「禁固刑」とは罪を犯した際の刑罰の一種ですが、どのような刑罰かはご存知でしょうか。「懲役刑」などとの違いや刑罰の重さは、日々の情報ではあまり触れられない部分です。今回は「懲役刑」などに比べた刑罰の重さや、刑務所内の生活について解説します。
「禁固刑」とは?
刑事ドラマや日々のニュースで「禁固3年」などの表現で耳にする「禁固刑」は罪を犯した場合に課せられる刑罰の一種です。ここではその「禁固刑」がどのような刑罰かを説明します。
「自由刑」に分類される刑罰の一種
「禁固刑」とは刑法に定められている刑罰のひとつで、刑罰の種類としては「自由刑」に分類されます。「身体の自由を拘束する」とは、刑務所に投獄されることで自身の意志で行動する自由を制限されることを指しています。「禁固刑」と同じ自由刑に分類される刑罰は「懲役刑」と「拘留」です。
また、自由刑以外の刑罰の種類として、以下の4つがあります。
- 生命刑
- 身体刑
- 財産刑
- 名誉刑
「禁固刑」は労働義務がない
「禁固刑」では身柄を拘束されて刑務所に投獄されますが、刑務所内での規則的労働の義務は課せられません。
歴史的沿革からして、「禁固刑」は政治犯罪等を対象とされる刑であり、受刑者の名誉を奪う目的である名誉拘禁の性格が含まれる刑罰であることから、労働義務の強制はないとされています。また、労働義務がないことにより他の受刑者との関わりが一切ない状態のため、精神的苦痛が強い刑であるともいわれています。
刑期は短期から無期まである
「禁固刑」の拘置期間は一般的には最長で20年(刑法13条1項)とされており、他にも犯罪がある場合には拘置期間が加重され最長30年(刑法14条2項)までとされています。
また、「禁固刑」には無期も存在します。この場合、仮釈放が行われるのは収容後30年を経過してからとなり、仮釈放後も一生涯保護観察下におかれます。
「禁固刑」と「懲役刑」の違いとは?
「禁固刑」と「懲役刑」の違いは刑務所内での労働義務があるかどうかです。
「禁固刑」は刑務所内での労働義務がないことに対し、「懲役刑」は身柄を拘束され刑務所に投獄された上に、刑務所内での規則的労働を行う義務を課せられる刑罰です。
規則的労働は「刑務作業」ともいわれ、所内で規則正しい生活を送ることや、職業的知識や技能を習得することで、スムーズな社会復帰を促進することを目的としているものです。
「禁固刑」は「懲役刑」よりも刑罰が軽い
「禁固刑」と「懲役刑」ではどちらの方が重い刑罰とされているのでしょうか?
刑法9条及び10条によれば、刑の順序は重い順に「死刑→懲役→禁固→罰金→拘留及び科料」と規定されています。
よって「禁固刑」よりも「懲役刑」の方が重い刑罰であることがわかります。
「懲役刑」よりも「禁固刑」の方が罪が重くなる場合もある
基本的には「禁固刑」は「懲役刑」よりも軽い罪ではありますが、例外的に「禁固刑」の方が「懲役刑」よりも刑罰が重くなる場合があります。
「禁固刑」が「懲役刑」よりも刑罰が重くなるのは以下の2つの場合です。
- 無期の「禁固刑」と有期の「懲役刑」を比較した場合
- 「禁固刑」の拘置期間が「懲役刑」の拘置期間の2倍を超えた場合
「禁固刑」が執行される犯罪
具体的に「禁固刑」が執行される犯罪について説明します。
今回は「禁固刑」のみが執行される場合と「懲役刑」のみが執行される場合、もしくはそのどちらかが執行される場合の3種類に分けて見ていきましょう。
「禁固刑」のみが執行される犯罪
「禁固刑」のみが執行される犯罪は大きく分けて「内乱に関する罪」と「国交に関する罪」の2つに分類されます。その中でも「禁固刑」のみが執行される犯罪は以下の通りです。
内乱に関する罪
- 内乱罪(刑法77条)
- 内乱予備・陰謀(刑法78条)
- 内乱等ほう助(刑法79条)
国交に関する罪
- 私戦予備・陰謀(刑法93条)
- 中立命令違反(刑法94条)
「禁固刑」もしくは「懲役刑」が執行される犯罪
「禁固刑」もしくは「懲役刑」が執行される犯罪の一例は以下です。
- 公務執行妨害罪(刑法95条)
- 公務員職権濫用罪(刑法193条)
- 特別公務員職権濫用罪(刑法194条)
- 特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)
- 名誉棄損罪(刑法230条)
「懲役刑」のみが執行される犯罪
「懲役刑」のみが執行される犯罪は以下です。この場合「懲役刑」のみですので、「罰金刑」などがない犯罪を分類しています。結果的に一般的に重犯罪と呼ばれる類の犯罪が多く該当します。
- 殺人罪(刑法199条)
- 強盗罪(刑法236条)
- 傷害罪(刑法204条)
- 暴行罪(刑法208条)
「禁固刑」と執行猶予の関係
「禁固刑」を言い渡された場合でも、一定の条件を満たすことで執行猶予が付与される場合があります。
ここでは執行猶予とはどのようなものかを理解しつつ、執行猶予を付与される基本的な条件についてみていきましょう。
執行猶予とは
執行猶予とは有罪となり刑罰を言い渡された場合でも、その刑の執行を一定期間猶予してもらえる仕組みです。この執行猶予期間に別の罪を重ねて犯すことがなければ、有罪とされた犯罪の刑の執行が免除されます。
一方、執行猶予期間に重ねて罪を犯してしまった場合には、基本的には猶予されていた刑罰と新しく犯した犯罪の刑の両方をあわせた刑が執行されます。これには一部例外も含まれますので、執行猶予を付与される条件で詳しく説明します。
また、執行猶予期間を無事に経過した場合は刑の執行は免れますが、前科がつくことには変わりがありません。執行猶予を無事に終える=無罪になる(前科がつかない)という理解をしないよう注意が必要です。
執行猶予を付与される条件
執行猶予は「3年以下の懲役・禁固または50万円以下の罰金」が言い渡された犯罪を対象として付与されるものです。
執行猶予が付与される基本的な条件は「これまでに禁固以上の刑に処せられていない者」と定められています。初犯の場合はもちろん執行猶予の付与の可能性がありますが、前科がある場合でもその犯罪が「罰金」または「勾留や科料」であれば執行猶予が付与される可能性があるという意味です。
また、上記の基本的な条件の他に以下の場合でも執行猶予が認められるケースがあります。
- 前科における懲役や禁錮で執行猶予期間が経過している場合
- 執行猶予の付かない懲役・禁錮の前科で出所日から5年以上が経過している場合
- 前科は1年以下の軽微な犯罪での執行猶予中かつ、今回の犯罪に情状酌量の余地がある場合
「禁固刑」受刑者の刑務所内の生活
「禁固刑」が執行された場合、受刑者は刑務所に投獄され釈放までの間を過ごします。前述した通り、「禁固刑」の場合は規則的労働の義務はありません。では、一体拘置期間中、受刑者たちは何をして過ごしているのでしょうか。
受刑者は独房で受刑する
「禁固刑」の受刑者は基本的に独房で拘置期間を過ごします。
労働義務もないことから必然的に人と話す機会はありません。強制労働が課せられない分、孤独と戦う日々になることから精神的苦痛は「懲役刑」よりも強いようです。
「禁固刑」でも希望すれば刑務作業に就ける
「禁固刑」は「懲役刑」と違い規則的労働の義務はありませんが、受刑者が希望することで刑務作業に参加できます。このように自ら希望して刑務作業に従事することを「請願労働」といいます。
請願労働は一度希望した場合途中で辞退することはできませんが、作業に応じて「懲役刑」の受刑者と同様に作業報奨金を得ることも可能です。作業後はまた独房に戻り1人の時間を過ごすことにはなりますが、作業中や休憩中に他の受刑者と関わる機会を設られることも請願労働を希望する理由のひとつです。
また、独房で過ごすことの精神的負担から、ほとんどの「禁固刑」受刑者がこの請願労働を希望するのが実情です。
刑務作業を希望しない場合
請願労働を行わない場合は、独房の中で1日を過ごします。この場合でも、独房の中で自由な行動や自由な生活ができるわけではありません。
基本的にはテレビなどもなく、一日中看守に監視される中で、就寝時以外は看守の合図により正座と安座を繰り返し行います。指示なく勝手に動いた場合は厳しく厳しく指導されるという実態があります。また、調髪(男性は丸刈り)や定期的な身体検査は「懲役刑」の受刑者と同じ内容を行われます。
まとめ
「禁固刑」は「懲役刑」と同じく刑務所に入ることで義務付けられている罰ですが、労働の義務がないなど「懲役刑」とはまた違った意味での罪の償い方を課せられているものです。ニュースなどで目にした際にその罰の内容を正しく把握することで、日頃触れる情報を正確に読み取れるでしょう。