「人の心の機微に触れる」などと使う、「機微」を紹介します。「機微」の読み方から意味、慣用表現と例文など幅広く解説。紛らわしい言葉や間違った使い方もチェックできます。「機微」をふだんの会話でもビジネスシーンでも使えるようになりますよ。
「機微」の読み方・紛らわしい言葉
「機微」の読み方、表記や読みが似ていて紛らわしい言葉を解説します。
読み方
「機微」は「きび」と読みます。漢字「機」は音読みで「キ」、訓読みで「はた」や「からくり」などです。布を織る「はたおり」のほか「しかけ」や「かなめ、大事な部分」、または「きっかけ」や「心、ものごとのはたらき」などの意味があります。漢字「微」は音読みで「ビ」または「ミ」、訓読みで「かす(か)」。「わずか、小さい」や「ひそか」、あるいは「衰える」や「取るに足らない卑しいもの」の意味で使います。
紛らわしい言葉「機敏」
「機敏」は「きびん」と読みます。「機」の漢字が共通しているうえ、読みも似ているので混同しやすい言葉です。「機敏」の意味は「動作や心の動きが素早い」で、「機微」とは異なります。
紛らわしい言葉「機知」
「機知」は「きち」と読み、「とっさにはたらく知恵」を意味します。「機微」とは漢字表記も読みも似ていますが、別の言葉です。
「機微」の意味は3つ
「機微」には、主に3つの意味があります。それぞれ解説します。
「心の動き」
「外見からはわからない、心の微妙な動き」が、もっとも一般的な「機微」の意味です。身振りや表情からは読み取れない、本人も気がつかないほど些細な心の動きを指します。だれもが見て取れる変化やあからさまな表情は、「機微」ではありません。また、意図的に隠された真意や心の動きも「機微」とは違います。
「ものごとの変化」
「ものごや状況が変化すること、移り変わること」も、「機微」の意味です。幅広いものごとや状況に使えます。たとえば経済や環境、世界情勢や政治動向など、さまざまなものの変化を「機微」で表せます。
「繊細な個人情報」
あまり一般的ではない「機微」の意味は、「個人的で繊細な」です。「機微情報(きびじょうほう)」として使う場合が多く、「センシティブな情報」または「デリケートな情報」と言い換えられます。どんな情報が「機微情報」にあたるかといえば、本籍や病歴、障がいの有無、思想や信条、信仰している宗教や性にまつわることなどです。外見からはわからず、あまり大っぴらに言わない情報、面と向かって尋ねるのは失礼になる事情、あるいは差別につながりかねない情報が「機微情報」に該当します。一般的には使いませんが、ビジネスシーンでは「機微情報」を扱う場面があるかもしれないため、押さえておきたい「機微」の意味です。
参照:Weblio辞書「機微」
「機微」を使った慣用表現
よく使われる、「機微」の慣用表現を挙げます。3つの意味のうち「心の動き」か「ものごとの移り変わり」なのか、あるいは「(情報などが)繊細な」のどれにあたるかを考えて使うことが肝心です。
「機微に触れる」
「機微に触れる(きびにふれる)」は、「相手の心の微妙な動きを知る」意味で使います。心だけでなく人生や文学などから感銘を受けたときや、奥深さを知ったときも「人生の機微を知る」などと使える慣用句です。また、相手の心の繊細な問題を刺激してしまう」意味もあります。「それは彼の機微に触れる発言です」と使うと、「彼が傷ついてしまうかもしれない、センシティブな発言」だと注意を与える意味合いです。
「機微に聡い」
「機微に聡い(きびにさとい)」は、「心やものごとの小さな動きを察知する感覚が鋭い」意味の慣用表現です。「聡い」は、「かしこい」や「さとることが早い」または「鋭い」などを表します。勘がいい人、察しがいい人に対して使います。
「機微をうがつ」
「機微をうがつ(きびをうがつ)」は、「相手の心の動きやものごとの変化を敏感にとらえたうえで、的確に表現する」意味です。「うがつ」は、「穿つ」とも表記します。「穿つ」は「穴をあける」意味で多く使われますが、「ものごとの本質を的確に言い表す」意味もあります。さらに「穿つ」自体が「人の心の機微に巧みに触れる」意味の言葉です。
「機微をとらえる」
「機微をとらえる(きびをとらえる)」は、「ものごとの些細な変化を敏感に察知する」意味で使う慣用表現です。「とらえる」は、「捉える」とも表記します。
「機微を感じる」
「機微を感じる(きびをかんじる)」は、「相手のちょっとした心の動きを、仕草などから感じ取ること」の意味です。
「機微を察する」
「機微を察する(きびをさっする)」は、「相手の心の動きやものごとの変化のきざしを、推測して理解する」意味です。基本的な意味は「機微に聡い」や「機微をとらえる」と類似しています。ただ、「機微を察する」は「洞察力がある」だけでなく、「相手の心を推しはかろうとする思いやり」のニュアンスも含む慣用表現です。
「機微に富む」は誤用!
誤用に注意したいのが、「機微に富む(きびにとむ)」です。そもそも「機微に富む」という慣用表現はありません。「臨機応変に気の利いた対応ができる」意味の慣用表現、「機知に富む(きちにとむ)」と混同しがちです。
「機微」の使い方・例文
「機微」と「機微」の慣用表現を使った例文を挙げます。
- 兄は機微を察することができる、思慮深い人だ。私は兄の優しさに何度助けられたかわからない。
- 彼女が機知に聡いおかげで、我が社は大きな損失を出さずに済みました。経済動向に強い人だという評判どおりです。
- 採用面接で宗教や家柄などを尋ねるのは、機微情報にあたるのでご法度です。
- あのとき同僚の感情の機微に気づいてあげるべきだったと、今さらながら悔やまれます。
- 人の機微をうがつことは、ときに相手を傷つけるのではないか。言葉にする前に、よく考えたい。
「機微」の類義語・言い換え表現
「機微」の類語、言い換えられる言葉を紹介します。
「微妙」
複数ある「微妙(びみょう)」の意味のうち、「言葉では表現できないほど細かく、複雑な様子」が「機微」と共通しています。「微妙」のほかの意味は、「趣深く、何ともいえない美しさや味わい」や「少し」など。「機微」と「微妙」の違いを挙げるなら、「機微」自体に「変化」の意味が含まれているのに対して、「微妙」自体には「変化」の意味が含まれない点です。
「隠微」
「外見には表れない、かすかで目立たないことや様子」が、「隠微(いんび)」の意味です。かなり「機微」と近い表現ですが、「機微」は「本人も気づかないような」の意味合いで使うのに対し、「隠微」は「意図的に外に表れないよう隠す」意味合いで使う点です。
「ニュアンス」
「ニュアンス」は、「言葉や表現の微妙な意味合い」または「表立ってではなく、言外ににじみ出てくる発言の趣旨や真意」を指します。「色合いや音の微妙な違い」も「ニュアンス」の意味です。語源はフランス語の「nuance」。「機微」は「心の動き」など表に出ないものに対して使いますが、「ニュアンス」は発言や表情など見たり聞いたりできるものから読み取れる点が異なります。
「機微」の英語表現
「機微」の英語表現は意味ごとにいくつかあります。もっとも使われる「心の繊細な動き」を表すのが、「subtlety」です。「心の内側の動き」のニュアンスで「inner workings」も使います。「have a keen insight into human nature」で、「人情の機微に通じている」。「機微情報」を英訳すると「sensitive data」、または「sensitive information」です。
まとめ
「機微」は「心のわずかな動き」や「ものごとの移り変わり」、あるいは「(情報などが)繊細で慎重に取り扱うべきもの」と主に3つの意味がある言葉です。慣用表現が多く、幅広い場面で使えます。一般的には「機微情報」で使う機会は少ないかもしれませんが、ビジネスシーンで個人情報や機密事項を取り扱うときには「機微」が重要。ぜひ、それぞれの意味を把握して「機微」を会話に取り入れてください。