皆さんは、時代劇などで使われる「くるしゅうない」の意味をご存じでしょうか。この記事では「くるしゅうない」についてのさまざまな疑問について徹底的に解説しています。最後まで読んで一緒に「くるしゅうない」という言葉について理解を深めましょう!
「くるしゅうない」の意味とは?
くるしゅうないの意味は、現代の言葉でいうと「支障はない」や「構わぬ」などに当てはまります。かつてこの言葉は身分の高い者が身分の低い者に使う言葉でした。
現代の日本とは違い、昔の日本は家柄や職業で身分が決められていたため上下関係が明確です。特に時代劇でよく題材とされる江戸幕府には「身分制度」が確立され、最も身分が高い者が武士、続いて農民、職人、商人といった支配階級が存在しました。そのため武士に対して失礼な態度をとった者は、問答無用で成敗されることもあります。
また身分は生まれ持ったもの。親が農民なら子も農民、親が武士なら子も武士と、身分は個人の努力でどうにかなるものではありません。
このように身分の上の者に対して出来るだけ無礼にならないよう、距離を置いて接することが敬意だとされていたのです。実はこの言葉は江戸時代よりも前の鎌倉時代から使われていました。つまり日本は身分制度が確立される前から社会的地位の格差があった、ということです。
このような背景から「くるしゅうない」は身分の高い者から低い者へかける言葉として使われ、たったこの一言で「そんなにかしこまらなくても構わないよ、支障はないよ」という意味があるわけです。
「くるしゅうない」語源・由来
くるしゅうないは、主に上下関係が厳しい時代で身分の上の者から下の者へ許しを与える際に用いられました。語源は「苦しくない」の音の変化といわれています。くるしゅうないと同じ音の変化でできた言葉として、嬉しゅう、楽しゅう、新しゅうなどがあります。したがって、漢字では「苦しゅうない」と表記します。
「くるしゅうない」の類義語
くるしゅうないの類義語として、以下の2つが挙げられます。
- ご苦労さま
- 大儀であった
「ご苦労さま」はビジネスでもよく聞く言葉ですね。一方、「大儀であった」はあまり日常会話では耳にしません。大儀は「厄介なこと」や「面倒」という意味があります。要するに、「面倒をかけたな」ということになり、他人をねぎらう時に使う「ご苦労さま」とほぼ同じ意味になります。
では、くるしゅうないとその類義語では言葉の意味にどんな違いがあるのでしょうか。
「ご苦労さま」も身分の上の者から下の者へかける言葉です。また国語辞書などでは「目上の人に使うのは失礼である」と記されています。そもそも「労わる」といった行為自体が、弱い立場にある者に同情の気持ちを表すもの。したがって、「ご苦労さま」はくるしゅうないの類語とされているわけです。
「くるしゅうない」と「ご苦労さま」の違い
くるしゅうないの意味は「構わない」です。一方、ご苦労さまは相手の苦労をねぎらって使う言葉。こうして並べてみると、2つは全く違う言葉のように思えます。しかし、上の者から下の者へかける言葉としては同じと言えるでしょう。
しかし、「ご苦労さま」は明治初期までは目下の者から目上の者に対して使われていました。つまり、現代の意味とは逆の意味で使われていたわけです。言葉の意味は時代と共に変わっていきます。昔の日本であれば、「くるしゅうない」と「ご苦労さま」は全く逆の意味で使われていたかもしれません。
「くるしゅうない」の使い方・例文
くるしゅうないの使い方として単体で使われることもありますが、ほとんどはくるしゅうないの後に別な言葉をつなげて使います。では、くるしゅうないの後にどんな言葉をつなげて使うのでしょうか。
「くるしゅうない」の使用例文
くるしゅうないの後に続く言葉として以下が挙げられます。
- よきにはからえ
- ちこうよれ
- おもてをあげい
それでは1つずつ解説していきましょう。
「よきにはからえ」
よきにはからえは「適切に処理しなさい」という意味です。漢字では「良きに計らえ」と表記します。分解して解説すると「良き」はそのままの意味で「良い」ですね。「計らえ」は「適切に処理する」という意味の他に「計画を立てる」「物事を決める」があります。
要するに、くるしゅうない、よきにはからえ。は「構わず、あなたの好きなように計画してください」となります。
「ちこうよれ」
ちこうよれは「近くに来なさい」という意味です。漢字では「近う寄れ」と表記します。かつて、身分の上の者が身分の下の者に向かって「距離を置く必要はない(近くに来ても構わない)」という意味で使われていました。最初に解説しましたが、これは当時距離を置いて接することが敬意だとされていたことにあります。
まとめると、くるしゅうない、ちこうよれ。は「身分などを気にせず、近くに来なさい」となるわけです。
「おもてをあげい」
おもてをあげいは「顔を上げなさい」や「前を向きなさい」という意味です。漢字では「面を上げい」と表記します。当時、身分の下の者がの身分の上の者を直視することはありえないことでした。
つまり、くるしゅうない、おもてをあげい。は「顔を上げても(前を向いても)差し支えない」となるわけです。しかし実際のところ、上の者からおもてをあげるように声をかけられても、下の者は座礼のまま頭を上げることはほとんどありません。
現代における「くるしゅうない」の使い方
現代では、くるしゅうないのような武士が使う言葉を「武士語(もののふご)」と呼び、友人など親しい間柄でジョークとして使われています。日常生活で使えそうな武士語として、以下が挙げられます。
- ~ござる
- お主(相手のことを指した言い方)
- かたじけない
- けしからん
もちろん、先ほど紹介した「よきにはからえ」なども武士語に含まれます。ただし「よきにはからえ」は使う際に注意が必要です。例えば、友人などに待ち合わせの場所・時間を任せるといったシチュエーションで用いた場合、「よきにはからえ」はどうしても上から目線なニュアンスになります。人によっては「なんかエラそうだな」と不快に思うこともあるので、安易に使わない方がよいでしょう。
「くるしゅうない」の英語表現
皆さんは英語翻訳字幕を付けて時代劇を観たことがありますか?日本人で使う人は少ないと思いますが、DVDなら時代劇でも英語字幕を付けられます。これは通常の洋画でも言えることですが、英語を日本語へ翻訳すると微妙に意味やニュアンスが変わります。その逆も同じです。
では、今回の本題である「くるしゅうない」を英語に訳すとどうなるのでしょうか。
「くるしゅうない」の英語訳
くるしゅうないを英会話で使われる表現に訳すと以下のようになります。
- no problem(=問題ない)
- no objection(=異議なし)
- it doesn’t matter(=構わない)
他にも「Don’t be reserved(=遠慮しなくていい)」という表現もあります。
「くるしゅうない」の英語例文
先ほど解説した中から3つピックアップしました。
- Don’t be reserved
- It doesn’t matter
- No problem
では上記の順番で解説します。
「Don’t be reserved」
まず1つは、Don’t be reservedです。be reservedにはさまざまな意味がありますが、その1つに「遠慮する」があります。それをDon’tで否定しているので「遠慮しないで」となるわけです。またreserveには「控えめな」という意味もあり、自分の考えや感情を表に出さない人の性格を指します。
つまり、「自分の考えや感情を表に出してもよいよ」というニュアンスがDon’t be reservedには含まれているわけです。
「It doesn’t matter」
次に、It doesn’t matterです。matterは考慮すべき案件・問題という意味があります。それをDoesn’t で否定しているので「考慮すべき問題はない」つまり、「別にいいよ(問題ないよ)」といった意味になります。
英会話でIt doesn’t matterは「大した問題ではない」のカジュアルな言い回しとして使われますが、言われた人からすると「じゃあ、ちょっと問題があったの?」と頭に来る人もいるので、使う相手には十分注意しましょう。
「No problem」
最後は、No problemです。こちらは英会話でもよく使われる表現ですので、聞いたことがある人も多いかと思います。基本的には「どういたしまして」のように、感謝に対する返事として使います。意味は「問題ない」ですが、身分の上の者が身分の下の者へ言う「くるしゅうない」よりは、少しカジュアルな感じがしますね。
まとめ
- くるしゅうないは身分の上の者が身分の下の者へ掛ける言葉である
- 「苦しゅう」「苦しい」の音の変化である
- くるしゅうないに続く言葉はよきにはからえ、ちこうよれ、おもてをあげいなどがある
- くるしゅうないを英語に訳すとNo problem、It doesn’t matter、Don’t be reservedなどがある
くるしゅうないのような古風な言い回しを現代では武士語(もののふご)と呼び、仲の良い人たちでジョークとして使われることもあります。しかし、安易に使うと不快に思う人もいるのできちんと相手を見極めて使うようにしましょう。
また、記事内でも解説した「ちこうよれ」や「おもてをあげい」なども、英語訳でどんな表現になっているのか?予想しながら英語字幕付きで時代劇を見るのも楽しいかもしれませんよ。