歌詞や文学などの中に散見される「微睡み」という言葉。その柔らかなイメージと同様に、本来の意味や表現方法もまた、アヤフヤに捉えてしまってはいませんか?本記事では、「微睡み」の意味や由来のほか、類義語や正しい使い方の例文集を公開します。
「微睡み」の読み方・意味とは?
「微睡み」の言葉の本質を理解するため、はじめに正しい読み方と意味を見ていきましょう。
「微睡み」の読み方
「微睡み」は、「まどろみ」と読みます。ここで1つ生まれやすい疑問が、送り仮名の「み」は必要かどうか、ということです。送り仮名のない「微睡」も同じ音で読めますが、本来の正しい読み方は「びすい」です。「微=び」「睡=すい」はともに音読みですが、「微睡み」自体は正式な訓読みではなく、独立した当て読みとなります。
「微睡み」は「少しの間浅く眠る」の意味
「微睡み」は、「微睡む」という動詞の名詞形であり、その意味は「しばらくの間眠ること」です。場所などを問わず眠気を催したため、無意識のうちに浅く眠ることを指しています。一方「微睡み」には、「熟睡する」や「動作を停止する」などの解釈も含まれています。1つの言葉に相反する意味があるものの、どちらの捉え方でも間違いとはなりません。が、一般的には前者である「うとうとすること」の意で使われており、時間的にも短めの眠りであると理解されています。
参照:Weblio辞書「微睡」
「微睡み」の由来・語源
続いて、「微睡み」の由来や漢字の語源を紐解いていきます。当て字である「微睡みの」の場合は、ひらがなと漢字の両面から理解しておきましょう。
「微睡み」の言葉の由来
「微睡み」は、目がとろんとすること、すなわち「目瀞(とろ)む」を由来とした言葉です。このうち「目」は「ま」とも読めて、例えば「眼差し(まなざし)」は「目なざし」とも表記されます。「瀞(とろ)む」は、「水面が波立たず穏やかで、油を浮かせたように静まっている様子」を指しています。「瀞(とろ)」は、「どろ」とも読めて、いずれも「川などの流れによって出来た深い淵」のことです。これらの「川の水の静かなところ」が「一時(いっとき)の眠り」に例えられ、「目瀞(とろ)み=まどろみ」という単語に昇華したと考えられます。
「微睡み」の漢字語源
「微睡み」という漢字は、義訓や熟字訓という用法のもとで成り立っています。義訓とは、漢字に固有の読み方をするのではなく、文脈や言葉の意義によって訓(読み方や意味)を当てはめることです。「微睡み」は前述したようにいわゆる当て読みであり、その実、「ちょっとだけ(微)ねむる(睡)」という意味から成り立っています。ひらがなの「まどろみ」よりも漢字表記の「微睡み」の方が、一般的な単語認識に近いといえるかもしれません。
「微睡み」の類義語・言い換え
「微睡み」には数多くの類語が存在しますが、ここでは頻出の言い換え表現を紹介していきます。
1.うたた寝
「うたた寝」とは、「寝床に入らずにその場で眠ってしまうこと」を指した言葉です。うたた寝は漢字に変換すると「転寝」となり、転の字には「転がる」や「横たわる」などの動作・状態が表現されています。そのため、例え寝床とは異なる場所であっても、座ったり何かに体を預けたりしたまま眠ることを「うたた寝」とはいいません。ソファーなどで横になっているうちに思わず寝てしまうことが、正確な意味となります。
2.一寝入り・一眠り
「一寝入り」の意味は、「短時間ぐっすりと眠ること」で、「一眠り」とも同義です。少しの時間を活用して気分がすっきりするまで寝ることや、時間は短くとも連続して眠っているのが特徴で、場所や体勢などは問わないことがいえます。
3.仮眠・仮睡
「仮眠」は「通常の睡眠時間が取れない時に、少しの間眠ること」を表した言葉です。同じ意味を持つ熟語に「仮睡」や「仮寝」があります。仕事などの合間を見計らってちょっと寝るのが「仮眠」であり、無意識ではなく自発的な睡眠として区別できます。
4.居眠り
「居眠り」は、「他の作業をしている最中で眠ってしまうこと」を指しています。例えば、車を運転している途中で寝ることを「居眠り運転」と呼ぶように、座ったままの状態で眠りについてしまうのが特徴です。「居」の字には、「腰を落ち着けている」や「じっとしている」などの意味があるため、「居眠り」は座っている体勢で寝ることを表現した言葉となります。
5.一睡・半睡
「一睡」は「ほんの少しのあいだ眠ること」を意味しており、多くは「一睡もしない」などのように打ち消しの語を伴います。「一睡」と字面が似た言葉に「半睡」がありますが、こちらは「意識なかばで眠っている状態」のことであり、意味自体は少々異なります。
6.白河夜船(しらかわよふね)
白河夜船とは、「何が起こっているのかわからないほど熟睡している様子」を表した言葉です。何が起こったのか気付かない、あるいは知ったかぶりをすることの例えとしても用いられます。白河夜船はその昔、京都観光をしてきたと嘘をついた人が、白河(地名)のことを尋ねられたものの、川の名前と思い違いして「夜中に船で通ったから知らない」と答えたことに由来しているのだそう。この一説が、「正体がわからないほどに熟睡する」の意味に転じたと考えられています。
7.半醒半睡(はんせいはんすい)
半醒半睡は、「半ば目覚め、半ば眠っているために、意識が朦朧としている状態」を指しています。「醒」の字には、「眠りから覚めて頭がすっきりする」ほかに「正気に戻る」などの意味が含まれています。一方「睡」は、対照的に「まぶた(目)が垂れて眠ること」を表した漢字です。一般的には、「半醒半睡の状態で眠ってしまった」や「半醒半睡の中で人の声を聞いた」などの使い方をします。
「微睡み」を英語でいうと?
「微睡み」や「微睡む」の英訳には、「drowse」や「doze」、「slumber」が当てはまります。いずれも、浅い眠りやうたた寝などの訳が共通している英単語です。それぞれの単語の使い方は、以下の例文を参考にしてください。
- He drowsed away the calm holiday.(彼は、穏やかな休日をまどろみながら過ごした。)
- I dozed off during my physical class.(私は、物理の授業中についうたた寝をしてしまった。)
- She fell into a slumber unwittingly.(彼女は、無意識のうちにうとうと眠った。)
情緒ある歌詞表現としての「微睡み」
「微睡み」という言葉は日常生活ではあまり用いられない一方で、歌詞や文学などの芸術においてよく見かけます。一般的な睡眠とは違い、目がとろむ程度のゆるやかな眠りであることから、情緒ある表現が可能な「微睡み」。よく使われる文言としては、「微睡みに沈む」や「微睡みの淵に入り込む」、「微睡みの中に落ちる」などがあります。いずれも眠りに入る過程を詩的に描いており、同時にゆっくりと時間が流れている様子を印象づけるフレーズといえます。詩の世界観に余韻を持たせる効果があるため、ただの眠りよりも「微睡み」が好まれているようです。
「微睡み」の使い方・例文集
最後に、名詞である「微睡み」と動詞の「微睡む」について、例文をいくつか紹介します。言葉自体の美しさを感じつつ、どのような場面に応用できるか、読みながらイメージを広げてみてください。
名詞・連用形「微睡み」の例文
「微睡み」は「微睡む」の連用形が名詞化した言葉であり、次のような使い方ができます。
- 眠りにつく寸前、微睡みの中で雨の雫の音だけが聞こえていた。
- 午後の微睡みから目覚めた時、画期的なアイディアが浮かんだ。
- 微睡みに落ちるように、小さな声を放ったのち、ゆっくりと目を閉じた。
動詞・終止形「微睡む」の例文
「微睡む」は動詞として、以下のような活用と文脈が成り立ちます。
- いつまでも微睡んでいたい気持ちを抑えつけ、彼女はゆったりと上体を起こした。
- しばし微睡んでしまったせいか、頭がモヤ掛かっているような気がする。
- 休み時間に微睡んだことで気力が戻り、午後はふたたび仕事に精を出せた。
まとめ
「微睡み」は「少しの間浅く眠ること」を詩的に表現した言葉です。本格的な睡眠ではなく、夢と現実の間を行き来するような眠りを意味しています。「微睡み」は日常やビジネスシーンではあまり馴染みがないものの、美しい大和言葉として芸術世界で多用されています。文脈や使い方に気をつけ、「微睡み」を文章内で適切に使えるように練習してみましょう。