「鄙びた」という言葉は、読み方が難しいですね。古くからある言葉で、語源をたどると、日本の歴史も見えてきます。よく似た言葉には、「さびれた」や「辺鄙な」などがあります。類語との違い、対義語、英語表現などについて、例文とともに解説します。
「鄙びた」の読み方・意味とは?
「鄙びた」の読み方・意味について説明します。
「鄙びた」の読み方
「鄙びた」は「ひなびた」と読みます。「鄙びる」と使う場合は「ひなびる」と読みます。「鄙」という漢字は、音読みでは「ひ」と読みます。
「鄙びた」の意味
「鄙びた」の意味は、「いかにも田舎という感じがする。田舎めいた」です。「鄙」という漢字の意味は、「ひな。田舎。辺境にある村。いやしい。田舎くさい」です。「ひな」という言葉の意味は、「都から離れた土地。田舎」です。
「鄙びた」の語源
「鄙びた」の漢字・語源・歴史について説明します。
「鄙びた」の漢字
「鄙」という漢字は、「啚」と「阝」が合成されてできています。
「啚」は、米倉(㐭)のある農村の土地を表す漢字です。「阝」は漢字の部首であり、「おおざと」といいます。「阝」は「邑」(むら)が変形した文字で、「人が住む比較的大きな場所や領域と関係があることを示す」ものです。つまり「鄙」という漢字は、「米倉のある農村地域」すなわち「田舎」を意味します。
「鄙びた」の語源
古事記の頃にはすでに、「都から離れた土地」のことを「ひな」と言っていました。「都」(みやこ)は「宮のあるところ」すなわち「宮(みや)処(こ)」という意味です。もともと皇居がある場所のことでしたが、転じて「都会」という意味にもなりました。かつては、都とそれ以外の土地は明確に区別されていました。都の人にとっては、「都から離れた土地」は未開で野蛮な土地であるという認識でしたので、単に「田舎」と称するのではなく、「ひな」と呼ぶことによって、「いやしい」という差別的な意味合いも込めていました。「ひな」は「日無」とも書きました。「日」は天皇の意味ですから、「ひな」は「天皇のいない土地。天皇の恩恵の及ばない土地」すなわち野蛮な土地とされていたのです。
「鄙びた」の歴史
「ひな」という言葉は、古事記や日本書紀の中ですでに使われていました。平安時代になると、「ひな」は、現在でも使われている「鄙」という漢字で表記されるようになりました。例えば、清少納言による「枕草子」の中の「ふと心劣りとかするものは」という段において、「ひなびたる」という言葉が使われています。原文は次のようです。「男などの、わざとつくろひ、ひなびたるはにくし」。現代語訳は「男性などが、意図的にとりつくろって、田舎びた言葉を使うのは気にくわないことです」となります。
「鄙びた」の類義語・言い換え
「鄙びた」の類義語・言い換えを紹介します。
「鄙びた」の類義語
「鄙びた」の類義語には、「人里離れた」「辺鄙な」「僻地の」「さびれた」「田舎めいた」などがあります。「人里離れた」の意味は、「村落などの人が集まっているところから離れている」です。「辺鄙な」の意味は、「都会や中心地から離れていて不便な」です。「鄙びた」と同じ漢字を使って「辺鄙な」と書きます。「僻地の」の意味は、「都会から遠く離れた土地の」です。「さびれた」の意味は、「活気がなくなりさびしい。ひっそりした」です。「寂れた」と書きます。「田舎めいた」の意味は、「田舎風に見える」です。
「鄙びた」の言い換え
「休暇は鄙びた温泉宿でゆっくりと過ごしたいものだ」という例文を言い換えると次のようになります。ただし、「辺鄙な」と「僻地の」については、「鄙びた」よりもやや否定的な意味合いが含まれてしまいます。
- 休暇は人里離れた温泉宿でゆっくりと過ごしたいものだ。
- 休暇は辺鄙な温泉宿でゆっくりと過ごしたいものだ。
- 休暇は僻地の温泉宿でゆっくりと過ごしたいものだ。
- 休暇はさびれた温泉宿でゆっくりと過ごしたいものだ。
- 休暇は田舎めいた温泉宿でゆっくりと過ごしたいものだ。
「鄙びた」の対義語
「ひなびた」の対義語には、「きらびやかな」「華やかな」「洗練された」などがあります。「きらびやかな」の意味は、「華やかで輝くばかりに美しい」です。「華やかな」の意味は、「花が咲いているように派手で明るくて美しい」です。「洗練された」の意味は、「あかぬけのした優雅な。あかぬけのした高尚な」です。どれも、輝いている最先端の都会を表すような言葉です。
「鄙びた」と間違いやすい言葉
「鄙びた」と間違いやすい言葉には、「人里離れた」「辺鄙な」「僻地の」「さびれた」などがあります。それぞれについて、「鄙びた」との違いを説明します。
「鄙びた」と「人里離れた」の違い
「鄙びた」の意味は、「いかにも田舎という感じがする。田舎めいた」です。「人里離れた」の意味は、「村落などの人が集まっているところから離れている」です。二つはよく似た言葉ですが、「鄙びた」は、いかにも田舎という感じがする、人が住んでいるところです。無人の場所ではなく、畑や家屋などについて、人間の暮らしが感じられるところを表します。一方、「人里離れた」は、人の気配が感じられない、他に誰もいないようなところを表します。
「鄙びた」と「辺鄙な」の違い
「辺鄙な」の意味は、「都会や中心地から離れていて不便な」です。「鄙びた」と「辺鄙な」には、同じ「鄙」という感じが含まれていますから、よく似た言葉といえます。ただし、「辺鄙な」には、より強く「不便な」という意味が含まれています。電車やバスなどの交通手段があまりなく、アクセスするのが困難であるようなところを表す言葉です。
「鄙びた」と「僻地の」の違い
「僻地の」の意味は、「都会から遠く離れた土地の」です。「鄙びた」の意味は、「いかにも田舎という感じがする。田舎めいた」ですが、「僻地の」の方は、田舎ということよりも、都会からの距離が遠いということに力点を置いた言葉です。
「鄙びた」と「さびれた」の違い
「さびれた」の意味は、「活気がなくなりさびしい。ひっそりした」です。つまり、もともとは活気があったのに失われてしまってさびしい、というニュアンスが含まれています。一方、「鄙びた」については、かつて繁栄していたということはなく、ずっと田舎めいているところを表します。
「鄙びた」を英語でいうと?
「鄙びた」を英語でいうと「rustic」(田舎の・素朴な)、「rural」(田園の・田舎じみた)、「countrified」(田舎じみた・粗野な)などとなります。例えば、「鄙びた光景」は「a rustic scene」「a rural scene」「a rcountrified scene」となります。また、「今年の夏はひなびた宿にでも行きませんか」は「Shall we go to a rustic hotel this summer?」となります。
「鄙びた」の使い方と例文集
「鄙びた」の使い方と例文を紹介します。
「鄙びた」の使い方
「鄙びた」は、場所を表す言葉と組み合わせて使うことが多いです。例えば「鄙びた温泉宿」や「鄙びた風景」などです。
「鄙びた」を使用するときの注意点
「鄙びた」を使用するときは、現代では、同じ「田舎」を意味する言葉であっても、肯定的に使うことが多いことに注意しましょう。語源を遡ると、「ひな」と呼ぶことによって、「いやしい」という差別的な意味合いも込めていたこともありましたが、現在すではむしろ、落ち着いていて風情のある好ましい田舎を表現する言葉です。「鄙びた温泉宿」へいくことは、つらいことや残念なことではなく、ゆったりと癒される好ましい体験です。
「鄙びた」の例文
「鄙びた」の例文を紹介します。
- 鄙びた村にも開発の波が押し寄せ、伝統的な農村景観が失われてしまった。
- 鄙びた景色を眺めていると心から癒されます。
- 都会の慌ただしい生活に疲れてしまったので、鄙びた旅館にでも泊まって英気を養いたい。
まとめ
「鄙びた」の意味は、「いかにも田舎という感じがする。田舎めいた」です。「鄙びた」の語源は古く、古事記の頃にはすでに、「都から離れた土地」のことを「ひな」と言っていました。「鄙びた」の類義語には、「人里離れた」「辺鄙な」「僻地の」「さびれた」「田舎めいた」などがあります。現代では「鄙びた」は、同じ「田舎」を意味する言葉であっても、肯定的に使うことが多いことに注意しましょう。