会社の「従業員数」を数える時、カウントされるのは正社員や契約社員だけ?取締役は入るのか、アルバイト・パート、派遣社員はどうなのか?「従業員」と「社員」の違いから、「従業員数」によって変わる会社の義務や税制について詳しく解説します!
そもそも「従業員」の定義は?
そもそも、「従業員」には明確な定義があるのでしょうか?
企業における「従業員」の定義とは?
そもそも、企業において「従業員」とは、誰のことを指すのでしょうか?
「従業員」の定義は、「使用者(事業主)と雇用契約を結んだ労働者(被雇用者)」になります。使用者は会社(法人事業主)だけでなく、個人事業主も含みます。
社長を始めとする取締役(役員)は、会社と雇用契約を結んでいるのではなく、株主からの委任により会社の経営を担います。つまり「従業員数」のカウントにおいては、取締役(役員)は含みません。
ただし「執行役員」と呼ばれる役職は、「役員」とついてはいるものの、会社法における「取締役」ではなく、会社事業の管理・執行を行う内部職制であり、「従業員」に含まれます。
パートやアルバイトも「従業員」
「従業員」には、いわゆる「正社員」や「契約社員」などフルタイムで働く労働者だけでなく、「パート社員」「アルバイト」も含まれます。法律では中小企業基本法の中で「従業員」という言葉が登場します。
ただし、中小企業基本法において「常時使用する従業員」と解されるのは、労働基準法第20条の規定に基づく「解雇の予告を必要とする者」とされています。そのため、契約社員、パート、アルバイト、出向者等については、条文を基に個別に判断されるというのが中小企業庁の見解です。
「従業員」の類義語・言い換え表現
「従業員」の同義語、言い換えられる言葉には何があるのでしょうか?また労働統計に出てくる似た言葉についても解説します!
「従業員」と同じ意味の言葉は?
「従業員」と同じ意味の言葉には、「労働者」「被雇用者」「被用者」「雇用者」があります。労働基準法で雇われている人を意味するのは「労働者」で、雇う側は「使用者」あるいは「事業主」です。
雇用契約を結ぶ関係から、もっともわかりやすいのが「被雇用者」「被用者」で、これに対して雇う側は「雇用主」「使用者」になります。
雇用契約で働いて得る報酬は給与(サラリー)であることから「給与所得者(サラリーマン)」も同義語ですが、一般に「サラリーマン」は専門職や現場作業員を除く事務職に使われます。
公務員やそれに準ずる団体の職員は「職員」と呼ばれ、「従業員」には含まれませんが、「被雇用者」「被用者」には含まれる違いはあります。
「雇用者」は雇う側と雇われる側のどちらにも使われることがあり、混乱しやすい言葉です。
労働統計用語の「就業者」と「従業者」
「従業員」によく似た言葉に、労働統計で使われる用語「就業者」があります。
労働統計における「就業者」は、「自営業者」「家族従業者」「雇用者」からなります。またこの「雇用者」には、公務員や取締役(役員)も含んでいます。
もう一つの労働統計用語「従業者」は、「就業者」と「休業者」を合わせたものです。「休業者」は、仕事をもちながら一時的に休んでいる人、例えば育児休業や介護休業などで休業手当を貰っている人などです。
「従業員」と「社員」や「職員」との違いは?
世間一般によく使われる「社員」や「職員」は、「従業員」とどう違うのでしょうか?
「従業員」と「社員」の違い
会社で働いている人の数を「従業員数」と言わず「社員数」としている会社もあるように、一般的には「従業員」よりも「社員」の方がよく使われています。
しかし「社員」は曖昧で、「従業員」と同じ意味で使われることもあれば、「正社員」のみを指す場合もみられます。
例えばそれは、「社員さん」「パートさん」と言った呼称にみられます。
法律に出てくる「社員」は、全く別の意味の言葉
元々「社員」には、社団の構成員や、会社の出資者の意味があります。2006年に廃止された有限会社法においては、株式会社における株主にあたる出資者を「社員」と呼んでいました。
日本赤十字社法においては、希望して社費を納めれば日本赤十字社の構成員である「社員」のことです「社員」になれば、日本赤十字社の役員及び代議員を選ぶ、もしくは選ばれる権利を得られます。
「従業員」は中小企業基本法に登場する言葉である一方、「社員」は法律においては「従業員」とは全く違う意味で使われています。「従業員」に近い意味で使われる「社員」はあくまで俗称であり、公的な場面での使用には注意が必要です。
「従業員」と「職員」の違い
「従業員」は会社や個人事業主と雇用契約を結んだ労働者を指すのに対し、民間企業以外の法人に雇用されている人や公務員は「職員」と呼ばれます。
国や地方公共団体、特殊法人、独立行政法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人、農協等の公社・公団、宗教法人、政党などです。
一般的な肩書では、民間企業の社員の場合「会社員」であるのに対して、「団体職員」になります。
「従業員」「従業員数」は英語で何と言う?
「従業員」は英語で「employee」です。
「employ」は「雇用する・雇う」で、「employee」は直訳すると「被雇用者」。もちろん「従業員」と同義です。
「労働者」を意味する言葉には「worker」や「labor」がありますが、雇用(契約)で考えるとやはり「employee」になります。「従業員数」は英語で言うと「number of employees」になります。
「従業員数」によって変わること
「従業員数」が変わることで、会社にとってどのような影響があるのでしょうか?
「大企業」か「中小企業」か「零細企業」か
一般に大企業、中小企業、零細企業(小規模事業者)に分けられる企業規模は、従業員数または従業員数と資本金によって定義されています。
中小企業基本法において「小規模企業者」とは、「おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については、5人)以下の事業者」と定義しています。
中小企業は業種によって異なり、卸売業は資本金1億円以下または常時使用する従業員が100人以下、サービス業は同5千万円以下または100人以下、小売業は同5千万円以下または50人以下なら中小企業者です。
製造業、建設業、運輸業、上記3業種以外のその他の業種は、資本金3億円以下の会社または常時使用する従業員の数が300人以下なら中小企業者となります。
これらに当てはまらない企業は、大企業となります。
非上場会社の株式評価における会社規模
労働基準法第89条では「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」となっています。
つまり、常時雇用する「従業員」が10人以上になれば、就業規則を作成して届け出する義務があります。
パート・アルバイトがシフトで出勤し、会社に同時にいるのが10人に満たない場合でも対象です。雇用契約を結んだ従業員が10人以上いれば、これに該当します。
就業規則を作成する義務
非上場会社などの取引相場のない株式の評価は、会社の総資産価額、従業員数および取引金額により、大会社、中会社又は小会社のいずれかに区分して行われます。
このうち、大会社に該当する従業員数基準は「70人以上」です。平成29年度税制改正により、100人以上から70人以上へと引き下げられています。
社会保険の加入条件
個人事業主が5人以上の従業員を雇用した場合、社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入する義務が生じます。法人(会社)については、従業員を1人以上雇えば、社会保険への加入義務が生じます。
平成28年(2016年)から、パート・アルバイトの社会保険の加入要件が広がり、これまでの「週30時間以上労働」から「週20時間以上労働」へと拡大しました。従業員数501人以上の会社は義務で、従業員数500人以下の会社については、労使で合意すれば会社単位で社会保険に加入できます。
法人住民税
法人(会社)にかかる地方税のうち、法人住民税(法人市町村税)の均等割は、資本金額と「従業者の数の合計」(市町村内に有する事務所、事業所、寮、宿泊所などの従業者の合計)によって決まります。
法人住民税の均等割は、資本金額と従業者数が50人以下と50人超で税額が変わります。
その他の義務
労働者数が50人以上の事業場では、事業者は次のような義務が生じます。
- 産業医の選任(労働者数が3001人以上の事業場では2人選任)
- 衛生委員会の設置
- 衛生管理者の選任
- 定期健康診断結果報告書の提出
- ストレスチェックの実施
また、障害者雇用促進法によって障害者の法定雇用率が2.3%と決められているため、従業員数が43.5人を超えると障害者を1名雇用する義務が生じます。
100人を超える会社では、法定雇用率2.3%が未達成の場合、障害者雇用納付金を納付しなければなりません。
「従業員数」の数え方!どこまでを含める?
一般的に「従業員数」は、正社員、契約社員だけでなく、パートアルバイトも含まれますが、社長や専務などの役員は含まれません。出向者や派遣社員の扱いは、法律によって数え方が変わりますが、これについては後述します。
複数の企業からなる大企業グループでは、各会社の単体の「従業員数」だけでなく、「連結従業員数」も公表しています。「連結従業員数」とは、連結決算の対象となるグループ子会社を含んだ従業員数のことです。
近年目立つ持株会社(ホールディングス)をグループトップに置く企業グループでは、持株会社の従業員数は少ないため、「連結従業員数」の方が企業規模の指標となります。
出向や派遣はどこで「従業員数」がカウントされる?
出向している社員や派遣社員は、どこの会社・事業所で「従業員数」をカウントされるのでしょうか?
出向中の場合
財産評価の会社規模判定では、原則として雇用契約のある会社の従業員としてカウントされます。
つまり出向先で雇用されている出向者は、出向先の従業員としてカウントされます。
法人住民税(法人市町村税)の均等割の判定においては、出向者は出向受入先の事業所の従業者として取り扱われます。
派遣会社から派遣されている場合
財産評価の会社規模判定では、派遣労働者は雇用契約を結んでいる派遣元(派遣会社)の従業員としてカウントされます。
一方、法人住民税(法人市町村税)の均等割の従業員数判定では、派遣労働者も派遣先の従業者数にカウントされます。
日本と世界の従業員数ランキング
日本と世界の従業員数が多い会社ランキングを紹介します!
日本の従業員数ランキング
東証一部上場企業の「連結従業員数ランキング」(2021年3月時点)がこちら!
順位 | 企業名 | 連結従業員数 |
---|---|---|
1位 | トヨタ自動車 | 367,987人 |
2位 | 日本電信電話 | 330,300人 |
3位 | 日立製作所 | 313,036人 |
4位 | 住友電気工業 | 290,031人 |
5位 | 日本郵政 | 248,789人 |
6位 | パナソニック | 245,546人 |
7位 | ヤマトホールディングス | 224,583人 |
8位 | ホンダ | 218,674人 |
9位 | キヤノン | 181,897人 |
10位 | デンソー | 169,722人 |
世界の従業員数ランキング
フォーチュン誌が2020年に発表した、2019会計年度の「フォーチュン・グローバル500」の従業員数ランキングがこちらです!
順位 | 企業名 | 連結従業員数 |
---|---|---|
1位 | ウォルマート(アメリカ) | 2,200,000人 |
2位 | 中国石油天然気集団(中国) | 1,344,410人 |
3位 | 中国郵政(中国) | 927,171人 |
4位 | 国家電網(中国) | 907,677人 |
5位 | アマゾン(アメリカ) | 798,000人 |
6位 | 鴻海精密工業(台湾) | 757,404人 |
7位 | フォルクスワーゲン(ドイツ) | 671,205人 |
8位 | コンパス・グループ(イギリス) | 596,452人 |
9位 | 中国石油化工集団(中国) | 582,648人 |
10位 | アメリカ合衆国郵便公社(アメリカ) | 565,021人 |
まとめ
「従業員」は、「使用者(事業主)と雇用契約を結んだ労働者(被雇用者)」と明確に定義されます。
一方「従業員数(従業者数)」のカウントでは、法律や税制によって、雇用契約を結んだ会社でカウントされる場合と、働く場所(事業所)でカウントされる場合の両方があります。
公的には、「従業員」や「就業者」「従業者」の意味で「社員」を使うことはありません。
公的な書類の作成・提出においては、これらの言葉を間違えないよう気をつけてくださいね!!