめ
今生の別れは大切な人とのこの世での別れを表す言葉です。現代では、あまり使用頻度は高くない言葉かもしれませんが、深い悲しみを表す点、来世での再会を願う意味があるという点は覚えておくとよいでしょう。また、類義語や英語表現も合わせて理解し、正しく使えるようにしておきましょう。