「拍車をかける」や「拍車がかかる」などの慣用句に使われる、「拍車」の意味を知っていますか?本記事では「拍車」の意味や使い方を解説します。語源や類語などもあわせてチェックしてください。どんな場面で使うのか、例文とともに説明します。
「拍車」の読み方と意味
最初に「拍車」の読み方や意味、由来などを紹介します。意味や由来をあらためて確認すれば、より適切に「拍車」を使えますね。
「拍車」の読み方は「はくしゃ」
「拍車」は「はくしゃ」と読みます。「拍」の音読みは「ハク・ヒョウ」、訓読みは「う(つ)」です。どちらも「うつ、手でたたく」という意味があります。また、「3拍子」のように音数の単位やリズムを表す言葉です。「拍車」では「ハク」の読みで使います。
「拍車」とは乗馬に使う道具の名称
そもそも拍車は乗馬に使う道具。乗馬靴のかかとに取りつける、棒状や歯車状の金具です。騎乗者は、この金具で馬のわき腹を刺激して馬に合図を送り、速度を加減します。古くは紀元前4世紀ごろ、ケルト人がすでに棒状の拍車を用いていたと伝わっています。中世ヨーロッパの騎士は、歯車状の拍車を使っていたそうです。日本では明治以降に拍車を使うようになりましたが、馬体保護の観点から現在は拍車の使用が減っています。日本の競馬では拍車の使用が禁止されているため、実際に見る機会は少ないかもしれません。
参照:Weblio辞書「拍車」
「拍車」の由来や語源
「拍車をかける」など文章表現や日常会話で使われる「拍車」は、乗馬道具の「拍車」に由来しています。馬のわき腹を刺激して速度を早めるという「拍車」の用途に由来して、「物事が進む速度を早めるもの」として使われます。
よく使われる慣用句「拍車をかける」の意味
「拍車をかける」は、「拍車」を使った慣用表現。「物事がある状態へと一気に進行する」という意味です。進行の度合いや早さが「さらに」または「いっそう」など、一段と進む様子を表しています。本来の用途である、乗馬で拍車を使用するさいにも「拍車をかける」といいます。
例文で確かめる「拍車」の正しい使い方
「拍車」の意味を踏まえ、使い方を紹介します。ふだんの会話やニュースによく登場する使い方を例文で確認します。
ほとんどが慣用表現の「拍車をかける」または「拍車がかかる」で使う
「拍車」は、慣用表現の「拍車をかける」または「拍車がかかる」で使うことがほとんどです。
- コーチの的確なアドバイスが、サッカーの上達に拍車をかける。
- 日ごろの運動不足と不規則な生活で、父の肥満に拍車がかかる。
- テレワークの普及で、都心離れに拍車がかかった。
いずれの例文も、物事がある状態へと一気に進む様子を表しています。
「拍車をかける」または「拍車がかかる」以外で使う場合もあり
「拍車をかける」または「拍車がかかる」以外の「拍車」の使い方を、例文で確認します。
<例文>
- 大臣の無責任発言で政治の混乱に拍車。
- 着実な成績上昇が、彼の学習意欲に拍車を加えた。
「拍車」だけや「拍車を加える」で使う場合も「拍車をかける」と同じく、物事の進行が一段と早まったり勢いが増したりする意味です。
例文で違いを確認!「拍車をかける」と「拍車がかかる」はどちらも使える
「拍車」を使った慣用表現「拍車をかける」と「拍車がかかる」は、どちらも正しい使い方です。例文で使い方と違いを解説します。
「拍車をかける」の使い方と例文
「拍車をかける」は、「物事の進行を早める」や「物事の勢いをつける」という意味で使います。進行を早めたり勢いをつけたりする行為、作用について述べています。
- 映画化のニュースが、原作小説の売れ行きに拍車をかける。
- 彼女の忙しさに拍車をかけたのは、新プロジェクトのスタートだ。
「拍車がかかる」の使い方と例文
「拍車がかかる」は、「物事の進行が早まった状態」や「物事の勢いがついた状態」のように、早まったり勢いがついたりという「状況」を説明する表現です。「拍車をかける」で挙げた例文を「拍車がかかる」を使って書き直してみます。
- 映画化のニュースで、原作小説の売れ行きに拍車がかかる。
- 新プロジェクトのスタートで彼女の忙しさに拍車がかかった。
「拍車をかける」と「拍車がかかる」はどちらも使えますが、主語が異なる点に注意が必要です。
「拍車」はいい意味でも悪い意味でも使う
「拍車」は、使い方によっていい意味にも悪い意味にもなる言葉です。それぞれの意味で使った場合を、例文で確認しましょう。
いい意味で使う「拍車」の例文
いい意味で「拍車」を使う場合は、物事がいい方向、望ましい状況へと勢いづく様子を表します。
- 久しぶりに開催された首脳会談が、両国の関係改善に拍車をかけた。
- 人気メニュー誕生で、店の売り上げ増加に拍車がかかった。
例文1では両国の関係がよりよい方向に勢いよく進展し、例文2では店の売り上げがますます増えたといえます。
悪い意味で使う「拍車」の例文
「拍車」は物事が悪い方向へ加速する、ますます状況が悪化する意味でも使います。
- 交通事故の発生が、年末年始の渋滞に拍車をかけた。
- 過疎化に拍車がかかり、山村は閑散としていた。
例文1ではもともとの渋滞がさらにひどくなり、例文2ではますます人がいなくなってしまったといえます。
「拍車をかける」の類義語・言い換え
「拍車をかける」は、次のような表現に言い換えられます。
<「拍車をかける」の言い換え>
- 加速する
- 輪をかける
- 本格化する
- 助長する
これらの言葉は、いい意味にも悪い意味にも使える類語です。いい意味、または悪い意味の「拍車をかける」の類語、言い換え方もあります。
いい意味で使う「拍車をかける」の類義語、言い換え
いい意味の「拍車をかける」は、「促進する」と言い換えられます。「促進」は、「物事がよりはかどるように」または「発展させる」よう促す意味です。「いい方向へ勢いが増す」や「望ましい事態に進むきっかけになる」という意味では、「追い風にのる」と「追い風になる」も使えます。
- さまざまな事態に対応できるよう、授業のオンライン化を促進する。
- 相手陣営の不祥事が追い風になり、圧倒的得票数で当選した。
- 円高の追い風にのって、輸入産業が拡大する。
悪い意味で使う「拍車をかける」の類義語、言い換え
悪い意味の「拍車をかける」は、「火に油を注ぐ」と言い換えられます。「火に油を注ぐ」は、「もともと悪い状況をさらに悪化させる」という意味の言葉です。似た意味の言葉に「エスカレートする」もあります。
- 会長は失言の謝罪会見でさらに失言を重ね、火に油を注ぐ結果となってしまった。
- 意地の張り合いがエスカレートし、ついには友人と絶好することになった。
「拍車」の対義語、反対語
「拍車をかける」と反対の意味をもつ言葉が「水を差す」です。「勢いを増す」意味の「拍車をかける」に対して、「勢いを弱める」または「気勢を削ぐ」意味があります。「水を差す」と似た意味の「冷や水を浴びせる」も、「拍車をかける」の対義語です。「物事の進行を止める」という意味の「歯止めをかける」も、「拍車をかける」の対義語といえます。
- 上司のひと言に水を差され、プロジェクトチームの士気は低下した。
- 増税が景気回復ムードに冷や水を浴びせた。
- 資金不足に陥れば、急ピッチで進んでいた商品開発に歯止めがかかるだろう
「拍車」を英語で言うと?
「拍車」の英語訳は「spur」です。「spur」は単に乗馬道具の「拍車」の意味でも、「刺激を与えるもの」の意味でも使えます。「拍車をかける」は「give spur to」です。「勢いを増す」意味では「add fuel to」、「促進する」意味では「prompt」、「より悪化させる」なら「aggravate」と英語訳できます。
まとめ
「拍車」は「拍車をかける」や「拍車がかかる」などの言い回しで使うことが多い言葉です。いい意味にも悪い意味にも使え、どちらも「物事がある状態へと勢いづく」様子を表します。意味と用法をおさえて、ぜひ日常会話やビジネスシーンで活用したいですね。