「法治国家」とは、行政や司法が議会で決定した法律に基づいて行われるべきであるという考え方を採用している国のことです。近年「法治国家」の逆として「人治国家」という言葉も耳にします。これらの意味と違い、「法治国家」の英語表現を紹介します。
「法治国家」の意味と例文
「法治国家」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?日本は「法治国家」といわれていますが、どのような国家のことを指すか考えていきましょう。また、「法治国家ではない国」があるかについても説明します。
「法治国家」とは「法治主義による国家」
「法治国家」とは法律により国民の社会生活が保護されており、行政も法に従って行われる国のことを指します。このように国家の権力も含め、国の全ての決定が法律に基づいて運営される考え方を「法治主義」といい、「法治国家」は法治主義により統制されている国家ということです。
世界の国のほとんどは「法治国家」
現代では先進国を筆頭として、世界の国のほとんどは「法治国家」だといわれています。ただし、国によっては法律が制定されているにもかかわらず、権力や独裁者によりその法律が軽視されて国政が運営されている国があります。このように実情が伴っていない場合は「法治国家」とはいえず、「法治国家」は実質的な機能として成り立っている必要があります。
「法治国家」を用いた例文
ここでは「法治国家」を用いた例文を紹介します。
- 政治家が権力を濫用することが許されるなら、法治国家とはいえない。
- この国が法治国家ならば、国民の権利は法で守られるべきだ。
- 法治国家である以上、裁判で無罪になった人を個人的に断罪する行為は許されない。
「法治国家」の成り立ち
「法治主義」という考え方に基づいた国政は、第二次世界大戦後に誕生した考え方です。ここでは「法治主義」の概念の成り立ちと、似た言葉としてしばしば取り上げられる「法の支配」との違いについて詳しく見ていきましょう。
「法治国家」はドイツの法学をもとにした概念
「法治国家」は第二次世界大戦後の西ドイツが確立した概念です。この西ドイツの概念が確立する前の法治国家論では、行政と司法が議会で制定された法律に準じていれば国民の自由や権利を侵害しても問題ないという形式的な統治論が一般的でした。西ドイツはこの考え方を一部改変し、立法と行政、裁判の機能はそれぞれ分立し権利侵害を行わないこと(三権分立)および、基本的人権を侵害しないために制定される法律や法令の目的が憲法の内容と適合しているかを審査する機能を裁判所に設置しました。この改変により、元になった法治国家論の形式的に法律遵守していれば人権を侵害しても問題ないという考え方が是正され、実質的な法治主義の運営を原則とする現代の「法治国家」が誕生しました。
「法の支配」との違い
「法の支配」は「人ではなく法が支配する」という考え方で、法治国家とは異なる概念です。「法の支配」元になっているのは、17世紀にイギリスで基本理念として確立したコモン・ローの流れを汲んでいる考え方です。コモン・ローとは、中世以来イングランドで裁判所が伝統や慣習、先例に基づき判決を行うことで発達した法概念です。「法の支配」は議会で制定された法律は存在しますが、さらに法律の上にコモン・ローに基づく自然の法律があるという考え方です。よって法律を制定した議会や国の統治者は法律を制定する場合でも、コモン・ローに基づく法の下で決定するべきと考えられています。
「法治国家」は議会で制定した法律に統治者と全国民が支配されるべきという考え方である一方、「法の支配」は議員や統治者は議会で制定した法律の上にさらに自然法的な概念に縛られるべきであると考えられている点が違いです。
「法治国家」の英語表現と例文
「法治国家」はもともと海外発祥の概念のため、海外メディアなどでも頻繁に用いられる英語表現です。ぜひ英語表現も覚え、使えるようになりましょう。
「法治国家」を英語で表すと?
「法治国家」の英語表現は「constitutional state」です。「constitutional」は憲法や法律という意味の英単語で、「state」は国家という意味ですので、これらを組み合わせることで「法治国家」という意味の英単語になります。
英語表現での例文
ここでは「法治国家」を用いた英単語の例文を紹介します。
Due to this incident, Japan was known as a constitutional state which realized that judicial power were independent.(この一件で、日本が法治国家として司法権の独立を実現させたことを世に知らしめた。)
「法治国家」と「人治国家」の違い
「法治国家」の逆説的な用語として「人治国家」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。「人治国家」は「法治国家」とは違う行政の様子を指している言葉です。ここでは「人治国家」の意味と「法治国家」との違いなどを詳しく紹介します。
「人治国家」とは
「人治国家」とは法律が存在する国家にもかかわらず、その時代の政権や権力者が法を超越して判断を下す状態の国家を指します。「人治」とは人が治めるという意味ですので、権力者が独断で国の法律を軽視し行政を行うことや権力者に賄賂を送ることで、法律の定めにかかわらず物事が進むことを表します。
また、「人治国家」に近しい言葉として「情治国家」という言葉も存在します。「情治主義」は世論や国民感情などの感情論に大きく左右され、法律ではなく国民の感情を優先する形で行政や司法の判断が下されている状態の国家を指します。
「法治国家」との違い
「法治国家」と「人治国家」の違いは、法律に基づいた行政・司法が行われているかどうかです。「人治国家」の場合は権力者の都合に合わせて法律が歪んだ解釈をされることや、法律に即した判断を下していない場合でも正当な断罪が行わず法律が無視されるような状態を指します。また、法治主義を謳っている国家がこのような状態に陥ることを「人治国家」と揶揄する表現で用いられる場合もあります。
中国の実態は人治国家?
中国は法律が制定されており、それに則った行政・司法が行われている「法治国家」といわれています。しかしながら、国民からは現在も人治国家であるという見解があるともいわれています。その理由は中国の法律の内容が他国と比べて大まかな内容ということが考えられます。法律が大まかな内容のみの記載の場合、裁判などの判決では裁判官の裁量範囲が広く、判決基準に裁判官個人の見解が反映されてしまう可能性があることになります。結果として、裁判官に人脈がある人間が裁判を行った場合、その人に有利な判決を行うこともできる状況と考えられるでしょう。
「日本は法治国家ではない」の意味は?
日本の報道機関の発信の中で「日本は法治国家ではない」といった内容を耳にしたことはあるでしょうか。日本には日本国憲法に基づいた法律が存在していますが、「法治国家ではない」とは一体どのような意味合いで用いられているのでしょうか。この言葉のニュアンスについて説明します。
日本は「法治国家」とされている
日本は日本国憲法に則った法律が存在しており、西ドイツが確立した法体制である三権分立も取り入れている「法治国家」です。現在の憲法が制定され、日本が「法治国家」として確立したのは第二次世界大戦後の1947年に制定された「日本国憲法」です。日本は立法と行政、司法がそれぞれ独立した権利を持っており、国民の人権は憲法で保証されています。
「法治国家ではない」は政治や司法への批判表現
メディアなどで日本の行政に対して「法治国家ではない」といった表現は、政治や司法もしくは内閣に対する批判表現として用いられます。
このような批判が出る場面としては政権が法律を軽視した判断を行った可能性がある場合や、法律の解釈を歪めた行為をとった場合に用いられることが多いです。国民の権利が侵害される事案が起きた場合にも「法治国家ではない」という表現が用いられます。
まとめ
「法治国家」とは行政や司法が実質的に法律に基づいた行動を行う国家を指して使われる言葉です。現代では先進国を中心としてほとんどの国が「法治国家」とされていますが、時代により統治者や権力者が恣意的に法律を歪めた行動をとった場合、「人治国家」と批判される場合があることを覚えておくとよいでしょう。