「頂く」は、ビジネスシーンに限らず日常生活でもよく使う表現ですね。「頂く」には、「戴く」や「いただく」と書く場合もありますが、その違いはご存じでしょうか?間違って恥ずかしい思いをする前に、正しい使い分け方を理解しておきましょう。
「頂く」と「戴く」の意味とは?
「頂く」と「戴く」はほとんど同じ意味を持つ言葉です。「頂く」と「戴く」の意味は、「もらう」や「食べる、飲む」の敬語表現で、謙譲語Ⅰに分類されます。謙譲語Ⅰとは、自分の行為が向かう相手に対して、その相手を立てて述べた敬語表現です。
「頂く」にはたくさんの意味があり、そのほかには下記のようなものがあります。使用例と共に紹介しますので、参考までに覚えておきましょう。
- 「頭にのせる、かぶる」の意味。「雪を頂く山」、「冠を頂く」など。
- 「苦労をせず手に入れる」の意味。「この試合は頂いたも同然だ」など。
- 「敬意を表するため目線よりも高い位置に掲げる」の意味。「賜った剣を押し頂く」など。
- 「しかられる」の意味。「部長からお小言を頂く」など。
「頂く」と「戴く」の違いは、「頂」の文字には「一番高いところ」や「頭のてっぺん」の意味が、「戴」の文字には「うやうやしくうける」や「目上の人から物品をもらう」の意味がある点でしょう。そのため「社長から表彰状を戴く」のように、「戴く」は、相手の立場が自分より非常に高く、より敬意を表す状況で使用されます。
また、以前「戴」の文字は常用漢字ではありませんでした。2010年に約30年ぶりに常用漢字表が改定され、常用漢字に追加されましたが、「戴く」を「いただく」とする読み方は表外読み(常用漢字表に記載されていない読み方)です。そのため、ビジネスや公用文で「いただく」を漢字表記する場合は、基本的に「頂く」を使うと考えた方がよいでしょう。ただし、「頂く」と「戴く」の意味の違いによるニュアンスを表したいときに、あえて敬意を表すために「戴く」を使用する場合もあります。
漢字で表記する「頂く」や「戴く」以外にも、ひらがなで「いただく」と表記する場合があります。「頂く」や「戴く」が動詞として使われるのに対し、「いただく」は補助動詞として使われています。補助動詞として使う場合は、ひらがなで「いただく」と表記しましょう。補助動詞とは、前にある動詞を補助する役割をもち、もともとの意味が薄れた言葉のことをいいます。たとえば「お土産を配っていただく」という文章の「いただく」には、自分のものにするという「頂く(もらう)」の意味はありません。このような補助動詞としての「いただく」は漢字表記をする必要があります。間違って「確認して頂く」や「お越し頂く」のように漢字表記しないよう注意しましょう。
「頂く」や「戴く」は「もらう」や「食べる」の謙譲語Ⅰに分類されます。謙譲語Ⅰは「自分の行為が向かう相手に対して、その相手を立てて述べた敬語表現」で、尊敬語は「相手や第三者の行為について、その相手を立てて述べた敬語表現」です。そのため謙譲語Ⅰである「頂く」や「戴く」を、尊敬語として使うのは誤りです。たとえば食事を出して「温かいうちに食べてください」と言いたい場合は、「温かいうちに頂いてください。」ではなく、「温かいうちに召し上がってください。」と表現するとよいでしょう。
「頂く・戴く」を英語で言うと?
「いただく」と表現する場合に使う英単語は、下記のように複数あります。
- 「get」(もらう、してもらう)
- 「have」(もらう)
- 「receive」(贈り物などを受け取る)
- 「accept」(受け入れる、受諾する)
- 「eat」(食べる)
- 「drink」(飲む)
- 「May I~?」(~していただけますか?)
英語では前後の文脈などにより、日本語で「もらう」や「食べる」、「してもらう」を表す単語が変わります。状況によりどの単語を使用するべきか判断して使用しましょう。
「頂く・戴く」の類義語・言い換え表現
「もらう」を表す「頂く」や「戴く」の言い換えに使える表現を2つ紹介します。どちらも敬意を表す表現です。シーンによって使い分けできるように、覚えておくとよいでしょう。
類語1,「頂戴する」
「頂戴する(ちょうだいする)」は、「もらう」を表す謙譲語Ⅰの敬語表現です。「お名刺を頂戴します」や「少しお時間を頂戴したいのですが、よろしいでしょうか?」のように使用します。
「頂戴する」はそれ以外にも、「豪華な朝ご飯を頂戴しました、」のように「飲食すること」を表す意味や、「この商品を頂戴します」で「ください」の意味、「あれをとって頂戴」のように「相手に何かをしてもらうことを促す意味」で使用する場合もあります。
類語2,「賜る」
「賜る(たまわる)」には、「もらう」を意味する謙譲語Ⅰと、「与える」を意味する尊敬語の意味があります。「ご協力を賜りまして、ありがとうございます。」のように使用します。
また、「賜る」は「頂く」や「戴く」、「頂戴する」に比べて、とても丁寧な敬語表現です。強い敬意を表現できる一方で、堅苦しさをや過剰な印象を与えてしまう可能性があります。ふさわしいシーンで使用するように注意しましょう。
「頂く・戴く・いただく」の使い方
「頂く」と「戴く」、ひらがなの「いただく」、それぞれの使い方を説明します。シーンに合った使い分けができるように覚えておきましょう。
「頂く」と「戴く」の違いでお伝えしたとおり、常用漢字表には「戴く」には「いただく」の読みは記載されておらず、表外読みとなります。そのため、動詞として正式なビジネス文書などに記載する場合は「頂く」を使うようにしましょう。
敬意を表す場合は「戴く」
相手の立場が自分より非常に高く、より強い敬意を表したい場合は「戴く」を使用してもよいでしょう。飲食物を食べるときやちょっとしたものをもらった際に「戴く」を使うと、相手に大げさな表現だと捉えられる場合もあります。シーンを見極めて使えるように意識するとよいでしょう。
補助動詞として使うときは「いただく」
補助動詞として使う場合はひらがなで「いただく」と表記しましょう。漢字で書いたほうがしっかりした文章に見えるからとなんでも漢字で表記してしまうと、相手に基本を知らない人だと思われてしまうかもしれません。
「いただく」に限らず、「話してください」の「ください(下さい)」や「仕事の工程が増えていく」の「いく(行く)」など、補助動詞を漢字で書かないよう、日頃から気を付けましょう。
どっちの漢字?ひらがな?表記に迷うときは
もし「頂く」や「戴く」のどちらの漢字を使うべきか迷う場面があったら、「頂く」を使いましょう。「戴く」は表外読みとなるため、ビジネスシーンでは一般的に「頂く」を使うことが多いです。
また、ひらがな表記か漢字表記かで迷う場合は、ひらがなで「いただく」と記載しても問題ありません。漢字ばかりが続く文章は読みづらく、堅苦しい文章になってしまいます。そのため読みやすさを考慮し、意識的に漢字をひらがなで表記する場合もあるからです。
「頂く・戴く・いただく」の例文
「頂く」と「戴く」、ひらがなの「いただく」、それぞれを使った例文を紹介します。使い方の参考にしてください。
「頂く」の例文
「頂く」を使った例文を紹介します。
- 甘い果物を頂いたので、おすそ分けにお持ちしました。
- お先に食事を頂いております。
「戴く」の例文
「戴く」を使った例文を紹介します。
- 優勝してトロフィーを戴いた。
- 素晴らしい賞を戴き、光栄です。
「いただく」の例文
「いただく」を使った例文を紹介します。
- データをご確認いただき、ありがとうございます。
- せっかくお越しいただいたのに、申し訳ございません。
まとめ
「頂く」は「もらう」や「食べる、飲む」を表す謙譲語Ⅰの敬語表現です。ビジネスシーンで使用する場合は、主に「頂く」を使うとよいでしょう。「戴く」も同じ意味を持ちますが、「頂く」よりも相手の立場が非常に高く、より敬意を表す状況で使用します。また、補助動詞として使う場合は「いただく」とひらがなで表記しましょう。