「ゲシュタルト」の意味がわからなくても、「ゲシュタルト崩壊」といった表現を見聞きしたことがある方は多いのではないでしょうか。この記事では、「ゲシュタルト」の意味を始め、語源や使い方、ゲシュタルト心理学やゲシュタルト療法まで詳しく解説します。
「ゲシュタルト」の意味
「ゲシュタルト」とは、「ゲシュタルト心理学」の基本概念である「一つのまとまった全体的構造」を意味します。日本においてカタカナ語で使われる「ゲシュタルト」は、「全体的なまとまり」の意味で使われるより、心理学用語の一つとして使われることが一般的になっています。
「ゲシュタルト」の語源・由来
「ゲシュタルト」の語源は、「かたち」や「形態」「姿」などを意味するドイツ語の名詞「Gestalt」です。
人の知覚や認識を、部分的に見るのではなく全体のまとまりとしてとらえる心理学である「ゲシュタルト心理学」から、「全体的なまとまりや構造」を意味する言葉として「ゲシュタルト」が使われるようになったことが由来になります。
「ゲシュタルト」の使い方と例文集
それでは、「ゲシュタルト」の使い方を解説します。主に「ゲシュタルト崩壊」と「ゲシュタルト要因」といった使い方が多いので、それぞれについて説明していきましょう。
「ゲシュタルト崩壊」とは
姿かたちが壊れて個々の部分に切り離された状態で認識されてしまう現象全般を「ゲシュタルト」が崩壊する、つまり「ゲシュタルト崩壊」と言います。
1947年にドイツの神経学者であるファウストは、図形などを瞬間的に見たときには何であるか知覚できるのに,そのまま見続けると全体の印象がなくなってしまうといった失語症の一例を報告しました。その際に、この現象のことを「Gestaltzerfall」と記述したことが発端となっています。
この現象は、失語症だけでなく健常者でも起こる可能性が高く、図形や文字などの視覚的なものや聴覚や精神においても生じるものとされています。また、単なる視覚的な疲れとは異なる点も重要です。以下、項目別に説明します。
文字や音
漢字やひらがななどの文字を注視し続けていると、パーツにわかれて見え始め、ひとかたまりの文字として認識しづらくなっていくことがあります。この感覚が文字の認識による「文字のゲシュタルト崩壊」です。ゲシュタルト崩壊しやすい有名な文字として、「借」「多」「野」「傷」「ル」「を」などがあります。
また、文字を見る時だけでなく、書き続けた場合や音で聞いた場合にもよく起こる現象といえるでしょう。「音のゲシュタルト崩壊」は、たとえば「さしみ」は通常なら生の魚の切り身である「刺身」と認識されるのに、音を聞き続けていたら「さ」「し」「み」と3つの言葉にわかれて認識されてしまうようなことを指します。
形やデザイン
立体的な形や幾何学模様などのデザインでもゲシュタルト崩壊は起こります。単体でも複数が並ぶものでも起こるので、最近ではゲシュタルト崩壊がWebデザインに起こらないようにする工夫が重要視されています。
精神のバランス
精神のバランスが崩れてまとまりがなくなってしまうといった意味で、「精神のゲシュタルト崩壊」と表現される場合もあります。ビジネスシーンにおいて利用されることもあるので覚えておくといいでしょう。
「ゲシュタルト要因」とは
「ゲシュタルト要因」とは、別名「ゲシュタルトの法則」ともいい、ウェルトハイマーが視知覚の分野でかんたんな図形を提示して発表し、その後発展した「視覚認知の法則」を指します。
「ゲシュタルト要因」には、近くにあるものを同じグループに属するとみなす、運動するもの同士やなめらかに連続するもの同士などがまとまって見える、一部が欠けていても記憶にある全体像にあてはめて認識するなどといった、「近接」「類同」「連続」「閉合」「共通運命」「面積」「対称性」の7つの要因があります。
「ゲシュタルト要因」は、思い込みや目の錯覚を理論化したものであるため、Webデザインやビジネスでのプレゼン文書作成などに視覚効果を使う場合、応用されることが多いようです。
「ゲシュタルト」を使った例文
「ゲシュタルト」は、言葉単体であまり使うことはありませんが、「ゲシュタルト崩壊」として使用する頻度は高いといえます。それでは、「ゲシュタルト」を使った例文をいくつか紹介します。
- この漢字を見つめているうちにゲシュタルト崩壊した。
- あそこに下がっている服の幾何学模様を見ていたらゲシュタルト崩壊してしまった。
- 提案を却下されるたびにゲシュタルト崩壊しそうになってしまう。
このように、「ものがバラバラに見える」「頭の中のまとまりがなくなる」といった意味のことを「ゲシュタルト崩壊する」のように表現するとよいでしょう。
「ゲシュタルト」の類義語・言い換え
「ゲシュタルト」の類義語、言い換えとしては「形」「形状」「姿」「造作」「形態」「フォルム」などがあります。いずれも「ものの構造や外見」を意味する言葉で、「全体的なまとまりや構造」を表す「ゲシュタルト」に近いといえるのではないでしょうか。
「ゲシュタルト心理学」とは?
それでは、「ゲシュタルト」の語源になった「ゲシュタルト心理学」とはどのような心理学なのでしょうか。
成り立ち
20世紀初頭、ドイツの心理学者であるウェルトハイマー、コフカ、ケーラーらのベルリン学派によって提唱されました。「形態心理学」とも呼ばれています。
1912年にウェルトハイマーがコフカ、ケーラーらを被験者にして行った「運動視の実験的研究」がゲシュタルト心理学の出発点となり、コフカの「ゲシュタルト心理学の原理」によってゲシュタルト理論の体系化が完成しました。
原理
従来の心理学の要素主義をなくし、全体観の立場に立つことを基本とし、精神は全体的で統一的な構造をもつ形態、つまり「ゲシュタルト」であると主張しています。つまり、人間の知覚は個別の感覚が集まったものではなく、全体的な枠組みのもとで成立していることが「ゲシュタルト心理学」の原理となります。
「ゲシュタルト心理学」は、精神医学や神経学にも影響を及ぼし、現在では認知心理学や社会心理学などの新しい心理学分野にも波及しています。コーチング、フォーカシングなどは「ゲシュタルト」の基本理念が元になっている心理療法として有名だといえるでしょう。
「ゲシュタルト療法」とは?
「ゲシュタルト療法」とは、ベルリン出身の精神科医パールズによって開発された心理療法です。フロイトやユングなどの伝統的心理療法では、心理的問題の原因を過去に見つけようとしますが、ゲシュタルト療法は、問題の再体験などを通して「今ここ」での気づきを重視するのが特徴です。
基本的に、分析や解釈はせず、自分への気づきを促すように安全安心な場所を提供することがセラピストの役割になっています。また、問題となっている感情や行動を「図」、その背景である全体性を「地」とすることが概念とされています。
代表的技法
では、「ゲシュタルト療法」の代表的技法を挙げてみます。
・空の椅子に座っている、仮定された人物に向かって意見や感情を伝える「チェアテクニック」「エンプティ・チェア」
・夢で見た内容を表現していくことで気づきを得る「ドリームワーク」
・他者や理想の自分を演じることで問題解決を図る「ロールプレイ」
「ゲシュタルトの祈り」
「ゲシュタルトの祈り」とは、ゲシュタルト療法を創始したパールズが作った詩のことです。ゲシュタルト療法の思想を詩に表したもので、パールズはワークショップなどでこの詩をいつも朗読していました。「私は私のために生き、あなたはあなたのために生きる」の一行から始まる、簡潔でわかりやすい詩になっています。
その他の使われ方
「ゲシュタルト」のほかの使い方として、漫画の「ゲシュタルト」があります。「ゲシュタルト」は、ヤングマガジンに掲載されている、陽藤凛吾のサバイバル&カタストロフィー作品で、全人類がリセットされるといった壮大なストーリーで人気を博しています。
まとめ
「ゲシュタルト」は、ドイツ語を語源としたカタカナ語で「全体的なまとまりや構造」を意味する言葉です。「ゲシュタルト心理学」から使われるようになったことが由来であり、全体のまとまりがバラバラに崩れて認知されることを「ゲシュタルト崩壊」といいます。「ゲシュタルト崩壊」は、ふだんの生活やビジネスシーンでも使われることがあるので覚えておくとよいでしょう。また、「ゲシュタルト」を基にした心理療法「ゲシュタルト療法」も知識として頭に入れておくといいかもしれません。