「虫唾が走る」という言葉の意味をご存じですか?何気なく使っていると、思わぬ誤解を招いてしまうかもしれません。今回は「虫酸が走る」の意味や由来、英語表現に加えよく似た意味の言葉の「癇に障る」との違いについて徹底解説します。
「虫唾が走る」の意味とは?
「虫酸が走る」の意味と表記の仕方について紹介します。実はこの言葉、かなり強い意味を持つ言葉です。にもかかわらず日常で聞いたことがあっても、あまり気にしたことがない人も多いのではないでしょうか。ここでは「虫唾が走る」の言葉の意味について詳しく解説します。
「胸がムカムカするほど不快」
「虫酸が走る」はかなり強い嫌悪感を表現した言葉です。ここまで強い印象を与える言葉は多くありません。「不愉快である」や「嫌悪感を抱く」などといった表現と同じ意味になります。ただ相手に与える印象は「虫酸が走る」の方が強いと考えられます。「虫酸が走る」は胸がムカムカするほど不快という意味であるため、使うタイミングや使い方に気をつけるべき言葉です。
「虫酸が走る」と「虫唾が走る」
この2つの言葉の意味は全く同じです。「虫酸」と「虫唾」では語源は異なりますが、このことわざの中では同じ意味になります。使い分けは特になされていません。この言葉は綺麗な意味を表す言葉ではなくどちらかというと汚い印象の言葉です。「虫酸が走る」と「虫唾が走る」の2つの表記があることを押さえておきましょう。
「虫唾が走る」の由来・語源
ここでは「虫酸が走る」の由来や語源を紹介します。「虫酸」と「虫唾」の違いを説明し、「走る」の意味について解説します。このことわざを分解すると「虫酸」と「走る」の2つに分けられます。言葉の成り立ちを理解する上で、分解することでより正しく把握できるようになります。「虫酸が走る」の由来についてみていきましょう。
「虫酸」と「虫唾」の違い
この2つの言葉の違いは「腹の中の寄生虫が出す酸っぱい液」にあります。「虫酸」は寄生虫が生成する酸っぱい液を指し、「虫唾」は寄生虫が出す酸っぱい「唾液」を表します。「虫唾」の方は「唾液」という意味が含まれているため「唾」の文字が使われています。そもそも現代でいえば「虫酸」も「虫唾」もただの「胃液」です。胃液は塩酸で成り立っているため、かなりの酸っぱさがあります。昔の人は胃液という概念がなかく、この酸っぱさを寄生虫の仕業だと考えました。「虫酸」の表記は「むしず」で「虫唾」の表記は「むしづ」になります。 こういったところに微妙な語源の違いが表れていますが、使い分けをする必要はありません。ただ、一般的なのは「虫唾が走る」の方であることを覚えておきましょう。
このことわざでの「走る」の意味
このことわざの中で使われている「走る」という言葉は、「胃液が食道から逆流すること」を表現しています。現代でいう逆流性食道炎という病気の症状に近いものがあるでしょう。虫酸が走っている時は強いストレスにさらされています。そのため、胃液が逆流するような状態になります。現代の医学的知識を使うと、ことわざの説明もできるので面白いですね。 消化器官はストレスの影響を受けやすく、胃液の分泌が増えたり、食道括約筋の機能が下がることで胃の門が絞まりにくくなったりします。また、空腹時にも胃酸を過剰に分泌してしまう誤作動を起こすこともあります。ストレスと逆流性食道炎はこのように深い関係があります。このことから、「虫酸が走る」が強い不快感を表現している言葉であることが理解できますね。
「虫唾が走る」の類義語・言い換え
「虫酸が走る」の類語を2つ紹介します。似た意味の言葉を押さえることで、周辺の言葉を同時に理解できるようになります。
「溜飲」
「溜飲」とは「胃の不調や胸焼け」を意味します。それは、 転じて「不平・不満」を意味するようになりました。「溜」は「流れが滞っている様子」を指し、「飲」は「食べること」を意味します。 つまり、「食べたものが消化できず、喉でとどまっている様子」を表現しています。「溜飲が下がる」や「溜飲を下げる」という使われ方をすることが多く、「不平不満がなくなる」という意味があります。虫唾が走る程強い表現ではありませんが、心の内がモヤモヤしている状態を表す言葉です。
「反吐が出る」
「反吐が出る」という言葉は「飲食した物を吐くこと」が転じて、「非常に不快な気持ちになること」という意味を持ちます。「反吐」は「嘔吐」を表し、「嘔吐してしまうほど嫌なこと」という意味を表します。「反吐」という言葉単体で使われることはほぼなく、「出る」とセットで使われることがほとんどです。この言葉は「虫唾が走る」とほぼ同等か、それ以上に強い嫌悪感を表現できます。嫌悪感や不平不満といったストレスは、今も昔も胃に来るものであることがわかりますね。
「虫酸が走る」の対義語
「虫酸が走る」の対義語として代表的な言葉を2つ紹介します。
1つ目は「好感が持てる」です。 相手に対してよい印象を持っている時に使う言葉です。ただ、好感と言っても恋愛対象になるという意味ではないので注意が必要です。
2つ目は「好印象を抱く」です。この言葉も相手に対して好ましい印象を持つ時に使います。「虫酸が走る」という言葉は相手に対して不快感を露わにした言葉でしたが、その対義語は相手に対して好感を表明するものとなっています。
「虫唾が走る」と「癇に障る」の違い
虫酸が走るとよく似た意味の言葉に「癇に障る」があります。この言葉は「虫唾が走る」とは何が違うのか。「癇に障る」の言葉の成り立ちを深掘りしていきましょう。言葉の意味の違いを詳しく見ることで、その言葉を使うべきタイミングなどをつかめるようになります。
「癇に障る」の意味
「気に入らない事が原因で腹立たしく思う」事を指します。 不快感の中でも「怒り」に特化した表現の仕方になります。似た意味で「癪に障る」という表現もあります。この2つの言葉は「障る」を「触る」と間違えないように注意しましょう。
「癇」とは何か?
「ひきつけ」などを引き起こす病気で、転じて、「神経質で怒りやすい性格」を表す言葉になりました。ちょっとしたことでイライラする性質を表すときに「癇が強い」などといった使われ方をします。「癇」が使われる熟語としては「癲癇(てんかん)」や、「癇癪(かんしゃく)」などがあります。以上のことから「癇」という言葉は、怒りによって心のバランスを崩した状態を表す言葉である事がわかります。
「虫酸が走る」と「癇に障る」のニュアンスの違い
この2つの言葉の 同じところはどちらの言葉も「不快感」を表現しているという点で、違うところは「癇に障る」の言葉にだけ「怒り」が強く表現されている点です。つまり、「 怒り」を強く強調したい場合は「虫酸が走る」よりも「癇に障る」を使う事が多いです。もちろん「虫唾が走る」でも怒りを表現できますが、この言葉はどちらかというと「かなり強い不快感」を表現するため、より抽象度の高い言葉であるといえます。「虫唾が走る」の場合は、怒りを含む可能性はあがあくまでも強いストレスを受けていることを表現する言葉として用いましょう。
「虫唾が走る」を英語でいうと?
「虫酸が走る」の英語表現について紹介します。強い不快感を表現する言葉ですが、英語ではどのように表現されるのかさっそく見ていきましょう。
「make one’s skin crawl」
「make one’s skin crawl」で「虫酸が走る」という意味になります。「one’s」のところには「my」nのような所有格の代名詞が入ります。「crawl」は、「虫が這うようにムズムズする」という意味があり、直訳すると「肌の上を虫が這いずりまわっているような感覚がある」という意味です。表現の仕方は日本語とは異なりますが、いずれにせよ強い不快感を想起させる表現であることは変わりありません。
「be disgusted with」
もう一つの虫酸が走るの英語表現として、「be disgusted with」があります。「disgusted」は「むかつく」という意味になるため、「make one’s skin crawl」よりもかなり直接的な表現になっています。「with」の後に不快感の元となった対象を置くことで、この熟語表現は成り立ちます。
「虫唾が走る」の使い方と例文集
最後に、「虫唾が走る」の使い方とその例文についてみていきましょう。 「怒り」や「不快感」といったマイナスのイメージが強い言葉になりますの、使う相手はタイミングには注意が必要です。
「虫唾が走る」の使い方
「虫酸が走る」は、 「生理的に受け付けないほど嫌である」という気持ちを表現したい時に使います。「なんとなく嫌い」や、「少しだけ違和感がある」という程度ではなく心の底からマイナスの感情を抱いていることを強く表現できる言葉です。使い方によっては周囲を傷つける可能性もあるので、積極的に用いる言葉ではないでしょう。感情に任せて口走らないように注意が必要です。
「虫唾が走る」の例文
「虫酸が走る」の例文をいくつか紹介します。
- 「あの時のことを思い出すと虫唾が走る。」
- 「 私が買った新品の傘を奪って、この雨をしのいでいる犯人の事を思うと虫唾が走る。」
- 「虫唾が走る程、悔しい思いをした。」
まとめ
「虫酸が走る」は 「胸がムカムカするほど不快」という強い不快感を表現する言葉です。言葉の由来や「癇に障る」などのよく似た言葉との違いを比較すると、今まで見えていなかった言葉の世界が広がっていきます。気になる言葉があったら、すぐ検索してみることをオおすすめします。