現代日本で「ニッチ」は「隙間市場」を意味するビジネス言葉として使うことが多いです。最近では「ニッチ」な市場を戦略的に狙う企業も増えています。今回は「ニッチ」の意味と使い方、「ニッチビジネス」のメリットを解説しますのでぜひ参考にしてください。
「ニッチ」の意味と語源
「ニッチ」は、「隙間(すきま)」「くぼみ」「適所」を意味します。
元来「ニッチ」とは「壁面のくぼみ」という意味の西洋建築用語です。「くぼみ」のイメージから「隙間」、「適所」という意味も加わりました。現在では建築分野のリフォームやリノベーション用語としてだけでなく、生物学や経済・マーケティング分野でも「ニッチ」を使うことがあります。
「ニッチ」の一般的な意味
一般的な会話では、「ニッチな~」という使い方をすることが多いです。この場合の「ニッチ」は「多数が気づきにくいところ」や「一部の人だけが興味を持つ」などの意味で用いられます。
例えば、「ニッチな趣味」といえば、「一風変わった趣味」「マニアックな趣味」という意味です。大概「ニッチな~」は「良い意味で個性がある」というニュアンスで使われます。
「ニッチ」の語源は英語の「niche」
「ニッチ」は英語の「niche」に由来し、発音は【nítʃ】です。さらに語源を遡ると、ラテン語の「nīdus(巣)」です。
英語の「niche」を辞書で引くと、(1)適した地位、適所、最適な仕事、適性、得意分野、生態的地位 、(2)すき間、隙間産業、市場のすき間、ニッチマーケット、特定分野と載っています。
ビジネスや学問分野での「ニッチ」の意味と使われ方
「ニッチ」はビジネスや学問分野などさまざまな場面で使われる言葉ですが、それぞれ少しずつ異なった意味を持っています。
ここでは経済用語、建築用語、生物学用語としての意味を紹介します。
経済用語「ニッチ」の意味は「隙間」
経済用語の「ニッチ」は「隙間」という意味です。「ニーズはあるが、大手企業が狙わないような小規模な事業領域」を指します。現存のサービスや商品でカバーできていない「隙間」を狙うマーケティングです。
潜在的な需要が見込める商業マーケットを「ニッチ市場」、誰もまだ手を付けていない分野を「ニッチ産業」、万人受けではないが一定数のニーズがあり、多少割高でも求める人がいる商品を「ニッチ商品」と呼びます。
現代社会では、「ニッチ」な戦略によって成功を収めている企業は多いです。代表例はコンビニエンスストアで、「24時間・年中無休」や「立地」といった切り口で利用者の需要を掘り起こし、つまり「ニッチ」を攻めることによって、スーパーやショッピングモールよりも高めの価格設定でありながら、多数のニーズを獲得し事業を拡大しました。
建築用語「ニッチ」の意味は「壁のくぼみ」
建築用語の「ニッチ」は「壁のくぼみ」という意味です。西洋的建築において、壁の一部を凹状にくぼませた部分を指します。住宅では壁面のアクセントとして使われ、花瓶や小物などを置く飾り台となることが多いです。
壁のくぼみの意味の「ニッチ」を言い換えると、日本語では「壁龕(へきがん)」という訳語が存在します。
生物学用語「ニッチ」の意味は「生態的地位」
生物学用語の「ニッチ」は「生態的地位」という意味です。生物学の分野で20世紀前半に使われるようになった言葉で、生態的地位とは「生存競争によって適応する特有の生息場所」のことです。
生物が自然の生態系内で生きていくためには生存に適した環境が必要です。動物であれば餌や巣、植物であれば太陽光や土壌などがそれに該当します。生物種が生態系内での競争に勝つか、耐え抜いて地位を得るかということが生態的地位、すなわち「ニッチ」です。生態系の内、「ニッチ」を手に入れた生物種だけが安定した生存が可能というわけです。
昼行性のワシやタカ、夜行性のフクロウは双方とも肉食の猛禽類ですが、行動時間帯を分けることによって同じ環境で共存しています。つまり、ワシ・タカにとっての昼間や、フクロウにとっての夜間が、それぞれの「ニッチ」になります。
「ニッチ」の類義語・対義語
「ニッチ」の類義語・対義語を紹介します。
類義語は「風変わりな」「マニアック」
「ニッチ」の類義語は「風変わりな」「マニアック」です。「ニッチな〜」のように形容詞として使う場合は「一般的ではない」「個性的な」「マニアックな」などの表現で言い表すことも可能です。多くの場合、ポジティブな意味で用いられます。
対義語は「マス」「メジャー」
「ニッチ」の対義語は「マス」「メジャー」です。文脈によって「ニッチ」の対義語は変化します。マーケティング用語における対義語は「大衆」「メジャー」「マス」となり、「マス市場と比較するとニッチ市場の方ほうが勢いがある」というような表現をします。社会における人の役割、地位付けの意味で使う場合の対義語は「一般」「標準」「スタンダード」などが該当します。
「ニッチ」を使ったいろいろな表現
「ニッチ」を用いたいろいろな表現を紹介します。意味と使い方を理解して、ぜひ使ってみてください。
隙間市場を意味する「ニッチ市場」
「ニッチ市場(ニッチしじょう)」とは、特定の需要・客層を持つ小規模の市場という意味です。「隙間市場(すきましじょう)」とも言います。英語ではniche marketと訳せます。
日本での「ニッチ市場」には、オタク向けに特殊化した市場、例えばアニメ・漫画・同人ショップやキャラクターグッズ専門店などがあります。近年では、一般層向けの市場規模よりも、それぞれのニーズに焦点を当てた「ニッチ市場」が勢いがあります。その理由は、マニアックな分野である「ニッチ市場」に特化したほうが収益率が高い傾向にあるからです。
市場の隙間を狙う「ニッチ戦略」
「ニッチ戦略」とは、特定の市場に焦点を当てて事業を展開し、収益化を目指す戦略のことです。 特定のニーズや顧客に対して商品やサービスの提供を行い、大敵企業や競合他社とは別の領域を見出します。
「ニッチ市場」では規模こそ小さいものの需要が高い場合があります。代替する商品がないため、価格が相対的に高くなっても対価を払う顧客がいるからです。そのため、「ニッチ戦略」ではオンリー1になることが望ましいとされています。
特定の領域で成功している「ニッチャー企業」
「ニッチャー企業」とは、「ニッチ戦略」によって市場での優位性を確保しようとする企業、また、独自の地位を築いて成功している企業のことです。「ニッチプレーヤー」と呼ぶこともあります。
大企業が独占する市場において小さな企業が売り上げを伸ばすことはかんたんではありません。しかし、既存に囚われない「ニッチ市場」に狙いを定めた商品やサービスを開発し、その価値を的確にターゲットに伝えられれば、「ニッチャー企業」が大企業に勝つことも夢ではないでしょう。
限定的なニーズを満たす「ニッチ商品・製品」
「ニッチ商品・製品」とは、特定の客層の限定的なニーズを満たす商品・製品のことです。また、「ニッチ戦略」によって提供されるサービスは「ニッチサービス」と言います。
ライバルの少なさは、「ニッチ商品」を販売する大きなメリットの1つです。「ニッチ商品・製品」を扱う市場は規模が小さいため、消費者のニーズを満たすヒット商品を出せば市場を独占できる可能性があります。
「ニッチビジネス」の成功のためのポイント
「ニッチビジネス」の成功のためのポイントは、「ペルソナを設定する」ことです。ペルソナとはユーザー像のことで、「ニッチ商品・製品」を売るには、どんな人がなぜその商品を欲しているのかを把握・分析することが重要です。そして、ペルソナの対象となる顧客層に対し、ピンポイントにアプローチを図る必要があります。
例えば、ランドセルは、小学校に入学する前の1度だけ購買ニーズがある「ニッチ商品・製品」です。ランドセルを求めるペルソナは、「入学する子どもの両親・祖父母」が挙げられます。ランドセルのような「ニッチ商品・製品」を販売するには、商品の特性やセールスポイントとペルソナのニーズをマッチングさせ、ペルソナの購買意欲を高めることが重要です。
「ニッチ」な市場を狙うメリット
「ニッチ」な市場を狙うメリットは、おも以下の4つです。
・ライバルが少ない
・価格競争になりにくい
・大手企業が参入しづらい
・確実な需要がある
「ニッチ商品・製品」は実店舗よりもECサイトの方が売れやすい傾向にあります。そのためネットビジネスで稼ぎたいと考える場合、「ニッチ商品・製品」を狙うことが成功の条件です。「○○専用の〜〜」という商品訴求がそれにあたり、例えば「左利き用のスポーツ用品」や「男性用日焼けクリーム」など、ありそうでなかった商品やサービスです。ペルソナの明確な設定はマーケティングの基本であり、ターゲットを絞ることで勝敗が決まります。
「ニッチビジネス」の注意点
「ニッチ」な市場を狙う際の注意点は、市場規模が小さく、売り上げにつながるまでに時間を要する傾向にあることです。なぜなら「ニッチ商品・製品」は年に数回しか購入されないものが多いからです。そのため、短期的な売り上げは見込めないというデメリットがあることを覚えておきましょう。
まとめ
「ニッチ」という言葉は、どのような文脈で使われるかで意味が変わる言葉です。一般の会話では「個性的な」「風変わりな」という形容詞として使い、ポジティブな意味を持っています。建築用語では「壁のくぼみ」、生物学用語では「生態的地位」という意味です。ビジネス分野では「隙間市場」の意味で、「ニッチ産業」「ニッチビジネス」「ニッチ商品」など多様な使い方をするため、この機会に「ニッチ」の意味と用法をしっかりと習得しましょう。