「手前味噌ですが」という前置きはビジネスシーンでよく利用される表現ですが、意味を正しく理解できているか心配な方も多いのではないでしょうか。今回は「手前味噌」の正しい使い方とよく間違われる誤用表現について説明します。
「手前味噌」の読み方と意味
「手前味噌」という言葉の正しい意味を説明します。また、「手前味噌」という言葉を利用する場合、どのようなニュアンスが含まれるのかについても軽く触れていきましょう。
「手前味噌」の読み方と意味
「手前味噌」の読み方は「てまえみそ」です、意味は「自分で自分を褒めること」や「自慢」です。
「手前」は「てぜん」などと読むのは間違いにあたりますので注意しましょう。
自慢する印象を和らげる効果がある表現
「自慢」はイメージとして「傲慢」や「鼻につく」という印象がある言葉ですが、この「手前味噌」という表現には自慢することを謙虚に表現するニュアンスが含まれるのが特徴です。
はっきりと自慢するのではなく誇りを持ちながらもどこか謙虚さを含んだ言い方として、ビジネスシーンでも活用される機会が多いことを覚えておきましょう。
「手前味噌」の語源・由来
自慢することがなぜ「手前味噌」と表現されるようになったのでしょうか。
この表現の由来は、古くから存在する日本家庭の風習から来ているものです。ここでは「手前味噌」の由来について考えていきます。
語源は「自家製の味噌」
「手前味噌」の語源は、「自前の味噌」や「自家製の味噌」から来ています。
日本では古くから味噌は各家庭で毎年手作りをする文化がありました。現代では限られた家庭にのみ残る文化ですが、昔はどこの家庭も工夫を凝らして美味しい味噌を自家製で作ることが当たり前でした。
そして、各家庭で趣向を凝らした味噌ですから、それぞれの家庭が「自分の家の味噌が一番美味しい」と自慢するようになります。結果として「自分で作った味噌を自慢する」というニュアンスが加わり、現代の意味である「自分で自慢すること」を意味する言葉に変化しました。
味噌には「ポイント」という意味も含まれる
この「手前味噌」の表現から派生して「味噌」という言葉には現代でも「ポイント」というニュアンスで利用されます。
これは「手前味噌」の由来と同様に、自家製の味噌を各家庭で作っていたことが影響しています。昔は「味噌=各家庭で趣向を凝らしているもの」ですので、その派生として「味噌」の言葉そのものに「工夫した点」や「趣向を凝らした部分」という意味が含まれるようになりました。
例えば「この資料は5ページ目が味噌なんだよ」などの場合は「5ページ目が工夫したところ、ポイント」といった意味で利用されています。
「手前味噌」の使い方と例文
「手前味噌」はビジネスシーンで積極的に活用される表現のひとつです。どのような場面で利用されているのか、またそのニュアンスを理解することで違和感なく活用できるようになりましょう。
自身や自社をアピールするときに使う
「手前味噌」は自分自身の能力や自社の長所を取引先にアピールしたい場合に用いられる表現です。特に自分や自社の商品を売り込む必要がある場合には「手前味噌」という言葉を活用することで、ただの自慢話と受け取られにくくなります。
また、この表現は畏まった場面でも利用できます。目上の相手に対して利用する場合は「手前味噌で恐縮ですが」などの謙遜表現を付け加えることで、さらに謙虚な表現をすることが望ましいでしょう。
主に前置き表現として用いられる
「手前味噌」は主に自慢をする前の前置き表現として用いられます。具体的には「〜ですが」といった逆説の意味を含む接続詞とともに用いることが一般的です。
主にビジネスシーンで前置き表現として利用される言い回しをいくつか紹介します。
・手前味噌ですが(ではありますが)
・手前味噌ながら
・手前味噌で恐縮ですが
文末に利用したい場合は「手前味噌を並べる」とする
「自慢する」という意味で文末に利用したい場合は「手前味噌」にそのまま動詞表現である「〜する」をつけることはせず、「並べる」という言葉を語尾に付け加え「手前味噌を並べる」といった表現をしましょう。
もしくはそのまま「手前味噌」を名詞表現として「手前味噌だ」などといった断定言葉で利用することも可能です。場面に合わせて活用できるよう覚えておくと便利でしょう。
「手前味噌」を使った例文
ビジネスシーンでどのように「手前味噌」を活用できるのか、ここでは例文を用いて説明します。
- 手前味噌ではありますが、弊社のエンジン技術は世界屈指と言っても過言ではありません。
- 手前味噌ながら、私のデザインが今年の広告賞で大賞に選ばれました。
- 相手は業界の重鎮だから、手前味噌を並べるのは控えめにしよう。
「手前味噌」を使う際の注意点と誤用例文
「手前味噌」を用いる際に、気をつけなければならないポイントがいくつかあります。ここでは間違った使い方をしないために注意すべき点を紹介します。
「手近なもの」や「かんたんなもの」という意味での利用は間違い
「手前」を「すぐ近く」や「手近」という意味と誤認し、「手前味噌」を「手近にあるもの」という意味で用いることは間違いです。先程も紹介した通り「手前」は「自家製」が正しい意味ですので、「手近」という意味は誤りだと覚えましょう。
例えば「手前味噌ですが、お歳暮のみかんが余っているので、よかったらどうぞ。」という文章の場合、「自慢になるのですが、お歳暮のみかんが余っているのでどうぞ。」という意味が通じない文章になってしまいます。
卑下や謙遜する表現としては用いられない
「手前味噌」はあくまでも自分や自社の誇れる長所を自慢するために使う表現ですので、卑下する場合や謙遜する表現としては適切ではありません。
例えば「手前味噌でお恥ずかしいのですが」などという用法は、「自慢するようなことでもないので恥ずかしい」という卑下するニュアンスが含まれるため誤用表現となります。自慢することで相手を不快にさせないよう配慮したい場合は「恐縮ですが」という表現にとどめ、必要以上の卑下や謙遜を行わないよう注意しましょう。
「手前味噌」の類義語・言い換え
自分で自分を褒める場合に使える表現は「手前味噌」だけではありません。ここでは「手前味噌」の類義語や言い換え表現について紹介します。
「自賛」
「自賛」は自分の「自」と称賛の「賛」を合わせた言葉で、意味は「自分で自分を褒めること、賞賛すること」です。
また四字熟語にある「自画自賛」も「自賛」と同じ意味があります。この2つの言葉は「手前味噌」と全く同じ意味として用いられますので、言い換え表現として適切でしょう。
「自負」
「自負」は「自分の才能や業績に自信を持ち誇りに思うこと」という意味です。
こちらも自分を自慢する際に用いられる表現で、主に「私は◯◯だと自負しています」のように使われます。手前味噌のように前置き表現として用いることはありませんが、「自慢」という意味を含む類義表現です。
「自惚れ」
「自惚れ」は「自分を優れていると思って得意になる」という意味です。
この表現には「自慢する」の意味も含まれますが、一方で「実力以上だと過信する」という意味合いも含まれる表現になるため、少し「手前味噌」にはないニュアンスが含まれることを加味して利用しましょう。
「手前味噌」の対義語
自慢する意味で用いられる「手前味噌」の対義語をここでは説明します。
紹介する用語は使用上の注意点で登場した「謙遜」と「卑下」ですが、どちらも「手前味噌」とは反対の意味で使われる言葉です。
「謙遜」
「謙遜」の意味は「自己評価を低くすること、へりくだること」です。
「手前味噌」は「自分で自分を褒めること」ですので、自己評価を低くする意味を持つ「謙遜」は対義語にあたります。
「卑下」
「卑下」は「自分を劣ったものとして見下すこと」という意味です。
自分自身の評価が低い場合の表現ですから、こちらも「手前味噌」の対義語として用いられます。
「手前味噌」の英語表現
「手前味噌」は日本独自の表現のため、同じニュアンスを英語で表現する場合は「自慢するわけではない」という言い方をするのが適切です。
「自慢する」は英語で「brag」といいます。これに「〜するわけではない」を表す「don’t mean to〜」と逆説表現である「but」を用いることで、日本語で言う「手前味噌ですが」と似たニュアンスを伝えられます。例文をいくつか紹介します。
・I don’t mean to brag, but the sales for our business this year are very good.
自慢するわけではありませんが、今年の我が社の売り上げは非常に好調です。
・I don’t mean to brag, but I’m trilingual.
自慢するわけではありませんが、私はトリリンガルです。
まとめ
「手前味噌」は自慢することで相手に不快な思いをさせないよう考慮する、日本独特の奥ゆかしい表現です。ビジネスシーンで自社を売り込む場合などにも使える表現ですので、ぜひ語彙のひとつとして身につけましょう。