「意趣返し」という言葉、聞いたことはあっても、使ったことはないという方も多いのではないでしょうか?
今回は「意趣返し」の詳しい意味や、類義語である「仕返し」との違い、英語での表現などについて詳しく説明します。
「意趣返し」の意味とは?
「意趣返し(いしゅがえし)」の「意趣」には「恨み」「遺恨」という意味があります。「意趣返し」とは「恨み」「遺恨」を返すこと、つまり「恨みを返すこと」「ひどいことをしてきた相手に対して仕返しをすること」という意味になります。
「意趣返し」の語源・由来
「意趣返し」の「意趣」は、古代中国から来た言葉です。もともとは「恨み」「遺恨」という意味はなく、「心の趣」「考え」などの意味で使われていました。
日本に「意趣」という言葉が伝わったときには「理由」「原因」という意味で使用されていましたが、中世以降に「恨み」「遺恨」などの意味に転じたとされています。
「意趣返し」の類義語・言い換え
「意趣返し」と似た意味をもつ類義語には、どのようなものがあるでしょうか。いくつか紹介します。
報復
「報復(ほうふく)」も「意趣返し」と同じく「恨みを返すこと」「仕返し」という意味で使われる言葉です。国同士の争いなどで、何らかの攻撃を受けた国が、相手の国に仕返しをした場合などに「報復」という表現が使われます。
A国が起こした軍事行動に対して、B国は報復としてA国に経済制裁を加えた
復讐
「復讐 (ふくしゅう)」も「意趣返し」と同じく「仕返し」を意味します。「意趣返し」よりは日常的に使用され、耳にする機会が多い言葉ですね。
いじめをしてきた相手に復讐する
意趣晴らし
「意趣返し (いしゅばらし)」と同じく「仕返し」という意味をもつ言葉です。仕返しという行為自体のことも意味しますが、それに加えて「仕返しをすることで恨みを晴らす、気持ちを晴らす」といった、感情的な意味合いを含めた言葉でもあります。
約束を破られた意趣晴らしのために嫌がらせをする
仕返し
「仕返し (しかえし)」とは、「やり返すこと」という意味の言葉です。何らかの害を与えてきた相手に対し、やり返して対抗することをいいます。「意趣返し」と比べると、聞き馴染みのある言葉ですね。
無視された仕返しに小石を投げた
仇討ち
「仇討ち (あだうち)」とは、「意趣返し」と同じく「復讐」という意味をもつ言葉ですが、身内が何らかの害を被ったことに対して復讐する場合など、自分以外の人の恨みを晴らすための行為を指すことが多いです。殺意を含むこともある表現で、武士が台頭していた中世から近世によく使われていた言葉です。
母の仇討ちを果たす
「意趣返し」と「仕返し」の違い
非常によく似た言葉である「意趣返し」と「仕返し」ですが、その違いはどこにあるのでしょうか?それぞれの言葉がもつ細かなニュアンスや、どのような場面で使うのが適切なのかという点について解説します。
「仕返し」は日常的にもよく使われる表現
「仕返し」は、「いたずらされたから仕返しした」など、日常会話でも使われることが多い言葉です。それに対し「意趣返し」は、メディアや文学等で使用されることが多く、日常の会話で使われることはほとんどありません。「仕返し」は、子供同士の喧嘩やいたずら、仲間内での軽いいさかいなど、被った害が比較的小さな場面でやり返すことに対しても使える表現です。
「意趣返し」には「積年の恨みを晴らす」という意味が含まれる
「意趣返し」という言葉は「強い恨み」という感情的な背景がある場合に使われることが多い表現です。例えば、企業間での恨みごとや因縁、会社内での出世争いなど、大人同士の揉め事の中で「長年に渡り積もった恨みを返すこと」を表現する際に使われます。「仕返し」の方が意味する範囲が広く、「意趣返し」はその中の一部を意味する言葉です。
「意趣返し」の対義語
「意趣返し」の対義語にはどのような表現が考えられるでしょうか。「意趣返し」とは対照的に、相手にされたことに対してやり返さず許すという意味で、以下のような表現が対義語として挙げられます。
勘弁
「勘弁 (かんべん)」には、「他人の過ちや間違いを許すこと」「相手の過失を責めないこと」という意味があります。
今回だけは勘弁してやる
辛抱
「辛抱 (しんぼう)」には「耐えること」「我慢すること」という意味があります。腹の底では許したくないが、仕方がないので我慢するというニュアンスが含まれています。そのため、相手の行動を快く許すという場面の表現には適切ではありません。
腹が立ったが辛抱した
許容
「許容 (きょよう)」は「許し、受け入れること」を意味します。「意趣返し」は相手を恨み、やり返すことを指すのに対し、「許容」は相手の行動を受け入れ、容認してやるという意味をもちます。
相手の過ちを許容する
「意趣返し」の使い方と例文
これまで「意趣返し」の意味などについて解説してきました。実際にどのように使用すればよいのか、「意趣返し」を使った例文を見てみましょう。
- 長年に渡って同僚から受けてきた嫌がらせの意趣返しをする
- A国がB国との貿易に対して厳しい規制を設けたのは、B国に対する意趣返しだ
- A社はB社との契約を一方的に解除されたことに対して、意趣返しをしようと計画している
例文に挙げたように、年月をかけて蓄積された強い恨みを返す場合や、国家、企業間での問題が関わる場合に使われることが多いです。
「意趣返し」を英語で言うと?
ここでは「意趣返し」の英語表現について解説します。
get even with
「get even with」は、人にされたことに対して「仕返しをする」「復讐する」という意味で使われる言葉です。また、アメリカでは「借りを返す」という意味で使われることもあります。
I’ll get even with you.(仕返ししてやる)
retaliation
「retaliation」も同様に「人にされたことを相手にやり返すこと」という意味をもっています。「retaliation」と似たような意味をもつ言葉に「revenge(リベンジ)」という言葉があります。日本では「以前の試合で負けた相手にリベンジを果たす」など、強い恨みを含んでいない場合でも「リベンジ」という言葉が使われますが、英語の「revenge」は「殺意を抱くほどの強い恨みから、肉体的に相手を攻撃する」というニュアンスを含んでいるため、日常生活では「retaliation」の方が使われる頻度は高いです。
I have done this by the way of retaliation.(仕返しのためにこれをした)
「意趣返し」の誤った使い方
普段あまり使うことのない言葉だからこそ、誤った使い方をしないよう注意が必要です。「意趣返し」という言葉を使うにあたり、注意すべきポイントや間違いやすい使い方について解説します。
「意趣返し」に「皮肉」という意味はない
「意趣返し」を「皮肉」という意味で使う人がいるようですが、これは誤った使い方です。「意趣返し」には「皮肉」という意味はありません。皮肉を言ってきた相手に対して「意趣返し」をしたり、相手に「意趣返し」をする際に皮肉を含んだ言葉を使ったりする場合があるため、意味を混同しやすいようです。
しかし「意趣返し」は、皮肉のように遠回しに攻撃するのではなく、正々堂々と相手に立ち向かい復讐するときに使う言葉です。
「意趣返し」は小さな出来事に対しては使えない
子供同士の喧嘩や、小さないたずらに対する行動を表現する場合には「意趣返し」という言葉は適切ではありません。これまでにも解説してきたように、「意趣返し」には「積年の強い恨みを返すこと」という意味があるためです。このような場面では「意趣返し」よりも「仕返し」という言葉を使う方が適切です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は意趣返しについて解説しました。
最後に「意趣返し」のまとめです。
- 「意趣返し」とは「恨み」「遺恨」を返すこと、つまり「恨みを返すこと」「ひどいことをしてきた相手に対して仕返しをすること」という意味になります。
- 「意趣返し」の「意趣」は、古代中国から来た言葉です。
- 「意趣返し」の類義語は「報復」「復讐」「意趣晴らし」「仕返し」「仇討ち」です。
- 非常によく似た言葉である「意趣返し」と「仕返し」ですが、違いは「仕返し」は日常的にもよく使われる表現です。
- 「意趣返し」の対義語は「勘弁」「辛抱」「許容」です。
- 「意趣返し」を英語で言うと「get even with」「retaliation」です。
- 「意趣返し」の誤った使い方として、「意趣返し」に「皮肉」という意味はないこと、小さな出来事に対しては使えないことに注意しましょう。