「敬具」は、ビジネスシーンで「拝啓」とセットになってよく使われる言葉です。書類や手紙での使い方や、「拝啓」・「敬具」を含めた文章の構成を知っておきましょう。「拝啓」・「敬具」よりもくだけた類義語や英語表現も解説します。
「敬具」の読み方と意味は?
「敬具」は、「けいぐ」と読みます。「敬具」の「敬」は「つつしんで」、具は「整える」の意味です。すなわち「敬具」は、「つつしんで申しあげます」、「つつしんで文章をしめくくります」という意味になります。
参照:Weblio辞書「敬具」
「敬具」の語源・由来とは?
明治時代の作家・夏目漱石の小説『吾輩は猫である』には、「拝啓・敬具」がセットで用いられています。しかし、明治~大正時代の詩人・大町桂月の『書翰文作法』には、「普通、用を弁ずる手紙は、前に、拝啓か、粛啓かを用ゐて、後に、頓首ぐらいでも用ゐれば、それで十分と存候」※とあります。現代のように「拝啓・敬具」をセットで用いるようになったのは、大正時代ごろからと言われています。
「敬具」と「拝啓」の使い方や手紙・ビジネス文書の構成
「敬具」は「結語」と呼ばれ、手紙の書き終わりに使われる言葉です。「拝啓」は「頭語」と呼ばれ、手紙の書き出しに使われる言葉です。具体的な使い方を、手紙・ビジネス文書の構成例で見てみましょう。実際には相手先の所属や名前、自分の所属や名前、日付なども書きますが、ここでは拝啓から敬具までの部分の構成例を紹介します。「拝啓」と「敬具」の配置にも注目してみてください。
拝啓 新緑の候、貴社におかれましては、ますますご清栄のことと存じます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、先日ご依頼のありました当社製品のサンプルを下記のとおり送付いたします。ご査収のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。
貴社のますますのご発展を祈念いたしますとともに、今後ともご愛顧賜りますようお願い申し上げます。
敬具
「敬具」と「拝啓」を使うビジネスシーン
「敬具」と「拝啓」を使うビジネスシーンはどんな場合なのか、見ていきましょう。
「敬具」と「拝啓」はビジネスメールで使う?
「敬具」と「拝啓」は、通常のビジネスメールでは使いません。理由は以下の2点です。
- メールは、用件を簡潔にわかりやすく伝えるツールである
- 忙しい相手に用件以外の内容を長々書くと迷惑になる
ビジネスメールでは、「拝啓」などの頭語の代わりに「お世話になっております。」というあいさつを書くのが一般的です。ビジネスメールが、いくら簡潔に用件を伝えるツールだといっても、やはりいきなり用件を書くのは失礼にあたります。また、「敬具」などの結語の代わりには、「どうぞ、よろしくお願いいたします。」や「なにとぞ、よろしくお願い申し上げます。」と書きます。メールを送る相手や状況によって、このどちらかを使い分けるとよいでしょう。
「敬具」と「拝啓」は手紙やビジネス文書で使う
「敬具」と「拝啓」は手紙やビジネス文書で使う言葉です。ビジネスで手紙を書く機会は、以前と比較してかなり減りました。しかし、取引先に何かを送る際の送り状やお中元・お歳暮に添えるあいさつ状など、「敬具」と「拝啓」を使う機会はまだあります。
「敬具」と「拝啓」は気を遣う相手やフォーマルシーンで使う
「敬具」と「拝啓」は、基本的に取引先や上司、目上の人などの気を遣う相手やフォーマルシーンで使います。フォーマルシーンとは、少し改まってあいさつをするシーンです。新年のあいさつや着任、退職のあいさつなど、日頃頻繁にやりとりしている相手に対しても、節目の際には「敬具」と「拝啓」がふさわしいのです。
「拝啓・敬具」よりくだけた表現
「拝啓・敬具」では少し改まりすぎてふさわしくないシーンで使える、くだけた表現もあります。「前略・草々」や「前略・かしこ」などです。それぞれの表現の使い方を見ていきましょう。
「拝啓・敬具」よりくだけた表現「前略・草々」
「拝啓・敬具」よりくだけた表現に「前略・草々」があります。読み方は「ぜんりゃく・そうそう」です。「前略」も、「拝啓」と同様頭語です。「草々」は「前略」とセットで使われる結語です。「草々」の意味は、「簡略なさま」です。手紙の末尾に「草々」と書くのは「、簡略な走り書きで申し訳ない」というおわびの気持ちを表しています。「前略・草々」は、家族や友だちなどの親しい人にも使います。「前略・草々」を使う際には、先ほどの手紙・ビジネス文書の構成例の「新緑の候」といった時候のあいさつは省略します。
「拝啓・敬具」よりくだけた表現「前略・かしこ」
「拝啓・敬具」よりくだけた表現には、「前略・かしこ」もあります。「かしこ」の結語は、以前は男女どちらも使っていましたが、現代では女性のみが使う言葉とされています。「かしこ」は、漢字で表すと「畏」・「恐」・「賢」となりますが、結語として使う場合は「畏」が意味する「おそれ多く存じます」という言葉になります。「前略・かしこ」も、家族や友だちなどに使う言葉です。「前略・草々」と同様、時候のあいさつは省略します。
「敬具」の類義語・言い換え語
「敬具」の類義語・言い換え語「敬白」と「かしこ」を紹介します。
「敬具」の類義語「敬白」の意味と読み方・使い方
「敬具」の類義語には「敬白」があります。読み方は「けいはく」、「けいびゃく」、「けいひゃく」です。「敬白」は「謹啓」の頭語とセットで使われる結語です。「敬白」は、「うやまい謹んで申しあげる」の意味になります。「謹啓・敬白」は、「敬具・拝啓」よりも敬意の高い頭語・結語です。
「敬具」の類義語「かしこ」の意味と使い方
「敬具」の類義語には「かしこ」もあります。「かしこ」の言葉の意味は、「おそれ多く存じます」です。「前略・かしこ」はセットで使う言葉です。
「敬具」を使う際の注意点
「敬具」を使う際の注意点は、次のとおりです。それほど難しいルールではないので、覚えておきましょう。
- 「敬具」は、本文の最後の行に敬具だけを書く
- 「敬具」は、本文の最後の行の一番右端に寄せて書く
- 「敬具」は、必ず「拝啓」とセットで使う
- 「拝啓・敬具」は、通常のメールのやりとりには使わない
「拝啓・敬具」は、社内・社外を問わず通常のメールには使いません。なぜなら、メールはわかりやすく用件を伝えるためのツールだからです。さっと目を通してすぐに理解できることが大切なので、用件以外の内容は省くほうがお互いに親切なのです。
「敬具」の英語表現と使い方・例文
「敬具」の英語表現には、「Sincerely,」「 Sincerely yours,」「Kind regards,」「Best regards,」があります。それぞれの使い方を、例文で見ていきましょう。
「敬具」の英語表現「Sincerely,」・「 Sincerely yours,」の使い方・例文
「敬具」の英語表現「Sincerely,」「 Sincerely yours,」は、ビジネスシーンで使える結語です。意味は、「心をこめて」「本当に」「正直に」です。例文を紹介しましょう。
I’m looking forward to seeing you on next meeting.
Sincerely yours,
Scott
(次回の会合でお会いできるのを楽しみにしております。心を込めて、スコット)
「敬具」の英語表現「Kind regards,」の使い方・例文
「敬具」の英語表現「Kind regards,」は、ビジネスシーンでもプライベートシーンでも使える、便利な結語です。「regards,」は「敬意を込めて」という意味で使われます。それにKindがつくと、「優しさと敬意をこめて」という意味になります。例文は次のとおりです。
Please keep in touch.
Kind regards,
Emily
(今後ともよろしくお願いします。優しさと敬意をこめて、エミリー)
「敬具」の英語表現「Best regards,」の使い方・例文
「敬具」の英語表現「Best regards,」も英語の結語として鉄板の、ビジネスシーンでもプライベートシーンでも使える言葉です。「Kind regards,」よりも、もう少し改まったニュアンスになります。例文は次のとおりです。
If you have any questions, please don’t hesitate to contact me.
Best regards,
Susan
(ご不明な点があればいつでもお問い合わせください。最高の敬意をこめて、スーザン)
まとめ
「拝啓」と「敬具」は日常生活ではあまり使わない言葉ですが、フォーマルシーンでは定番のよく使う言葉です。ビジネスシーンでも使うことがありますので、文書の中での配置も含めて、使い方を身につけておきましょう。英語の結語は、紹介したほかにも非常に多くの種類がありますが、迷ったら「Kind regards,」と言われています。お願いやお礼、謝罪など、どんな状況のメールにも使える言葉です。また、改まり具合もほどほどなので、使う相手を選びません。英語のメールに慣れないうちは、「Kind regards,」を結語に使うとよいでしょう。