「今回の件が、ひいては社の信用に…」と言うと、「しいては、じゃないんですか?」と疑問を投げかけられ頭を悩ませる。こんなことでは問題対応能力も疑われますね。そもそも「ひいては」ってどういう意味なのか、しっかり把握して使いこなしましょう。
「ひいては」の意味とは?
「この条約がひいては幕府の瓦解へと繋がり…」なんてくだりを歴史の授業で聞いたとき、「ひいては」という言葉に何かドラマチックなものを感じました。何か風雲急を告げるような、事態が展開する予感を含む言葉ですね。詳しく意味を見てみましょう。
意味1 引き続いて起こる
何かが起きると、自動的に次の事態が起きることを示す意味があります。「A社と契約できれば、ひいてはB社とも関係ができる」のように使い、この場合A社との契約がB社との関係づくりに直結することを意味します。
意味2 原因となる
ある出来事が、ほかの出来事の原因となることを示す用い方です。「アメリカへの進出が、ひいてはアジア市場での弱体化を招く」のように使う場合、アメリカへの進出が原因となって、因果関係を経てアジア市場での弱体化の結果を生じることを表します。
意味3 波及していく
ある出来事が、小さなことから大きなことへと波及していく様子を表します。原因となるの意味に近いですが、徐々に大きなことへとつながっていくニュアンスがあります。「指先のケガを放置することは、細菌の侵入を許し、ひいては破傷風などの感染症を引き起こす」のように、小さな事象からより大きな事象へと効果が及んでいく様子を意味します。
漢字で書くと「延いては」
漢字で表記すると「延いては」となります。「ひく」にあたる漢字は数多いですが、「延」は、のびる、のばす、とも読む字で、何かを引き延ばしていくことを表す字です。字義からも出来事が広がっていく様子が感じられますね。
「ひいては」と「しいては」の違い
「この不祥事は、しいては我が社の信頼を…」と聞いて、違和感がありませんか?「しいては」を「ひいては」と同義に用いていることをときどき見かけますが、これは正しいのでしょうか?
「しいては」という言葉はない
結論から言うと、「しいては」という言葉は存在しません。言葉としてあるのは、「しいて」や「しいて~すれば」の表現だけです。おそらく響きが「ひいては」と似ているために誤用されているものと考えられます。
「強いて」の意味と使い方
では「しいて」とはどんな言葉なのでしょうか?漢字で表記すると「強いて」となり、あえて、無理に、困難や反対を押し切って、の意味になります。
- あの人は凡庸だが、しいていえば柔和なのが強みです。
- 嫌がるものを強いてはいけない。
「ひいては」とは全く意味の異なる言葉ですので、混同するのは禁物です。
「せいては」も間違いやすい
・ひいてはことを仕損じる。
ことわざですが、違和感がありますね。「原因の意味?波及効果に乗っかるとダメってこと?」と悩む必要はありません。「急(せ)いてはことを仕損じる」が正しい表現で、「ひいては」は明らかな誤用です。「急いては」の響きが似ているために起きた言い間違いだと考えられます。
「ひいては」の使い方と例文集
言い間違いや誤用もしばしば見られる「ひいては」だけに正しい使い方をしたいものですね。日常的なシーンを中心に使い方を見ていきましょう。
「ひいては」の使い方
「ひいては」は微妙に違う意味を持つ言葉ですので、意味ごとに使い方を覚えておく必要があります。意味ごとに例文を挙げて説明します。
引き続いて起こるという意味の例文
- 勤務条件を改善すれば社員の意欲が向上し、ひいては業績に表れてくる。
- この契約をものにすれば、ひいては他社からの引き合いも得られる。
ある出来事をきっかけに、次の事態が当然に起こる場合の用い方です。最初に挙げた事象から当然に得られる結果を挙げていき、最も目的とする事象を「ひいては」以下に述べるようにします。
原因となるという意味の例文
- 暴飲暴食は、検診の結果を悪化させ、ひいては健康を損なう結果となる。
- 今回のプロジェクトを成功させることで、ひいては我が社の信頼を回復させられる。
ある事象が原因となって、結果となる事象が得られる因果関係を述べる言い方です。複数の事象が因果関係で結ばれる場合は、最後の結果の前に「ひいては」を置くようにします。
波及していくという意味の例文
- この取り組みが我々の部内に浸透すれば、やがては支社、事業部、ひいては全社での取り組みとなるだろう。
- この地域の開発が、市、県、ひいてはこの地方の発展に寄与すると信じます。
最初に挙げた事象が、徐々にその影響を広げていくことを意味する用法です。いくつものプロセスを経て広がることを表現することになるので、挙げていく例はより小さなものから大きなものへ向かっていなければならないことに注意が必要です。
「ひいては」の類義語・言い換え
「ひいては」の持つ3つの意味に沿ってみていくと多くの類義語があります。意味的により明確なものもあるので、うまく使い分けると意図を伝えやすくなりますね。4つ紹介します。
「結果的には」
度を過ぎた飲酒は、結果的には健康を損ないます。
原因を示す「ひいては」の言い換えには「結果的には」がよく合致します。原因と結果の因果関係を明確に表す言い方なので、原因と結果を端的に伝えたいときには使いやすい表現です。
「さらには」
私のしたことで、同僚の皆さん、全社員、さらには取引先にも迷惑をかけてしまいました。
波及していく意味での「ひいては」に合致する言い換え表現です。いくつものことが重なって、さらにその上に重なる意味を表しますので、小から大へと影響が及んでいく最後の段階に用いるようになります。
「留まらず」
待遇改善は社員の生活に留まらず、その関係者にもよい影響を与えます。
引き続いて起こる意味での「ひいては」を言い換える表現です。ある事象の影響がある範囲で収まらずに、さらに続いていく意味を表します。最初の影響では止まらないニュアンスがあるので、事象が自然につながっていく場合に好適な言葉です。
「それゆえ」
このミスは重大で、それゆえ会社全体の信用にかかわってしまう。
ある事象に起因して影響が及ぶ様子を表します。原因と結果の関係を表す「ひいては」とほぼ同義に使えます。「だから」や「そのため」のような順接の接続詞としてよく用いられる言葉です。
「ひいては」を英語でいうと?
ある出来事が連鎖的にほかの出来事を引き起こしてしまうことは、日常的によくあることです。当然英語でも類似した表現があります。3つ紹介します。
as a result
I works very hard, as a result, I get sick.(とてもきつい仕事で、ひいては体調を崩した。)
あることが原因となって、結果となる事象を引き起こした場合に用いる表現です。causesも同様に用いられます。
Working too hard causes sickness.(働き過ぎはひいては体調不良の原因になる。)
furthermore
The vesitables are expensive, furthermore the fruits are also.(野菜が高い、ひいては果物もです。)
あることがほかのことにも引き続いて起こる意味を表します。そればかりではなく、と付け足すような意味でもよく用いられます。
not only ~,but also ~
Not only East Asia, but also Africa will be influenced by China.(東アジア、ひいてはアフリカまで、中国の影響を受けるだろう。)
~ばかりでなく~まで、を表す定型表現ですが、影響が波及していく場面では「ひいては」と訳せますね。日本語の「ひいては」よりは挙げられている事象の順序性などは問われません。
まとめ
「ひいては」は敬語ではありませんが、論理性のある固い話題によく用いられるのでビジネスシーンでも頻繁に耳にする言葉です。それだけに言い間違いや用法の間違いなどは悪い意味で目立ってしまいます。正しい意味や用法をしっかりと把握して、適切にこの言葉を用いることで、知的な印象を与え高評価につながるかもしれませんね。