普段耳にすることの多い敬語の中で「させていただく」という言葉がありますが、使う場面に迷ったり違和感を覚えたりすることはありませんか?今回は「させていただく」について正しい使い方や注意点、言い換え方法を紹介します。
「させていただく」の意味とは?
思わず多用してしまう「させていただく」ですが、どんな意味を持ちどんな場面で使うのかしっかりと理解していますか?はじめに、「させていただく」の意味について見ていきましょう。
「させていただく」の意味
「させていただく」は相手の許しを得た上で自分の行為や動作を遠慮しながら行うという意味をもっています。
敬語のため、プライベートだけでなく「お電話させていただく」「出席させていただく」といったビジネスシーンでもよく使われます。
「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語
「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語です。謙譲語とは自分の立場を低くして相手の立場を高くする表現方法ですので、あくまで相手に許しを得てから行動を行うことを意識して使いましょう。
「させていただく」の正しい使い方と例文
「させていただく」は自分の立場を低くして「させてもらう」という意味で使うため、相手の許可がある場合と恩恵を受けているという事実や気持ちがある場合の条件のもと使用するのが正しい使い方です。
許可と恩恵、それぞれの条件のもとの正しい使い方と例文を見ていきましょう。
許可を受けたときに使う例文
条件の1つ目、許可を受けたときに使うとは、相手の許可をもらってから行動に移すことです。
例文として以下を見てみてください。
- スケジュールの確認をさせていただきます
- コピーさせていただいてよろしいでしょうか
どちらも相手の許可をもらわないと行動に移せないので、正しい使い方といえますね。
恩恵を受けたときに使う例文
条件の2つ目、恩恵を受けているという事実や気持ちがある場合は、以下の例文が挙げられます。
- 検討させていただきます(相手の申し出に対しよく考えることでいい判断ができる恩恵)
- 喜んでご一緒させていただきます(相手に敬意を示し役割を果たせる恩恵)
どちらも行為や動作をすることにより自分の果たしたい目的を達成できるという恩恵を受けているため、正しい使い方です。
「させていただく」の間違った使い方
正しい使い方には「許可」と「恩恵」が条件ですが、間違った使い方にはどのようなものがあるのでしょうか。間違った使い方について3つ挙げましたのでこれらを意識し、適切な場面で「させていただく」を使っていきましょう。
相手に迷惑をかけている場合は使わない
許可を得ず相手に迷惑をかける行為の場合、「させていただく」を使うと一方的で悪い印象ととらえられてしまうため使わないようにしましょう。
- 仕事を辞めさせていただきます。
- 早退させていただきます。
- 急で申し訳ありませんが欠勤させていただきます。
どれも相談無くに言われると礼儀知らずだと思われるため、まず「~させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」と許可を求める敬語を使いましょう。
役職を述べるときには使わない
自分の役職を述べる際、相手に許可を得る必要はないので「させていただく」と使うのは不適切です。
- 部長を務めさせていただいております。
- リーダーをやらせていただいております。
この場合、「務めています」「やっています」というのが正しい使い方です。役職に新しく就く際に「このたび部長をさせていただきます…」と使用するのは間違いではないのですが、以前から継続している役職の場合は使わないように注意しましょう。
二重敬語にしない
二重敬語とは、同じ種類の敬語を重ねて使う敬語で、例として以下の敬語は謙譲語を重ねる形となり間違った使い方です。
- 拝見させていただきます。(見るの謙譲語+させてもらうの謙譲語)
- 頂戴させていただきます。(もらうの謙譲語+させてもらうの謙譲語)
二重敬語は回りくどく聞こえます。この場合、「拝見いたします」「頂戴いたします」を使いましょう。
冗長的にしない
冗長的とは不必要に無駄が多くて長いことをいい、以下のように二重敬語を使わず文法的に間違いはないものの、回りくどく聞こえるため相手が不快に思う場合があるため注意が必要です。
- リーダーを務めさせていただきます。
- ご説明させていただきます。
相手への許可が必要ない場面であるにもかかわらず許可を取ろうとしているかのような言い方のため、回りくどいと感じられますね。この場合も「務めます」や「ご説明いたします」といったすっきりとした表現をしていきましょう。
「させていただく」の言い換えは「いたします」
間違った使い方でも出てきましたが、「させていただく」は「いたします」と言い換えられます。「いたします」について見ていきましょう。
「いたします」は「する」の謙譲語
「いたします」の「いたす」とは「する」の謙譲語で、「いたす」に丁寧語である「ます」をつけた表現です。「させていただく」と同じく自分が何か行為や動作をするときにへりくだり、相手を高く見せる効果があります。
「いたします」を使うときは許可や恩恵は必要ない
意味はほとんど同じ「させていただく」と「いたします」ですが、「いたします」の場合許可や恩恵を受けているという事実は必要ありません。「こちらから連絡いたします」「説明いたします」など相手への敬意を払いつつ自ら決めた行動を起こす場合に使えますので、場面によってうまく言い換えましょう。
「させていただく」を使うときの注意点
「させていただく」は許可や恩恵の条件のもと使うのが正しい使い方ですが、他にも注意点として漢字での表記はしない、使いすぎないといった注意点があります。
注意点1.漢字で「させて頂く」とは書かない
「させていただく」の「いただく」は補助動詞であり、漢字で「頂く」と書くと本動詞になってしまうためひらがなで書きましょう。
補助動詞とは直前の「させてもらう」に敬語の意味を加えるために置かれるもので、本動詞はそれ自体が意味を持っている動詞です。「させていただく」の「いただく」は行為や動作をさせてもらうことに対する補助の動詞であり、「頂く」と書くと「食べ物を頂く」など何かをもらうという本来の意味になるため、「させていただく」はひらがなで書くのが正解です。
注意点2.「させていただく症候群」にならない
「させていただく症候群」とは「させていただく」を多用することをいいます。
「させていただく」を付けておけば敬語として成り立つ、丁寧になるわけではありません。さきほどの冗長的にしない部分でも触れましたが、相手の許可が必要ない場面でも使ったり、意味や文法的に間違っていなくても「させていただく」を多用したりすると謙虚さがなくなり、結局何がいいたいのかわからくなってしまう場合もあるため、使いすぎには注意しましょう。
「サ入り表現」を避ける
「させていただく症候群」の方に多くみられるのが、不自然な「サ入り表現」です。サ入り表現とは言葉遣いを丁寧にしようとして過剰な敬語を使おうとした結果、不自然な「サ」が入ってしまう表現をいいます。
- 休まさせていただきます。
- 読まさせていただきます。
上記の例の場合、「休む」+「させてもらう」と分解し敬語に直し「休ませていただきます」に、「読む」+「させてもらう」と分解し敬語で「読ませていただく」とします。迷ったときには「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語だと言葉の意味を考えて使っていきましょう。
「させていただく」の英語表現
「させていただく」を英語で表現するとき、しっかりと当てはまるものはありません。しかし、以下の動詞を使うことで相手を高く見せる丁寧な気持ちを表わせます。
- allow me to~(~させてください。)
- let me~(私が~してあげよう。)
- I am happy to~(喜んで~させていただきます。)
この中で「させていただきます」に一番近いものは「allow me to~」で、書き言葉やフォーマルの場でも使われる表現です。ビジネスシーンにおいても使える表現のため、ぜひ覚えておきましょう。
まとめ
- 「させていただく」は「させてもらう」の謙譲語で、相手の許しを得た上で自分の行為や動作を遠慮しながら行うという意味をもつ
- 「させていただく」は相手の許可がある場合と、恩恵を受けているという事実や気持ちがあるという条件のもと使用するのが正しい使い方である
- 言い換え表現として適しているのは「いたします」で、「させていただく」と同じく相手の立場を高めつつ自分が何か行為や動作をするときに使うが、許可や恩恵は必要ない
- 「させていただく」の英語表現は「allow me to~」で、ビジネスシーンでも使用できる
「させていただく」は使いやすい反面、何にでも語尾として使用する「させていただく症候群」や間違った文法である「サ入り表現」になる場合もあり、注意が必要です。あまり多用すると謙虚さを失い相手が不快に思うこともありますので、使える場面をしっかりと確認し、適切に使っていきましょう。