「謹啓」や「拝啓」という表現を目にしたことはありますか?ビジネスシーンにおいて使われる言葉であるため、「謹啓」と「拝啓」の使い分けを知っておくと役に立ちます。今回は「謹啓」と「拝啓」の意味や使い方の違いや類語、英語表現についても紹介します。
「謹啓」の意味とは?
ここでは「謹啓」という言葉の意味を詳しく解説します。日常生活においてはあまり目にする言葉ではないため、その使い方は一般的には詳しく知られていません。この言葉にどのような意味やニュアンスがあるのか詳しく見ていきましょう。
「謹んで申し上げます」
「謹啓」は「謹んで申し上げます。」という意味の言葉です。手紙の書き出しの挨拶文として用いよくられており、「拝啓」よりもかしこまったニュアンスを持ちます。「謹啓」を用いる場合も、「拝啓」を用いる場合もその後の文章や内容は特に変わりはありません。結語は「謹白」や「謹言」などが用いられます。
参照:Weblio辞書「謹啓」
元々は「朝廷宛ての文書」で使われていた表現
「謹啓」という言葉は元はといえば朝廷宛の文書で用いられていた表現でした。その昔、朝廷宛ての文章には漢文が用いられており、そのころから「謹啓」という挨拶文が用いられていました。この名残が現代にも残って、「謹啓」を文章の冒頭に置くことが決まりとなり、「謹言」や「謹白」といった結語と共に用いられるようになったのです。
「謹啓」の読み方
「謹啓」は「きんけい」と読みます。「謹」は「つつしむ」という意味を持ち、「言動を注意してかしこまること」や「細かく気を配る」という意味を持つ漢字です。また、「啓」は「わからないことを教える」ことや、「申し上げる」という意味を持つ漢字で、「謹啓」の「啓」は申し上げるという意味で使われています。これらの「謹」と「啓」の漢字の意味が組み合わさって「謹んで申し上げる」という意味が成り立っています。
「謹啓」の類義語・言い替え
ここでは「謹啓」の類語や言い替え表現について紹介します。似た意味の言葉を理解することで、ボキャブラリーを増やすことにつながります。
「慶賀」
「慶賀」とは、「喜び祝うこと」や「お礼を伝えること」という意味を持つ言葉です。「慶」という漢字は「喜んでお祝いする」という意味があり、「賀」も同様に「喜ぶこと」や「言祝ぐこと」という意味があります。つまりこの熟語は同じ意味の言葉が組み合わさって成り立っているといえます。 似たような意味を持つ漢字に「喜」「祝」「欣」などが挙げられます。
「謹賀」
「謹賀」は「謹んで慶びを申し上げる」という意味を持ちます。「謹」という漢字は「つつしむ」というニュアンスが含まれ、「賀」には喜ぶという意味が含まれており、「謹」と「賀」が組み合わさって「謹賀」という熟語が成り立っています。最も有名な例として「謹賀新年」という使い方が挙げられます。この言葉の意味は「新年になりましたことを謹んで喜び申し上げます」という意味になります。このように何気なく使われている言葉も、その意味合いを深掘りしてみるとより深く言葉を理解できるようになります。
「謹啓」と「拝啓」の違い
「謹啓」と「拝啓」の違いについて紹介します。どちらも頭語として使われる言葉であり、その使い分けの判断基準を理解することで迷いがなくなります。正しい使い分け方を身につけておきましょう。
「拝啓」の方が敬意を払っている度合いが強い
「謹啓」と「拝啓」はそもそも言葉の意味は同じです。その違いが現れるのは相手に対する敬意の表し方の度合いになります。一般的に「謹啓」の方が「拝啓」よりも相手に多くの敬意を払っていることになります。これら2つの頭語はビジネスシーンにおいてはメールなどでよく用いられます。「謹啓」と「拝啓」の使い分けの基準は、特に高い敬意を表すべきだと判断した相手に対しては「謹啓」を用い、そうでないと判断した場合は「拝啓」を用いた方がよいでしょう。具体的には位が2つ以上上の上司や、新しくかかわりを持った取引先などには「謹啓」を用いることが多いです。
「拝啓」の結語は「敬具」
「謹啓」を用いているときの結び後は「謹言」や「謹白」でしたが、「拝啓」を頭語に用いているときの結び語は何を用いればよいのでしょうか。一般的には「拝啓」の結語として「敬具」が用いられます。「拝啓」の「拝」はお辞儀をするという意味で「啓」は「謹啓」と同じく「申し上げる」という意味になるので、 「拝啓」はへりくだった態度を含ませながら申し上げるというニュアンスがあります。 また「敬具」の「敬」には相手を敬うという意味があり、「具」は詳しく申し立てるという意味があります。つまり「敬具」は、「相手のことを敬いつつ詳しく申し上げる」という意味合いを持ちます。
その他の「謹啓」と取り違えやすい言葉
「謹啓」と間違えやすい言葉について紹介します。フォーマルな手紙で用いられる頭語にはさまざまな種類があり、その意味や使い方を理解することは重要です。
「謹白」
「謹啓」と「謹白」は「謹」という漢字が共通していることからも、間違いやすい言葉となっています。これら2つの言葉の使い分けについて詳しく説明します。まず「謹啓」は頭語にのみ用いることが可能です。つまり文頭には使えますが、文章の最後の結語としては使えません。一方「謹白」は頭語、結語ともに用いることが可能です。これら2つの使い分けは非常に紛らわしいですが、一般常識として知っておくことに損はないでしょう。また、「謹啓」も「謹白」も意味は同じで「謹んで申し上げる」という意味があります。
「前略」
「謹啓」も「前略」も頭語の役割を果たす言葉になりますが、その使い分けには注意が必要です。「前略」という言葉の意味は「時候の挨拶を省略することをお許しください」という意味になります。つまりこの頭語は比較的打ち解けた関係や急な用事を伝えたいときに用いられる表現になります。また前略の結語は「草々」になります。頭語と結語の組み合わせも決まりがあるので、しっかり理解した上で使いこなしましょう。「前略」は目上の人や取引先に使うのは不適切であり、そのためビジネスシーンではあまり用いられる言葉ではありません。反対の見方をすれば、「謹啓」を頭語として用いる場合は時候の挨拶をつけることが必須になります。以上のことに気をつけて「謹啓」と「前略」を使い分けるようにしましょう。
「謹啓」を英語でいうと?
「謹啓」の英語表現について紹介します。英語においても手紙の中で始まりの言葉と締めの言葉の概念があります。「謹啓」と全く同じ意味を持つ英語表現はありませんが、似たような役割を果たす英単語について解説します。
「sincerely」
「sincerely」は手紙の締めくくりに用いられる表現です。日本の文化でいうと結語に用いられる表現で「謹白」や「敬白」などと近い意味を持つ言葉だといえます。「sincerely」の意味は「真心を込めて」という意味になり、ビジネスメールなどでよく使われる表現になります。
「Dear」
英語表現において「謹啓」と全く同じ役割を持つものは存在しませんが、近いはたらきをもつ言葉として「Dear」があげられます。宛名の前に「Dear」をつけることで、丁寧な表現になります。また先ほど紹介した「sincerely」を文の最後に用いることで、フォーマルな文章が完成します。
「謹啓」の使い方と例文集
最後に「謹啓」の使い方と例文について紹介します。正しい使い方を見つけることで自信を持って言葉を操れるようになります。
「謹啓」の使い方
「謹啓」を用いるタイミングは、あまり親しくない目上の人宛ての手紙に用いられることが多いです。目上の人であっても親睦を深めている仲である場合は、「謹啓」を用いるとフォーマルな印象が強すぎるため若干の違和感を生じてしまう可能性があります。また基本的には手紙でのやり取りに用いられ、メールでは使われないのが一般的です。「謹啓」の書き方として注意すべきポイントは、「本文の最初に書くこと」になります。
「謹啓」を使用するときの注意点
「謹啓」を頭語として用いた場合は、結語として「謹言」や「謹白」を用いるようにしましょう。「謹啓」の「結語」として「敬白」が用いられることもありますが、厳密には誤りとされています。ただ、「敬白」も一般的に広く浸透しているため用いても問題がないことは多いでしょう。しかしながら、言葉の使い方について厳密な人から指摘される可能性もあるため「謹言」や「謹白」を用いた方が無難であるといえます。結語の書き方のポイントとしては「本部の後に一行を開けてから書く」ようにしましょう。
「謹啓」の例文
「謹啓」を用いた例文を紹介します。「謹啓」は主に手紙で用いられる表現であるため、 手紙の例文としてそのフォーマット紹介します。
謹啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り厚くお礼申し上げます。
(ここに伝えたい内容を書きます)
略儀ながら まず書中をもちましてご挨拶申し上げます。
謹白
まとめ
「謹啓」とは「謹んで申し上げます」という意味の頭語として、手紙などの形式的な文章の中で用いられます。元々は朝廷あての文章の中で使われていた表現であり、歴史の長い言葉であるといえます。こういった言葉を上手に使いこなせることは、ビジネス上有利になるのでこのようなかしこまった表現をおさえておくとよいでしょう。