ビジネスレターの書き出し「拝啓」は、特にあらたまった場面でなくても手紙では一般的に使われる言葉です。「拝啓」を正しく使えるよう、ビジネスレターの定型ともいうべき、頭語と結語の関係、それぞれの意味と使い方や、参考文例などについて紹介します。
「拝啓」と「敬具」の読み方
「拝啓」の読み方
一般的な手紙やビジネスレターで使われる言葉に「拝啓」があります。「拝啓」は「はいけい」と読みます。手紙の書き出しで使われる言葉で、その後、口頭では使われない時候の挨拶が続くため、お堅くかしこまった、難しい内容の手紙というイメージをもつ方もいるようです。
確かに初めて見聞きすると堅苦しい印象をもたれるかもしれませんが、「拝啓」は一般的によく使われる定型の言葉です。
「敬具」の読み方
手紙の最後には「敬具」を使います。「敬具」は「けいぐ」と読み、必ず「拝啓」とセットで使われる言葉ですので覚えておきましょう。
「拝啓」と「敬具」の意味と役割
「拝啓」と「敬具」は、社外の取引先や顧客の個人などに宛てたビジネスレターで使われる言葉です。一般の個人の手紙でも、目上の人に向けたお礼状や季節の挨拶など、あらたまった手紙でも使われます。
「拝啓」の意味と役割
「拝」は、おがむ、おじぎをする、「啓」には、もうす、ひらくなどの意味があります。つまり、「拝啓」は、相手を敬って「つつしんで申しあげます」と、礼儀としてひとこと添えてから用件につなげるという、冒頭の挨拶の役割をもつものです。
「敬具」の意味と役割
「拝啓」で始まった場合は、最後に結びの挨拶「敬具」で終わります。「敬」は、うやまう、つつしむ、「具」は、くわしく述べるという意味があります。つまり「敬具」は、「つつしんで申しあげました」という結びの挨拶の役割となるわけです。
参照:Weblio辞書「拝啓」
参照:Weblio辞書「敬具」
頭語と結語の関係について
冒頭の「拝啓」は「こんにちは」にあたり、最後の「敬具」は「さようなら」にあたる挨拶の言葉です。冒頭で使う言葉を「頭語」、最後の結びで使う言葉を「結語」と呼びます。
頭語と結語は、拝啓や敬具の他にもたくさんの種類があります。拝啓をさらに丁寧にした頭語が「謹啓や恭啓」、簡略なやり取りには「前略」など多くの言葉があり、それぞれの頭語に相応しい結語があるのです。
たとえば、「謹啓や恭啓」に対しては「謹白や頓首」、「前略」は「草々」などの決められた形があります。
また、返信に用いる場合の頭語は「拝復や復啓」があり、結語は「敬具や敬白」などです。これらは、手紙の内容により適宜使い分けるのがマナーです。礼儀を重んじる場面では、簡略的な「前略」は使いませんし、「謹啓」に対して「草々」で結ぶようなこともありません。とはいえ、ビジネス文書で一般的に使われるのは「拝啓と敬具」、返信の場合は「拝復と敬具」、要件のみ簡単に伝える場合は「前略と草々」を覚えておけば問題ないでしょう。
「拝啓」と「敬具」の使い方・書き方
ビジネス文書は、一般の私用の手紙と異なる雛形(ひながた)があります。雛形とは、テンプレートやフォーマットなどの書式を指す言葉です。頭語と結語も、一定の形に沿ったレイアウトで配置することになります。
「拝啓」を書く位置
「拝啓」は、冒頭の挨拶と説明しましたが、ビジネス文書の場合はいきなり「拝啓」で始まるのではありません。横書きなら、1行目に日付を右寄せ、以下に、左詰めで宛名、右寄せで差出人、中央に件名を配置します。その下に左詰めで「拝啓」を入れます。「拝啓」の直後は空白スペースを1字分空け、「○○の候、貴社~~」と時候の挨拶につなげるのが一般的です。
「敬具」を書く位置
「敬具」は、用件を伝える主文のあとの末文の最後に添えます。改行をして、右寄せで「敬具」を入れます。別記がある場合は、その下に「記」として最後に「以上」で締めます。別記のあとに「敬具」を配置する必要はないため、注意しましょう。
「拝啓」と「敬具」を使うときの注意点
「拝啓」と「敬具」を使うビジネス文書や手紙を作成する際は、TPOに応じた使い分けや書き分けが必要です。ビジネスだからと、何にでも「拝啓と敬具」を付けることがマナーと勘違いしないようにしたいものです。
縦書きと横書きでは書式が異なる?
ビジネスレターの場合、パソコンで横書きで作成するケースが一般的です。しかし、特にあらたまる必要のあるときや、相手にしっかりと読んでほしいときなどに、あえて縦書きで作成したり手書きにしたりする場合があります。その際は、横書きの場合と書式が若干異なるため、覚えておくとよいでしょう。
縦書きの場合
縦書きの場合、日付や宛名は主文よりも後ろに配置することに注意が必要です。つまり、縦書きの手紙では「拝啓」が最初にきます。「拝啓」の下に続けず、時候の挨拶は次行から始めるとよいでしょう。
縦書きだと便箋を縦長に使うことになるため、上から下まで文字が続くと、次の行に移った時に同じ行に視線が戻ることもあるものです。読みやすくなるように、上下左右の余白を広めに空けたり、文頭を一字下げしたりと工夫することでバランスがよく読みやすくなります。「敬具」も、末文が行の中間よりも上で終わるなら、同じ行の下に配置するとよいでしょう。中間よりも長い場合は、改行して下に入れましょう。
「拝啓」を使うなら本文も敬語で
一般的な手紙には「拝啓と敬具」がふさわしいと説明しましたが、どんな場合でも通用するかと言えばそうともいえない場面もあるものです。相手との関係性にもよりますが、カジュアルな文章で許される相手には、ついフランクな文章でやり取りする場合もあるでしょう。
しかし、「拝啓」で始める手紙ならば、本文も敬語や丁寧語を使う必要があります。前文と主文、末文がチグハグにならないよう配慮しましょう。特に、ビジネスレターでは注意が必要です。
メールにも「拝啓」が必要?
取引先に電子メールを送る際にも「拝啓」と「敬具」が必要か、という疑問が話題にあがったことがありました。重要な取引先なら入れるべき、入れたほうが丁寧、無難、どちらでもよいなどの意見が見られました。
しかし、電子メールに限っては、頭語と結語、時候の挨拶などは不要です。電子メールは郵送の手紙とは異なる、即時性のある通信手段です。そこに、長々とご機嫌伺いの前文を挟むことで、大切な用件を見落とす可能性があります。電子メールは、社外や社内、メールマガジンなど数多くのメールを受信していることも考え、明確な件名で、要件のみ端的に伝えることが重要です。
「拝啓」と「敬具」を使ったビジネス文書・手紙の例文
代表的な頭語と結語を使ったビジネス文書の簡単な例を紹介します。当面は、この3種類のみ覚えておけば問題ありません。
「拝啓」と「敬具」を使う例
「拝啓と敬具」の組み合わせは、一般的な社外向けのビジネス文書で多く使われる形です。案内状、礼状、請求書や見積書の添え状など、たいていのビジネス文書や手紙に使えます。
(頭語+前文)拝啓 ○○の候、貴社ますますご清栄のこととお喜び申しあげます。平素は、~~
(主文)さて、弊社ではこのたび~~
(末文+結語)ご多用中とは存じますが、ぜひ○○くださいますようよろしくお願い申しあげます。敬具
「前略」と「草々」を使う例
「前略」は、前文の時候の挨拶を省略する失礼をお許しください、という意味があります。ビジネスシーンでは、通常は「拝啓」で始まることが望ましいですが、急いで用件を伝えたいときに限り「前略」を使うことは失礼にはあたりません。
たとえば、お見舞い、急いで謝罪する必要がある場合などです。いくら丁寧な表現にしようと思っても、「拝啓 ○○の候、ますます○○のこととお喜び申しあげます」との書き出しでは、体調が悪い方や、災害に遭った方に対してはかえって失礼です。急ぎの詫び状も、前文を省いて先に謝罪をしたほうが心象もよいでしょう。他にも、ビジネスで親しくなった個人宛の手紙に使われることもあります。
「前略」で始まる場合、結語は早々ではなく「草々」が昔から正式とされていますので、間違わないようにしましょう。
(頭語+主文)前略 ご要望のありました○○の件につきまして~~
(末文+結語)ぜひご検討のほどよろしくお願いいたします。草々
「拝復」と「敬具」を使う例
「拝復と敬具」は、相手の手紙への返信の場合のみに使います。相手からの案内や依頼、問い合わせなどに対する返事として使うとよいでしょう。
(頭語+前文)拝復 自家ますますご隆昌のこととお喜び申しあげます。こちらこそ格別のお引き立てを賜り~~
(主文)さて、先般お問い合わせいただいた○○の件ですが~~
(末文+結語)取り急ぎ書中にてご回答申しあげます。敬具
「拝啓」と「敬具」の類義語
「拝啓」と「敬具」は活用範囲の広い一般的な頭語と結語ですが、他にも同じ意味をもつ頭語や結語がたくさんあります。いつもと変化をつけたいときに使ってみてもよいかもしれません。ただし、奇をてらいすぎてあまりなじみのない言葉をわざわざ選ぶ必要はないでしょう。
「拝啓」の類義語
「拝啓」の類語は「拝呈」と「啓上」です。どちらも相手への経緯を表しています。
拝呈
「拝呈」は、相手を敬って謹んでお贈りするという謙譲語です。
啓上
「啓上」は、言うの謙譲語で、申し上げるという意味です。
「敬具」の類義語
「敬具」の類義語は、「拝具」です。
拝具
「拝具」は、つつしんで申しあげましたという意味です。
手紙で使われる結語に「かしこ」があります。これは、頭語の種類に関わらず女性が万能に使える結語とされていますが、縦書きの手書きのプライベートな手紙でいっそう美しさが引き立ちます。ビジネス文書では不釣り合いのため、使うことは避けましょう。
英文でメールと手紙を書くときの「拝啓」と「敬具」
英語には敬語がないと思われがちですが、ビジネスシーンで利用される丁寧な表現があります。英語でも拝啓と敬具にあたる言葉があるため、英文レターでは相手に合わせて適宜使い分ける必要があるでしょう。
頭語
頭語にあたるのは英語では「敬辞」と呼ばれ、「Dear ~」から始めるのが一般的です。
名前がわかっている場合
Dear Ms / Mrs. ○○:
と敬称とラストネームを使いましょう。
名前がわからない場合
Dear Sir / Madam:
が無難です。
個人宛ではなく部署宛などの場合
Dear Customer:、Dear Client:
などを使います。
結語
結語にあたる「結辞」には、「Sincerely,」ですが、よりフォーマルにしたいなら
Yours truly,(英国)、Sincerely yours,(米国)
があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は拝啓について解説しました。
ビジネス文書や手紙は、ある程度決められた形式があります。特にビジネス文書では個性を出す必要はなく、ルールやマナーに沿った無難な文章が適しています。とはいっても難しく考える必要はなく、過去にやり取りした文例や、ビジネス文書の例文などを参考にしたりすることでさまざまに応用可能です。その際は、拝啓と敬具、前略には草々など、頭語と結語の関係を間違えないように気をつけましょう。
最後に「拝啓」のまとめです。
- 「拝啓」は一般的によく使われる定型の言葉です。手紙の最後には「敬具」を使います。
- 「拝啓」の役割は、相手を敬って「つつしんで申しあげます」と、礼儀としてひとこと添えてから用件につなげるという、冒頭の挨拶の役割をもつものです。「敬具」の役割は、「つつしんで申しあげました」という結びの挨拶の役割です。
- それぞれの頭語に相応しい結語があります。
- 「拝啓」と「敬具」を使うビジネス文書や手紙を作成する際は、TPOに応じた使い分けや書き分けが必要です。電子メールに限っては、頭語と結語、時候の挨拶などは不要です。
- 「拝啓」の類語は「拝呈」「啓上」です。「敬具」の類義語は「拝具」があります。
- 英語での頭語にあたるのは「敬辞」と呼ばれ、「Dear ~」から始めるのが一般的です。結語にあたる「結辞」には、「Sincerely,」ですが、よりフォーマルにしたいなら「Yours truly,(英国)、Sincerely yours,(米国)」があります。