あなたの周りには、バリバリ仕事をこなす人やあちこちから声がかかる人気者はいますか?必要とされていたり、誘う人が多いことを「引く手あまた」という慣用句で表現します。この記事では、「引く手あまた」の意味や語源、類語表現などを解説します。
「引く手あまた」の意味とは
「引く手あまた」とは、「引き合いが多いこと」や「多くの人に誘われている様子」を表す慣用表現です。そのため、「周囲から高評価を受けている」状態を示す言葉としても用いられます。高い功績を残した人の人気が上昇し、仕事の依頼が増えることを表す際に「引く手あまた」という言葉を使用します。
1つの動詞と2つの名詞から成る言葉
「引く手あまた」という言葉は、「引く」という動詞と「手」、「あまた」という2つの名詞で成り立っています。それぞれの言葉の意味から「引く手あまた」の成り立ちについて解説します。
引く
「引く」という言葉は、一般的に「物の端を持って近くに寄せる」という意味で使われます。もともとは「弓を引く」ことを表した漢字でしたが、意味が転じて人を登用する意味として使われるようになりました。
手
「手」は身体の一部ですが、比喩表現として「行動を起こす人」という意味を表し、「聞き手」や「売り手」といった使われ方があります。このことから、「引く手」は「誘う人」を表す表現として使用されるのです。
あまた
「あまた」という言葉は「たくさんの」という意味を持っており、漢字で「数多」と書きます。「あまた」の「あま」は、豊富に行き渡る意味を示す言葉です。「数え切れないほど多い」ことを表現する言葉として「あまた」が使われるようになったようです。
「引く手あまた」の語源・由来
「引く手あまた」の語源は、平安時代に編纂された「古今和歌集」にまでさかのぼります。全20巻の古今和歌集には、千を超える歌が収録されています。その中にある歌の一つに、「引く手あまた」の語源となる歌が書かれているのです。
古今和歌集の歌が語源
「引く手あまた」の語源となっているのは、とある女性が平安時代を代表する歌人「在原業平」に向けた詠んだ「大幣(おおぬさ)の引く手数多になりぬれば思へどえこそ頼まざりけれ」という和歌。大幣とはお祓いの際に使うもので、人々が大幣に引き寄せられることをたとえて「あなたは大幣のように多くの人から誘われていますね。あなたのことが好きで慕っていますが、頼りにできません。」という意味が込められています。「在原業平」はプレイボーイだったようで、多くの女性と関係を持っていることを女性はよく思っていなかったのですね。
この歌の返歌とは
この歌には、「在原業平」からの返歌があります。女性に対して「大幣と名にこそ立てれ流れてもつひに寄る瀬はありてふものを」と詠んでいます。「大幣のようだと名が知れているようですね。しかし、川に流される大幣にも最後にたどり着く場所があるのです。」という意味が込められています。多くの女性から誘われている事実を認めたうえで、最終的にはあなたのもとへ戻りますよ、と口説いている様子が伺えます。
「引く手あまた」の類義語・言い換え表現
「多くの人に誘われ、必要とされている」様子を表す言葉は多数存在します。ここでは、よく使われる「引く手あまた」の類語表現や言い換え表現を解説します。
引っ張りだこ
「引っ張りだこ」とは、「多くの人が自分側に引き入れようとすること」を意味します。タコの干物を作る際に、8本の足を広げて干した形に由来しています。昔は、磔の刑に処される罪人を表す言葉として使われていました。
需要が高い
「需要が高い」という言葉は、「需要」と「高い」の2つの語句に分けられます。「需要」は「必要とされていること」、「求められていること」を表す言葉ですので、多くの人から求められ必要とされていることを表す表現として使用されます。
猫の手も借りたい
「猫の手も借りたい」には、「ネズミを捕獲すること以外に役に立たない猫であっても、その手を借りたいと思うほど忙しい」という意味があります。「引く手あまた」と同じような意味を持ちますが、「多くの人から必要とされている」というよりは「一人でも多くの手伝いがほしい」という意味がありますので、相手を評価する言葉としては使用できません。
モテモテ
恋愛における「引く手あまた」な状態を表す言葉には「モテモテ」が使われます。「異性から非常に人気がある」という意味があり、高待遇を受けたりもてはやされたりします。語源となった古今和歌集に出てくる「在原業平」も女性からモテモテでしたね。「モテモテ」は俗語表現ですので、かしこまった場面では使用しないように気をつけましょう。
ニーズ
ビジネスシーンにおいて必要とされていることを「ニーズ」といいます。「引く手あまた」と同じ意味で使われるため、「彼はこの部署で引く手あまただ」という言葉は「彼はこの部署でニーズがある」と言い換えられます。
「引く手あまた」の対義語・反対語
「引く手あまた」は「多くの人に誘われること」を意味しますので、反対語としては「まったく人気がない」ことを示します。具体的には、次のような表現が当てはまります。
鳴かず飛ばず
「鳴かず飛ばず」には、「活躍することなく人々から忘れられている様子」という意味があります。仕事やスポーツなどで活躍できず、パッとしない状態を表しています。「引く手あまた」という言葉からは、多くの人から必要とされ活躍している様子が伺えますので、対義語としてふさわしい言葉といえます。
閑古鳥が鳴く
「閑古鳥が鳴く」には、「誰もおらずひっそりと静まり返っている様子」という意味があります。「閑古鳥」は「カッコウ」の別称で、カッコウの鳴き声が響き渡るほど静かな様子を言い表し「閑古鳥が鳴く」という表現が生まれました。また、カッコウの鳴き声にはどこか物寂しさを感じることも、この表現が生まれた理由の一つでもあるでしょう。
うだつが上がらない
「うだつが上がらない」には、「金銭的に恵まれた状態にならない、出世がなかなかできない」という意味があります。「うだつ」とは隣り合った町家の間に建てられる防火壁のことで、裕福な家庭では装飾を凝らした立派なうだつを上げるようになったことで、生活の質が向上しないことを「うだつが上がらない」と表現するようになったそうです。多くの人から高い評価を受ける「引く手あまた」とは反対の意味になります。
見向きもされない
「見向きもされない」とは、「まったく注目されない」という意味があります。恋愛面においても、相手にアプローチして無反応である状態を「見向きもされなかった」と表現します。「引く手あまた」な人は、周りからの注目度が高く誘われることが多いので、「見向きもされない」人は反対の存在であることがわかります。
「引く手あまた」な人の特徴
あなたの周りにも、いつも誰かに必要とされている「引く手あまた」な人はいませんか?「引く手あまた」な人は、多くの人から必要とされる行動や振る舞いをしています。「引く手あまた」な人の特徴を知ることで、あなたも必要とされる人材になれるかもしれませんよ。
いつも元気で明るい
いつも元気で活発な人と一緒に過ごすだけで気持ちが明るくなりますよね。「引く手あまた」な人は、その明るさと活発さから周りの人も幸せな気持ちにするため自然と人が集まってきます。「引く手あまた」な人になるには、明るく笑顔で過ごすことを心がけるとよいでしょう。
優しく心が広い
人を選ばず優しく接する人は、周りの人から好かれます。上司や部下からの評判も高くなり、いざというときに相談されたり仕事を頼まれやすくなるため「引き手あまた」な人になります。
気遣いができる
周りを見て空気を読む人も「引く手あまた」といえます。職場の環境や仕事の進捗状況、相手の表情などから最善の道を選び抜く力があります。状況に合わせた行動を取れる人は、周りを気遣いながら仕事をすすめるためトラブルに巻き込まれにくく、「引く手あまた」な人材となるのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は引く手あまたについて解説しました。
「引く手あまた」とは、多くの人から誘われ必要とされている状態を表す言葉です。「引く手あまた」な人は平安時代から存在しており、その様子が和歌にも記されています。いつも元気で明るく、気遣いができる人が「引く手あまた」な人の特徴といえますので、もっと必要とされたいと思う人は明るく過ごすところから始めてみてはいかがでしょうか。
最後に「引く手あまた」のまとめです。
- 「引く手あまた」とは、「引き合いが多いこと」や「多くの人に誘われている様子」を表す慣用表現です。そのため、「周囲から高評価を受けている」状態を示す言葉としても用いられます。
- 「引く手あまた」の語源は、平安時代に編纂された「古今和歌集」です。
- 「引く手あまた」の類語表現は「引っ張りだこ」「需要が高い」「猫の手も借りたい」「モテモテ」「ニーズ」です。
- 「引く手あまた」の対義語は「鳴かず飛ばず」「閑古鳥が鳴く」「うだつが上がらない」「見向きもされない」です。