「貶す(けなす)」は「人や物の欠点を取り上げて非難すること」です。「貶す(けなす)」は「とぼす」や「すかす」などのように、誤った読み方をしがちな動詞の1つです。この記事では「貶す(けなす)」の意味や、漢字の由来・類語・対義語、使い方や例文、英語表現などをまとめて紹介します。
「貶す」の意味とは?
はじめに、「貶す」の正しい意味を知って、言葉の理解を深めていきましょう。
「貶す」の読み方は「とぼす」ではなく「けなす」
「貶す」は「けなす」と読みます。「乏(とぼ)しい」と読む部首があることから、「とぼす」や「すかす」、「くさす」などの読み間違いをしないように注意しましょう。よって、「人を貶(けな)す」という読みが正しく、「人をとぼす」という表現は誤りとなります。「貶」の訓読みはほかにも、「貶(おと)す」や「貶(おとし)める」、「貶(さげす)む」、「貶(しりぞ)ける」などがあります。
「貶す」は「短所を取り上げて非難する」の意味
「貶す」は「人や物の欠点を取り上げて非難すること」です。相手の言動を低く評価したり、それが無価値なものであるとあからさまに言ったりすることを意味します。悪い部分のみを指摘するため、どうしてもネガティブな印象がつきまとう言葉です。
参考:goo辞書「貶す」
「貶す」と間違いやすい「とぼす」って?
「貶す」を誤った読み方である「とぼす」のまま、覚えてしまっている方が少なくありません。そもそも、「とぼす」とはどんな意味を持つ言葉なのか、違いを明確にしておきましょう。
「とぼす」の漢字表記は「点(灯)す」
「とぼす」を漢字で表すと「点す」や「灯す」となります。その意味は、「灯火をつけること」で、「ともす」のやや古い言い方や方言に当たります。「行燈(あんどん)をとぼす」などの使い方が一般的ですが、古くは男女が交わることも「交合(とぼす)」や「犯(とぼ)す」と表記していました。
羅生門の「火をとぼす」の表現方法について
芥川龍之介の著作「羅生門」では、「火をとぼす」または「火をともす」という類似した表現方法が見られます。以下に、該当する文章を2箇所引用しています。
1.それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。
2.この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。
これらの間に一文が挟まっているものの、「火をとぼして」の直後に「火をともして」という表記揺れのような方法が取られています。表現の重複を避ける目的があったのか、あえてバラつきを持たせているのかは、読者の意見が別れているところです。
「貶す」の由来・語源
「貶す」の「貶」のうち、貝偏はお金を意味する部首です。一方、旁(つくり)の「乏」は、立ち止まる足の姿を表した文字で、「とどまる」や「足りない」などを意味しています。これらを合わせると「財貨が足りなくなること」といった由来となり、お金がない者を見下すことから「けなす」や「おとしめる」などの意味も持つようになりました。「貶」の一字に、「財産や金銭が不足していて生活が苦しい」という語源が成り立つため、動詞として数多く派生していったと見られています。
「貶す」の類義語・言い換え表現
本項では、「貶す」の類義語を紹介します。いずれも、「悪意を持って他者を非難すること」が共通点となっています。
類語1「腐す(くさす)」
「腐す」とは、「欠点を取り上げて悪く評すること」です。本来の「腐らせる」のほかに、「相手の気持ちを損なわせる」といった意味を持っています。「腐」という漢字には、「古くなったもの」や「悩ませるもの」などの意が含まれており、物や心の状態を示すさまざまな言葉に繋がっています。
類語2「扱き下ろす(こきおろす)」
「扱き下ろす」とは、「必要以上に欠点を並べ立てて、手厳しく言うこと」です。そのほかにも「しごいて落とす」や「汚れをこすって落とす」などの意味もあります。使い方としては、「老害と揶揄されているあの大作家が、彼の作品を散々に扱き下ろした」などが挙げられます。
類語3「謗る(そしる)」「誹謗(ひぼう)する」
「謗る」とは、「悪意を込めて他人の言動を非難すること」です。「誹謗する」もこれと同じ意味の動詞として使われています。「謗」という漢字には「うらむ」や「のろう」の意があり、悪口や憎まれ口などの非難する言葉に使われるようになりました。「謗る」は一般的に、「他人にどんなに謗られようとも、私は自分の信念を変えるつもりはない」などの使い方をします。
類語4「誹毀(ひき)する」
「誹毀する」とは、「他人の悪事や醜行を暴いて、公然と名誉を傷つけること」です。旧刑法上の罪名である誹毀罪もこれと同じ意味で、現行の名誉毀損罪に相当します。そのほか、「誹毀する」は単に「悪口をいうこと」の意味でも用いられます。一般的な使い方としては、「ある団体を誹毀する記事を掲載したことで、関係者たちが出版社に押しかけてきた」などが挙げられます。
類語5「讒謗(ざんぼう)する」
「讒謗する」とは、「事実でないことも交えながら人を悪いものとして扱うこと」です。「罵詈讒謗(ばりざんぼう)」という四字熟語を形成していますが、こちらは「大声でありもしないことを含めて口汚くののしること」を意味しています。例えば、「政治家が謝罪の言葉を口にした途端、あらゆる方向から罵詈讒謗が飛んできた」のような使い方をします。
「貶す」の対義語
類義語に加え、「貶す」の反対となる語句もセットで覚えておきましょう。
「貶す」の対義語は「誉(褒)める」
「貶す」の対を成す言葉は、「誉(褒)める」や「称える」、「おだてる」、「持ち上げる」などです。
「褒める」は優れた行いや物事を良く言うのに対して、「誉める」は「栄誉」などに表されるように、おもに実績をほめたたえる際に用いられます。なお、「誉」の字は常用外漢字となるため、一般的に使用するのは「褒」の字で問題ありません。また対義語の後者2つは、相手を得意にさせて、ある行動を起こさせようと計らう様をいいます。
「貶す」の英語表現
「貶す」を英語で表すと、以下のようになります。
- dispraise(~を貶す、悪く言う)
- disparage(~を見くびる、軽んじる)
- abuse(~を罵る、暴言を吐く)
- belittle(~を軽く扱う、貶す)
例えば、「speak in dispraise of~(~を貶す)」などの形で文章に表せます。
「貶す」の使い方と例文集
最後は言葉の実践編です。実際に、「貶す」を使う際の注意点と文章のサンプルをお見せします。正しい使い方ができるように、具体的な状況やイメージを掴むようにしてください。
「貶す」の正しい使い方
「貶す」は相手を悪く言うことであり、「人を貶す」などの使い方をします。逆に他人ではなく、「自分を貶す」という表現をすることもできます。あるいは、人の言動が及ぶあらゆる物事に対しても用いられる言葉です。しかしながら、「貶す」という行為自体のイメージが良くなく、第三者が使う場合でも相手にショックを与えてしまうおそれがあります。自分が当事者でない場合でも、誰かにとってマイナスにならないかどうか確かめてから使用するように注意しましょう。
「貶す」の正しい使い方
「貶す」を使った文章の例は、以下を参考にしてください。
- 生徒が教師を貶すとは、本来ならば許されないことだ。
- 温厚な父親もあそこまで貶されては、さすがに黙っていなかった。
- 子飼いの部下に貶されて、かの上司は苛立ちを隠せずにいる。
- 私の厳しい忠告は、彼を貶すためのものではなかったが、彼は違った方向に受け取ったらしい。
- 彼女は幼少の頃から、のろまのろまと同級生に貶されてきた。
貶す(けなす)と貶める(おとしめる)の違い
「貶す」と「貶める」の意味の違い
「貶す」の意味は、相手の悪口を言うこと。
「貶める」の意味は、様々な手段で相手の社会的地位を低下させようとすること。
という違いがあります。
「貶す」と「貶める」の使い方の違い
- 彼はすぐ人を貶す。
- 他人を貶す人とは友だちになりたくない。
- 虚偽の申告で他人を貶めることは犯罪です。
- 他人を貶めるような人とは仲良くできない。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は「貶す(けなす)」の意味や、漢字の由来・類語・対義語、使い方や例文、英語表現について解説しました。
最後に「貶す(けなす)」のまとめです。
- 「貶す」は「人や物の欠点を取り上げて非難すること」です。相手の言動を低く評価したり、それが無価値なものであるとあからさまに言ったりすることを意味します。
- 「貶す」は「けなす」と読みます。「乏(とぼ)しい」と読む部首があることから、「とぼす」や「すかす」、「くさす」などの読み間違いをしないように注意しましょう。よって、「人を貶(けな)す」という読みが正しく、「人をとぼす」という表現は誤りとなります。「貶」の訓読みはほかにも、「貶(おと)す」や「貶(おとし)める」、「貶(さげす)む」、「貶(しりぞ)ける」などがあります。
- 「貶す」と間違いやすい「とぼす」の違いは、「とぼす」を漢字で表すと「点す」や「灯す」となります。
- 「貶す」の由来・語源は、「貶す」の「貶」のうち、貝偏はお金を意味する部首です。一方、旁(つくり)の「乏」は、立ち止まる足の姿を表した文字で、「とどまる」や「足りない」などを意味しています。これらを合わせると「財貨が足りなくなること」といった由来となり、お金がない者を見下すことから「けなす」や「おとしめる」などの意味も持つようになりました。
- 「貶す」の類義語は、「腐す(くさす)」、「扱き下ろす(こきおろす)」、「謗る(そしる)」、「誹謗(ひぼう)する」、「誹毀(ひき)する」、「讒謗(ざんぼう)する」などがあります。
- 「貶す」の対義語は、「誉(褒)める」です。
- 「貶す」の英語表現は、「dispraise(~を貶す、悪く言う)」、「disparage(~を見くびる、軽んじる)」、「abuse(~を罵る、暴言を吐く)」、「belittle(~を軽く扱う、貶す)」です。
- 「貶す」と「貶める」の意味の違いは、「貶す」の意味は、相手の悪口を言うこと。「貶める」の意味は、様々な手段で相手の社会的地位を低下させようとすること。です。