「かたわれ時」はアニメ映画「君の名は。」の中で夕暮れの時間帯をさす言葉として用いられ、RADWIMPSによる挿入歌のタイトルにもなりました。「かたわれ時」の意味や使い方を、「かわたれ時」との違い、類義語・対義語・英語表現も含めて解説します。
「かたわれ時」の意味とは?
「かたわれ時」はどのような意味を持つ言葉なのでしょうか。ここでは、「かたわれ時」の意味や漢字表記、「かたわれ」から派生した語を紹介します。
意味は「黄昏時」「夕暮れ時」
「かたわれ時」は「かたわれどき」と読み、夕暮れの時間帯をさす言葉です。「かたわれ+時」で構成され、ある時間帯をさす言葉です。辞書にはない言葉ですが、アニメ映画「君の名は。」で用いられたのをきっかけに広まりました。
漢字で書くと「片割れ時」「片破れ時」
「かたわれ時」を漢字で書くと「片割れ時」や「片破れ時」となります。「かたわれ時」の言葉は映画の中で生まれた辞書にはない語ですが、「かたわれ」の言葉は辞書にある言葉です。「かたわれ」は、「物が割れたり破れたりした一片」また「対になったものの一方」の意味のほかに「分身」の意味があります。
派生語に「かたわれ月」「かたわれ星」がある
「かたわれ」から派生した語に「かたわれ月」や「かたわれ星」があります。「かたわれ月」は半分になった月のことで「半月」をさします。また、「かたわれ星」は欠けた星のことで「流れ星」のことです。「かたわれ月」は、以下のように平安時代の和歌にも登場する言葉です。
・『拾遺和歌集』(恋三・784)
逢ふ事はかたわれ月の雲隠れおぼろけにやは人の恋しき(詠み人知らず)
【現代語訳】
あの人に逢うことは難しいが、半月が雲に隠れておぼろに見えるように、おぼろげな気持ちであの人を恋しく思っているだろうか、いや、並々ならぬ気持ちで恋している。
アニメ映画「君の名は。」で「かたわれ時」の語が作られた背景には、日本で古くから用いられてきた「かたわれ」の言葉を踏まえていると考えられます。
「かたわれ時」の由来・語源
「かたわれ時」は何に由来する言葉なのでしょうか。由来や語源を紹介します。
「かたわれ時」は、2016年8月に公開された新海誠監督の長編アニメーション映画「君の名は。」で使用された言葉です。映画の中で「かたわれ時」は、ヒロインの宮水三葉(みやみずみつは)の住む「糸守町(いともりまち)の方言」とされていますが、実際に方言として使われている地域はありません。「糸守町」は飛騨地方に位置する架空の都市です。映画の中で三葉の通う高校の古典教師のユキちゃん先生が「糸守には多くの万葉言葉が残っている」と発言しており、「かたわれ時」の語源は『万葉集』にも用例のある「かわたれ(彼は誰)時」にあると考えられます。
映画の中で、三葉と瀧とが出会う時間帯が「かたわれ時」と表現されました。「かたわれ時」は昼でも夜でもない薄暗い時間帯で、世界の輪郭がぼんやり柔らかくなるの意味合いも含まれています。「かたわれ」の言葉は「対になったものの一方」や「分身」の意味を持っており、瀧と三葉の主人公2人の関係性を象徴する言葉となっています。また、1200年ぶりに地球に接近するという架空の彗星「ティアマト彗星」は「かたわれ星」とも表現でき、その両者を掛けた言葉だと言えます。
映画の音楽はRADWIMPSが担当しており、挿入歌がいくつかあります。そのなかに、野田洋次郎作曲の「かたわれ時」があります。挿入歌のタイトルに用いられたことで、「かたわれ時」は造語でありながら一般にも広く言葉が浸透していきました。
語源は「彼は誰?」と「片割れ」
「かたわれ時」の語源には「彼は誰?」と「片割れ」の2つの言葉が関係していると考えられます。それぞれ解説します。
「彼は誰?」
「かたわれ時」は「彼は誰?」を語源とする説があります。「かたわれ時」は日暮れの薄暗い時間帯をさす言葉で、映画のなかでは「黄昏時(たそがれどき)」の方言とされます。「たそがれ」は、人の見分けがつきにくく、「誰(た)そ彼(かれ)は」と問うことから生まれた言葉です。明け方の薄暗い時間帯をさす言葉に「かわたれ時」がありますが、こちらは「彼(か)は誰(たれ)?」と問うことから生まれた言葉ですが、「彼は誰時」はもともとは明け方と夕方のどちらの時間帯にも用いていた表現です。「かたわれ時」の語源には奈良時代から用いられていた万葉言葉の「彼は誰(かはたれ)」が関係しているとされます。
「片割れ」
「かたわれ時」は「片割れ」を語源とする説があります。「かたわれ時」は「かたわれ+時」で構成される語です。「片割れ」の言葉は「物が割れたり破れたりした一片」「対になったものの一方」「分身」の意味があり、存在が不完全だという意味合いがあります。「かたわれ時」は、薄暗くて人の見分けがつかない時間帯をさしますが、存在が不完全な「片割れ」の時間帯だという意味です。
「かたわれ時」の類義語・対義語
「かたわれ時」と似た意味の言葉はあるのでしょうか。また反対の意味を持つ言葉は何なのでしょうか。「かたわれ時」の類義語と対義語を紹介します。
類義語は「黄昏時」「夕暮れ時」など
「かたわれ時」の類義語は「黄昏時」「夕暮れ時」などです。「かたわれ時」は昼でも夜でもない薄暗い時間帯をさす言葉で、日が暮れかかっている頃を表す言葉が類義語になります。ほかに「薄暮(はくぼ)」「夕べ」「宵の口」などがあります。
対義語は「かわたれ時」「明け方」
「かたわれ時」の対義語は「かわたれ時」「明け方」などです。「かたわれ時」が夕方の時間帯をさすので、夜の明けるの時間帯をさす言葉が対義語になります。日本語には、夜の明ける時間帯をさす言葉が複数あり、ほかに「東雲(しののめ)」「曙(あけぼの)」「朝ぼらけ」「有明(ありあけ)」「黎明(れいめい)」「夜明け」などがあります。
「かたわれ時」と間違いやすい言葉「かわたれ時」
「かたわれ時」と間違いやすい言葉に「かわたれ時」があります。「かわたれ時」は「彼者誰時」と表記し、現在では明け方の薄暗い時間帯をさします。以下のように奈良時代の『万葉集』でも用いられた言葉です。
・『万葉集』(巻20・4384)
あかときのかわたれ時に島蔭(しまかぎ)を漕ぎにし舟のたづき知らずも
【現代語訳】
暁のまだ明け切らない薄暗いうちに島陰を漕いでいった船がどうなったか知りようがない。
「かわたれ」は「彼(か)は誰(たれ)?」に由来する表現で、薄暗くて人の見分けがつきにくい時間帯をさします。もともとは明け方にも夕暮れにも用いましたが、現在では明け方の薄暗い時間帯をさす言葉として用います。「かたわれ時」と言葉が似ているため非常に間違いやすいです。意味の違いに注意しましょう。
「かたわれ時」の使い方と例文集
「かたわれ時」の使い方を、例文も踏まえて見ていきましょう。
「かたわれ時」の使い方
「かたわれ時」を使う際は、「かたわれ時」の表現にこだわりたい場合のみに使うようにしましょう。「かたわれ時」は映画の中で用いられた造語であるため、安易に使うと相手に意味が伝わらない場合がありますので気を付けましょう。
「かたわれ時」を使用するときの注意点
「かたわれ時」は映画の中で用いられた造語であり辞書にもない言葉であるため、使用する際には注意が必要です。「かたわれ時」を使用する際は、相手が意味を知っているかどうかを意識しましょう。「かたわれ時」の時間帯をさす言葉には「黄昏時」や「夕暮れ時」などもあるので、意味を重視する場合はそれらの言葉を使うようにしましょう。間違いやすい言葉に「かわたれ時」があります。混同しないようにしましょう。
「かたわれ時」の例文
「かたわれ時」を使った例文をいくつか紹介します。
- ここの地域は、かたわれ時になると神秘的な雰囲気を帯びる。
- かたわれ時になると、あなたに会えるような気がする。
- かたわれ時はいつも郷愁にかられる。
「かたわれ時」の英語表現
「かたわれ時」の英語表現には「dusk」や「twilight」があります。ともに日が暮れる時間帯をさす英語で、「dusk」は「twilight」の時間帯でもいっそう暗さが増したころをさします。「夕暮れ」をさす「evening」を使ってもよいです。ただし、「evening」は日没から就寝時までの比較的長い時間帯をさします。例文をいくつか紹介します。
- The town comes to life at dusk.(かたわれ時になると街は活気づいてくる。)
- She looked at the evening sky.(彼女はかたわれ時の空を眺めた。)
- I could hear a temple bell at dusk.(かたわれ時にお寺の鐘の音が聞こえてきた。)
まとめ
「かたわれ時」はアニメ映画「君の名は。」に由来する言葉で、日暮れの薄暗い時間帯をさします。辞書にはない言葉ですが、映画のヒットを機に広まりました。よく似た言葉に「かわたれ時」がありますが、「かわたれ時」は「明け方」の時間帯をさす言葉です。日本語には、日暮れの時間帯を表す言葉が複数あり、「かたわれ時」の類義語もいくつか存在します。文脈や使う相手によって使い分け、日本語の表現の幅を広げましょう。