「及び」と「並びに」はとてもよく似ています。ふだんはあまり意識しないですんでいても、契約書や法律の言葉となると厳密な使い分けがあります。具体的な例を挙げながら、2つの言葉を使いこなせるように解説します。
「及び」と「並びに」の意味とは?
「及び」と「並びに」は両方ともいくつかのものを並べて提示する際に用いられます。よく似たこの2つの言葉を、まず、意味的なところから見てみましょう。
「及び」
「及」は、ある所まで達すること、を意味する文字で、「及び」となると、「何かが追い付いてくること」という意味になります。つまりAに対してBが追い付いてきている、同等の立場になっていることをA「及び」Bというわけです。単純に2つ以上の同じような内容をつなぐときに用いられます。
「並びに」
「並」は、対等の関係にあること、並び立っていること、を意味する文字です。「並びに」は読んで字のごとく、2つのものが同等であることを意味します。「並びに」は基本的には2つの物の間の対等な関係を表しています。
参照:Weblio辞書「及び」
「及び」と「並びに」の使い方と違い
ほとんど違いのないような「及び」と「並びに」ですので、2つのものをただ並べていうときには「A及びB」といっても「A並びにB」といっても特に問題にはなりません。しかし厳密には使い方にはルールがあり、特に2つを併せて使う場合には注意が必要です。
「及び」の使い方
一般的に良く用いられるのが「及び」であり、2つ以上のものを並べるときにどちらを使うか迷ったら「及び」を使うと覚えておいてよいでしょう。気をつけなければならないのは、3つ以上のものを並べて使うときです。「A及びB及びC」という使い方はしません。「A、B及びC」というように読点を伴って使います。たくさんのものを並べていうときは、最後の2つの間にのみ「及び」を使い、それ以外は読点でつなぎます。
「並びに」の使い方
「並びに」も2つの物をつなぐのですが、「及び」に比べてその物の類別に着目する場合に用います。例えばジャガイモと牛肉をつなげて表現する際に、一般的には、ジャガイモ「及び」牛肉、と表現して差し支えありません。しかしジャガイモは野菜の仲間、牛肉は食肉の仲間、のようにそれぞれの類別に着目するなら、ジャガイモ「並びに」牛肉、と表現することになります。ただこうした類別をニュアンスとして伝える必要があるケースはまれです。したがって、類別などを気にしないで使える「及び」が用いられることが多いのです。
2つ同時に使う場合の順番と使い方の違い
「及び」と「並びに」を同時に使う場合は厳密な使い分けがあります。「及び」の方が羅列的、「並びに」の方が類別的に使われることから、まず「及び」で似通ったものを結合し、そうしてできたグループごとをつなぐのに「並びに」を用いるという使い方になります。つまり、まず「及び」を使い、「及び」でつながれたもの同士を「並びに」でつなぐのです。例として、ジャガイモ、ニンジン、鶏肉、豚肉、牛肉をつないでみましょう。ジャガイモとニンジンは野菜ですから、ジャガイモ及びニンジン、とつなげます。鶏肉、豚肉、牛肉は3つとも肉ですから、鶏肉、豚肉及び牛肉、となります。この野菜と肉のグループ同士を「並びに」でつなぐので、「ジャガイモ及びニンジン、並びに鶏肉、豚肉及び牛肉」と表します。
「及び」と「並びに」の法律や公文書・契約書での使い方
日常的には「及び」の方がちょっと使いやすい程度のことですが、こと法律や公文書、契約書での使い方となると厳密なルールがあります。基本的には「及び」を用い、「並びに」だけが単独で使われることは絶対にありません。
単層的な並列では「及び」
つなげて並べるものが多数に及んでも、それが互いに並列していて単層的なものであれば「及び」でつなぎます。この際、3つ以上をつなぐ場合は読点を用い、「及び」は最後の2つの結合にのみ用います。「委員会には、委員長、副委員長、委員及び監査役を置く」や、「付帯設備は、駐車場、庭、外構、外階段及び私道を設ける」のように使われます。
複層的な並列ではかっこも使う
つなげて並べるものに明らかなグループ分けがあり複層的な場合は、「及び」でつながれたグループ同士を結び付けるためにのみ「並びに」を用います。例えば「取締役は、法令及び定款、並びに株主総会の決議を遵守し…」と表されるのは、法令と定款という規則に関するグループと株主総会の決議という議決事項に関するグループに分かれているからです。
さらに複雑なグループ構造がある場合もあります。例えば3つの構造をもつ例を見てみます。「合同委員会(理事、外部理事及び委員、並びに監事及び監査事務)並びに専門部会は…」のような場合、最も小さな理事や外部理事、委員といったグループを「及び」で接合し、そのグループを「並びに」で結合したグループを合同委員会としてかっこでまとめ、これと専門部会をさらに接合するために「並びに」でつなぐ、という3段階の構造があります。
「及び」と「並びに」の英語表現
英語の場合、日本語のように結合状態の階層性を示すような表記はありません。基本的にはすべてが並列表記されるため、文脈や内容からその結びつきを判断しなければなりません。
and
英語では一般的にandで並列な接合状態を示します。
Name,address and Nationallity.
「氏名、住所及び国籍」という意味になります。ニュアンス的なことにはなりますが、これを「氏名及び住所、並びに国籍」という意味合いにすると次のようになります。
Name and address ,and Nationality.
氏名、住所、国籍を均質に並べるのではなく、氏名と住所の階層と、それに並列する階層として国籍を置くことをカンマによって表現しているわけです。英語の場合は、日本語ほど厳密に階層性を表現できません。
as well as
この表現は、並列表現というよりは比較表現であり、A as well as Bは、AはBと同じくらいだ、という表現になります。
the pronunciation of letters as well as the production of utterances
「文字の発音及び発声の提示」という意味ですが、andで接続するよりも、どちらも大切だ、というような評価が加わっているのがポイントです。
「及び」「並びに」の類義語と間違いやすい言葉
「及び」や「並びに」と同じように公文書や法律用語として使われる言葉に「かつ」や「又は」「若しくは」があります。「かつ」は「両方とも」という意味で、「及び」と同義の言葉です。「かつ」は「迅速にかつ丁寧に」のように動作を表す言葉などに使い、名詞には使わない(ジャガイモかつニンジン、とはいわない)のが特徴です。「又は」「若しくは」は意味的には「及び」「並びに」とは違うのですが、その使われ方がよく似ています。
「又は」「若しくは」
「又は」や「若しくは」が「及び」や「並びに」と似ているのは、いくつかのものを接続して表すときに使われるという点です。ただし、A又はB、というときは、AとBのどちらか一方という意味で、「両方とも」いう意味にはなりません。「若しくは」も同様で、並べられたものから1つを選ぶという意味になります。
公用文でのルール
「又は」と「若しくは」も、公用文などでの使用ルールは「及び」と「並びに」によく似ています。つまり、使用の順番が決められているのです。基本的には「又は」を使用します。「若しくは」が単独で用いられることはありません。しかし、3つ以上のものを接続する場合で、階層性があるときは、より小さなグループ間で「若しくは」を使い、より大きなグループ間で「又は」を使います。単独で使用する「及び」よりも単独使用しない「並びに」の方が大きなグループ間で使われていたのとは逆になっている点に注意が必要です。
「又は」でも「及び」でもいい場合がある
法令用語などでは「又は」と「及び」のどちらでも同じ意味になるときがあります。「どちらか1つ」と「両方とも」が同じ意味になるとは不思議ですね。
市長及び町村長は選挙で選ばれる。
この文の「及び」を「又は」に変えても意味は変わりません。市長と町村長はもともと同時に存在することはあり得ないので、「両方とも」といっても実際にはどちらか一方になってしまうからです。このような場合は、法令等の性格上から適切なものを選ぶことになっていますが、多くの場合は「又は」が使われます。
まとめ
「及び」と「並びに」は日常的な使い方としてはほぼ同義です。入れ替えて使ったとしても誤解を招いたりすることはないでしょう。しかし、公的な文書や契約書、法律などでは明確に区別して使われているわけですから、その階層性や使い分けなどについてきちんと理解しておくことは重要です。ビジネスシーンで正しく使い分けられることで、プロとしての評価がぐっと上がることは間違いありません。