日常生活の中で「圧巻」という言葉を耳にしたことはありますか?似た言葉で「圧倒」があります。それぞれ漢字が違うので当然意味も異なる言葉ですが、正しい意味をきちんと理解して方は少ないのではないでしょうか。今回は違いや使い方について紹介します。
「圧巻」と「圧倒」それぞれの読み方と意味
「圧巻」と「圧倒」でそれぞれの読み方と意味を説明します。文字面や利用シーンが似通っている言葉ではありますが、意味に大きな違いはあるのでしょうか。
「圧巻」の読み方と意味
「圧巻」は「あっかん」と読みます。
読み方のよくある間違いとして、「あつまき」や「あつかん」がありますがいずれも間違いです。また、漢字表現の際にも「圧感」や「圧観」と書き間違えないよう注意しましょう。
「圧巻」の意味は「全体の中で最も優れた部分。他と比べて、はるかに優れていること」です。
参照:Weblio辞書「圧巻」
「圧倒」の読み方と意味
「圧倒」は「あっとう」と読みます。
「圧倒」の意味は「段違いの優れた力で他に打ち勝つこと。他よりはるかに優れていること」です。
「圧巻」と比べると、意味自体に大きな違いはないことがわかりますが、「圧倒」は「力が優れていること」を表すことが特徴としてあげられます。
参照:Weblio辞書「圧倒」
「圧巻」と「圧倒」の語源・由来
「圧巻」と「圧倒」はいずれも「優れていること」を表す言葉であることがわかりましたが、似た言葉でも言葉の成り立ちは異なります。ここでは、それぞれの言葉の語源に関して詳しく説明します。
「圧巻」の語源・由来
「圧巻」は中国の習慣から生まれた古事成語です。
「圧巻」の「巻」は答案用紙のことを指します。昔、中国の官職登用試験では、最も成績のよい答案用紙を一番上に置く習慣がありました。この習慣から、「圧巻」は「他の答案用紙を上から押さえつける」ことであり、現在の「この中で最も優れていること」という意味に転じて使われるようになりました。
「圧倒」の語源・由来
「圧倒」は「圧」の訓読みである「おすこと」と「倒す(たおす)」の感じそれぞれの意味を組み合わせてできた言葉です。要するに、「他を強い力で押し倒す」という意味が元となり、これが転じて「段違いの優れた力で他に打ち勝つこと」という意味で用いられるようになりました。
「圧巻」と「圧倒」の使い方
「圧巻」と「圧倒」の使い方で大きく異なる点は、動詞表現ができるかどうかです。
「圧巻」は名詞ですので、「圧巻した」や「圧巻される」のように動詞として使うことはできず、「圧巻だ」や「圧巻の演技」といった名詞表現が適切です。
「圧倒」は「圧倒的勝利」などのように名詞表現としても用いられますが、加えて「圧倒した」や「圧倒される」のように動詞としても用いることが可能です。
「圧巻」と「圧倒」の違いと例文
「圧巻」と「圧倒」はどちらも非常に似た表現ではありますが、利用シーンや場面が微妙に異なります。
ここでは「圧巻」と「圧倒」のニュアンス違いを説明した上で、それぞれの言葉を用いた例文を紹介します。
「圧巻」と「圧倒」の違い
「圧巻」はある特定の分野や領域の中で「最も優れていること」を表す言葉です。比較する範囲が内部にある場合に用いられる言葉と理解するとよいでしょう。
一方「圧倒」は比較範囲を外に置いた言葉です。「圧巻」と「圧倒」の違いは、比較する対象の違いといえるでしょう。
例えば、「このオペラはラストシーンは圧巻だった」という文章の場合、「このオペラの中でラストシーンが最もよかった」の意味となります。一方「このオペラのラストシーンに圧倒された」と書いた場合、「他のオペラ等も含めたラストシーンの中で最も優れていた」という表現に変わります。
「圧巻」の例文
上記の違いを含めて、「圧巻」の例文を見ていきましょう。
- バイオリンのソロが圧巻だった。
- 千秋楽は圧巻の演技だった。
- この映画はラストシーンが圧巻だ。
「圧倒」の例文
「圧倒」の例文も紹介します。
- 今回のコンペは貴社の企画が圧倒的な出来だった。
- 決勝戦ではAチームがBチームを圧倒した。
- 3つも年下の選手に圧倒されるとは思わなかった。
「圧巻」と間違いやすい言葉
「圧巻」には、似たような言い回しや意味があり間違われやすい言葉がいくつか存在します。ここでは間違いやすい言葉とその意味の違いについてみていきます。
「席巻」
「圧巻」と同じ「巻」を用いていることでよく間違われる言葉が、「席巻」です。
「席巻」は「凄まじい勢いで勢力を広げること」という意味です。「席」は訓読みで「むしろ」と読まれ、草や竹などで編んだ敷物のことを指します。昔はこの「むしろ」を巻き上げるほどの勢いで片端から領土を攻め取ることを表現して使われていました。
「席巻」は勢力を広げる意味となりますので、優れているという点では「圧巻」と似ていますが、意味は全く違う言葉です。例文からその違いを見ていきましょう。
- A社の新商品は業界シェアを席巻しかねない人気だ。
- 時代を席巻する流行はいつも若者から生まれる。
「壮観」
「壮観」も「圧巻」に似ている表現のひとつです。
「壮観」は「規模が大きくて素晴らしい眺め、ありさま」という意味です。この意味の通り、「壮観」は景色や見た目にのみ用いられる言葉ですので、「圧巻の景色」などと表現する場合は「壮観」を用いるのがより適切です。
- グランドキャニオンは驚くほどに壮観だった。
- 超満員の武道館をステージから眺めるとその壮観さに胸が打たれる。
「圧感」は間違った日本語
日常的にしばしば見かける表現で「圧感」があります。しかしこの表現は辞書にも載っていない間違った日本語です。
おそらく、「圧巻」の誤用表現ですので用いないように注意しましょう。
「圧巻」と「圧倒」の類義語・言い換え表現
ここでは、「圧巻」と「圧倒」の類義語や言い換え表現を紹介します。それぞれ意味が異なってきますので、類義語も異なります。覚えることで表現の幅を身につけましょう。
「圧巻」の類義語・言い換え表現
「圧巻」と同じ意味で使われるのが「見どころ」という言葉です。「見どころ」は「見る価値のあるところ」や「今後が期待できる優れた部分」という意味の言葉です。
「圧巻」は「最も優れた部分」という意図を含み、「見どころ」は「最も注目すべき点」という意図がありますので微妙なニュアンスの違いはありますが、基本的には同じ意味として使えます。
また、「圧巻」は他にも「見せ場」や「山場」、「ハイライト」などでも言い換えが可能です。「見せ場」は「相手に見て欲しい部分、アピールしたい部分」という意味合いが含まれており、「圧巻」の「自分が素晴らしいと感じた点」とは若干ニュアンスが異なりますので覚えておきましょう。
「圧倒」の類義語・言い換え表現
「圧倒」の類義語は「凌駕」です。「凌駕」は「他をしのいでそれ以上になること」を意味する言葉です。
対象が外にあることや、対象よりも勝ることを意味することから「圧倒」の言い換えとして用いられます。ただし、「圧倒」には「段違いの優れた力」という意味合いがあるのに対し、「凌駕」にはその意味が含まれません。「圧倒」と同義に表現したい場合は「はるかに凌駕する」など差が大きいことを表す言葉を添えるとよいでしょう。
「圧巻」の英語表現
「圧巻」を英語で表現するにはどのような言葉を用いるとよいのでしょうか。ここでは「圧巻」の英語表現とその例文を紹介します。
ひとつ目の表現は「最も優れた部分」という意味で使われる「the best part」という英語表現です。この英語表現は「ある特定のものごとの中で最も良い部分」という意味で日常会話でも用いられます。
The best part of the opera was the last scene.(このオペラはラストシーンは圧巻だ。)
もうひとつの表現は「masterpiece」という単語が使えます。「masterpiece」は主にアート作品などに対して「この上なく素晴らしいもの」という意味で用いられます。
The Venus de Milo is a masterpiece.(ミロのヴィーナスは圧巻だ。)
まとめ
「圧巻」と「圧倒」はいずれも「優れている」ことを表す言葉ですが、その比べる対象の違いがあることがわかりました。利用シーンに合わせてどちらの表現が適切かを見極め、正しく使えるようになりましょう。