普段何気なく使っている「観賞」ですが、同音異義語も多く、漢字にすると意外に間違いやすい言葉です。また、「音楽観賞」とはいわないように、対象によっては「観賞」を使えない場合もあります。よく使う言葉だからこそ、正しく「観賞」を理解しましょう。
「観賞」と「鑑賞」の意味とは?
「観賞」は、美しいものを見て味わいながら楽しむ意味で、「鑑賞」は、芸術作品などを理解し味わうことを意味します。「観」は見た目や様子を意味する漢字であることからも、「観賞」は実際に目で見る対象に使う言葉です。ここに、ほめたたえる意味がある「賞」が組み合わさり、目で見て楽しむの意として「観賞」が成り立ちます。
対して「鑑賞」は、「鑑定」などと使われる「鑑」が含まれることからもわかるように、品定めをするといった意味があり、じっくりと味わい楽しむ意味で使われます。
参照:Weblio辞書「観賞」
参照:Weblio辞書「鑑賞」
「観賞」と「鑑賞」の違い
読み方が同じ「観賞」と「鑑賞」ですが、意味も似ているため使い分けに注意が必要です。「観賞」は、「見る」意味がある「観」が使われていることから、見て楽しめる対象に使われます。対して「鑑賞」する対象は「見る」ことに限定されないため、耳で楽しむ音楽には「鑑賞」が使われます。
また、「鑑賞」する対象は品定めをしながらじっくりと理解するものであることが多く、芸術作品などでよく使われます。たとえば、テレビを何となく見て楽しんでいるなら「テレビを観賞」が適していますが、映画などの芸術性の高い番組をじっくり見るのであれば「テレビで映画鑑賞」が適しています。
「観賞」の類義語・言い換え
「観賞」には、「観覧」以外にも類義語や言い換え表現が多いので、意味をよく理解して使いましょう。ここでは特に意味が近く、表現の似ている3つを紹介します。それぞれの意味や使う対象を知ることで、「観賞」をより適切に使えるようになります。
「観覧」
「観覧」は、絵や風景、芸術作品などを眺める意味です。「覧」は全体に目を通す意味がありますが、「観賞」のように楽しむ意味はありません。「観覧」は見る行為そのものを指すため、「観覧車」・「観覧席」・「観覧料」などと、楽しむ主体が含まれない場合にはよく使われます。
「拝観」
「拝観」は見ることをへりくだって表現した謙譲語です。「拝」とは「おがむ」と読むように、頭を下げて敬礼する意味があり、「拝観」は寺社・仏閣を観覧するときによく使われます。ほかにも非常に価値のあるものや、目上の人からの許可を得て「観覧」するシーンなどでにも、敬意を込めて使われます。
「見物」
「見物」は見るに値するものや、興味があるものを見るときに使います。「見物」は「けんぶつ」と読むことが多いですが、古語「みもの」に起源があります。「みもの」は見る価値のあるものを意味するため、現代語で「けんぶつ」と使う場合も、好奇心をかき立てる対象を見る場合に使われます。
「観賞」のように楽しむ意味はないため、見て楽しむことが前提の対象にはあまり使われません。たとえば、見て楽しむ「芝居」で「芝居見物」と使うと、客観的に眺めている印象を与える言葉です。
「観賞」と間違いやすい言葉
「観賞」には「鑑賞」以外にも同音異義語が多く、間違いには注意したい言葉です。辞書で「かんしょう」を引くと20以上の同音異義語が存在し、「観賞」と似た字面も多いので、スマホやパソコンで変換するときには特に注意しましょう。ここでは「観賞」に似ている言葉を3つ紹介します。
「観照」
「観照」は、主観を交えずに冷静に見つめることを意味します。「照らす」というように、「照」には光を当ててよく見えるようにする意味があります。じっくり見る点では「鑑賞」と同じですが、「観賞」や「鑑賞」のように見ることで楽しむことや、じっくり考える意味はありません。
「勧賞」
「勧賞」は「観賞」と意味はまったく異なりますが、字面が非常に似ているため注意が必要です。「勧賞」は古語として昔から使われている言葉で、褒章や恩賞を意味する言葉です。「観賞」とは「観」のつくりの部分以外は同じでよく似ているので、誤って変換しないようにしましょう。
「感賞」
「感賞」は、感心して褒めることを意味します。「感賞に値する」などと使う場合、漢字で見れば意味はわかりますが、会話の中で出てくると「観賞」や「鑑賞」を想像してしまうでしょう。「観賞」を使いこなすためにも意味を覚えておきたい言葉です。
「観賞」を英語でいうと?
微妙なニュアンスの違いでさまざまな言い換えがある「観賞」ですが、英語で表現するならどんな単語が適切でしょうか。日本語の「観賞」と全く同じ意味の英単語はありませんが、ニュアンスの近い言葉は2つあります。「鑑賞」との違いにも着目しながら確認しましょう。
「admire」
「admire」は、称賛や感心を意味する動詞で、「観賞」に近い意味で使えます。
You can admire the traditional arts.(伝統芸能を観賞できます。)
「観賞」にはほめたたえる意味の「賞」が含まれますが、実際には「テレビ観賞」などと何となく楽しむ程度でも使われます。「admire」は「崇拝」と訳されることもあり、テレビを見る程度では使われません。また、音楽など耳で楽しむ対象に対しても使える点は「鑑賞」と同じですが、品定めをしてじっくり味わう意味はありません。
「enjoy」
「enjoy」は、楽しむことを意味する動詞で、「観賞」に近い意味で使えます。
You enjoy watching tv dramas.(テレビドラマを観賞します。)
「enjoy」には観賞や鑑賞の「賞」が意味する、ほめたたえる意味はなく、ただ単純に楽しむことのみを表現します。その点では「鑑賞」よりも「観賞」に近い英単語といえます。しかし、「enjoy」も見て楽しむ意味はないため、音楽にも使われる点は「観賞」と異なります。
「観賞」と「鑑賞」の使い分け方と例文集
普段の会話で使う「かんしょう」であれば、どちらを使っているかは相手に伝わりにくいものですが、漢字で書く場合にはしっかりと使い分ける必要があります。どちらも「かんしょう」する対象によっては使えない場合もあるので、意味の違いはもちろん注意点も確認しておきましょう。
「観賞」を使用するときの注意点
「観賞」で最も注意したい点は、「観賞」する対象は目で見えるものであることです。耳で楽しむ音楽や、目で見るものであっても頭で理解する小説などには「鑑賞」が適しています。
また、「観賞」の「賞」にはほめたたえる意味があり、見る対象に否定的な要素がある場合は使いません。たとえば「ゴキブリを観賞する」と表現すると、「ゴキブリ」が好きであるかのようなニュアンスが含まれてしまいます。
「観賞」の例文
今回説明する例文は、一般的には「鑑賞」を使う例も含まれます。厳密に使い分けることが難しい「観賞」と「鑑賞」ですが、例文を通して意味の違いを理解しましょう。
「美術館で絵画の観賞をしました」
上記例文は一般的には間違っており、「鑑賞」を使う場合が多いといえます。
これは、絵画などの芸術作品は、品定めをしてじっくりと理解するものと認識されているためです。「鑑賞」は品定めをして理解する意味があることから、じっくりと味わう要素の強い人工的な作品に使われることが多いといえます。
「観賞魚の世話をする」
自然や動物を対象とした場合は「観賞」を使うのが一般的で、「観賞魚」の場合も「鑑賞」は使いません。自然を対象にする場合も「観賞植物」などとはいいますが、「鑑賞植物」とはいいません。
しかし、自然の中でも「絶景」や「オーロラ」など、思わず心打たれてしまう神秘的な対象に対しては、考えさせられてしまう意味を込めて「鑑賞」を使う場合もあります。
「映画観賞に行きます」
映画の場合も絵画と同様で、一般的には「鑑賞」を使うことが多いといえます。しかし、「鑑賞」を使う場合は芸術性の有無がポイントです。そのため映像作品の場合は線引きが難しく、必ずしも「鑑賞」が適しているとわけではありません。たとえば、子ども向けアニメ映画であれば必ずしも「鑑賞」が正しいとはいいきれません。
まとめ
「観賞」と「鑑賞」は、文字にするときにしか違いを意識しないため、使い分けが難しい言葉です。また、「かんしょう」する対象によっては、どちらの言葉も使える場合もあれば、どちらかしか使えない場合もあります。
微妙なニュアンスの違いをよく理解し、「観賞」と「鑑賞」を使い分けられる大人になりましょう。