「いたしました」と「致しました」の違いは、 「いたしました」は補助動詞、「致しました」は動詞という点です。この記事では 「いたしました」「致しました」それぞれの意味や使い方、言い換え表現について解説します。
正しい意味を理解し、使い分けできるように覚えておきましょう。
「いたしました」と「致しました」の意味とは?
「いたしました」と「致しました」は、話すときは同じ言葉ですが、違う意味を表す場合があります。頻繁に使う言葉ですので、間違えて恥ずかしい思いをしないように、違いをしっかり覚えておきましょう。
「いたしました」の意味
ひらがなで「いたしました」と書くときは、前にくる言葉の補足として「~しました」の意味を表します。補助動詞「する」の謙譲語Ⅱ(丁重語)「いたす」がもとになっています。「いたす」に敬語表現「ます」を付け、過去形にした言葉が「いたしました」です。
「致しました」の意味
漢字で「致しました」と書くときは、下記の「致す」の意味がもとになっています。
- 思いがそこまで届くようにする。
- 全力で力を尽くす。心を尽くす。
- そのことが原因となってよくない結果を引き起こす。
- 動詞「する」の謙譲語Ⅱ(丁重語)。
この「致す」を敬語表現にし、過去形にしたのが「致しました」です。
「いたしました」と「致しました」の違いは?
話すときには気にしていなくても、文章で「いたしました」と書くときに、ひらがなで書くか漢字で書くか迷うことはありませんか?意味や文法の違いを理解していれば、使い分けは難しくありません。公用文におけるルールにも触れながら説明しますので、状況に応じて正しく使い分けができるようにしましょう。
補助動詞で使う場合は「いたしました」
補助動詞の「する」として使う場合は、ひらがなで「いたしました」と表します。
補助動詞は、前に位置する動詞の意味を補足する役割をしており、本来の「する」という漢字の意味は失われている、もしくは薄れてしまっている言葉です。
「よろしくお願いいたします」のように、補助動詞として「いたします」を使用する場合は、ひらがな表記と覚えておきましょう。なぜひらがなで書くかというと、公用文では補助動詞をひらがなで書くという原則があるからです。
公用文とは官公庁・公共団体などの正式書類のことで、誤解を生じにくい表記方法が定められています。そのためビジネスシーンでも、公用文にならったわかりやすい表記を行うことが多いのです。
動詞で使う場合は「致しました」
下記のように、動詞の「致しました」は漢字で表記しましょう。
- 「彼の努力に思いを致す」など、思いが達するさまや至らせるという意味。
- 「不徳の致すところです」のような、よくない結果を引き起こすなどの意味。
- 「私が致します」のように、動詞の「する」を表す意味で使う場合。
「いたしました」の言い変え表現
「いたしました」の言い換えにはどんな表現があるでしょうか?下記2つの言葉を紹介します。
- しました
- させていただきました
「いたしました」との違いもお伝えします。文の言い回しを変えるときに便利ですので覚えておきましょう。
言い換え:~しました
「いたしました」の言い換えとして、「しました」があります。「いたしました」は「する」の謙譲語Ⅱ(丁重語)「いたす」の過去形ですが、「しました」は「する」の丁寧語「します」の過去形です。
謙譲語Ⅱ(丁重語)と丁寧語の違いは下記のとおりです。
謙譲語Ⅱ(丁重語)
自分の行為などを丁重に伝えることで、話や文章の相手に対して敬意を払う言葉
丁寧語
自分と相手の行為のどちらにも使え、広くさまざまな内容を丁寧に述べるときに使う言葉
丁寧語「しました」は「いたしました」と違い、相手の行為にも使える言葉です。言い換えやすく便利な言葉ですが、謙譲語Ⅱ(丁重語)のほうが丁寧語よりも改まった言葉であるため、より敬意を表現したいときには「いたしました」を使うとよいでしょう。
言い換え:~させていただきました
「させていただきました」は「いたしました」と言い換えられる言葉です。
「させていただきました」は「する」の謙譲語Ⅰ「させていただく」ですが、「いたす」との違いは、謙譲語Ⅰが向かう先に対する敬語、謙譲語Ⅱ(丁重語)が話や文章の相手に対する敬語であることです。
「確認させていただきました」と表現する場合は、確認する相手を立てて話すことになりますし、「確認いたしました」と表現する場合は、話や文章の相手に対して丁重に敬意を払う表現になります。
また「させていただく」という表現は、相手や第三者の許可をもらって行う内容で、かつ、そのことで何かしらの恩恵を受ける場合に使う言葉です。そのため条件を満たすときには使用できますが、それ以外の場合は誤用のため使用できません。
例えば「説明いたしました」を「説明させていただきました」と言い換えたいと思ったときは、だれに対して敬意を払うのかという点と共に、説明することで自分に利益や恩恵があり、相手の許可を得て説明したかを考えると、言い換え可能か判断できるでしょう。
「いたしました」と「致しました」は正しい敬語表現?
「いたしました」や「致しました」は目上の方に対して使える謙譲語
「いたしました」や「致しました」は謙譲語で、正しい敬語表現です。
話や文章の相手を敬う表現ですので目上の方に使用しても問題ないでしょう。ただし、謙譲語ですので自分の行為などに使う点や、同じ種類の敬語を重複して使う二重敬語にならないよう、気を付ける必要があります。
二重敬語に気を付けよう
二重敬語とは1つの言葉について同じ種類の敬語を二重に使ったものをいい、冗長でかえって失礼になるため、避けるべきとされています。
「いたしました」のもととなる「いたす」は、敬語の分類では謙譲語Ⅱ(丁重語)ですが、「お(ご)~いたす」の使い方では謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ両方の性質があるため、二重敬語にならないよう注意して使いましょう。
例えば「お伺いいたします」は、謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱの「お(ご)~いたす」+謙譲語Ⅰの「伺う」+丁寧語の「ます」に分類できますので、謙譲語Ⅰが2つ使われている二重敬語です。
しかし、「お伺いする」や「お伺いいたす」の表現は、文部科学省の文化審議会答申「敬語の指針」で、習慣として定着している二重敬語の例に挙げられており、許容されている二重敬語といえるでしょう。
また「拝見いたします」は、謙譲語Ⅰの「拝見する」+謙譲語Ⅱ(丁重語)の「いたす」+丁寧語の「ます」に分類できますので、二重敬語には該当しないと考えられます。
しかし「いたす」に両方の性質があることから二重敬語だとする説もあり、相手によっては避けた方がよい敬語表現でしょう。
「いたしましたか?」「了承いたしました」は誤用
相手に状態を尋ねるときに「どうかいたしましたか?」と聞くのは誤りです。
「いたしました」は「する」の謙譲語Ⅱ(丁重語)です。先程『謙譲語Ⅱ(丁重語)は自分の行為などを相手に対して丁重に伝えるときに使う敬語表現』と説明しました。そのため、相手の状態を尋ねる場合には使えません。
「どうかしましたか?」と相手の状態を敬語で尋ねたいときは、「する」の尊敬語である「なさる・される」を用いて「どうかなさいましたか?・どうかされましたか?」と表現しましょう。
また、「了解いたしました」「承知いたしました」のように、目上の方に「了承いたしました」と使うのは避けた方が良いでしょう。「了承」は一般的に目上の人や上司が承諾する、という意味で使われるためです。
「いたしました」と「致しました」の使い方と例文集
「いたしました」と「致しました」の使い方と注意点、例文を紹介します。使いやすい敬語表現ですが、間違えた使い方をすると失礼な印象を与えてしまいます。気を付けるポイントを押さえておきましょう。
「いたしました」と「致しました」の使い方
「いたしました」や「致しました」は自分の行為を、話や文章の相手に対して丁重に伝え敬意を表現できる言葉です。
謙譲語Ⅱ(丁重語)に分類される言葉は、文章表現だけではなく、会議の発表などのかしこまった場やフォーマルなシーンでも使えます。聞き手や読み手に対する敬意を払う言葉ですので、話の中に上手に取り入れましょう。
「いたしました」と「致しました」を使用するときの注意点
補助動詞「いたしました」は区切りや文末に使いやすい敬語のため、一文の中で重複して使わないよう注意しましょう。
「確認いたしましたので、よろしくお願いいたします」のように「いたします」が連続してしまうと、文法的に誤りではなくても読みづらい印象を与えてしまいます。その場合は「確認しましたので、よろしくお願いいたします」や「確認いたしましたので、よろしくお願い申し上げます」のように、上手に言い換えましょう。
また、謙譲語「いたす」は、自分や身内の行為を伝える言葉です。相手の行為や状態に使うと失礼に当たりますので気を付けましょう。
「いたしました」を使った例文
「いたしました」を使った例文を紹介します。
- この度は大変お手数をおかけいたしました。
- お時間変更の件、承知いたしました。
- 先日ご依頼いただいた件につきまして、ご連絡いたしました。
- ご注文いただいたお荷物を、お届けいたしました。
「致しました」を使った例文
「致しました」を使った例文を紹介します。
- 先方へのお電話は、私が致しました。
- 春らしい香りが致しました。
- 風邪をひいてしまったためマスクを致しました。
- 弊社と致しましては、このような決定となりました。
- 致し方ないことでございます(致し方ない=仕方ないの改まった言いかた)。
また、意味は異なりますが「致す」を使った例文もいくつか紹介いたします。
- 先人の努力に思いを致す(そこまで届かせる)。
- 私の不徳の致す(そのことが原因でよくない結果を引き起こす)ところです。
- 研究に力を致し(全力で行う、心を尽くす)たい。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は「いたしました」と「致しました」の違いについて解説しました。
「いたしました」は、ビジネスで頻繁に使用する言葉です。文章で書くときに迷わず使い分けできるように、意味の違いや判別方法を覚えておきましょう。
「いたしました」は文末に重複してしまうことがあるため、言い換えの言葉を覚えておくと日常的に役立てられますよ。言葉のバリエーションを増やして語彙力アップを目指しましょう。
最後に「いたしました」と「致しました」の違いのまとめです。
- 「いたしました」と「致しました」の違いは、 「いたしました」は補助動詞、「致しました」は動詞という点です。
- 「いたしました」の意味は「~しました」です。
- 「致しました」は動詞「する」の謙譲語Ⅱ、「全力で力を尽くす」などの意味があります。
- 「いたしました」の言い換えは「しました」「させていただきました」です。
- 「いたしました」や「致しました」は目上の方に対して使える謙譲語で正しい敬語表現です。
- 補助動詞「いたしました」は区切りや文末に使いやすい敬語のため、一文の中で重複して使わないよう注意しましょう。