内憂外患こもごも至るという言葉を耳にしたことのある方は多いでしょう。内憂外患とは国内にも国外にも心配事がある、つまり内外の問題により悩みが多い状態を指します。さまざまなシーンで使われる内憂外患の類義語や対義語、英語表現などを解説します。
「内憂外患」の意味とは?
内憂外患は「ないゆうがいかん」と読む四字熟語です。内憂は「国や組織の内部にある問題や心配事」を表し、外患は「外国や組織外部などから受ける問題や心配事」を表します。つまり内憂外患とは国内にも国外にも心配事や問題がある状態を指します。
ちなみに内憂外患の定型句として用いられる「内憂外患こもごも至る」という言葉は、国内外の問題や心配事がたて続けに起こる状態を表します。
「内憂外患」の由来・語源
内憂外患という言葉は、春秋時代の中国の歴史書「春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)」に記された范文子(はんぶんし)の言葉から生まれたといわれています。
当時の中国はいくつもの国に分かれており、各国で戦争を繰り返していました。その中で強国として残ったのが晋(しん)と楚(そ)という2つの国でした。天下統一を目指し攻めてくる楚に対し、晋では楚と戦うべきか否かについて話し合いが行われていました。その際、晋に仕えていた范文子は、楚とは戦うべきではないと進言しました。范文子は、国内外に問題がなくどちらも平和な状態(=内外無患)はありえないことだ。国内が平和な状態を保つためには、あえて国外に敵を置いておくべきだと理由を述べました。
春秋左氏伝の中には内外無患という言葉しか出てきませんが、このエピソードがもとになり「内憂外患」という言葉が生まれたとされています。
「内憂外患」の類義語・言い換え
内憂外患の類義語、言い換え語には「内患外禍(ないかんがいか)」、「危急存亡(ききゅうそんぼう)」などが挙げられます。それぞれの言葉の意味について詳しくみていきましょう。
内患外禍
内患外禍は内憂外患とほぼ同義の意味を持つ言葉です。内患は内部の心配事を、外禍は外部で起こる災いや不幸を表します。つまり、内に心配事がある上にさらに外にも災いや不幸を抱えている状態が内患外禍といえます。
危急存亡(ききゅうそんぼう)
危急存亡は、さまざまな危険や危機が迫っており、生きるか死ぬかの瀬戸際である状況を表す言葉です。内憂外患のように内にも外にもというニュアンスはありませんが、危機的な状況に追い込まれるという点では同義であるといえます。
「内憂外患」の対義語
内憂外患の対義語には「内平外成(ないへいがいへい)」、「天下泰平(てんかたいへい)」などが挙げられます。それぞれの言葉の意味について詳しくみていきましょう。
内平外成
内平外成は、史記に登場する「内平かに外成る(うちたいらかにそとなる)」から生まれた言葉で、国内が平和で、外国との関係もうまくいっている状態を表します。書経に登場する「地平天成(ちへいてんせい)」と合わせて、平成という元号の典拠となったとされています。
天下泰平
天下泰平は、争いや揉め事が起きず、世の中が安定している状態を指す言葉です。天下には国全体、全世界という意味が、泰平には平和で穏やかという意味があります。つまり、国内も海外もどちらも平和な状態が天下泰平といえます。
「内憂外患」の英語表現
内憂外患は英語ではどう表現するのでしょうか。ここでは2つの英語表現を紹介します。
internal and external troubles
内憂外患をシンプルに英語で表現したのが「internal and external troubles」です。internalは内側、externalは外側、troublesは問題、トラブルという意味をそれぞれ持つため、これらを組み合わせて、内側と外側のトラブル=内憂外患とされています。
troubles both at home and abroad
「troubles both at home and abroad」も内憂外患と同義の意味を持つ英語表現として挙げられます。こちらの表現に出てくるat homeは自宅というより「自国(国内)」に近い表現です。abroadは「外国の」を表す言葉のため、これらを組み合わせて、国内外の問題=内憂外患とされています。
具体的な使用シーンからみる「内憂外患」の使い方
内憂外患という言葉は政治、ビジネスさらには家庭などさまざまなシーンで使われます。では、具体的にはどのような使い方をするのでしょうか。シーンごとに詳しくみていきましょう。
政治における「内憂外患」
政治における内憂外患とは、国内情勢(政治や経済の低迷、混乱など)と海外での問題(領土問題や貿易問題など)が同時に押し寄せる状況を指します。新型コロナウィルスが猛威を奮い、世界中が混乱に陥っている昨今の状況もまさに内憂外患といえるかもしれません。内憂外患はこのような状況の中で、悪戦苦闘している政治家を表す際にもよく用いられます。
では、内憂外患を使用した具体的な例文をみていきましょう。
- 内憂外患の状況におかれた国民からは政治家への不満の声があがっている。
- 議会中、今こそ内憂外患に立ち向かうべきだと声が上がった。
- 内憂外患を打破するため、首相は改革に踏み切った。
ビジネスにおける「内憂外患」
ビジネスにおける内憂外患とは、社内、社外ともに問題を抱え、苦しんでいる状況を指します。
具体的には以下のような形で内憂外患が使用されます。
- 社員の相次ぐ離職、クライアントの倒産による売り上げの減少など、我が社は今、内憂外患の状況に陥っている。
- 取引先とうまくいかず、社内でもトラブル続き。これはまさに内憂外患だ。
家庭における「内憂外患」
内憂外患は国内と海外、社内と社外と意味で扱われるケースが多い言葉ですが、より身近な言葉として使用することも可能です。内を家庭、外を社会や世間と捉えれば、家庭での心配事と社会情勢における心配事が重なっている状態を内憂外患と表せます。
具体的には以下のような形で内憂外患が使用されます。
- 息子は受験に失敗し引きこもり、不景気で主人の給料も下がっている。内憂外患とはこのことね。
- 祖父母の介護問題がでた矢先に、主人の会社が倒産してしまった。内憂外患の状態に頭を抱えている。
日本史にも登場する「内憂外患」
日本の歴史の中でも内憂外患という言葉はたびたび登場します。ここでは混迷を極め、「内憂外患の時代」とも呼ばれた江戸自体後期の情勢を紹介します。
内憂外患の時代と呼ばれた江戸時代後期
第12代将軍、徳川家慶が就任した江戸時代後期は内憂外患の時代と呼ばれるほど、国内外で混迷を極めた時代でした。
国内では天保の大飢饉、各地で巻き起こる土一揆や百姓一揆、大阪で起きた大塩平八郎の乱などにより、急激に治安が悪化していきました。まさに日本中が内憂に覆われた状況といえます。
さらに、欧米の列国は日本をはじめとした東アジアへの攻勢を強め、日本近郊にたびたび外国船が接近し、幕府や藩と衝突する事態も起きていました。
内憂外患をとなえた徳川斉昭の意見書
このようなの状況を伝えるため、水戸藩主であった徳川斉昭(なりあき)は、家慶に「戊戌封事(ぼじゅつふうじ)」と呼ばれる意見書を送りました。徳川斉昭はこの意見書で、内憂と外患の2つの危機を幕府に伝え、早急に対処するよう求めました。しかし、幕府はこの意見書を聞き入れません。逆に徳川斉昭を危険人物となし、隠居を命じました。
天保の改革は内憂外患解消のために行われた
徳川家慶は内憂を解消し、国内の平穏を取り戻すために、老中・水野忠邦主導のもと「天保の改革(てんぽうのかいかく)」を行います。
天保の改革では質素倹約、株仲間の解散、人返し令、上知令(あげちれい/じょうちれい)、印旛沼の開拓など、数々の施策を打ち出しました。しかし、水野忠邦の意図に反して、逆に治安悪化や株価上昇を招いたり、庶民や大名、旗本の反発を生んだりと、そのほとんどが失敗に終わったとされています。
国内外の問題を解消し、幕府権力を強化を目指して行われた天保の改革でしたが、結果的には幕府の権威失墜や、社会情勢の混乱に繋がってしまいました。
まとめ
内憂外患は、内にも外にも問題を抱える状態を指す言葉です。政治やビジネスシーンで使用されるケースが多い言葉ですが、家庭などより身近で小さなスケールでも利用されます。現代社会はもちろん、日本の歴史を語る上でも重要な言葉なので、ぜひ正しい意味や使い方などを覚えておきましょう。