ことわざ「目から鱗」を解説します。そもそもなぜ目から鱗が?語源や由来、意味と使い方、類義語に英語訳などを紹介します。ふだんの会話でどう使うのか、例文で確認しましょう。「目から鱗」を詳しく知れば、ボキャブラリーの幅が広がりますよ。
「目から鱗」の読み方と意味
まずは、ことわざ「目から鱗」の読み方と意味を説明します。漢字の「鱗」は何と読むのでしょうか。正しい読み方と意味を把握できているか確認してください。
「目から鱗」の読み方
「目から鱗」は、「めからうろこ」と読みます。「鱗」は、魚や爬虫類のウロコを表す漢字です。ウロコは真皮や表皮から形成された薄くて硬い欠片で、動物の体を保護する役割を果たしています。「うろこ」は漢字「鱗」の訓読みで、「鱗雲(うろこぐも)」などの言葉があります。音読みでは「リン」と読み、「逆鱗(げきりん)」や「鱗粉(りんぷん)」などの言葉に使われる漢字です。
「目から鱗」の意味
「目から鱗」は何かのきっかけでハッと気づいたり、深く納得したり、新しい着想を得たりする状態を表すことわざです。単に驚くだけでなく、いままでわからなかった物事が理解できるようになる、これまでの発想や価値観が転換されるようなニュアンスも含んでいます。
「目から鱗」は「目から鱗が落ちる」を省略した言葉
よく耳にすることわざ「目から鱗」には、本来の言い方があるのを知っていますか?また、「目から鱗」の間違いやすい言い方には要注意です。「鱗」の表記もあわせてチェックしましょう。
もともとは「目から鱗が落ちる」
ことわざ「目から鱗」は、もともと「目から鱗が落ちる」という言い方をします。たとえば「目から鱗が落ちました」や「目から鱗が落ちるような思いです」などの言い方です。この「目から鱗が落ちる」は「目から鱗」とまったく同じ意味で、会話の中でも同様に使われています。
「目から鱗」のみで使うことが多い
正確には「目から鱗が落ちる」ですがいまでは「目から鱗」だけで使われることも多く、意味も通じます。たとえば「その話は目から鱗です」などと使います。「鱗」を漢字ではなく平仮名で「うろこ」、または片仮名で「ウロコ」と表記することも一般的です。
「目から鱗が取れる」は誤用
「目から鱗」の意味で「目から鱗が取れる」を使うのは誤用です。どちらでも同じように思えるかもしれませんが、本来は鱗が「落ちる」のであって「取れる」のは間違いです。うっかり「鱗が取れる」を使わないように気を付けたいですね。
「目から鱗」の語源・由来
ふだんの会話でおなじみの「目から鱗」の由来は何でしょうか。現在ではすっかり日本のことわざとして定着している「目から鱗」ですが、実は外国から伝わったエピソードがもとになっています。
「目から鱗」は新約聖書の一節に由来
「目から鱗」は、新約聖書の『使徒行伝(しとぎょうでん)第9章18節』に由来したことわざです。日本ではキリスト教が禁じられていた期間が長かったため、江戸時代までは使われていないことわざでした。日本に「目から鱗」が広まったのは、キリスト教が公に解禁された明治時代以降です。キリスト教の布教にともなって聖書が身近なものになり、聖書のエピソードである「目から鱗」も知られるようになりました。
ことわざ「目から鱗」のもとになった聖書のエピソード
新約聖書によればユダヤ教を説く教師・サウロは、自分とは違う教えを説くイエス・キリストと信者たちを迫害していました。あるとき、サウロは強い光が目にあたって見えなくなってしまいます。イエス・キリストの信者は、自分を迫害するサウロのために祈りました。サウロは神の声が聞こえ、「イエス・キリストの教えは正しい」と気づきます。するとサウロの目から鱗のようなものが落ち、サウロは元通り目が見えるようになったそうです。サウロはパウロと改名し、残りの生涯をキリスト教の布教に捧げました。この「サウロの回心」というエピソードがもとになり、「目から鱗」がことわざとして広まりました。
「目から鱗」の正しい使い方と例文
「目から鱗」の意味をふまえて、例文で正しい使い方を解説します。「目から鱗」と「目から鱗が落ちる」の両方の例文を確かめてください。
ほとんどが「目から鱗が落ちる」を省略した「目から鱗」で使われる
「目から鱗が落ちる」を使うときは、省略した「目から鱗」の場合がほとんどです。「目から鱗」を使った例文を確認しましょう。
- 月曜日に参加したセミナーは目から鱗の話ばかりで、とても有意義な時間を過ごせた。
- 先輩方の話から多くの知見を得て、目から鱗の思いがした。
- 学生たちの柔軟な発想に触れ、自分の思い込みに気が付いた。目から鱗とは、まさにこのことだ。
「目から鱗」は、ただ驚くのではなくハッと気づいたり、新しい価値観に目が開かれたりするような心情を表しています。
「目から鱗が落ちる」を使う場合の例文
本来の言い方「目から鱗が落ちる」の例文も紹介します。
- 皆の意見に触れ、目から鱗が落ちた。自分のやり方は間違っていた。
- 新商品の展示会に行き、自分もインスピレーションを得た。目から鱗が落ちる思いだった。
- 博識で百戦錬磨の彼なら、この程度の話で目から鱗は落ちないだろう。
「目から鱗が落ちる」も、使い方は「目から鱗」とまったく同じです。
「目から鱗」の類義語・言い換え
「目から鱗」と似た意味のことわざ、類語を例文とともに紹介します。どんな言葉で言い換えられるでしょうか。
「膝を打つ」
「膝を打つ」はハッと気づいたり、ひらめいたり、急に何かを思いついたりしたときに使う言葉です。また、深く納得したときにも使われます。「気づきを得る」または「なるほどと腑に落ちる」意味が、「目から鱗」と同じです。「膝を打つ」を使った例文を挙げます。
- ドラマの最終回では過去の伏線が次々に回収され、「そういうことだったのか!」と思わず膝を打った。
- 同僚の説明で疑問を解消できて、膝を打つ思いだった。
- 今度のプレゼンでは、皆が膝を打つようなアイデアを出したいものだ。
「目が開かれる」
「目が開かれる」には、何かを知って深く得心する、新たな境地に至るという意味があります。いままで理解できなかったことがわかるようになる、価値観が転換するような思いをする点が「目から鱗」と共通です。「目を開く」または「開眼する」ともいいます。「目が開かれる」の例文をチェックしましょう。
- ボランティアに参加してさまざまな立場の人と話し、「自分はいかに世間知らずだったか」と目が開かれる思いがした。
- 私はスペイン語を学びはじめ、その面白さと新しい世界に開眼した。
- 社外の人との交流は、彼の目が開かれるきっかけになるだろう。
ちなみに「目から鱗」はキリスト教の聖書に由来していますが、「目が開かれる」は仏教用語です。
その他の類義語
「目から鱗」には深く納得する意味の「腑に落ちる」、物事をはっきり理解して新境地に至る「悟る」などの類義語もあります。「ハッとする」も急に気づくという点では「目から鱗」と同じです。例文を紹介します。
- 人から話を聞くだけでなく自分で試してみて、ようやく腑に落ちた。
- その問題に関しては本人から直に話を聞かない限り、どうしても腑に落ちない点が多い。
- 物事の真理を悟るには、私はまだまだ人生経験が足りないようだ。
- 彼女の人柄に触れれば、なぜ彼女に人望が集まっているのかを悟るだろう。
- その本を読んだときは長年の謎が解け、ハッとする思いだった。
- 母の強い言葉で自分したことの重大さに気付き、ハッとした。
「目から鱗」を英語でいうと
「目から鱗」の英訳は、「scale from the eye」です。英語版の新約聖書には「The scales fall from one’s eyes.」とか書かれています。また、「ハッと目を開かせる物事」という意味では「 It opened my eyes.」や「eye-opener」などの言い方もあります。
まとめ
「目から鱗」は「めからうろこ」と読み、聖書に由来したことわざです。ハッと気づいたり、深く理解して新しい考えや価値観を得たりという意味があります。「目から鱗が取れる」の誤用をしないよう気を付けて使いたいですね。