社会現象にもなったアニメ、「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマのイメージが強い「テーゼ」ですが、ビジネスシーンで有用視されているのはご存知ですか?この記事では討論や思索の方法に役立つ「テーゼ」の意味と使い方を紹介します。
「テーゼ」の意味とは?
2021年3月8日に公開し、完結を迎えたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のテーマ曲の1つである『残酷な天使のテーゼ』の影響で、「テーゼ」を耳にしたことがあるでしょう。
「テーゼ」について調べたところ、以下のような意味があります。
命題・定立を意味する
「テーゼ」は命題・定立を意味します。定立とは「テーゼ」哲学用語で訳されたものであり、「あることをまたは、あるものの真理性を肯定的に主張すること」のことです。命題とは「客観的に正しいか正しくないかを判断できる物事」を意味します。
例をあげると、「日本人の主食は米である」といった主張が「テーゼ」にあたります。
「テーゼ」の語源・由来
「テーゼ」はカタカナですが、どこから来た言語なのでしょうか。その由来をみてみましょう。
ドイツ語の「These」が語源
「テーゼ」はドイツ語の「These」が語源です。英語が語源ではありません。ドイツの哲学者として有名なカントとヘーゲルが使っていた哲学用語がカタカナの日本語として定着したものといわれています。
「テーゼ」の対義語である「アンチテーゼ」とは?
「アンチテーゼ」もテーゼと同じ、ドイツ語の「antithese」が語源です。定立を意味する「テーゼ」に、敵対、対抗を意味する「アンチ」がついたものです。
先ほど紹介した「日本人の主食は米である」というテーゼに「日本人の主食はパンだ」となにかしら反論するのがアンチテーゼになります。特徴はただ単純に全否定をするわけではなく肯定意見をある程度認めた上で否定することです。
「テーゼ」をよりわかりやすくするための用語
「テーゼ」や「アンチテーゼ」は意味を知ることでビジネスシーンや日常生活で討論や思索を必要とする場面で有効です。
「アンチテーゼ」や「テーゼ」をより理解するために欠かせない言葉を以下で解説します。
弁証法
弁証法とは「正と反、対立する物事から新しい見解を見出す」方法のことです。弁証法の歴史はアリストテレスの「問答法」がはじまりとされています。現在は、ドイツの哲学者ヘーゲルによる弁証法が最も有名です。
ヘーゲルは「すべての物事・命題には必ずそれ自身の否定が含まれている」と指摘しました。そして、「正」「反」「合」の要素を考えていくことで成立します。「正」が「テーゼ」のことで、「反」が「アンチテーゼ」、そして「合」が後ほど説明する「ジンテーゼ」になります。
ヘーゲルの弁証法は以下の流れになります。
- ある主張がでてくる「正」
- その主張を否定、対立、矛盾する主張がでてくる「反」
- この「正」と「反」の主張を否定することなく、両者を組み合わせた新しい主張がでてくる「合」
アウフヘーベン
2017年の流行語大賞の候補になったので「アウフヘーベン」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。「アウフヘーベン」も「テーゼ」と同じくドイツ語で「Aufheben」と書き、AufとHebenに分けられます。Aufとは英語のonと同じ意味です。Hebenは「持ち上げる」という意味になります。
弁証法における「アウフヘーベン」は「正」と「反」でおさまらず、より高い次元へと歩んでいこうという考え方になります。これを止揚といいます。
例をあげると「あの名所は日本人が好きな紅葉を楽しめる名所だ」という「テーゼ」に「紅葉が嫌いな日本人がいる」という「アンチテーゼ」がありました。では「紅葉が嫌いな人が楽しめる名所はないの?」といった考え=アウフヘーベンとなります。
ジンテーゼ
「ジンテーゼ」とは弁証法における「合」にあたります。「正」と「反」を否定せず、「アウフヘーベン」した結果が「ジンテーゼ」です。
「日本人の主食は米である」という「テーゼ」に、「日本人の主食が米とは限らない」という「アンチテーゼ」がありました。それぞれの主張を「」アウフヘーベンさせたのが「日本人は米を主食にするひともいれば、パンを主食にする人もいる」となります。
「テーゼ」の類義語・言い換え表現
「テーゼ」の類義語は「命題」です。「命題」の意味として「客観的に正しいか正しくないかを判断できる物事」と説明しました。これをわかりやすく説明すると、「人間は肺呼吸である」という文章のことです。つまり、嘘か真実か判断できる文章のことです。
人間が肺呼吸であることは真実ですね。逆に「人間は宇宙で生活できる」というのは嘘になります。こうした判断をできる文章が「命題」です。
「テーゼ」の使い方と例文集
「テーゼ」という言葉は日常会話で使われることはまずないでしょう。議論や思索といった難しい話題をあつかうときに使われることが多いです。「テーゼ」という単語自体も使われる機会がほとんどないです。
そんな「テーゼ」についての使い方を紹介します。
「テーゼ」の使い方
「テーゼ」は「という」「主張する」のようなフレーズと一緒に使うことが多いです。「テーゼ」に沿って誰もがこうしたほうがよい、こうあるべきだというような共通の認識に基づいて議論を展開します。
例えば、「大企業に入社すれば安定だ」という「テーゼ」を主張します。その「テーゼ」に沿って「大企業に入社すれば安定」である証拠を集めていくよう展開することです。「アンチテーゼ」を展開する際もその証拠が必要になります。
弁証法を用いた「テーゼ」の使い方
続いて弁証法を用いた「テーゼ」の使い方です。弁証法には「正」と「反」があり、それらを統合して「合」となります。
「害虫や雑草を駆除するために農薬を作りたい」という「テーゼ」がありました。そこに「農薬の毒性により、人体に悪影響を及ぼす」といった「アンチテーゼ」が展開されます。そこで、「テーゼ」と「アンチテーゼ」の矛盾を「ジンテーゼ」で統合して、「害虫や雑草を駆除しつつ、人体への影響がない農薬を作ろう」という結論へと導きました。
弁証法で「テーゼ」を使う場合は「正」と「反」を統合し「合」になることです。
「アンチテーゼ」を使用するときの注意点
「アンチテーゼ」を使う際の注意点としては必ず、「テーゼ」があってこその「アンチテーゼ」ということです。
「真夏に合宿するのか一番強化につながる」といった主張があってはじめて「炎天下での練習は最悪命を落としかねない」の反対意見が生まれますよね。
否定的な意見はすべて「アンチテーゼ」と思われがちですが、肯定的な主張や命題があって、その主張の否定がアンチテーゼであることを忘れないようにしましょう。
「アウフヘーベン」の注意点
「アウフヘーベン」にも利用する際の注意点があります。具体例から説明すると「子どもはゲームをしたい」という「テーゼ」があります。しかし、「親は子どもにゲームではなく勉強をさせたい」という「アンチテーゼ」が出ました。このときに「勉強をする見返りとしてゲームをさせる」ことは「勉強をする状況に留めさせている」ので「アウフヘーベン」とはいえません。
このように「正」か「反」どちらかに強いる状態は「アウフヘーベン」といえないので注意が必要です。
「テーゼ」を用いた例文
「テーゼ」を用いた例文を紹介します。
- (テーゼ)「犬は可愛い動物だ。」(アンチテーゼ)「かわいいとはあくまで個人の主観であるもので、犬はかわいくないという人もいる。」
- (テーゼ)「女性は髪の長い方が愛されやすい。」(アンチテーゼ)「髪の長さが女性のステータスでないし、髪の短い女性の方が好みの人もいる。」
- (テーゼ)「車の売り上げをもっと伸ばしたい。」(アンチテーゼ)「車の売り上げが増えると環境破壊を促進させる。」(アウフヘーベン)「では売り上げを伸ばしつつ、環境を保全できないか。」(ジンテーゼ)「エコカーを売れば、売り上げを伸ばせるし、環境にやさしい。
「テーゼ」の英語での意味と例文集
「テーゼ」の語源はドイツ語でですが、英語表記になると「thesis」となり使用可能なことがわかります。ここで「thesis」はどのような意味をもち、どう使われるかを見ていきましょう。
英語での意味
英語の「thesis」もカタカナ語の「テーゼ」と同じく命題ですが、卒業論文、議題といった意味も含まれています。英語では「テーゼ」よりも「論文」といった意味で使われることが多いようです。
英語の例文
英語で「thesis」を使った例文は以下のようになります。
- Have you finished writing your thesis yet?(卒業論文書き終えたの?)
- We believe his thesis.(私たちは彼の主張を信じている。)
- According to this thesis(この場合には~)
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回はテーゼについて解説しました。
「テーゼ」とはドイツ語が語源で命題や定立を意味します。「テーゼ」という単語自体は使われることは殆どありません。ビジネスシーンや日常会話で議論や思索の時に「テーゼ」の意味を知っておくと役立つことが多いです。
「テーゼ」の対義語は「アンチテーゼ」といい、「テーゼ」に反対した主張のことです。
ヘーゲルの弁証法では「テーゼ」と「アンチテーゼ」を「アウフヘーベン」し、それぞれの主張を統合し「ジンテーゼ」が生まれます。
最後に「テーゼ」のまとめです。
- 「テーゼ」は命題・定立を意味します。
- 「テーゼ」はドイツ語の「These」が語源です。「アンチテーゼ」もテーゼと同じ、ドイツ語の「antithese」が語源です。
- 「テーゼ」は「という」「主張する」のようなフレーズと一緒に使うことが多いです。「テーゼ」に沿って誰もがこうしたほうがよい、こうあるべきだというような共通の認識に基づいて議論を展開します。
- 「テーゼ」の語源はドイツ語でですが、英語表記になると「thesis」となり使用可能なことがわかります。英語では「テーゼ」よりも「論文」といった意味で使われることが多いようです。