「アンソロジー」とは複数の作家の作品、または同一作者の複数の作品をまとめた本です。昔つくられた「万葉集」や「古今和歌集」も「アンソロジー」といえます。「アンソロジー」の由来や類義語、似ている言葉などをまとめて解説します。
「アンソロジー」の意味とは
アンソロジーとは複数の作家、または同一作者の複数の作品を、特定のテーマでまとめた作品集です。もともとは詩の作品集「詞華集」のことを指していましたが、現在は文芸作品や漫画、絵画などのアンソロジーもあります。
「アンソロジー」の由来・語源
最初のアンソロジーが誕生したのは、古代ギリシャ・ローマ時代といいます。墓碑や奉納物に刻まれた文章である碑文の形式のひとつ「エレゲイア」が、「アンソロジー」の起源です。15世紀以降、西ヨーロッパでは「アンソロジー」が盛んに編纂がされるようになり、テーマ別や種類別、年代別などでまとめた「アンソロジー」も登場しました。「アンソロジー」の語源「anthology」は、古典ギリシャ語の「anthologia(ἀνθολογία)」からです。「anthos(ἄνθος、花)」と「logia(λογία、集めること)」を繋げて「花摘み、花集め」の意味があります。
「アンソロジー」の類義語・言い換え
「アンソロジー」の類義語や言い換え表現を3つ紹介します。「詞華集」は「アンソロジー」の訳としても使われる言葉で、「佳句集」は俳句の「アンソロジー」。「抜粋集」は、複数の作品の一部分を抜き出してまとめた点が「アンソロジー」とは異なります。
1.佳句集
「佳句(かく)」とは優れた俳句のことで、「佳句集(かくしゅう)」とは俳句の傑作選集のようなものです。平安中期に上下2巻組で編纂された「千載佳句(せんざいかく)」は、高麗人の七言二句の漢詩から優れたものを選んでまとめています。
2.詞華集
「詞華集(しかしゅう)」とは、同一のテーマと文学形式でまとめられた選集をいい、「アンソロジー」の訳としても使われる言葉です。平安後期に藤原顕輔 (ふじわらのあきすけ)が撰した「詞花和歌集(しかわかしゅう)」は、恋や四季などのジャンルにより5部構成となっており、409首の和歌をまとめています。
3.抜粋集
「抜粋集」とは作品からとくに優れた部分を抜き出し、それをまとめたものをいいます。ある文学作家の「抜粋集」であれば、その作家の複数の作品から特徴的、代表的な部分を抜き出してまとめられています。「アンソロジー」とは違い、作品の一部分だけをまとめているのが特徴です。
「アンソロジー」と似ているが違う言葉
「コンピレーション」は音楽作品の「アンソロジー」のことで、「合同誌」は「アンソロジー」とは違い、作家も費用を負担する作品集です。また、「オムニバス」は文学や音楽などまとめる作品により使われ方が異なります。
1.コンピレーション
「コンピレーション」とは、あるテーマで複数の音楽作品をまとめたものです。扱うアーティストは一人だけのこともあれば、複数の場合も。文学作品などには使われず、音楽作品に限定して使われるのが「アンソロジー」とは異なります。「癒されたいとき、気合いを入れたいときなど、シチュエーションに合わせてコンピレーションアルバムを聴き分けている」などと使います。
2.オムニバス
「オムニバス」とは、演劇や映画、文学などの複数の短編を集め、一つの作品に再構成したものです。語源の「omnibus」は、乗合自動車のような多くの乗客が利用する乗り物を指しています。文学では作家一人だけの作品集も「オムニバス」と呼びます。また、日本でいう音楽アルバムの「オムニバス」は、「コンピレーション」とは違ってテーマを決めずに複数の音楽作品を集めたものです。海外では「オムニバス」は使わず、この場合にも「コンピレーション」を用います。
3.合同誌
「合同誌」とは、参加する作家全員で編集と販売、出版費を分担する文学や漫画の作品集のことです。それに対し、「アンソロジー」は主催者が編集と販売、出版費をすべて担います。「アンソロジー」では作家の費用負担はありませんが、合同誌は作品を寄稿するとともに、カンパや印刷費の負担を求められます。
「アンソロジー」の英語の意味
「anthology」は名詞で、カタカナ語の「アンソロジー」と同じ「名詩選集・名文選集」や「詩選」、「名曲集」、「論集」の意味があります。
- The anthology of A’s popular novels was published.(Aさん作の人気小説のアンソロジーが出版された)
- an ancient anthology of Japanese poems, called ‘Kinkai wakashu’(日本の和歌を集めた古いアンソロジーに「金槐和歌集」というものがある)
古くからある「アンソロジー」の例
中国と日本には古くから歌や詩をまとめた「アンソロジー」がありました。代表的なものを4つ紹介します。
1.詩経
周の時代に編纂された、中国でもっとも古い詩集が「詩経」です。朝廷での儀式で用いられた歌や、中国各地の民謡などが収録されており、儒教の経典のひとつにもなっています。編集者の孔子の考えが反映されていて、素朴で飾らない作風の歌が多いのが特徴です。
2.文選
中国・南北朝時代に昭明太子(しょうめいたいし)が編纂した詩文集が「文選(もんぜん)」です。隋や唐とそれ以前の時代の文章と詩など、800作品ほどが収録されています。中国では詩文を作る人の参考書として、長年親しまれているものです。
3.万葉集
奈良時代に編纂された日本でもっとも古い詩集が「万葉集」です。天皇や貴族だけでなく、一般庶民や防人(さきもり、兵士のこと)の歌も一緒に収録されており、4,500首ほどにもなります。編集者は不明とされていますが、大伴家持(おおとものやかもち)と考えられており、自身の歌を473首も収録しています。
4.古今和歌集
平安時代に編纂された最古の勅撰(ちょくせん)和歌集が「古今和歌集」です。勅撰和歌集とは天皇の命によりつくられた和歌集のことで、「古今和歌集」の編纂は醍醐(だいご)天皇が命じました。編纂に携わった紀貫之(きのつらゆき)と凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、紀友則(きのとものり)、壬生忠岑(みぶのただみね)は役人で、優れた歌人でもありました。「古今和歌集」に収録されている約1,100首のうち、作者不明の歌は4割ほどもあります。
「アンソロジー」の使い方と例文集
「アンソロジー」の使い方を例文とともに紹介します。もともと「アンソロジー」は詩選のことでしたが、現在はさまざまな芸術作品の作品集にも使われています。
「アンソロジー」の使い方
昔の「アンソロジー」は和歌や詩を集めたものでしたが、現在の「アンソロジー」の幅は広がっています。特定のテーマに沿った漫画や小説を集めた本は「アンソロジー」の名がついています。歌曲や絵画の作品集の中にも「アンソロジー」はありますし、卒業文集も「アンソロジー」の一種といえます。また、既存の小説や漫画、アニメやゲームの短編パロディ漫画を集めた本は「アンソロジーコミック」といいます。同人誌も既存の漫画やアニメなどのパロディ作品集である点は共通ですが、同人誌が作家の自費出版であるのに対し、「アンソロジーコミック」は出版社が編集、刊行する点が異なります。
「アンソロジー」の例文
「アンソロジー」を使った例文を紹介します。
- あるアンソロジーを読んで、興味を持った作家の本を購入してみた
- それらのアンソロジーは作者の死後に刊行された
- かるたの「小倉百人一首」は、日本の古いアンソロジーのひとつだ
- 〇〇を題材にしたアンソロジーを編纂することになった
- アンソロジーは知らなかった作家の作品に触れられ、新しい出会いに期待できる
まとめ
詩の作品集が起源の「アンソロジー」は、現在では芸術作品を特定のテーマでまとめた作品集に広く使われています。「アンソロジー」は普段は読まない作品、知らない作家に出会えるのが魅力ですから、気になるテーマのものがあったら手に取ってみてはいかがでしょうか。