「以って」には主に4つの意味があります。「期限を表す」「手段や方法、道具を表す」「理由や原因を表す」「目的語や判断の対象となる内容を表す」です。「以って」は、文脈によってさまざまな意味を持ち、「以っての外」「以ってする」などの慣用表現もあります。この記事では、「以って」の意味、読み方、由来・語源、「以って」と「以て」の違い、慣用表現、類義語・言い換え、英語表現について解説します。
「以って」の読み方
「以って」は「もって」と読みます。漢字「以」の音読みは「イ」ですが、「以って」と表記すると読み方が変わります。現代の日本語では「~を以って」「~で以って」などの表現で助詞的に使われることが多くあります。「以っての外」(もってのほか)、「以ってして」(もってして)などの慣用表現もあります。
「以って」の由来・語源
「以って」の漢字「以」は象形文字で、農機具のすきをかたどった形とされています。すきを用いて耕すという意味から、「(道具を)用いる」「(道具)によって」の意味を持つようになりました。以下で「以って」についての由来や語源を確認しましょう。
「以って」は「持ちて」から
「以って」は、動詞「持つ」に接続助詞「て」が付いた「持ちて」の形が変化したものだといわれています。
「以て」が本来の正しい表記
「以って」は「以て」と表記されることもあります。「以て」が本来の正しい表記でしたが、「以て」と表記すると「もって」「もて」「もちて」と幾通りか読み方が存在します。
「以って」と「以て」の違い
「もって」は「以って」とも「以て」とも表記されます。意味に違いはありませんが、「以て」と表記すると「もって」「もて」「もちて」と幾通りか読み方が存在するため、混同が生じます。それを避けるために「もって」と読む場合には、「以って」と表記することが増えました。「以て」と表記しても間違いではありません。
「以って」の意味・使い方・例文
「以って」はどのような使い方をするのでしょうか。助詞のように使う「~を以って」「~で以って」、副詞のように使う「全く以って」を解説します。
「~を以って」の意味・使い方・例文
「~を以って」には主に以下の4つの意味があります。これらは助詞的な用法で、「~で」などの助詞に置き換えられます。いずれも漢文での用法が現代の日本語に引き継がれたものです。例文と一緒に見ていきましょう。
「~を以って」の意味1「期限」~で
動作が行われるとき、すなわち期限を表す際に使います。「~で」という意味です。
- これを以って閉会とする。(これで閉会とする。)
- 今月末を以って閉店する。(今月末で閉店する。)
「~を以って」の意味2「手段・方法」~で、~によって
手段や方法、道具を表す際に使います。「~で」「~によって」という意味です。
文書を以って通達する。(文書で/によって通達する。)
「~を以って」の意味3「理由」~から、~によって
理由や原因を表す際に使います。「~から」「~によって」という意味です。
一事を以って彼を判断するな。(一つの事柄から/によって彼を判断するな。)
「~を以って」の意味4「判断・認定の対象」~を
目的語や判断の対象となる内容を表す際に使います。「~を」という意味です。
彼を以って任命する。(彼を任命する。)
「~で以って」の意味・使い方・例文
「~で以って…」には「~であり、なおかつ…。」「~で、さらに…。」という意味があり、助詞的に使います。「~で以って…」は、以下の例文のように二つの事柄を並べて提示したい際に使えます。
あの人は、成績優秀で以って人柄も素敵だ。
「全く以って」の意味・使い方・例文
「全く以って」には「全く本当に」「実にまあ」という意味があり、副詞的に使います。「全く」を強めた言い方です。同じように強調の意味を持つ表現に「いよいよ以って」などもあります。
- 全く以って困った人だ。
- 全く以って仕事のよくできる人だ。
上記の例文では、「全く以って」を使うことで「困った」「仕事のよくできる人」を強調して表現しています。
漢文における「以って」
漢文において「以」はよく使われる語です。主な用法に、助詞的に用いる「以って」、接続詞的に用いる「以って」、動詞として用いる「以ゐる(ひきいる)」「以ってす」があります。
漢文に由来する表現に「以心伝心」がありますが、これは「心を以って心に伝ふ」と読み、「以心」はことばや文字を使わずに心を伝えようとすることです。聖徳太子の十七条憲法第一条として有名な「和を以って貴(たっと)しと為す」という表現にも「以って」が使われており、「和(=他人との調和)を尊いものとする」という意味です。
漢文には複合語の用法もあり、「以為~」で「おもへらく」「もって~となす」と読み、「~だと思う」という意味を持つ場合もあります。
「以って」の慣用表現
「以って」には、ほかの語と結びついて、ある決まった意味を持つ慣用表現もあります。以下にいくつか紹介します。
以っての外
「以っての外」は「もってのほか」と読み、「とんでもないこと」「思ってもみないこと」という意味です。以下のように使います。
仕事中にスマホをいじるなど以っての外だ。
以ってする/以ってして/以ってしても
「以ってする」は「によってする」という意味です。「する」が活用し、助詞と接続することで「以ってして」や「以ってしても」という表現もなされます。「~を以ってして」は順接の意味で「~で」と置き換えられ、「~を以ってしても」は逆接の意味で「~でも」と置き換えられます。以下のように使います。
- 彼を以ってしてやっと事態が収束した。
- グループ全社を以ってしても対応が困難だ。
以って瞑すべし
「以って瞑すべし」は「もってめいすべし」と読み、直訳すると「それによって心残りなく成仏できるだろう」の意味で、物事が非常にうまくいったから、もう死んでもかまわない気持ちを表現します。以下のように使います。
その一言を以って瞑すべきだ。
上記の例文は、その一言で心残りなく成仏できるだろうという意味で、安心してあの世へお逝きくださいという表現です。
「以って」の誤用
「以って」には以下のような誤用もあります。
×今月末をもちまして→〇今月末をもって
×おかげさまをもちまして→〇おかげさまで
上記のように「~をもちまして」と表現するのは間違いです。丁寧に表現したい場合に起こりがちですが、「~をもちまして」は固定化して助詞のように使う「~をもって」を「ます」を用いて過剰に丁寧した表現で、丁寧すぎる表現とされています。
「以って」の類義語・言い換え表現
「以って」にはさまざまな意味があります。そのため、「以って」の言い換え表現も文脈によってさまざまな表現が考えられます。助詞的に使われる「~を以って」は、助詞の「~で」「~を」と置き換えられます。文脈の意味に合わせて、「~を使って」「~を理由として」と意味を補う動詞を用いることもできます。
同じく助詞的に使われる「~で以って…」は「~であり、なおかつ…」「~で、さらに…」と置き換えられます。「全く以って」は「全く」を強める表現ですので、「全く本当に」「実にまあ」を使うこともできます。
「以って」の英語表現
「以って」の英語表現は、文脈によって異なります。「以って」が持つ意味によって、以下のように表現を使い分けます。
「~で(時間・期限)」の意味を持つ場合は、「at」などの前置詞を用います。
I will close the meeting at seven o’clock.
(7時を以って閉会とします。)
「~を用いて」という意味を持つ場合は、「by」「with」などの前置詞を用います。
We will notify you by letter about whether or not you passed the employment examination.
(就職試験の合否は書面を以ってお知らせします。)
「~理由(原因)で」の意味を持つ場合は、「because of」「due to」「cause」などの表現を用います。
Carelessness caused the accident.
(不注意を以って事故になった。)
「その上」「さらに」の意味を持つ場合は、「and」などを用います。
These dresses don’t sell well, because they are expensive and moreover they’re out of fashinon.
(このドレスは高価で以って流行おくれだから売れない。 )
慣用表現「以っての外」は、「outrageous」(「とんでもない」の意)や「be completely out of question」(「全くの論外だ」の意)などの表現を用います。
It’s outrageous that you miss work without permission.
(勝手に休みとは以っての外だ。)
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回は、「以って」の意味、読み方、由来・語源、「以って」と「以て」の違い、慣用表現、類義語・言い換え、英語表現について解説しました。
最後に「以って」のまとめです。
- 「以って」の由来・語源は、「以って」の漢字「以」は象形文字で、農機具のすきをかたどった形とされています。すきを用いて耕すという意味から、「(道具を)用いる」「(道具)によって」の意味を持つようになりました。「以って」は、動詞「持つ」に接続助詞「て」が付いた「持ちて」の形が変化したものだといわれています。
- 「以って」は「以て」と、も表記されますが、意味に違いはありません。「以て」と表記すると「もって」「もて」「もちて」と幾通りか読み方が存在するため、混同が生じます。それを避けるために「もって」と読む場合には、「以って」と表記することが増えました。
- 「以って」には主に4つの意味があります。「期限を表す」「手段や方法、道具を表す」「理由や原因を表す」「目的語や判断の対象となる内容を表す」です。
- 漢文において「以」はよく使われる語です。主な用法に、助詞的に用いる「以って」、接続詞的に用いる「以って」、動詞として用いる「以ゐる(ひきいる)」「以ってす」があります。
- 「以って」には、ほかの語と結びついて、ある決まった意味を持つ慣用表現があります。「以っての外」「以ってする/以ってして/以ってしても」「以って瞑すべし」です。
- 「以って」の英語表現は、文脈によって異なります。「~で(時間・期限)」の意味を持つ場合は、「at」などの前置詞を用います。「~を用いて」という意味を持つ場合は、「by」「with」などの前置詞を用います。「~理由(原因)で」の意味を持つ場合は、「because of」「due to」「cause」などの表現を用います。「その上」「さらに」の意味を持つ場合は、「and」などを用います。慣用表現「以っての外」は、「outrageous」(「とんでもない」の意)や「be completely out of question」(「全くの論外だ」の意)などの表現を用います。