「あの人はモラルが欠けている」といわれている、「モラル」とはいったい何なのでしょうか。何となく「道徳」「倫理」のイメージがあるかもしれません。この記事では社会人に役立つ「モラル」の意味や使い方を紹介します。
「モラル」の意味とは?
「モラル」とは倫理観や道徳意識のことです。もとはラテン語で習俗、風習を意味する「mores(モーレス)」からきています。ある種強制力をもって人々に与えられる社会的規範とは異なり、各々の良心にからの決定によって生み出されるものです。いわば、人が自分自身に対して自発的に与える規範といってもいいでしょう。
では、「モラル」の意味として取りあつかわれている道徳と倫理ですが、それぞれ、どういった意味になるのか紹介します。
道徳としての意味
「道徳」とは「人のふみ行うべき道。ある社会で、人々がそれによって善悪・正邪を判断し、正しく行為するための規範の総体」のことです。「嘘をついてはいけない」ことや「人には親切にするべき」のように、自発的に正しい行為へ導くための心の持ちようといわれています。
倫理としての意味
「倫理」は「道徳」とほぼ同じ意味で使われます。「倫理」が「道徳」と異なるのは「理屈」が伴うからです。「倫理」の意味には、適切な心のあり様であっても、なぜそうなのかが頭で理解している状態が含まれているといわれています。これに対し、「道徳」の意味にはルール以前に人としてどうなのかといったように、心で理解している状態を含んでいるようです。
マナーとの違い
「モラル」と「マナー」の大きな違いはその尺度になります。
「マナー」とは態度や礼儀、礼儀作法のことを意味する言葉です。社会全体で守ったほうがよいこと、それに決まったことをすることをよしとし、運転や喫煙、電話の際に思いやりを持った行動をできているかをはかるための、客観的な正解が用意されています。
一方、「モラル」は人生や社会に対する各々の道徳・倫理の規準であり、主観的に使われます。主観性が強いので、体験や想像なども絡んでくることが多いです。つまり、その人の環境や生活習慣、国や地域、時代によって変化する可能性を含んでいます。
「モラル」の使い方と例文集
「モラル」は実際にどのように使われているのでしょうか。「モラル」があるかないかでの変化や実際の例文を紹介します。
「モラル」がある、ないで変化する
人の発言や行動に「モラル」があるか、ないかによって表現や言い方が変化します。
例えば、外出先でペットボトルが空になったとき、ゴミ箱がどこにもなかったとき、「ポイ捨ては良くないこと」と善悪の判断ができ自宅に持ち帰りました。この場合「モラルがある」といった表現ができます。
逆に、不倫や詐欺のように一般的に世間の良心や倫理に触れるケースがあります。そのときは「モラルがない」や「モラルに欠ける」といった表現が可能です。
「モラル」を使った例文
「モラルが」あるかないかの変化を踏まえた上で、以下で例文を紹介します。
- 日本では愛人を作ることはモラルに欠ける。
- 交差点で赤信号だったが、車の気配はなかった。赤渡りも考えたがモラルがあったので青になるまで待った。
- 人を騙して陥れることはモラルに反する。
モラルハラスメントとは?
「モラル」から派生した言葉の中のひとつに、「モラルハラスメント」といった言葉があります。通称「モラハラ」と呼ばれ、一度は聞いたことがあるかもしれません。ここで「モラルハラスメント」の意味や使用例、「パワーハラスメント」との違いを見てみましょう。
言葉や態度による嫌がらせ
「モラルハラスメント」とは倫理や道徳に反した嫌がらせといわれています。暴力は振るわず、特定の相手を無視したり、暴言を吐いたり、存在を否定したり、相手を貶める言動が「モラルハラスメント」になります。
「モラルハラスメント」の特徴は職場の人間関係だけでなく、夫婦や家庭内でも発生します。他にも加害者が無意識のうちに、人格否定などを行って被害者に精神的苦痛を与えてしまうことがあります。また、暴力行為ではないので、被害者以外は問題に気付きにくいという点も特徴の1つです。
「モラルハラスメント」の起こる職場では離職率の低下や、社員のモチベーションが低下するといった悪影響もあり、問題視されているそうです。
パワーハラスメントとの違い
似たような言葉に「パワーハラスメント」という言葉があります。「パワーハラスメント」を厚生労働省は次のように定義しています。
「同じ職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」です。
「パワーハラスメント」は職務において上司がその地位を利用して、部下に精神的、肉体的苦痛を与えることを意味します。つまり、「モラルハラスメント」と異なるのは職場で発生するものであり、立場の優位性を利用した嫌がらせになります。
モラルハラスメントの例
「モラルハラスメント」はどのようなケースがあげられるのか、以下で具体例を紹介します。
・チームから仲間はずれにする
・無視する
・相手を尊重しない
・暴言を吐く
・誹謗中傷をする
モラルハザードとは?
「モラルハザード」とは危機回避のための手段や仕組みを整備したことによって逆に危機意識が薄れ、注意が散漫になり、かえって危険や事故の発生率があがり、規律が失われることを意味します。
一言でいうと、責任感、倫理観の欠如です。
では、「モラルハザード」という言葉はどこで使われているのか以下から見ていきましょう。
もともとは保険用語
実は「モラルハザード」は保険用語で使われていました。例として、保険に加入したことによって結果的に「病気や事故が発生しても保険会社がなんとかしてくれるだろう」といった考えが生まれ、危機管理をおろそかにしてしまう状況を引き起こします。
他にも失業保険があることで失業しても保険が出て生活の保障がされるのであれば、無理に働く必要はないと考え、かえって失業者が増大する、という例もあります。
モラルハザードの使用例
元々保険用語として用いられていた「モラルハザード」ですが、意味は倫理観、責任感の欠如です。この意味から保険用語としてだけでなく、さまざまな業界で「モラルハザード」が使われるようになりました。
例えば、銀行は資金が厳しくなれば国が援助してくれると考え、企業は経営が厳しくなったら銀行が債権免除してくれるだろうという意識となります。親がなんとかしてくれるから働かなくてもいい考えもモラルハザードにふくまれるでしょう。
「モラル」の英語訳
「モラル」の英語での意味は日本語ほとんど同じです。名詞と形容詞で使用されており、名詞では教訓や道徳、形容詞になると「道徳上の」といった意味になります。「モラル」は英語だと「moral」と表記され、主に形容詞の意味で使われるケースが多いです。
「moral」の詳細を以下で紹介します。
moral
「moral」の形容詞には「道徳上の」という意味の他に以下のような意味があります。
・倫理的な
・教訓的な
・善悪の判断ができる
・品行方正な
・教え
このようになります。日本語でも通じる意味になっていますね。
ちなみに、「moral」という単語のつづりはフランス語にもあります。フランス語の「moral」にも道徳の意味はあります。ところが、フランス語では「元気」や「気力」という意味もあり、日常生活ではこれらの意味で使われることが多いです。
英語での例文
それでは、実際に「moral」を使った英語の例文を紹介します。
- This is a moral issue.(これはモラルの問題です。)
- His immoral actions did not go unnotice.(彼のふしだらな行為は気付かれずにはすまなかった。)
- They have high morals.(彼らはモラルのある人たちです。)
まとめ
「モラル」とは道徳的、倫理観を意味します。外部からの強制力が働く法律やルールとは異なり、人それぞれの良心から生み出されるものです。マナーと異なり、主観性が強いのであるので個人の経験や国や地域、時代によって変化しやすい特徴があります。
「モラル」から派生した言葉は「モラルハラスメント」と「モラルハザード」です。「モラルハラスメント」は倫理や道徳に反した嫌がらせのことで、暴力をせず相手を気付つける行為です。職務上の立場を利用した「パワーハラスメント」とは意味が違います。「モラルハザード」は元々は保険用語で責任感、倫理観が崩壊した状態です。人々をの安全を守るために作った仕組みがかえって気のゆるみを起こしてしまうことを意味します。