「世帯分離」は、世帯の介護にまつわる費用負担の軽減などを目的として利用される制度です。親子の場合、夫婦の場合の「世帯分離」のメリット・デメリットを解説します。また、「世帯分離」後に再び世帯合併ができるかどうかもお伝えします。
「世帯分離」の意味とは?
「世帯分離」の意味は、同居して生計をともにしている1世帯を、2世帯にわける=生計をわけることです。「世帯分離」を詳しく見ていきましょう。
「世帯分離」とは?
「世帯分離」では同居しながら2世帯にわかれてもいいですし、親が施設に入るため子どもと別居するのをきっかけに2世帯にわかれても構いません。「世帯分離」して2世帯にわかれると、同居している場合でも世帯主は2人になります。たとえば、次の例のようにわかれます。
【例1】親夫婦と娘夫婦で1世帯→親夫婦が1世帯、娘夫婦が1世帯で合計2世帯
(世帯主は、たとえば父親と娘の夫の2人)
【例2】母親と息子夫婦で1世帯→母親のみが1世帯、息子夫婦が1世帯で合計2世帯
(世帯主は、たとえば母親と息子の2人)
「世帯分離」の理由
「世帯分離」の理由は、主に世帯の中の介護費用の軽減ができることです。そのため、今「世帯分離」が注目されています。同一生計の1世帯の中に高額介護サービスを受けている人がいた場合、1世帯のすべての構成員の所得の合計金額によって、高額介護サービスを受けている人の自己負担額の上限金額が決まります。そこで「世帯分離」をすると、世帯の所得の金額が低くなり自己負担額の上限金額が下がるのです。つまり、同じレベルの高額介護サービスを受けながら自己負担額を減らせます。
「世帯分離」で介護費用の負担が軽減する仕組み
「世帯分離」では介護費用が軽減される場合が多いのです。介護費用が軽減される仕組みを解説します。
「世帯分離」で軽減される介護費用の種類とは?
まず、「世帯分離」で軽減される介護費用の種類を紹介します。それは、以下の5種類です。5つ目の「入院・介護施設入所の食費や居住費」は必ず軽減されるとは限らないので、注意しましょう。
1.介護保険料
2.後期高齢者医療保険料
3.高額医療費の負担上限額が下がる
4.高額介護サービス費が下がる
5.入院・介護施設入所の食費や居住費
「世帯分離」で介護費用が軽減される仕組み
仮に、息子夫婦と同居していた後期高齢者の父親(国民健康保険に加入)が、息子夫婦と「世帯分離」するとしましょう。「世帯分離」前は息子夫婦の所得と父親の所得(年金など)を合算した総所得をもとに介護費用が計算されます。しかし「世帯分離」後は、父親のみの世帯の所得をもとに各介護費用が計算されるので、介護の費用負担が軽減するのです。
高額介護サービス費の例で見てみましょう。高額介護サービス費は、「所得」等の条件により自己負担額の上限が違います。この「所得」とは、高額介護サービスを受ける本人の所得だけではないのです。たとえば次のような条件で、高額介護サービス費の自己負担額の上限が決まります。
・世帯の誰かが市区町村民税を課税されており、年収770万円未満→自己負担額の上限は44,400円
これが、「世帯分離」後には、たとえば、次のような条件に変わります。
・世帯全員が非課税で合計所得金額および課税年金収入額の合計が80万円以下→自己負担額の上限は世帯の場合で24,600円、個人の場合で15,000円
「世帯分離」の条件
「世帯分離」の条件は、分離後のそれぞれの世帯が独立して生計を営んでいることです。世帯ごとに別々に生計を営み始めた日から、14日以内に届け出をすると定められています。
「世帯分離」の手続きの方法
「世帯分離」の手続きは誰がどこでしたらよいのか、具体的な方法を説明します。また、手続きに必要な持ち物についても紹介しますので、もれのないようにしましょう。
「世帯分離」は誰が手続きする?
「世帯分離」は、新しい世帯をつくる本人またはもとの世帯の世帯主が届け出をします。それ以外の人が代理で届け出をする際は、新しい世帯をつくる本人またはもとの世帯の世帯主の委任状が必要です。代理人が親族であっても、委任状は必要になります。
「世帯分離」はどこで手続きする?
「世帯分離」は、もとの世帯の構成員が住民登録している市区町村の役所や出張所で届け出ができます。市区町村によって課の名称が違いますが、「住民課」や「戸籍課」、「生活課」といった名称の窓口で手続きしましょう。「住民異動届」に必要事項を記入して提出することになります。また、市区町村によっては、届け出の際に世帯の生計および生活について口頭で確認されることがあります。
「世帯分離」の手続きに必要な持ち物は?
「世帯分離」の手続きに必要な持ち物は、次の4つです。
1.本人確認書類
(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、など写真付きの物ならひとつ、健康保険証など写真付きでないものならクレジットカードなどもうひとつ必要)
2.印鑑
3.国民健康保険の加入者は国民健康保険証
4.国民健康保険の加入者は国民年金を支払う銀行口座の通帳かキャッシュカード
「世帯分離」のメリット
「世帯分離」のメリットを、親子と夫婦それぞれの「世帯分離」の例で見ていきましょう。
親子の「世帯分離」の場合のメリット
たとえば、息子夫婦の所得が60万円、息子夫婦と同居している65歳以上の母親の国民年金が7万円だとします。母親が高額介護サービスを受けることになった場合、自己負担額の計算のもとになる所得は、60万円+7万円=67万円です。このとき、母親のみが構成員の新しい世帯をつくると、母親のみの新しい世帯の所得は7万円になるので、高額介護サービスの自己負担額の上限がかなり下がります。そうすると、結果的に母親の自己負担額も軽減されるのです。
夫婦の「世帯分離」の場合のメリット
たとえば、夫が厚生年金を25万円、妻が国民年金を6万円もらっていて、妻が特別養護老人ホームに入所するとしましょう。夫婦がひとつの世帯である場合25万円+6万円=31万円の所得があることになり、特別養護老人ホームの利用料はかなり高くなります。しかし、「世帯分離」をして妻のみが構成員の新しい世帯をつくると、妻のみの新しい世帯の所得は6万円になるので、特別養護老人ホームの利用料は何万円も安くなるのです。また、先に述べた介護費用の5項目についても、負担が軽減されます。
「世帯分離」のデメリット
「世帯分離」のデメリットを、親子と夫婦それぞれの「世帯分離」で見ていきましょう。
親子の「世帯分離」の場合のデメリット
「世帯分離」すると、何かの手続きでもうひとつの世帯の住民票が必要になった際に、お互いに委任状をもらうか、相手に住民票を取得してもらうかになります。忙しい人にとっては、不便な状況です。また、介護サービスを受ける人の世帯にも十分な所得がある場合は、国民健康保険料が「世帯分離」する前よりも高くなる可能性があります。
夫婦の「世帯分離」の場合のデメリット
たとえば、夫婦のどちらかが一方の扶養に入れる場合で考えてみましょう。その場合、「世帯分離」するよりも扶養家族として一方の社会保険に加入させたほうが、介護費用の軽減につながることもあります。また、扶養家族であれば会社の扶養手当がもらえるところを、「世帯分離」すると扶養手当がもらえなくなります。そういったことも含め総合的に考えて、「世帯分離」が得かどうかを考えるとよいでしょう。
理由によっては「世帯分離」ができないこともある
「世帯分離」は、必ずできるものではありません。「世帯分離」には役所の審査がありますので、申請が却下されてしまうこともあります。「世帯分離」ができないのは、たとえば生活保護費の受給が目的の場合です。人の事情は千差万別なので、世帯の構成員の誰かが生活保護を受けるために「世帯分離」が認められる場合もなくはないのです。しかし、そもそも生活保護を受けるためにはさまざまな条件があります。生活保護を受けられるからと安易な気持ちで「世帯分離」を申請しても、却下される可能性が高いといえます。
「世帯分離」の後に世帯合併できる?
「世帯分離」をしてみたものの、予測できなかった不都合が発生したので元に戻したいという場合、世帯合併ができます。世帯合併とは「世帯分離」の反対で、たとえば同じ住所地に居住する2世帯を1世帯にすることです。世帯合併後の1世帯は、生計をともにしているとみなされます。
まとめ
介護費用の負担の軽減ができる「世帯分離」の制度についてお伝えしました。「世帯分離」には、親子の場合や夫婦の場合、それぞれにメリット・デメリットがあります。介護費用の負担を軽減するためには、扶養家族として社会保険に加入させるなどほかにも方法があるので、自分の世帯にとって「世帯分離」が得かどうかは総合的に判断しましょう。