上司や取引先とのやり取りでよく耳にする「ご用命」は、相手の依頼や注文を引き出すシーンで使われます。つまり、「ご用命」は信頼を得たい相手に向けて使われる敬語といえます。ビジネスシーンで信頼を得るために、「ご用命」の正しい使い方を覚えましょう。
「ご用命」の意味とは
「ご用命」とは、漢字が示す通り「用」を「命」じること、つまり用事を言い付けることを指します。ビジネスシーンにおいては、取引先から自社への注文・依頼のことや、上司から自分への指示を示す言葉として使われます。
かしこまった印象を与える「ご用命」は、単に用事を言い付ける意味に加え、相手への敬意を表せる言葉です。より深く意味を理解して、ビジネスシーンで適切に使いこなしましょう。
「ご用命」の由来
「ご用命」の意味とニュアンスを理解するには、由来を理解するのが近道です。日本語には「漢語」と「和語」があるのはご存じでしょうか?「漢語」は古来中国から伝わり、日本語として使われるようになった言葉で、「和語」は、古来日本で使われてきた言葉です。
「ご用命」は漢語です。漢字そのものの成り立ちをひも解けば、「ご用命」をより深く理解できます。中国の文献で使われている「用命」も併せて紹介します。
「ご用命」の成り立ち
「ご用命」とは、敬意を表す「御」に、「もちいる」「使う」を意味する「用」と、「言い付け」を意味する「命」を組み合わせた言葉です。漢語としての「用命」は、直訳すれば「言い付け」を「もちいる」の意味で、目上の人からの指示を守ることを指します。
「ご用命」が使われている文献
士卒用命、則戰無強敵(士卒命を用うれば、すなわち戦うに強敵なく)
これは、春秋戦国時代の兵法書「呉子」の一節で、「しっかり命令に従えば、どんな敵でも敗れることはない」という意味です。ここでも「用命」は、「言い付け」を「もちいる」の意味で使われています。軍隊においては、上官からの指示が重要であり、しっかり命令に従うことの大切さを説いています。
「ご用命」を使う相手
成り立ちや中国の文献をひも解くと、「ご用命」は本来、目上の人からの指示に従うという意味があるとわかりました。現在の日本で使われている「ご用命」は、中国古典における意味とは少しニュアンスが異なりますが、目上の人に対して使うという点では同じです。
「用命」自体には、「用事を言い付ける」という意味がありますが、例えば上司が部下に対して使うことはありません。「ご用命」は、自分自身がへりくだって、受け身の意味で使う言葉なのです。
「ご用命」の類義語・言い換え
ビジネスにおいては、依頼や注文を受けるシーンや、上司から仕事をもらうシーンは多くあります。ですが、どんなシーンでも「ご用命」がぴったりとは限りません。「ご用命」の類義語や言い換えを理解すれば、シーンごとに適切に使分けできるようになるだけでなく、「ご用命」の理解をより深められます。
「お申し付け」
「お申し付け」は、「言う」の丁寧語「申す」に「付ける」が付いた言葉です。「ご用命」は、何らかの用事や具体的な頼みごとを含みますが、「お申し付け」は単に言い付けることだけを指します。
例えば、「何か不具合があれば、私にお申し付けください」と使う場合、「不具合があると、私に言い付けろ」といった意味合いになります。対して「何か不具合があれば、私にご用命ください」と使うと、「具体的な不具合を教えてくれれば対処する」といった意味になります。
「仰せ付け」
「仰せ付け」は、「言い付ける」の尊敬語です。「申し付ける」と意味合いは同じですが、より丁寧な印象を与えます。尊敬語のため、上下関係は明確になります。「ご用命」同様に、目上の人に対して使う言葉です。
「ご下命」
「ご下命」は、「ご用命」より、よりかしこまった印象の言葉です。「ご用命」と同じく、目上の人に対して使う言葉で、意味合いはほとんど同じです。ただし、「命」令を「下」すという意味から、上下関係が明確でない人に使うと、かえって失礼に感じられる場合もあります。取引先に対し「ご下命」と使うと、違和感を覚える人もいるでしょう。
「ご注文」
「注文」には品物の製作や販売を依頼する意味があります。「ご用命」は具体的に何を依頼するか、明確でない場合もありますが、「ご注文」は制作してほしい、売ってほしいなど、具体的な依頼で使われる場合が多いといえます。
また、「ご注文」は目上の人以外にも使うため、「ご用命」のようにへりくだって相手を立てる意味はありません。
「ご用命」を英語でいうと?
英語圏において用事を言い付けるシーンでは、「ご用命」と同じように、フォーマルな場で使える単語が2つあります。もちろん、日本語と英語では敬語の仕組み自体が異なるので、「ご用命」とニュアンスまで全く同じ英単語はありません。言い回しや使うシーンを間違えなければ、「ご用命」と同じような意味で使える英単語です。
「order」
「order」は、立場が上の人が命令をするようなニュアンスがある単語です。公的な機関からの指示や、上司からの依頼などで使われます。目上の人からの依頼を受け付ける表現をする場合、「ご用命」にかなり近いニュアンスとして使えます。
「order」はレストランなどで「注文」の意味でも使われます。その点では「ご用命」と少しニュアンスが異なるともいえます。
「request」
「request」は、気軽に何かをお願いする場合に使われる「ask」よりも丁寧で、形式張ったニュアンスがあります。友人同士ではあまり使われない単語で、公式に何かを依頼するときに使います。「order」のように上下関係が明確な単語ではありませんが、ビジネスシーンで取引先とのやり取りでも使えます。
「ご用命」のビジネスシーンでの使い方と例文集
「ご用命」はビジネスシーンではどのように使われているのでしょうか。普段使ったことがない言葉であれば、意味がわかっただけではなかなか使えないものです。よく使われる言い回しと、注意点を解説します。
「ご用命」の使い方
ビジネスシーンにおける「ご用命」は、目上の人や取引先から仕事の依頼を受けるシーンに関連して使われます。取引先とのやり取りであれば、依頼を承ったとき、依頼がほしいときに使います。上司とのやり取りであれば、仕事を任せてほしいときなどに使えるでしょう。
また、「ご用命」は話し言葉でも、メールなどの文章でも違和感なく使える言葉です。使い慣れていない言葉は、なかなか口に出にくいものですから、まずはメールや手紙で使ってみてもよいでしょう。
「ご用命」を使用するときの注意点
「ご用命」は目上の人に対して使うことと、受け身で使うことに気を付けましょう。「用命」の由来で解説したように、「ご用命」が用事を言い付けるという意味であっても、自らが「言い付ける」主体になることはありません。例えば、「あなたにご用命します」とはいいません。
また、自分よりも立場が下の人に使うこともありません。例えば上司が部下に対して「私に用命してくれれば大丈夫だ」などとは使いません。
「ご用命」の例文
ビジネスシーンでよく使われる言い回しを、具体的な例文とともに解説します。「ご用命」の意味だけではなく、例文として覚えておけば、とっさのシーンでも使いやすいです。
「この度は、ご用命を賜り誠にありがとうございます」
「この度は、ご用命を賜り誠にありがとうございます」は、取引先からの依頼や注文に対し、感謝するシーンで使える表現です。目上の人からの言い付けを表す「ご用命」に「賜る」を付けることで、より丁寧な印象を与えています。「賜る」とは、「もらう」の謙譲語で、「ご用命」同様に目上の人に対して使う言葉です。「ご用命を賜る」と合わせて使うと、謙譲の意味が繰り返され、相手をより立てる表現になります。
取引先にはよく使いますが、社内の上長などに対しては、過剰な謙譲表現になる場合もあります。社内で使う場合は社長など、かなり上のポジションの人に対して以外は使用を避けるようにします。
「イベントのご用命は、実績のある弊社にお任せください」
「イベントのご用命は、実績のある弊社にお任せください」は、お客様からの依頼をお待ちしていることをアピールする表現で、広告やWebサイトなどでもよくみられます。「ご用命」は、「ご注文」のように具体的な依頼内容を前提としていません。「イベントのご注文」と表現すると違和感があるのは、「イベント」を開催するには、いろいろな業務が組み合わさって初めて成り立つからです。
具体的な依頼内容を前提としていないからこそ、「イベント」にまつわる、さまざまな業務を任せられるといった意味合いで使えるのです。
「ご用命とあれば、365日いつでも喜んで駆け付けます」
「ご用命」が具体的な依頼内容を前提としないことは解説しました。仕事や用事を任せてほしいときに「ご用命」をつかうと、前後の会話で想像される仕事や用事に関して、どんなことでも任せてほしいといった意味合いになります。
「ご用命とあれば、365日いつでも喜んで駆け付けます」は、取引先はもちろん、上司など信頼してほしい相手にも使える表現です。上司には「~さんのご用命とあれば、最優先で取り掛かります」などと使えば、コミュニケーションもより円滑に取れるでしょう。
まとめ
「ご用命」は仕事の依頼に関連するシーンで使われるため、重要度の高い敬語の1つです。ビジネスシーンでよく使われるからこそ、しっかりと意味を理解して使いましょう。口に出して使うのが難しければ、メールでじっくりと文章を考えて使ってみてもよいでしょう。
「ご用命」をうまく使いこなせれば、取引先や上司とのやり取りが円滑になるだけではなく、信頼を得るきっかけにもなります。正しい日本語を使いこなして、仕事の「ご用命」もつかみ取りましょう。