「悉く」という言葉をご存じですか?なかなか見慣れないため、読むのが難しい漢字ですよね。実はビジネスシーンでもよく使われる言葉です。今回は、「悉く」の意味や使い方、言葉の由来・類語・英語表現に加え「尽く」との違いについても徹底解説します!
「悉く」の意味とは?
「ことごとく」という言葉は、日常生活やビジネスシーンにおいてよく使われる言葉のうちのひとつです。普段使われている言葉の意味を理解することで、今まで見えていなかった言葉の世界が開けていく事があります。ここでは「悉く」の言葉の意味や「悉」という漢字を使った熟語について紹介します。「悉く」という言葉を多面的に眺めることで、この言葉が持つニュアンスを深掘りしていきましょう。
「例外なく全て」という意味
「悉く」という言葉は「多くの物事が例外なく一致する様」を表現しています。元々は「事事く」 と書いていた言葉でもあります。問題にするありとあらゆるもの全てというニュアンスを持っていて、 日常生活ビジネスシーン問わず、高い頻度で使われています。また「悉」という漢字は「しつ」と読みこの漢字自体はあまり一般的に浸透していません。
参照:Weblio辞書「悉く」
「悉」を用いる熟語
「悉」を使う漢字はいくつかあります。ここでは、そのうち3つ紹介します。「詳悉」は「しょうしつ」と読み「非常に詳しく漏れがない」ことを表す言葉です。「不悉」「ふしつ」は「思うことを十分言い尽くさない」ことを表す言葉になります。「知悉」「ちしつ」は「すべてを知り尽くしていること」を表しています。このように、これら3つの熟語において「すべて」というニュアンスが含まれていることが理解できます。
「悉く」の読み方
「悉く」は「ことごとく」と読む言葉になります。実は他にも「ことごとく」と読む漢字は存在します。「ことごとく」と読む漢字の中にも、微妙なニュアンスの違いが存在し、使い分ける必要があります。ことごとくと読む他の種類の言葉やそれらの言葉の使い方については後ほど紹介します。
「悉く」の由来・語源
「悉く」は「事事く」から派生した言葉になります。「悉」という漢字が使われるのはそのの成り立ちに由来しています。「悉」は「獣の爪」と「心」を表現している漢字で「爪で他の獣の心臓を残すことなく抉り取る」様子をイメージして作られた漢字です。かなりグロテスクな由来になっているので驚いた方も多いでしょう。「残さず取り除く」というニュアンスと、もともとあった「事事く」という言葉、これら2つが組み合わさって「悉く」と書いて「ことごとく」と読むようになりました。つまり読みは後付けだったのです。
「悉く」の類義語・言い替え
「悉く」の類義語と言い換え表現を紹介します。近い意味の言葉を理解すれば、日本語の語彙力が増えていくことにつながります。ここで紹介するのは「洗いざらい」と「悉に」という2つの言葉です。それぞれどのような場面で使われていて、正しい使い方はどのようなものなのかを詳しく見ていきましょう。
「洗いざらい」
「洗いざらい」という言葉は「残したり隠したりせずに全て出す」という意味の言葉です。全部というニュアンスにおいて「悉く」と同じだといえます。比較的マイナスの意味合いを帯びているため、使い方には注意しましょう。例えば、罪を犯したことが疑われる人に対して「やったことを洗いざらい話せ!」と問い詰める時などに使われます。「行った悪事すべて話す」という状況で使われることが多いので、例えば「外出時にお年寄りに行った思いやりある行動を洗いざらい話す。」という使い方は誤用になります。なぜならば、お年寄りに思いやりのある行動を取ることは善行になるからです。文意は通るがニュアンスとしておかしい文章となってしまいます。
「悉に」
「悉に」は「ふつくに」や「つぶさに」と読む言葉になります。「悉く」と同じ漢字が入っているので、似たような意味合いを持つことは想像できるでしょう。読み方が難しいため注意が必要です。この言葉は「すべてもれなく」と「詳細なさま」をという意味を持ち、「悉く」とほぼ同じニュアンスを持つ言葉になります。ビジネスシーンや日常会話で使われることは極めて少ない言葉で難読漢字に分類されるでしょう。ただ、知っておいても損はないのでこれを機に覚えておくことをオススメします。
「悉く」の対義語
ここでは「悉く」の対義語を紹介します。紹介する対義語は「片鱗」と「氷山の一角」という2つの言葉です。反対の言葉を理解することは、言葉の意味やニュアンスを相対的に理解することにつながります。これらの言葉を把握した上で、それぞれの言葉が持つニュアンスの違いを理解していきましょう。
「片鱗」
「多くある中のほんの一部分」という意味の言葉で、魚のうろこが語源になります。「沢山あるうろこの中の1枚」というイメージを持つとわかりやすいでしょう。この言葉は、「全体の中のほんの一部分」というニュアンスを持ち、パーセンテージで表すと全体の10パーセント程度といったところになります。「全て、全部」という意味を持つ「悉く」とは対照的な言葉になります。
「氷山の一角」
「氷山の一角」という言葉は「たまたま現れた、大きなもののうちの一部分」という意味を持ちます。氷山はその大部分が海の底にあり、その頂上の一部分だけが水面より上に顔を出していることを語源としている言葉です。つまり、氷山を見つけたらその下には巨大な氷の塊がある事が決定づけられているのです。使い方の例としては、犯罪グループの一部が逮捕された際に「彼らは巨大犯罪組織の氷山の一角に過ぎない」という風に用いられています。
「悉く」と間違いやすい言葉
「悉く」と間違いやすい漢字を2つピックアップしました。比較的漢字の読みが難しく、読み間違いが生じやすい言葉になります。その正しい読みと意味をしっかり理解しておきましょう。
「漸く」
「漸く」で「ようやく」と読みます。この言葉は「やっとのことで実現した」という意味を持つ言葉になります。実現するまでに長く苦労したことを文意から匂わせている言葉です。「サンズイ」に「斬る」という漢字の成り立ちをしており、「水の流れを斬って徐々に導くさま」が由来になっています。転じて「次第に」という意味を持つ言葉になりました。「悉く」も「漸く」も「く」を送り仮名に持つ漢字です。読み間違いに注意しましょう。
「暫く」
「暫く」という漢字は「しばらく」と読む漢字になります。「少しの間」という意味を表し、その「少しの間」がどのくらいの時間になるのかはこの言葉を使う側のイメージによります。10分か1時間なのかは表現できないので、典型的な曖昧な表現表現になります。そのため、ビジネスシーンで使う際には思わぬ誤解が生まれる危険性があるので、注意が必要となります。正確な時間を伝えなければいけないシーンでは使わない方が無難でしょう。
「悉く」と「尽く」の違い
「悉く」と「尽く」の2つの言葉の違いについて説明します。また、「尽く」以外にも「ことごとく」と読む漢字は存在するので、それらをの漢字についても紹介します。
大きなニュアンスの違いはない
「悉く」と「尽く」の2つの言葉の使い方にニュアンスの違いはありません。「悉」には「すべて、のこらず」という意味があり、「尽」には「徐々に無くなっていく」という意味があります。しかしそれは漢字単体での話です。つまり「悉く」と「尽く」という2つの言葉を使い分ける必要はありません。「尽く」以外にも「ことごとく」と読む漢字は存在します。1つずつ見ていきましょう。
その他の「ことごとく」と読む熟語
「咸く」や「畢く」も「ことごとく」と読む漢字です。「咸」は「かん」と読み、「まさかりで人を脅して黙らせている様子」を表した漢字になります。刃物で脅せばその場にいる人皆口を閉ざすでしょう。その様子から「すべて みんな」という意味を持つようになりました。「畢く」は「ひつ」と読み「終わる」という意味のほかに「全部みな」という意味も持つ言葉です。「全て」にプラスして「おわる」というニュアンスも含まれている点においても注意しましょう。
「悉く」を英語でいうと?
「悉く」の英語表現について紹介します。「全て」という意味を持つ英単語はたくさんありますが、代表的なものは「all」や「entirely」になるでしょう。これらは比較的かんたんな英単語になるので、英語圏でもよく使われます。他には「completely」などが挙げられます。状況に応じて使い分けができるようになるとなおよいでしょう。
「悉く」の使い方と例文集
「悉く」の使い方や例文を紹介します。言葉の使い方まで理解することで、日常生活やビジネスシーンにおいて正しく日本語を操れるようになります。「悉く」の使い方について詳しく見ていきましょう。
「悉く」の使い方
「悉く」は良くないことに対して使われることが多いです。つまり、ネガティブなニュアンスを持っていることに注意が必要です。このように言葉のもつイメージを正確に把握していないと、文意は取れても失礼な表現になったりちぐはぐなイメージをあたえたりする可能性があるので注意が必要です。
「悉く」の例文
「悉く」を使った分を2つ紹介します。
- あの占い師が言うことは悉く外れるから注意した方がよい。
- 今回仕込んだ実験条件は悉く失敗してしまった。
まとめ
「悉く」は「例外なく全て」という意味を持つ言葉でした。その由来は、「獣が爪で獲物の心臓をえぐりとる様子」を表す漢字から来ています。ここで紹介した「悉く」と間違いやすい言葉や、「ことごとく」と読むその他の言葉の意味や使い方などを理解し、 正しい日本語を使っていきましょう。