「三つ巴」は「三つ巴の戦い」などの表現で、一度は耳にしたことがある言葉でしょう。三つ巴(みつどもえ)とは、人間関係などの状況を表す意味と、家紋などの文様を表す意味があります。この記事では、神社でも使われている「三つ巴」について、その意味や使い方、由来などを詳しく解説していきます。
「三つ巴」の意味とは
「三つ巴」とは、巴という3つの文様を組み合わせた形を表す言葉ですが、この模様のイメージから派生して別の意味合いで用いられることがあります。ここでは「三つ巴」の意味と、元々の意味である文様について紹介します。
「三つ巴」の意味
「三つ巴」には以下3つの意味が存在します。
- 【意味1】3つのものが互いに対立して入り乱れること。
- 【意味2】紋所・文様の名。巴を三つ組み合わせて円形にしたもの。
- 【意味3】3人が向かい合って座ること。三つ鼎(がなえ)。
【意味1】にある、3つのものが互いに対立している状態という意味で「三つ巴」を用いる場合は、3つのものの力関係が対等に拮抗しているという意味が含まれますので、覚えておくとよいでしょう。
【意味2】の文様については次の項目で詳しく説明します。
【意味3】は文字通り、3者が向かい合って座る様子のことを表します。
参考:goo辞書「三つ巴」
「三つ巴」とはどんな文様?
【意味2】にある、「巴を三つ組み合わせて円形にしたもの」とはどのような文様かイメージがつくでしょうか?
この文様は丸に尻尾のようなものがついた「勾玉」という形が3つ組み合わさって円形になっている文様のことです。神社やお祭りの提灯などでもよく見かけます。
「三つ巴」の起源・由来
「三つ巴」という文様は戦国時代の武家の家紋や、古くから神社の社紋として用いられてきました。この文様にはどのような意味があるのでしょうか。また、使われ始めた時期や文様の意味にはいくつかの説があります。ここではその起源や由来について詳しくみていきましょう。
弓に使われる「鞘」を由来とした説
「三つ巴」の文様の由来のひとつは、弓を射る際に手首にはめる防具である「鞆」の形を図案化したものという説があります。
「鞆」は「とも」と読み、その鞆を図案化したものが「鞆絵(ともえ)」と呼ばれ、その後「巴」という漢字が当てられたという説です。この由来には、「三つ巴」を社紋としている八幡宮が武芸の神・弓の神として祀られていることも理由のひとつとされています。
勾玉や水の模様を由来とした説
「三つ巴」の由来にはそれ以外にも、日本古来の装身具のひとつである「勾玉」を模したとされる説や、稲光や雲、水などの自然の形を模したとされる説があります。これらの由来のいずれも共通する点は、魔除けとしての役割を担う文様であるとされる点です。
「三つ巴」の使い方と例文
「三つ巴」には文様という意味と、3つのものが互いに対立する意味がありますが、それぞれの使い方について見ていきましょう。また、似た言葉で「三すくみ」がありますが、「三つ巴」とは意味が異なる言葉ですのでその違いについても詳しく説明します。
勢力や人間関係などパワーバランスを表す言葉
「三つ巴」とは「3つのものが対立して入り乱れること」を表す言葉ですが、この言葉は勢力や人間関係での力関係を表現するものです。逆を返すと、勢力や人間関係などのパワーバランスを表す場合以外には用いられない言葉ですので、利用シーンには注意が必要です。
家紋の種類を指す場合にも使われる
「三つ巴」はパワーバランスを表す場合以外にも、家紋の種類を説明する際には用いられることがあります。「三つ巴」は家紋として用いている武家が多かったことからその名残で現在でも多くの家が家紋として利用している文様です。前後の文脈から勢力や人間関係ではない場合は家紋の話をしていることがほとんどです。
誤用に注意!「三つ巴」と「三すくみ」は別の意味
「三つ巴」と似た言葉に「三すくみ」があります。「三すくみ」の意味は「3つのものの中で、それぞれが得意な相手と不得意な相手が1つずつ存在することで、3つともが牽制しあい身動きが取れない状態」です。代表的な「三すくみ」の関係では、蛇、蛙、 なめくじの例えがあります。蛇はなめくじをおそれ、なめくじは蛙をおそれ、蛙は蛇をおそれることでそれぞれが身動きが取れない状態になるという例えです。「三すくみ」はこのような状態をイメージするとわかりやすいでしょう。
「三つ巴」は「3つのものが対等な力関係で拮抗していること」を指す言葉ですので、「三すくみ」とは全く異なる言葉であることがわかります。間違って使わないよう注意しましょう。
「三つ巴」を用いた例文
「三つ巴」を用いた例文を紹介します。
- A社とB社のシェアトップ争いに、C社が怒涛の勢いで参入してきた。これは三つ巴の争いになりそうだ。
- 今回の市長選は三つ巴の戦いだ、これは全ての票が開票されるまで結果がわからないぞ。
- 我が家の家紋は三つ巴であり、これは先祖が武家であることを誇りにしていた証である。
「三つ巴」の英語表現
「三つ巴」を英語で表現する場合は、力関係が拮抗しているというニュアンスを含めた表現はありません。近しい表現としては「三角関係」を意味する「complex three way」が一般的に用いられる表現でしょう。
他には単に「三方向」という意味の「three‐way」で表現する方法や、「3グループ」を意味する「three party」でもニュアンスが通じる場合があるでしょう。
「三つ巴」と家紋の関係は?
「三つ巴」は古くから家紋として用いられることが多い文様として知られています。「三つ巴」を家紋として用いていた最も古い記録は平安時代の文献「愚管抄」の巻第6です。ここには西園寺実季が牛車に左三つ巴を描き、魔除けの呪力を高めたと記されています。ではなぜ家紋には「三つ巴」が多いのか、詳しく考えていきましょう。
家紋のデザインは「三つ巴」がベースのものが多い
家紋には「三つ巴」がベースに作られているものが多く存在します。
これは、先述した通り家紋がない平安時代に西園寺実季が牛車に描いたことが起源ではないかといわれています。牛車に独自の文様を描くことは、魔除けの意味とは別に他者から見てどこの家の牛車か一目で区別できる状態でもあり、この際に用いられた「三つ巴」のデザインがさまざまな家紋のデザインのベースとなった説があります。
「三つ巴」だけでなく「二つ巴」などの家紋も存在する
家紋として用いられる「三つ巴」には、その「巴」の数が異なる種類も存在します。
これらは巴の数に合わせて「二つ巴」や「四つ巴」と呼ばれる別の模様として区分されています。また、巴の形がベースとなった家紋には、「尾長三つ巴」や「抜巴」などその種類は多岐にわたります。
「三つ巴」を家紋に用いていた武家
「三つ巴」は家紋として多く用いられていますが、「三つ巴」を家紋にする家の多くは武家です。これは武芸の神を祀っている八幡宮の社紋が「三つ巴」であることから、そのご利益を享受する意味を込めていたとも考えられています。
「三つ巴」を家紋にしていた代表的な武家は、小早川隆景、氏家直元、別所長治、土方歳三などが挙げられます。
神社に「三つ巴」の社紋が多い理由
「三つ巴」は神社の社紋としても多く用いられている文様です。実は日本の神社のうち「三つ巴」を社紋としている神社の数は最も多いとされています。神社で利用されるようになった起源と使われている代表的な神社についても紹介します。
武運神を祀る神社が社紋として用いたことが始まり
「三つ巴」が社紋として使われるようになった始まりは、武運神として武家から崇敬されていた「弓矢八幡」の神紋として用いられたことです。「弓矢八幡」は別名「八幡神」です。その八幡神を祀る神社は「八幡宮」で日本で最も多い神社とされており、この八幡宮のほとんどが「三つ巴」を社紋としています。
また、八幡宮ではない神社でも「三つ巴」は用いられることがあります。この場合は、巴にある魔除けの意味合いが込められていることがあります。
「三つ巴」が使われている神社
「三つ巴」が使われている代表的な神社は、京都に総本社を持つ八坂神社、建国の神様が祀られている鹿島神宮、東京の日吉神社、日本三代八幡宮のひとつである石清水神社などがあります。
八幡宮をはじめとして、「三つ巴」を社紋とした神社は日本全国に多数あります。神社に参拝する際に社紋を見てみるのもよいでしょう。
まとめ
「三つ巴」は3つの勢力が拮抗している状態を指す意味と、家紋や社紋などの文様を指す場合の2つの意味が存在します。会話の中で「三つ巴」という言葉を耳にした際にその意味をきちんと把握できるよう理解することが大切です。