ことわざ「筆を選ばず」の意味と使い方とは?類語や英語・例文、弘法大師のエピソードも解説

筆を選ばず

「筆を選ばず」の意味と使い方を解説します。ことわざ「弘法筆を選ばず」を中心に、由来や例文、弘法大師が残した伝説なども紹介。間違いやすいことわざ「弘法も筆の誤り」もあわせてチェックできます。「筆を選ばず」を正しく使えるようになってください。

目次

「弘法筆を選ばず」の省略が「筆を選ばず」

「弘法筆を選ばず」の省略が「筆を選ばず」

「筆を選ばず」は、ことわざ「弘法筆を選ばず(こうぼうふでをえらばず)」を省略した言い方です。一般的には「弘法筆を選ばず」と省略せずに使います。しかし、「筆を選ばずですね」など「弘法」なしでも通じる、有名なことわざです。

「弘法筆を選ばず」の意味とは

「弘法筆を選ばず」の意味とは

「弘法筆を選ばず」には、複数の意味があります。それぞれ、どんな意味とニュアンスかを説明します。

「プロは道具を選ばない」たとえ

もっともよく使われる「弘法筆を選ばず」の意味は、「本当のプロ、達人ならば道具を選ばない」です。「道具がいい悪いと文句をつけず、きちんと成果を出すものだ」というニュアンスで使います。

「名人はどんな状況でも失敗しない」

「名人なら、どんな状況でも失敗しない」も、「弘法筆を選ばず」の意味です。「道具に限らず、周囲の環境やコンディションの波などに左右されないのが名人やプロだ」というニュアンスで使います。

「自分の腕不足を周囲のせいにしてはいけない」

「弘法筆を選ばず」の「道具を選ばない」や「状況に左右されない」などの意味が転じて、「自分の力不足を周りのせいにしてはいけない」と戒める意味もあります。「失敗したときに道具など環境のせいにしないように」というニュアンスです。

「弘法筆を選ばず」の由来・語源

「弘法筆を選ばず」の由来・語源

「弘法筆を選ばず」の由来を紹介します。ことわざの由来だけでなく、そもそも弘法大師とはどんな人なのかなどがわかります。

筆の達人「弘法大師」にちなんだことわざ

ことわざ「弘法筆を選ばず」は、書の大家で文才に優れていた弘法大師が由来です。「弘法大師ほどの名人であれば、どんな筆を使っても巧みな書と文章を書くものだ」のたとえから「弘法大師筆を選ばず」といわれるようになりました。

弘法大師とは?

弘法大師は、平安初期に真言宗を開いた僧・空海(くうかい)です。貴人や偉人には、生前の業績にもとづいて死後に諡号(しごう)という名前が贈られます。空海の諡号は弘法大師です。そのため、空海と弘法大師は同一人物で、どちらの呼び名でも通用します。弘法大師は10代前半から儒教を学び、20歳で得度すると中国に渡って仏教と中国語、さらにインド語を修めました。中国から帰国後は四国八十八カ所と高野山を開き、62歳で亡くなるまで真言宗を民衆に広め続けました。弘法大師は僧としてだけでなく、教養と書の腕を兼ね備えた能書家としても有名です。嵯峨天皇(さがてんのう)、橘逸勢(たちばなのはやなり)とともに日本の書道史でもっとも優れた3人「三筆」に並び称されています。

「本当は弘法も筆を選んだ」説もあり

「弘法大師ほどの名人となれば、筆を選ぶことなんてしない」とまでいわれていますが、実は「弘法大師も筆は選んだ」説が有力です。弘法大師の漢詩集『性霊集』のなかには、「良工まずその刀を利くし、能書は必ず好筆を用う」の一節があります。意味は「腕の立つ職人は第一に道具を手入れするし、書の達人はよい筆をつかうものだ」です。道具の大切さを弘法大師は説いていました。そのため、「弘法筆を選ばず」の逆で「弘法筆を選ぶ」といわれていたこともありました。しかし、現在では「弘法筆を選ばず」となっています。諸説ありますが、弘法大師はそれほど優れた書家だった点は間違いありません。

注意!間違いやすい「弘法も筆の誤り」

注意!間違いやすい「弘法も筆の誤り」

弘法大師が優れた書家だったことが由来のことわざに、「弘法も筆の誤り(こうぼうもふでのあやまり)」もあります。「弘法大師ほどの立派な書家でも、ときには書き損じをするものだ」のたとえから、「どんな名人でも失敗はする」の意味です。「弘法筆を選ばず」と「弘法も筆の誤り」はとても似ています。意味の違いを把握して使い分けるのがポイントです。

「弘法筆を選ばず」の使い方・例文

「弘法筆を選ばず」の使い方・例文

「弘法筆を選ばず」を使った例文を挙げます。

・料理人の彼にホームパーティの手伝いを頼んだら、家庭用の道具と残り物で素晴らしい料理を作ってくれた。さすが、弘法筆を選ばず。
・ゴルフのスコアが伸びないことをクラブのせいにしている父は、まだまだ弘法筆を選ばずとはほど遠い。
・弘法筆を選ばずというが、プロなら最高の成果を出せるように環境も整えるべきだと思う。
・彼女は何かトラブルがあったと聞いているが、仕事にはまったく影響していないみたいだ。弘法筆を選ばず、プロ意識に感服する。

「弘法筆を選ばず」の類義語・言い換え表現

「弘法筆を選ばず」の類義語・言い換え表現

「弘法筆を選ばず」の類語、似た意味のことわざを紹介します。

「能書筆を選ばず」

「能書筆を選ばず」は「のうしょふでをえらばず」と読み、「能筆筆を選ばず(のうひつふでをえらばず)」ともいいます。意味は「名人は道具に左右されない」で、「自分の下手を道具のせいにしてはいけない」と戒めるニュアンスです。「能書」とは「文字を書くことが巧みなことや人」を表し、「能筆」ともいいます。明治時代前期までは、「弘法筆を選ばず」より「能書筆を選ばず」が使われていたそうです。明治後期からは、現在の「弘法筆を選ばず」が広まっていきました。

「名筆は筆を選ばず」

「名筆は筆を選ばず」は「めいひつはふでをえらばず」と読みます。意味は「弘法筆を選ばず」と同じです。「名筆」は「優れた書や絵画、あるいは書や絵画に優れている人」を指します。

「善書は紙筆を選ばず」

「善書は紙筆を選ばず」は「ぜんしょはしひつをえらばず」と読み、「選ばず」は「択ばず」とも表記します。「上手な字を書く人は、紙や筆の質をあれこれいわないものだ」が転じて、「自分の腕のなさを道具のせいにしてはいけない」と戒める意味です。出典は中国北宋時代の詩人・陳師道(ちんしどう)の詩文集『後山談叢(こうざんだんそう)』です。

「弘法筆を選ばず」の対義語

「弘法筆を選ばず」の対義語

「弘法筆を選ばず」の対義語、反対の意味で使うことわざを挙げます。

「下手の道具調べ」

「下手の道具調べ」は「へたのどうぐしらべ」と読み、「下手の道具選び(へたのどうぐえらび)」や「下手の伊達道具(へたのだてどうぐ)」ともいいます。意味は「下手な人ほど道具にこだわり、大げさな準備をするものだ」です。「道具立てする者は仕事が鈍い」ともいい、意味は「下手の道具調べ」と同じで「弘法筆を選ばず」の対義語に当たります。

「藪医者の薬箪笥」

「藪医者の薬箪笥」は「やぶいしゃのくすりだんす」と読み、「藪医者の薬味箪笥(やぶいしゃのやくみだんす)」ともいいます。「やぶ医者ほど立派な薬箱を持っているものだ」のたとえから、「腕のないものほど道具にこだわる」の意味です。道具にこだわる、大げさな準備をするほかにも能書きをあれこれいうのも「藪医者の薬箪笥」にあてはまります。

「弘法筆を選ばず」の英語表現

「弘法筆を選ばず」の英語表現

「弘法筆を選ばず」の英語表現を解説します。

「A good workman does not blame his tools.」

「A good workman does not blame his tools.(腕のいい職人は道具を責めない。)」が、「弘法筆を選ばず」に近い英語表現です。「blame(責める)」ではなく「complain(不平をいう)」を使い、「A good workman does not complain his tools.(腕のいい職人は道具に文句を言わない。)」ともいいます。

「A bad workman complains of his tools. 」

「a good workman」ではなく「a bad workman」を主語にして、「A bad workman complains of his tools.(腕の悪い職人は道具に文句をつける。)」といいます。意味は「弘法筆を選ばず」と反対ですが、言いたいことは同じです。この場合も「complains」は「blames」と置き換え可能です。

「There’s many a good tune played on an old fiddle.」

「There’s many a good tune played on an old fiddle.(古いバイオリンでもよい曲はたくさん弾ける。)」も、「弘法筆を選ばず」の英語表現です。「古いバイオリンでもよい音を出せる」とも訳せます。「fiddle」は擦弦楽器、とくにバイオリンを指す英単語です。道具の新古について述べているため、「能力は年齢に左右されない」意味でも使います。

まとめ

「弘法筆を選ばず」は「名人は道具に左右されない」たとえが転じて、「自分の下手さを道具や周りのせいにしない」という戒めで使うことわざです。ビジネスシーンでは、失敗をつい周りのせいにしたくなったときに「弘法筆を選ばず」だと、自分に言い聞かせたいですね。

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