「をば」は格助詞「を」の連語です。意味は「を」とほぼ変わらなく、前述の文や単語を強調できます。現在はあまり使用されていませんが、九州の方言として残っており、わざと古典風の言い回しにする際に使われることがあります。
「をば」の意味とは
「をば」は格助詞「を」の連語で、格助詞「を」に係助詞「ば」が接続した言葉です。現代語の「を」と同じ意味を示すと同時に強調の意味を含んでおり、前述の文や単語をより強調できます。古典によく使われる表現ですが、現代でも文字のリズムを整えたり、わざと古典風の言い回しにしたりする際などに使われます。
参照:Weblio辞書「をば」
「をば」の由来・語源
「をば」は格助詞「を」の連語で、格助詞「を」に係助詞「ば」が接続した言葉で古語として使われました。
「を」は現代語と同じく〜を、〜についてと言う意味で使われていた格助詞です。格助詞とは主に名詞・代名詞(体言)のうしろにつき、前の体言が文の中でどのような働きをするのかを示します。「をば」の「ば」は、強調の意味を表す係助詞「は」が「を」に接続することで音が濁った「ば」です。係助詞とは述語と関係しあっている語や文末に付属し、強調や疑問を表す品詞になります。
「をば」を使った例文
続いては「をば」を使った例文を紹介します。
古典での例文
「をば」は古典でも現代でも使われる表現です。古典を訳す際は、現代語の「を」に置き換えができます。しかし、現代語でもそのまま使われる表現ですので、「を」と訳したときにリズムが崩れる場合はそのまま残してもよいでしょう。まずは古典での例文を紹介します。
伊勢物語
例文 あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて
訳 荒れ果てた蔵の奥に、女性を押し込んで
伊勢物語は平安時代半ばに成立した短編物語集です。今回紹介する例文はそんな伊勢物語の六、雷が鳴っている雨が激しく降っている中、男が(蔵の中に鬼がいるとも知らず)女を蔵に閉じ込めてしまう場面のものです。この例文における「をば」は「〜を」と言う意味で使われています。
源氏物語
例文 今は、ただ、品にもよらじ。容姿をばさらにも言わじ
訳 もう、ただ単に家柄にはこだわるまい。容貌なんかは当然言うまでもない
源氏物語は平安時代に成立した長編物語で全54帖からなります。今回紹介する例文は、源氏物語の第2帖箒木のワンシーン。五月雨がふる夏の夜に、光源氏と頭中将、左馬頭、藤式部丞の4人が理想の女性について語っている場面のものです。ここでの「をば」は「〜は」と言う意味で前述の「容貌」を強調する意味で使用されています。
和歌
例文 この世をば わが世とぞ思ふ 望月の かけたることも なしと思えば
訳 この世は私のためにあるようなもの。満月のように足りないものは何もない状態だ。
こちらの短歌は藤原道長が詠んだもので、藤原氏の栄華を象徴する一句として知られています。百人一首にも選ばれているので知っている方も多いのではないでしょうか。この和歌での「をば」は「は」の意味として使われ、文章のリズムをととのえることに役立っています。
舞姫
例文 石炭をば早や積み果てつ、中等室の卓のほとりはいと静かにて
訳 石炭を早くも積みおわり、中等室の机はとても静かで
舞姫は森鴎外が発表した、明治時代(1890年)の作品です。明治時代と先ほどの例文とくらべて新しい作品ですが、文語体とよばれる古文風の書き方をしています。例文は物語の書き出しの部分ですが、ほかにも「をば」が使われている部分は多く、舞姫の美しい文章のリズムを作っています。
即興詩人
鴎外はほかにも「をば」を使った表現を使用しています。
例文 天をば黄金色ならしめ、海をば藍碧色ならしめ、海の上なる群れたる島嶼をば淡青なる雲にまがはせたり
こちらは森鴎外が翻訳した、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの長編小説「即興詩人」の一節です。当時は口語体が完成しつつあり、必ずしも文語体で執筆する必要はありませんでしたが、鴎外はあえて文語体で執筆をおこないました。この文章では「をば」が繰り返されることによってリズム感をつくっています。
現代での例文
機会は少ないものの、現代でも「をば」が使われる場面はあります。主に古語風の古語風の文章を書く際に使われ、かしこまった印象を与える言葉です。
失礼をばいたしました
失礼をばいたしました。(大変失礼いたしました。)
大変失礼いたしましたのよりかしこまった言い方です。「失礼をば」で以降の言葉を切り捨てる場合もありますが、意味は失礼をばいたしましたと同じです。
ご説明をばさせていただきます
ご説明をばさせていただきます。(ご説明させていただきます。)
「ご説明させていただきます」という表現にも「をば」を使用できます。そもそも「ご説明させていただく」という表現が間違っているのでは?と思う方もいるかもしれませんが、安心してください。「ご説明させていただく」は名詞の「説明」に謙譲語の(お)~させていただきます。」が接続した形です。謙譲語は自分がへりくだるときに使用することばですので、「自分が説明させてもらう」という意味合いで使えます。
ここでは「をば」を使用することにより、古文風のかしこまった文章になっています。
方言での「をば」
現代使用されているをばには、方言もあります。
をばは九州の方言
九州では、格助詞「を」を単独で使うのではなく、「をば」と「ば」をつけて使われます。「○○ば」というように「ば」単独で助詞としてはたらいている場合もありますが、これは「をば」の「を」が抜け落ちた形です。
「をば」を英語で言うと
「をば」は英語でいう前置詞にあたることばです。前置詞とは名詞の前におく言葉で、名詞の意味を補足でき、inやat、toなどが挙げられます。「をば」の意味は「を」に置き換えられるので「を」にあたる英語を紹介します。
at
まず紹介する前置詞は「at」です。「at」は4つ意味があります。
・場所を表す
・時間を表す
・方向、目標、動作の対象を表す
・原因や態度を表す
日本語でいう「を」に当たるのは「look at me.(私を見て) 」「A drowring man will catch at a straw(溺れる者は藁をもつかむ)というように「方向や目標、動作の対象を表す」場合に当たります。
for
「for」も「を」にあたる前置詞です。「for」は3つの意味があります。
・目的地を表す
・目的を求めて
・利益を示す(~のために)
「を」にあたるのは、「We headed for the distant lights.(遠くの明かりを目指して進んだ)」と目的地を表す場合です。
前置詞を使わない場合も
日本語の「を」にあたる英語は、前置詞を使わない場合もあります。というのも「を」にあたる格助詞は、主語や目的語に含まれていることが多く、「を」にあたる特定の単語がないことがあるからです。意味別に紹介していきます。
動作の対象を表す
動作の対象を表す例としては以下の例が挙げられます。
「read a book(本を読む)」
「throw a ball(ボールをなげる)」
動作の結果、生み出されるものを指す
動作の結果、生み出されるものを指す例としては以下があげられます。
「buid a ship(船を作る)」
「make cookies(クッキーを作る)」
動作の経過する時間・場所を指す
動作の経過する時間・場所を表す例は以下があげられます。
「spend lunch time(昼ごはんの時間を過ごす)」
「The bus crossed the Kiso (バスは木曽川を渡った)」
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回はをばについて解説しました。
「をば」は現代ではあまりなじみのない言葉ですが、古典作品に使われていたり、現代でも古典風の言い回しにする際に使われたりする言葉です。この記事を参考に「をば」を使用してみてさい。
最後に「をば」のまとめです。
- 「をば」は格助詞「を」の連語で、格助詞「を」に係助詞「ば」が接続した言葉です。現代語の「を」と同じ意味を示すと同時に強調の意味を含んでおり、前述の文や単語をより強調できます。
- 「をば」の由来は格助詞「を」の連語で、格助詞「を」に係助詞「ば」が接続した言葉で古語として使われました。
- 現代使用されているをばには、方言もあります。
- 「をば」は英語でいう前置詞にあたることばです。前置詞とは名詞の前におく言葉で、名詞の意味を補足でき、inやat、toなどが挙げられます。