「二律背反」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。聞いたことがあっても、正しい使い方がわからない方もいるかもしれません。ここでは「二律背反」の正しい使い方や、類義語についても紹介します。是非参考にしてみてください。
「二律背反」の意味とは?
「二律背反」とは、「同じ前提や根拠から生まれた結果や判断などが、どちらも成立するとともに矛盾していること」を指す言葉です。ビジネスの場面では、単に「矛盾」という意味で使われることもあります。使い方がいまいちイメージできない方もいらっしゃるでしょう。このあと、使い方や例文を交えて詳しく説明していきますので、「二律背反」の正しい使い方をじっくり学んでいきましょう。
「二律背反」の由来・語源
文字だけでは意味がイメージしづらい「二律背反」という言葉ですが、その由来や語源は何なのでしょうか。詳しく説明します。
「二律背反」の語源は論理学用語
「二律背反」は、ドイツの哲学者カントによって唱えられたアンチノミー論に由来する言葉で、ドイツ語の「アンチノミー(Antinomie)」の日本語訳です。
哲学者カントの「二律背反(アンチノミー)」
カントが唱えたアンチノミー論とは、同じ命題に対して肯定的なテーゼ(命題)を設け、他方でそれを否定するアンチテーゼ(反命題)をおくものです。どちらも正しく思えるが、一方の命題を取ると他方の命題が成立しないという状態について考えます。例えば、カントが唱えたアンチノミー論の一つには「世界は時間的、空間的に有限」というテーゼと「世界は時間的、空間的に無限」というアンチテーゼを挙げたものがあります。このアンチノミー論は、カントの著書である「純粋理性批判」の中で提唱されています。
「二律背反」の使い方と例文集
「二律背反」の具体的な使い方や例文について紹介します。
「二律背反」の使い方
元々は論理学用語からできた「二律背反」ですが、現在は論理学や哲学の場面だけでなく、日常の会話やビジネスのシーンでも使われる言葉です。自分が誤った使い方をしないようにするのはもちろん、相手方が「二律背反」という言葉を使ったときにも、意味が分からず焦ることのないようにしておきましょう。ビジネスの場面で、矛盾する2つの条件を満たして1つの目的や目標を達成しなければならないことを表す場合や、2つの事柄の板挟みになっている状態を表す場合に「二律背反」という言葉で表現するのが適しています。ビジネスの場面では、例えば、商品製造の現場で「丁寧で素早い」仕事を求められたときなどは「二律背反」の状況だといえるでしょう。
「二律背反」の例文
「二律背反」を使った例文を以下に挙げます。
- 自主的に仕事をすることを推奨すると言われたが、常に上司の確認を取れと注意され、二律背反だと感じた。
- 手作業で商品を作り質を上げることと、作業の効率化を図って生産性を高めることは二律背反な課題だ。
- ダイエット中で高カロリーな食事を避けたいが、大好物のかつ丼を食べたいと思う気持ちもあり、二律背反の感情に悩まされている。
恋愛では「二律背反」の状態に陥りやすい
恋愛では、「二律背反」の状態に陥りやすいといわれています。恋愛は、人間の感情によって左右されるものであり、感情というものはそう単純なものではないため、「二律背反」の状態になりやすいのです。具体的に、恋愛で陥りやすいといわれる「二律背反」の状態がどのようなものなのか、詳しく説明します。
好きな人にそっけない態度をとってしまう
小学生や中学生などの幼い恋愛においてありがちなことかもしれませんが、本当は好きな人と話したいのに、反対にそっけない態度を取ってしまうことがあります。思っていることと相反することをしてしまうという意味で、「二律背反な行動を取っている」といえるでしょう。頭ではコミュニケーションを取りたいと思っているのに、恥ずかしいなどの感情が邪魔をしてそっけない態度を取ってしまうことは、恋愛ではよくあることです。
違うタイプの人を同時に好きになる
真面目な人がタイプと自覚していて、実際に真面目な人と交際しているのに、同時期に正反対のやんちゃな遊び人のような人にも惹かれているような状況のことも「二律背反な状況」といえるでしょう。これも、複雑な人間の感情が絡んでいるために起こる状況といえます。
「二律背反」の類義語・言い換え
「二律背反」という言葉は、元々哲学者が使った論理学用語だったこともあり、やや堅い印象を与えてしまいます。もう少しフランクに表現したい場合などに使える、類義語について紹介します。
ジレンマ
「ジレンマ」は、相反する二つの事柄によって板挟みになってしまうことを指す言葉です。「二律背反」の状態では多くの場合、この「ジレンマ」が発生するといえるでしょう。
- 後輩の意見と上司の意見が対立しており、ジレンマに陥っている。
- 友人と好きな人が被ってしまい、友情か恋愛のどちらを取るか、ジレンマを抱えている。
矛盾
「矛盾」という言葉には聞き馴染みがある方が多いかもしれません。「矛盾」は、2つの事柄の辻褄が合わない状態を指す言葉です。「二律背反」の状態を多くの人に確実に表現するなら、「矛盾」という言葉を使うとよいでしょう。その昔中国で「どんな矛でも貫くことのできない盾」と「どんなものでも貫けるという矛」が売られており、それらが相反する内容だという理由で「矛盾」という言葉ができたとされています。
- 問題行動があって渦中の人となった国会議員の発言は矛盾している。
- 暑いと言いながら厚手のコートを着ている彼の言動は矛盾している。
パラドックス
「パラドックス」は「一般的に知られていることと逆の答えが導かれること」などを指す言葉ですが、「矛盾」というニュアンスも含まれており、「二律背反」の類義語といえます。パラドックスのことわざとして「急がば回れ」や「負けるが勝ち」などが挙げられます。
アンビバレント
「二律背反の感情」を表すときには「アンビバレント」という言葉が使えます。「アンビバレント」とは同じ人や物事に対して、同時に相反する感情を持つことです。具体的には、「浮気した恋人のことが憎いのに、好きで仕方ない」状態は「アンビバレント」といえるでしょう。他にも「仕事が好きで楽しいが、辛いのでやめたい」という感情も「アンビバレント」だといえます。
辻褄が合わない
辻褄が合わない
「辻褄が合わない」は、「つじつまがあわない」と読みます。「物事の道理が正しいこと」という意味の「辻褄が合う」の否定語で、「物事の道理が合わない」「話の筋道が通っていない」という意味で使われます。
・後輩の話は辻褄が合っていないので、嘘だと思われても仕方がない。
・上司に仕事の指示を受けたが、昨日聞いた方針と辻褄が合っておらず、どちらを信じればいいのかわからない。
「二律背反」を英語でいうと?
「二律背反」の英語表現について紹介します。
antinomy
ドイツ語の「antinomie」が由来の英語で「antinomy」という言葉があります。「二律背反」を英語で表すなら、「antinomy」を使うとよいでしょう。
trade-off
「trade-off」はカタカナ語で「トレードオフ」とも表記され、日本でもよく使われる言葉です。元は経済用語でしたが、ビジネスの場面などでもよく耳にする言葉です。これは、「同時には成立しない2つの関係」を意味する言葉で、どちらかを選択しなければならないというニュアンスも含んでいます。
まとめ
「二律背反」の意味は「同じ前提や根拠から生まれた結果や判断などが、どちらも成立するとともに矛盾していること」です。哲学者であるカントが唱えた「アンチノミー論」からできた言葉です。類義語としては「矛盾」「ジレンマ」などが挙げられます。「二律背反」はやや堅い印象を与えがちな言葉なので、場面によって他の言葉に言い換えるとよいでしょう。「二律背反」の詳しい意味や使い方を理解し、正しく使えるようにしておきましょう。