俳諧の理念である「不易流行」という言葉をご存知ですか?それは芸術に限らず、ビジネスや教育にも通じるような、真理をついた四字熟語であるといえます。本記事では、「不易流行」の極意に迫りながら、意味や由来、類語、例文などを一挙に見ていきます。
「不易流行」の意味とは?
はじめに、俳諧の本質的な理念とされる「不易流行」について、その言葉の意味を解説します。
「不易流行」の読み方
「不易流行」は「ふえきりゅうこう」と読みます。読み書きの際は、誤った「不益」などの漢字を当てないように注意しましょう。
「不易流行」は「不易と流行は根本において同じもの」の意
「不易流行」は、「いつまでも変化のない不易性と、変化を続けていく流行性は同じくらい大切である」という意味になります。言い換えれば、「不易の本質は、新風を追い求めて変化を重ねる流行性にこそある(その逆もしかり)」となり、伝統を重んじながら新しいものを取り入れていくことの大切さを説いた言葉といえます。またいっそう端的に、「新しさを追求していくことこそが、不変の本質なのである」と解釈してもいいでしょう。これらは今日、ビジネスや教育の現場でも掲げられている精神論そのものです。基本を大切にしながら、変化を恐れずに柔軟に対応していくこと、そのバランス感覚が求められていると考えられます。
「不易流行」は芸術のあるべき姿を説く言葉
この四字熟語は蕉風俳諧の理念の1つであり、松尾芭蕉の宇宙論や創作論の真髄とされています。「不易」は時を超えても不変的な芸術の精神を、「流行」は時代とともに変化する革新性を謳ったものです。これらは美の本質としては同じであり、芸術などを追求する姿勢の根底に無くてはならないものだと説いています。古代のシンボル画にウロボロスという“尾を飲み込む蛇”の姿がありますが、そこでは自己の消失と再生が繰り返されているといいます。伝統と革新を重んじる「不易流行」の真理も永劫回帰であることから、両者の根源は実際のところ同じなのかもしれません。
「不易流行」の由来・語源
ここでは、「不易流行」の由来となった俳諧の概念や教えを紹介します。
「不易流行」の由来は「去来抄」から
俳諧論書の「去来抄」には、俳句の心構えが収められています。そこでは「不易流行」についての記述が、基礎的な概念として語られているのが特徴です。例えば、「蕉門に、千歳不易の句、一時流行の句といふあり。是を二つに分けて教え給へる、其の元は一つなり」という説明書きがあります。これを訳すと、「千年変わらない句と、一時流行の句というのがある。これらを二つに分けて教えたが、その根本は一つである」となります。すなわち、ここでも「不易」と「流行」は結局のところ同じ概念であることを説いているのです。
「不易」と「流行」の漢字語源
「不易」は時が過ぎても変わらないこと、「流行」は一時的に世間に広まることを意味する熟語です。これらは相反する言葉ですが、前述したように根本的には同一であるという逆説的な考え方ができます。「不易」のうち「易」の語源は諸説ありますが、太陽と月が変化するように陰陽の移り変わりを表しているとされています。そのため、「不易」はそれ自体が不変であることや、変えないものを意味する熟語となります。一方、「流行」は「物事が川の流れのように分かれて世間に広まる様子」を示す言葉です。一時的にもてはやされるような服装や思想、行動形式などに用いられますが、変えていかなければならないものもそこに含まれているといえるでしょう。
「不易流行」の類義語・対義語
ここでは、「不易流行」の類義語と対義語について触れていきます。「不易流行」は独自性の高い言葉のため、各々の言葉の間にニュアンスの違いがあることに留意してください。
「不易流行」の類語は厳密には存在しない?
「不易流行」は四字熟語の中に、独自の概念が込められているため、全く同じ意味の類語は存在しません。「不易流行」が持ついずれかの意味に近い言葉ならある、というのが現状です。「不易流行」を言い換える際は、「流動性こそ本質である」という概念ではなく、「不易=いつまでも変わらないこと」に寄った言葉を探すといいでしょう。
「不易流行」と「万代不易」
「万代不易」とは、「いつまでも変わらないこと」を意味する言葉です。「万代」には「よろず」の漢字があるように、「すべての期間」を指しています。「不易流行」もいつまでも変わらないことが真髄であるため、「万代不易」は一方の意味を満たしていると考えられます。「万代不易」は、「万代不易の真理ゆえに、利己的な行いが彼の身を滅ぼした」などのように使います。
「不易流行」と「温故知新」の違い
「温故知新」とは、「昔のことをよく研究して、そこから新しい知見を得ること」の意で使われます。これらは、論語の「故きを温(たず)ねて新しきを知る」を拠り所としています。「不易流行」が「(普遍性を維持するために)新しいものを取り入れる大切さ」を説いているのに対し、「温故知新」は「(斬新さを出すために)古いものを学ぶ必要性」を体現している言葉です。「温故知新」は、「温故知新の精神に則って、中学生の教科書を一からやり直した」などの使い方をします。
「不易流行」の対義語は「一時流行」
「不易流行」の対を成す四字熟語で、最も適切なのが「一時流行」です。「一時流行」も俳諧を源流とする言葉で、「常に新しさを求めて変化を重ねていくこと」を意味しています。「不易流行」が本質的な美を追求することなのに対して、「一時流行」は好みや時代に左右される一時的な新しさを示しています。
「不易流行」を英語でいうと?
「不易流行」に近い英語としては、次のような表現が考えられます。
・unchangeability(不変性)
・unchangingness(不変の)
・changelessness(不変、不易流行)
・the idea of immutability(不変的な考え)
また、文章の中で「不易流行」を説明する場合は、以下の例文を参考にしてください。
[例文]in ‘Bashyo’-style haiku, the idea of immutability(「不易流行」という松尾芭蕉の理念)
「不易流行」の使い方と例文集
実際に、「不易流行」がどのような文脈の中で使われるのか、例文とともに使い方をご紹介します。
「不易流行」の正しい使い方
不易流行は創作分野に限らず、会社の経営論の中でもよく用いられる言葉です。「不易」に当てはまるのが企業理念や会社の使命であり、「流行」は時代とともに移り変わる価値観や行動指針などが該当します。会社が取り扱う製品にも「不易流行」の真理が適用されやすく、言葉の使い所としては適切です。むしろ、人間活動のほとんどすべてに「不易流行」の真髄を見られますが、殊に無から有を作り出す作業においては鉄則といえます。
「不易流行」を使用するときの注意点
「不易流行」を座右の銘に挙げる人は数多く、自己PRなどの中でも頻繁に見られる言葉です。が、もとは俳諧理念に由来する四字熟語であるため、会話をわかりやすく円滑にする点では不十分となる場合があります。「新しさを追求していくことが、自分自身の本質を変えないことに繋がる」という相反性を証明できるかどうか、今一度考えてみる必要があるかもしれません。
「不易流行」の例文集
「不易流行」を使った文章例は次のようになります。
- 叔父は、「不易流行」の精神で会社を一から立て直すことに成功した。
- あの都市は「不易流行」を体現しているからこそ、日本式かつモダンな様相を呈している。
- 不易流行であることが、必ずしも現状の打開策になるとは限らない。
まとめ
「不易流行」は、いつの時代も変わらぬことと、その時々に合わせて変えていくことは、いずれも本質的であると説いています。俳句の世界でも基本を抑えることと、従来の型を変えることは、どちらも美の本質であることに他なりません。「不易流行」の逆説性に学び、新たな行動指針を持ちつつも、大切な部分は変わらないように励んでいきたいものですね。