ビジネスにおいて最終宣告として使われることの多い「引導を渡す」ですが、実は前向きな意味も含まれています。この記事では「引導を渡す」の意味だけでなく、由来や類語、使い方、英語での表現について紹介します。
「引導を渡す」の読み方
「引導を渡す」の読み方は「いんどうをわたす」です。
「引導を渡す」の意味とは?
「引導を渡す」の意味は「相手に最終宣告して、諦めさせる」ことを意味します。しかし、意味は変わらないものの、状況によってニュアンスが異なる場合があります。以下では3つの「引導を渡す」の意味を紹介します。
元々は仏教用語
終わりや終わらせることを連想する「引導を渡す」と渡すという言葉ですが、元は仏教用語として使われていました。「引導を渡す」にある「引導」とは、すべての生きるものに対して仏の道へ導くことです。葬儀の際に故人の冥福を祈り、この世との別れを告げます。死者に死を宣告し生への執着を諦めさせ、悟りをひらき仏のもとに導くため、法語を唱えることが仏教における「引導を渡す」の意味です。
仕事での意味
ビジネスシーンでも「引導を渡す」は使われます。意味はいわゆる「クビ」の要素が強いです。仕事上、上司が部下をクビにするか、退職をするように伝えたりするという意味で使われます。
絶対にクビというわけではないですが、このチームから外れてもらうとか、契約を解除するとなど、今の仕事を続けられないことを最終宣告する意味です。
ビジネスシーンでの「引導を渡す」は退職を促すことと覚えておけばよいでしょう。
恋愛での意味
恋愛での「引導を渡す」は恋人関係に終わりを告げることでもありますが、結婚の引導という言葉をご存知でしょうか。
結婚の引導とは異性から結婚を連想させる話が出たときに、その話に乗って、結婚を匂わせる、相手に結婚を意識させることといわれています。異性との会話をしているとき、将来に関する話題がでることもあるでしょう。そんなときに、話題にのりながら結婚への道筋をつくっていきます。
恋愛における「引導を渡す」は結婚生活に興味をもたせることでもあります。
「引導をわたす」の語源・由来
「引導を渡す」の語源は四字熟語の「誘引開道」で、読み方は「ゆういんかいどう」です。意味は「引導を渡す」と同じで僧侶が葬式のときに死者へ極楽浄土の法を説くことです。また、人々を仏の教えに導くことを意味します。
それが転じて、諦めるような宣告を意味で使われるようになりました。
宗派ごとの「引導をわたす」
仏教には宗派が多くあります。基本的な意味は同じですが、引導の法語や方法には違いがあるようです。
臨済宗・曹洞宗
臨済宗や曹洞宗は松明をなげ、禅師が発した引導法語で引導を行っています。禅宗系の引導の儀式は古来中国の黄檗希運禅師の逸話に由来しています。
禅師は肉親に会ってはならないという戒律があったため、盲目だった母親には会いませんでした。ところが禅師に気付いた母親は、舟で故郷から離れる禅師を追い、川に飛び込みおぼれ死んでしまいます。禅師は慌てて戻るも、母親の死体は川底に沈んだまま、見つけられませんでした。禅師は自身の行いを悔い、持っていた松明を川に投げました。すると、安らかな顔をした母親の死体が浮かんだといいます。
この逸話から、引導の儀式の際は同時に松明が投げられるようになりました。
浄土宗
浄土宗の信仰対象物は無限の寿命を持つといわれている阿弥陀如来です。浄土宗では引導のことを「引導下炬」といい、火葬のときに火をつけます。ちなみに、「引導下炬」の読み方は「いんどうあこ」です。
引導下炬の方法は松明に見立てたものを2本とり、この世を離れることを意味して1本は捨てます。その後、浄土への思いを表すように、もう1本のほうで円を描きながら法語を唱え、松明を捨てます。
浄土宗の儀式も黄檗希運禅師の逸話から行われるようになりましたが、浄土宗では死者は阿弥陀仏によって救われるので引導を渡す必要がないともされています。
浄土真宗
浄土真宗は信者であれば必ず浄土に行けるという考えから引導はありません。浄土真宗のご本尊も阿弥陀如来です。
「引導を渡す」の類義語・言い換え表現
続いて「引導を渡す」の類語を紹介します。
息の根を止める
「引導を渡す」の類義語のひとつが「息の根を止める」です。「息の根を止める」の意味には「殺す」の他に「相手を完全に活動できないようにする」といった意味も含まれます。意味合いから日常会話で使用されることはまずないでしょう。
「息の根」の語源は読んで字のごとく、「息(呼吸)」の「元となるもの」ということです。呼吸の根源を止めるので、「殺す」、「活動できないようにする」意味になりますね。
「息の根を止めるの使い方」は日常生活で使用されることはほぼないと思われますが、例文は以下のようになります。
- 呪文で息の根を止めた。
- 反政府組織は内部からの反乱により崩壊。息の根を止めた。
- ゴキブリが出たので叩き潰し、息の根を止めた。
とどめを刺す
「とどめを刺す」とは最後の一撃を加え、再起不能な状態にすることを意味します。これは息の根を止めるとほぼ同じですね。ただ、「とどめを刺す」にはもうひとつ意味があります。それは、「後から問題が生じないよう核心を突いておく」といった意味です。
終わりを告げることを連想することから「引導を渡す」の類義語にあげられます。
そんな「とどめを刺す」の例文は以下のようになります。
- 獲物が再び動かないよう、とどめを刺す。
- ルーズな作家に「コンテストの締め切り後、作品の提出は一切受け付けない」ととどめを刺す。
- その発言が僕にとどめを刺した。
お払い箱
「お払い箱」とはいらなくなったものを捨てたり、捨てられたりすることを指します。ビジネスシーンでは雇っていた人を辞めさせる意味で使われますね。
「お払い箱」の語源は、伊勢神宮で成人男性を意味する檀那に配ったお祓いの箱からきています。なので、元は「お払い箱」ではなく、「お祓い箱」です。箱の中身の札は毎年新しい札と交換されます。そのため、お祓いをもじって「お払い」と呼ばれ、不要なものを捨てる意味で「お払い箱」と呼ばれるようになりました。そしてそこに「解雇」の意味を含むようになりました。
「お払い箱」の例文は以下のようになります。
- あの人は仕事ができないからお払い箱になるだろう。
- このキーボードは不具合がよく起こるようになったし、お払い箱かな。
- お払い箱にされた。
「引導を渡す」の使い方と例文集
「引導を渡す」は仏教用語ですが、日常生活ではどのように使われるのでしょうか。「引導を渡す」の使い方と例文集を紹介します。
「引導を渡す」の使い方
「引導を渡す」の使い方のひとつに、何かを断念する、諦めさせるときに使われます。例えばケガが続くスポーツ選手に諦めてほしいときに引退をすすめるシーンがあるとします。それを宣告することを「引導を渡す」といいます。
もうひとつは葬儀に限定されますが、魂に悟りをひらかせることにも「引導を渡す」を使えます。
逆に、終わりを告げられたときや終わりを感じているときは「引導を渡される」になりますね。関係や役割の終わりを察したり、予感したりするときにつかいます。
印籠を渡すは間違い
似たような言葉に「印籠を渡す」といった言葉があります。これは存在しない言葉であり、間違った使い方です。「引導を渡す」と「印籠を渡す」は音が似ているため、誤って使用されていることが少なからずあるようです。
ちなみに、印籠とは単なる薬入れのことなので、引導とは全く別の意味です。間違った使い方に気を付けましょう。
「引導を渡す」の例文
続いて「引導を渡す」の例文は以下のようになります。
- 治療しても助かる見込みがない祖父に引導が渡された。
- 無断欠勤が多いので引導を渡した。
- 浮気した相手との関係に引導を渡した。
- 長年勤めていた会社から引導を渡された。
「引導を渡す」の英語表現
「引導を渡す」は英語表現は多数あります。
法語で使われる場合、「引導」を「requiem」と訳します。「requiem」とは鎮魂曲を意味し、死者を祀るためのものです。「say a requiem」で「引導を渡す」といった意味になります。
解雇通知をする際の表現は以下のようになります。
- give someone the final word
- notice of dismissal
- walking paper
まとめ
「引導を渡す」とは元々仏教用語で魂を悟りをひらかせ、極楽浄土に導くために法語を唱えることです。日常生活では相手を諦めさせたりするようにしたり、関係を終わらせるような意味合いで使われます。
似たような言葉に「印籠を渡す」がありますが、これはただの聞き間違いからうまれた言葉で、日本語として正しくないので使用しないようにしましょう。
基本的に日常会話で使用されることはありませんが、「引導を渡す」は葬儀の場では故人の冥福を祈る意味も含まれているということは覚えておいて損はないですね。