「漸く」という言葉をご存じですか?「漸く」は読み間違いも多く、よく知られているようで正しい使い方が浸透していない言葉でもあります。今回は「漸く」の意味・使い方、読み方、類語・英語表現に加え、「暫く」や「悉く」との違いについても紹介します。
「漸く」の意味とは?
「漸く」にはさまざまな意味が存在します。1つ目はかなりの時間や手数をかけた後に、望んでいた結果が実現する様。2つ目は苦労して目標としていたことが達成する様。3つ目は時間の経過につれて状態が徐々に遷移する様。これらの意味から「漸く」という言葉には「長い時間や労力をかけて結果が手に入る様」を表現していることがわかります。似た意味の言葉として「やっと」という表現がありますが、この言葉は「漸と」と表記します。
参照:Weblio辞書「漸く」
「漸く」の読み方
「漸く」は「ようやく」と読む言葉になります。よくある誤った読み方に「しばらく」がありますが、「しばらく」は「暫く」と書きます。意味も全く異なるため、混同しないよう注意が必要です。
「漸く」の由来・語源
「漸く」の由来は「漸」という漢字をひも解くことで理解できます。「さんずい」に「斬る」と表現することから「水を斬る」様子を表した漢字になります。つまり水の流れを切って導き通すという意味になりますが、水は物理的に切れるものではありません。そのようなニュアンスから「次第に」や「だんだんと」という意味合いに転じていきました。
「漸く」を使うタイミング3選
「漸く」を使うタイミングについて紹介します。 この言葉はさまざまな意味を持つため、使われるタイミングもその時々によって微妙に異なります。適切な状況で使いこなせるよう、詳しくみていきましょう。
少しずつ状況が進行している様子を表すとき
「 漸く」という言葉は、物事が少しずつ進行している様子を表すときに使われる言葉になります。プロジェクトを進める際も、ハイスピードで物事が展開することは少なく、少しずつ少しずつ前進させることで仕事は進んでいきます。そういった状況を表現する際に「漸く」という表現を用います。よく使われる表現として「ようやくここまでたどり着いた。」や「ようやく事態が収束に向かっている」のような例があげられます。
かろうじて乗り越えたことを強調するとき
「漸く」を用いるタイミングとしては、「かろうじて物事を乗り越えたこと」を強調したいときなどが挙げられます。ニュアンスとしては「ギリギリ」という意味があり、求められるレベルにすれすれのところで満たせたという意味合いがあります。「合格ラインの3点差で漸く合格した。」というような使われ方をします。
大きな努力の末達成したとき
大きな努力の末に物事を達成したときも「漸く」という表現は使われます。このように「漸く」という言葉は、「苦労の度合いや感動の様子」などを表現するのに適しています。「入社したときからずっと携わっているこのプロジェクトはようやく完了を迎えることになった。」「何度受験に落ちたかわからないが、この歳になって漸く合格した。」というような使われ方をします。目標達成するのに長い時間がかかったことに加え、莫大な労力がかかっていることを暗に意味する表現になります。
「漸く」の類義語・言い替え
「漸く」の類語や言い換え表現について紹介します。今回紹介する言葉は「やっと」と「徐々に」の2単語になります。 それぞれの言葉の意味は使い方について詳しく見ていきましょう。
「やっと」
「やっと」という表現には2つの意味があり、1つ目は長い時間の労力を費やして実現する様。2つ目は不足はしていないものの、余裕がないさま。を表す言葉になります。漢字で表記すると「漸と」と表記でき、「漸く」と根本的なニュアンスにおいては同じであるといえます。また、その他の意味合いとしては「たくさん」や「はるか」にといった意味合いもあるため、それぞれの文脈においてどういう意味で使われているのかを推察する必要があります。
「徐々に」
「漸く」の類義語として「徐々に」という表現があります。この言葉は「少しずつ」「一歩一歩」という意味があり。「ようやく」という言葉の「だんだんと」という意味と同じであるといえます。ただ、「漸く」という言葉の方が意味のバリエーションが多いため、汎用性が高い言葉だといえます。一方「徐々に」という言葉は、「少しずつ」というニュアンスしか持たないため、表現としては平易になります。ただ、「漸く」という言葉の方が感情がこもっているため、気持ちを言葉にのせたい場合は「漸く」を落ちる方が適切だといえます。
「漸く」の対義語
「漸く」という言葉の対義語について紹介します。 ここで紹介する言葉は「容易く」と「難なく」の2つの言葉になります。それぞれの言葉の使い方について詳しく見ていきましょう。
「容易く」
「容易く」という言葉は「たやすく」と読み、「何の困難もなく物事を達成できる様」を表す言葉です。「ようやく」という言葉には 、物事を達成する際にいろいろな苦労をしているというニュアンスが含まれています。つまり取り組んでいる物事の難易度が高いものであることが推察されます。一方「容易く」や「容易い」といった表現は、取り組むべき物事がかんたんすぎて歯牙にもかからない状態を表す言葉です。「朝飯前」という表現と近いニュアンスを持ちます。
「難なく」
「難なく」という表現も「容易く」と同じく「かんたんに物事を成し遂げてしまう様」を表す言葉です。「難なく」と「容易く」は類義語になるため、「難なく」は「漸く」の対義語であるといえます。「難なく」という言葉は「難しくない」という意味になるため、つまずくことなく達成できてしまう様子を表します。
「漸く」と「暫く」と「悉く」の違い
「漸く」と「暫く」と「悉く」の違いについて説明します。 これらの言葉はよく読み間違いが発生する漢字であり、 読み間違えることで意味を取り違えてしまう可能性があります。 それぞれの言葉の読みと共に、詳しい意味合いについて説明していきます。
「漸く」と「暫く」の違い
「暫く」は「しばらく」と読み「少しの間」という意味を表す言葉になります。例えば「暫く家を空けます。」や「暫く外出します。」「暫くお待ちください。」といったような表現で使われることが多いです。日常生活やビジネスシーンにおいても非常によく使われる言葉になるため、漢字の表記や読み方は覚えておくとよいでしょう。また、「漸く」とよく読み間違いをされますが、意味が全く異なるため書き間違えないよう注意が必要です。
「漸く」と「悉く」の違い
「悉く」は「ことごとく」と読み、「全て残らず」という意味があります。例えば「悉く不合格に終わる」や「悉く失敗に終わる」といったように、マイナスの意味で使われることが多い言葉になります。「ことごとく」という表現は知っていても「悉く」と表記することまでは知らない方も多いでしょう。「悉く」も「漸く」と間違われることがあり、見間違えないよう注意が必要です。
「漸く」を英語でいうと?
「漸く」という言葉の英語表現を紹介します。英語表現を身につけておくことで、海外に行ったときに役に立つかもしれません。それぞれの英語表現の使い方について詳しく見ていきましょう。
「finally」
「finally」は「漸く」という意味を表す英語表現になります。「Finally I did it.」で「漸く成功した。」という意味になり、ここで使われている「ようやく」は「やっとのことで」という意味になります。
「manage to…」
「manage to…」も「漸く」の英語表現として適切です。例えば、「We manage to make a decent living.」で「漸く人並みの生活をする」という意味になります。ここでの「manage to…」は「やっとのことで」「かろうじて」という意味で使われています。
「gradually」
「gradually」も「漸く」の英語表現になります。「gradually increase」で「徐々に増やす。」という意味になり、「徐々に」「だんだんと」というニュアンスを表す言葉になります。
「漸く」の使い方と例文集
「漸く」という言葉の使い方や例文について紹介します。日常生活やビジネスシーンにおいてもよく用いられる表現であるため、その使い方については詳しくおさえておきましょう 。
「漸く」の使い方
「ようやく」という言葉が使われるのは、「苦労した様」を表したいときになります。「やっとのことで」や「かろうじて」といった意味合いがあるため、長い時間をかけて苦労して取り組んだ物事が漸く花開くタイミングで使われる言葉になります。
「漸く」の例文
「漸く」を用いた例文を紹介します。
- 彼の苦労が漸く報われたようだった。
- 準備や段取りにいろいろと手こずったが、彼女とようやく結婚できた。
まとめ
「漸く」にはさまざまな意味がありますが、総括的な意味合いとしては「長い時間や労力をかけて結果を手に入れる」という意味合いがあります。 いずれにせよ、目標達成するまでに多大な時間や労力を費やしたというニュアンスが含まれます。読みを間違えやすい言葉に「容易く」や「難なく」といった表現があるため、それらの言葉と間違えないようにしましょう。