ちょっと不思議な慣用句「木で鼻をくくる」を紹介します。「木で鼻をくくる」とはどんな状態なのか、その語源や意味を知っていますか?ビジネスシーンで「木で鼻をくくる」が当てはまるのはどんな場面かもわかります。「木で鼻をくくる」を徹底解説します!
「木で鼻をくくる」の読み方と表記
「木で鼻をくくる」は、「きではなをくくる」と読みます。「木で鼻を括る」とも表記し、読み方と意味は「木で鼻をくくる」と同じです。「木で鼻をかむ(きではなをかむ)」、または省略して「木で鼻(きではな)」ともいいます。
慣用句「木で鼻をくくる」の意味
「相手からの依頼や相談に対して冷淡な態度をとる」または「不愛想な対応」が、「木で鼻をくくる」の意味です。
「木で鼻をくくる」の由来・語源
慣用句「木で鼻をくくる」のもとになった言葉、由来を紹介します。
もともとは「木で鼻をこする」
いまでは「木で鼻をくくる」といいますが、本来は「木で鼻をこくる」といわれていました。「こくる」は、「強くこする」や「こすり取る」意味です。「くくる」は「こくる」の誤用ですが、誤用のまま広まって「木で鼻をくくる」が一般的になりました。
紙が貴重品だった時代の習慣が由来
「木で鼻をくくる」は「木で鼻をこする」意味です。では「木で鼻をこする」とはどんな状況でしょうか。これは紙が貴重品だった時代の習慣で、チリ紙で鼻をかむのではなく、木の切れ端で鼻をこすっていました。裕福な商家の主人たちはチリ紙を使えましたが、使用人や丁稚は木を使っていました。もちろんチリ紙ではなく木を使うのは、不便で快適ではありません。そのような状態に「不快な態度」をたとえたのが「木で鼻をくくる」です。ほかにも「木で鼻をこすっているときの表情が不愉快で冷たそうに見える」や、「人に木を使わせる、見下した態度」がもとになっている説もあります。いずれにしろ、紙が貴重な時代の習慣が由来です。
出典
「木で鼻をくくる」がいつから広まったかは不明ですが、1905年から1906年にかけて連載された、夏目漱石の小説『吾輩は猫である』のなかに「時の御奉行もそう木で鼻を括ったような挨拶も出来ず」の一文があります。このころには、一般的に使われる慣用句でした。
どんな態度が「木で鼻をくくる」に当てはまるのか
具体的に「木で鼻をくくる」ような態度は、どのような態度でしょうか。たとえば、「本当に困ってお願いされたのに冷たく断る」や、「ろくに話を聞かない態度」が当てはまります。冷淡な接客態度、問い合わせに不親切な答え方をするなども「木で鼻をくくる」に当てはまります。ビジネスシーンで「木で鼻をくくる」態度は、相手が目上であっても目下であっても失礼に当たるので、くれぐれも気をつけたいものです。
「木で鼻をくくる」の使い方・例文
よく使う「木で鼻をくくる」の言い回しと例文を挙げます。
「木で鼻をくくったような」の言い回しが多い
態度や言動を形容する、「木で鼻をくくったような」や「木で鼻をくくるような」の言い回しが多く使われます。あとに続く言葉は「態度」や「答え」、「対応」または「表情」などです。
- 大臣の木で鼻をくくったような答弁に、多くの国民があきれ返った。
- パソコントラブルでサポートセンターに問い合わせたのに、木で鼻をくくったような対応をされて途方に暮れている。
- 予約なしで高級レストランを訪れたら、木で鼻をくくったような接客を受けた。
「木で鼻をくくる」の類義語・言い換え表現
「木で鼻をくくる」と同じ意味の慣用句や四字熟語を、紹介します。
「手杵で鼻をこする」
「手杵で鼻をこする」は「てぎねではなをこする」と読み、「木で鼻をくくる」とまったく同じ意味で使います。「手杵」は「かちぎね」ともいい、昭和中ごろまで使われていた餅をつくための杵です。現在、一般的にイメージされるのは持ち手のある「打杵」ですが、「手杵」は棒状。中央部のくびれた部分を持って餅をつきます。「杵で鼻かむ(きねではなかむ)」、または「杵で鼻こすったよう(きねではなこすったよう)」ともいいます。杵ではありませんが、同じく木製の調理道具「擂粉木(すりこぎ)」を使って「擂粉木で鼻をこくる(すりこぎではなをこくる)」も、「木で鼻をくくる」と同義です。
「木っ端で鼻かむ」
「木っ端で鼻かむ」は「こっぱではなかむ」と読み、意味は「木で鼻をくくる」や「手杵で鼻をくくる」と同じです。「木っ端」は「木くず」を指します。「手近な木くずや木片で鼻をこする」がもとになっています。似た言い方では、「拍子木で鼻かむ(ひょうしぎではなかむ)」や「立木へ鼻こする(たちきへはなこする)」も類語です。
「取り付く島もない」
「取り付く島もない」は「とりつくしまもない」と読み、「取り付く島がない(とりつくしまがない)」ともいいます。「取り付くひまがない」は誤用なので注意。意味は「つっけんどんな態度で、まったく相手にしない様子」です。航海中に嵐に見舞われた船が由来の慣用句で、どこかに船を上陸させるための島を探しても一向に見つからない状況をたとえています。「取り付く島」は、「頼りにできるもの」を指します。「頼ったりお願いしたりしたものの、冷たくあしらわれる」点が「木で鼻をくくる」と同じです。
「けんもほろろ」
「けんもほろろ」の意味は、「人からの頼みごとや相談を冷たく拒絶する」です。「けん」と「ほろろ」は、ともに鳥の雉(キジ)の鳴き声や、羽音を指しています。これに冷たい態度という意味の「慳貪(けんどん)」をかけて、「けんほろろ」といっていました。「けんほろろ」が次第に変化して、現在の「けんもほろろ」となりました。「対応が冷たい」点が「木で鼻をくくる」と共通しています。
「鼻であしらう」
「鼻であしらう」は「はなであしらう」と読み、「鼻先であしらう(はなさきであしらう)」ともいいます。意味は「相手の言葉に取り合わず、冷たく扱う態度」です。人の忠告を無視したり、依頼を断るつっけんどんな態度を表しています。
「にべもない」
「にべもない」はひらがなが一般的ですが、漢字で「鰾膠もない」とも表記します。意味は「愛想がない、冷たい態度」。「にべ」はニベ科の魚の浮袋を使った、粘り気の強い接着剤です。「にべもない態度」や「にべなく断られる」と、素っ気ない態度を表します。
「杓子定規」
「杓子定規」は「しゃくしじょうぎ」と読みます。「定規の代わりに無理やり杓子の柄を使う」たとえから、「融通の利かないさま」や「1つの基準や形式をすべてにあてはめようとすること」の意味です。「杓子定規」がそのまま「木で鼻をくくる」の類語にはなりません。しかし、「杓子定規」な対応がしばしば「木で鼻をくくる」ように冷たいものであることから、同じようなニュアンスで使います。よく使う言い回しは「杓子定規に扱う」や「杓子定規な対応」などです。
「木で鼻をくくる」の英語表現
「木で鼻をくくる」の英語表現を解説します。「木で鼻をくくる」の直訳はありませんが、「不愛想な態度」や「冷淡な対応」を意味する英語表現はあります。
「blunt」を使った表現
英語で「blunt」は、「不愛想」の意味です。たとえば「give a blunt answer」は、「不愛想な返事」。「respond bluntly」で「不愛想に応じる」です。
「curt」を使った表現
「curt」は、「ぶっきらぼう」や「素っ気ない」を表す英単語です。「He answered me curtly.」は、「彼は木で鼻をくくったような返事をした」と意訳できます。「He made a curt reply.」ともいいます。
まとめ
「木で鼻をくくる」は、「人の頼みや相談に、冷たい態度で応じる」や「冷淡な対応や表情」を意味する慣用句です。ビジネスシーンで「木で鼻をくくる」ような対応は厳禁です。接客や相談事には、「木で鼻をくくる」のではなく親切丁寧な対応を心がけたいですね。